【完結】君と創る世界

くみた柑

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【第十三章】君と創る世界

忘れかけていた温もり

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「本当なの? 圭……」

 震える声が、夜の空気に溶ける。
 僕は必死に圭を見つめた。
 圭は、複雑な光を瞳に宿したまま、僕を見つめ返す。
 一瞬だけ、何かを言いかけたように、唇が動く。

 そして――ふっと視線を落とし、肩の力を抜くようにして、くしゃりと微笑んだ。
 その笑みには、照れくささと……父親が子どもを見守るような、あの懐かしい温かさが滲んでいた。

「……まいったな」

 ぽつりと溢れたその声に、胸がふっと締めつけられる。

――父……さん? 本当に父さんなのか!?

 圭の表情が、父さんと重なる。
 せきを切ったように、感情が溢れ出す。
 胸の奥が熱くて、目の奥がじんとする。
 震える手で胸を掴むけど、心臓が暴れて言うことをきかない。
 息が詰まり、声にならない声が喉でくすぶる。

 脳内に、これまでの圭とのやり取りが甦る。
 いつだって圭は、僕に優しかった。
 AIだから、プログラミングされているから――そう、思っていた。

 でも違う。
 初めて会ったときの、あの不思議な懐かしさも。
 可琳のことを知っていた理由も。
 僕の背中を、何度も支えてくれたことも。

 全部、理由があったんだ。
 全部……父さんだったからだ。
 父さんに聞きたいことも、言いたいことも、謝りたいことも、山ほどあるのに、喉が詰まって声にならない。

 胸が苦しくて、言葉が感情に押し流されそうだ。
 可琳が一歩前に出る。声が、少しだけ震えていた。

「ねぇ……どうして私のデータを消しちゃったの? 私がログインできないようにしたの?」

 声を張る可琳。その瞳が潤んでいることに気づき、僕の胸が締め付けられる。

「あの日から、ずっとハチに会えなかったんだよ? 本当に……本当に悲しかったんだから……」

 圭は、そんな可琳をまっすぐに見つめ、唇を引き結ぶ。
 そして静かに、どこか申し訳なさそうに口を開いた。

「……君が、この世界に依存してしまうのが怖かったんだ。君の未来や可能性を、僕が――奪ってしまうんじゃないかって。それだけは、どうしても避けたかった」

 低く、温かい声が、僕たちを包む。
 それを聞いた可琳は、俯き、肩を小さく震わせた。

「――なんて、ずっと思ってたけど……。うん。今はきちんと理解してるよ。ありがとう。でも……次にハチのお父さんに会えたら、ちょっとだけ文句を言うんだ! って思ってたんだ」

 ふっと笑いながらも、声がわずかに掠れる。

「まさか、本当に言える日が来るなんて、思ってなかったけど……。ふふ、ずるいなぁ、もう……。ハチと会わせてくれて、本当にありがとう」

 笑顔と一緒に、可琳の頬を、一筋の涙が伝った。
 圭は頷くと、ふっと肩の力を抜き、冗談めかして言う。

「でもまさか、君があのプログラムを突破するとは思ってなかったよ。さすが時安さんの娘さんだ」
「私ね、ずっと思ってたの。ハチのお父さんは、もうハチが目覚めることはないと思って、この世界を作ったんだって。でも、違うよね? 信じてたんだよね。ハチが目覚めることを。だから、ハチが目覚めたあと、この世界に再びログインした日から、圭が活動を始めるように、プログラミングしていた。……そうなんでしょ?」

 圭は目を細めると、小さく頷いた。

「洵がこの世界からログアウトして、現実世界で生きていくことになったとき、……きっと、残酷な現実に直面するだろうと思っていた。僕は、洵にたくさんの隠し事をしていたからね」

 その声が、わずかに掠れる。

「時安さんにお願いはしていたけれど……きっと悩んで、苦しんで、心がくじけてしまうこともあるだろうって。そのときは……洵がここへ戻ってくるだろうと思ったんだ。もしそうなったら……現実世界でしっかり生きていけるよう、今度こそ、父親として、洵の力になりたかった」

 その言葉が胸に深く染み込み、熱いものが込み上げてきた。視界が滲む。頭は理解しているのに、心が追いつかない。

「本当に……父さん……なんだね」

 心の奥から絞り出すように、僕は言葉にする。

「ずっと父さんは、信じてくれていたんだね。僕が目覚めることを――」

 そう呟くと、圭はそっと近づき、優しく僕の頭に手を置いた。
 忘れかけていた、優しい温もり。
 僕が小さかった頃、頭を撫でてくれた父さんの記憶と重なって、胸が張り裂けそうになる。

「ああ。もちろんだ」

 圭は目を細めて、どこまでも優しく微笑んだ。
 その笑顔は、確かに――父さんだった。
 圭の言葉と表情には、父親としての後悔と、深い愛が滲んでいる。

 これまで胸の奥に、重しのようにずっとあった父さんへのわだかまりが、すっと溶けていく。
 可琳は何度も、僕に伝えようとしてくれていた。
 父さんが僕を、愛していたことを。
 今やっとその言葉を、心の底から信じられる。

 圭は笑みを浮かべたまま、目に涙を滲ませた。
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