【完結】君と創る世界

くみた柑

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【第七章】歩き出す世界

理想の自分

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「可琳ちゃんのアカウントを作ろう」

 ハチのお父さんは、軽やかにノートパソコンを操作し始めた。
 画面に現れるウィンドウの数々。パチパチとリズム良く叩かれるキーの音とともに、わけのわからない英文がどんどん入力される。まるで魔法みたいで、私はその光景に思わず見入ってしまう。

――こんなふうに、世界は作られていくんだ。

 数分も経たないうちに、私の写真をもとにした3Dモデルが画面の中に現れた。
 クセ毛の髪。垂れて伏し目がちな瞳。どこか自信なさげな自分の姿。じっと見つめると、心の中でちくりと痛む感覚が広がる。
 友達と一緒に写真を撮るたび、可愛く映る友達の隣で、私はいつも影のようだった。もっと可愛かったら、堂々と笑えるのに――。

「ハチのお父さん……これ、ゲームのキャラみたいに見た目を変えることって……できる?」

 私は恐る恐る訊いてみた。ハチのお父さんは笑みを浮かべて答えた。

「正式版では本来、自分の顔をそのまま使うんだけど……まあこれはまだβ版だからね。変えられるよ」
「ほんとに? だったら可琳、佐奈ちゃんみたいになりたい!」

 私はママに頼んで、引っ越す前にママのスマホで撮ってもらった佐奈ちゃんの写真を見せた。黒くてまっすぐなサラサラの髪、大きくてぱっちりとした目。
 ハチのお父さんは、もう一度パソコンに向かった。画面の中の私は、瞬く間に変わっていく。髪は黒い絹糸のようにまっすぐに、瞳は大きく輝き、まるでお人形のようだった。

「わあ……すごい!」

 変身した自分を見つめて、思わず息を呑んだ。
 このときの私は、ただ、自分の姿が綺麗になったことに喜んでいた。ずっとあとになって後悔するなんて、夢にも思わなかった。
 ヘッドセットを装着し、β世界にログインする瞬間、胸の中は期待で膨らんでいた。

 ログインして最初に気づいたことは、自分の部屋らしき場所で、立っていることだった。

「……私、立ってる?」

 足元を見つめる。両足はしっかりと床に触れ、自分の体重をしっかりと支えている。
 片方の足を持ち上げ、ゆっくりと下ろす。――できた! もう一度、今度は両足を交互に動かしてみる。――私……歩いてる!

 胸の中で、抑えきれない感情が一気に弾けた。
 私は部屋の中をぐるぐると歩き回り、ついにはスキップして、ジャンプして――宙に浮いて、再び足が床を踏む。その感触がとても、とても嬉しかった。

「すごい! 本当に歩けるんだ!」

 部屋の片隅に姿見を見つけ、駆け寄って映り込んだ自分の姿を見つめた。

「――これが……私?」

 髪はさらさらと滑らかで、瞳はぱっちりと大きく輝いている。佐奈ちゃんのように愛らしく、憧れていた自分の姿がそこにあった。
 心が弾む。胸の奥から、ずっと押さえつけていた感情が開放される。
 見た目が変わるだけで、こんなにも気持ちが明るくなるなんて。心の底から自信がみなぎる。今の私は、何でもできるような気がした。
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