ジ・エンドブレイカー

アックス☆アライ

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第一章 とても不思議な世界

8話 入門者①

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 イバラ領内に留まる為、これからお世話になる魔導士の館に挨拶をしに行く日々喜。
 その足取りは重い。
 てっきり、そこまでコウミ達がやってくれるものと考えていたからだ。しかし、頼みにしていたコウミは、今朝になって突然、森の調査に行くと言い出したのだった。
 自分の選択で人生を切り開いた経験が乏しい青年には、今日の館での対応次第で、これからの運命が全て決まってしまうのではないかと思え、館に近づく度にその足取りを一層重くした。

 「日々喜。どうしたんだ。さっきから?」

 先を行っていたサフワンが、そんな日々喜の様子を気にして尋ねた。

 「長い道。まるで、森の中を歩いているみたいだ」

 日々喜は咄嗟に話を逸らす。
 
 「ああ、凄いだろ。ここはもう、イバラ領主フォーリアムの館の敷地内なんだ。この前庭を抜ければ、館が見えて来るよ」
 「フォーリアムさんは、領主をしながら魔導士もしてらっしゃるの?」
 「昔はね。大魔導士クローブ・フォーリアム様が兼任されていたんだ。当時はお弟子さんも沢山いて、門下に入るのが魔導士になるより難しいなんて言われてたんだよ」
 「今は違うの?」
 「うん……。戦争があっただろ。ご子息のバジル・フォーリアム会長に領主と商会の仕事を託されて、クローブ様は魔導士として戦地に赴かれたんだ。そして、帰らぬ人になってしまった」
 「そうだったんだ……」
 「心配しなくても平気だよ。それでも、フォーリアム一門は顕在なんだからね。何てったって、ここには大魔導士クローブ様の孫娘、フェンネル・フォーリアムお嬢様が居らっしゃるんだから」
 「凄い方なのかな?」
 「凄いなんてものじゃないさ。彼女は僕らと同じくらいの年齢なのに、もうすでに魔導士としての資格を持ってらっしゃる。将来は師匠でもあったクローブ様を凌ぐ程の大魔導士になると言われているんだ。きっと、魔導局のトップ、あの賢者会への入会も果たすはずだよ」
 「魔導局? ……賢者会?」

 聞きなれない言葉を聞き、日々喜はオウム返しに聞き返した。

 「コウミ師匠は教えてくれなかったの?」
 「えーっと……。くれなかったかな」
 「そういう所は同じ魔導士だなぁ。東も西も変わらない。自分の専門分野しか興味がないんだろ。でも、見習いの内にちゃんと知っておかなくちゃ。いいかい、魔導局って言うのは、国内の魔導に関わる事、技術や行事、治安の維持とかを行っている魔導士達の組織だよ。賢者会は、その組織のトップさ」
 「魔導士って、そこまで重要な役割を担っているんだ」
 「そうさ。だから、一見習いとしてここに預けられるのは、ものすごくラッキーな事なんだ。なんてたって、あのフォーリアム一門で指導を受けたっていうはくが付くわけだからね」
 「なるほど……」

 前庭を抜けると、大きな門に道を阻まれる。門を挟んだ向こう側には、サフワンの言う通り館と主庭が見えた。
 門から館へ、石のレンガを敷き詰めた道筋が続き、その両脇に、しっかりとせんていが成された植木が並んでいる。花壇には、穏やかな春先に相応しい、淡い色合いの花々が植え付けられており、門前からながめると、それらが館へと続く道筋を中心として、ハッキリとしたシンメトリーを意識して作られたのだと分かる。

 「綺麗……」

 前庭の木陰の道を抜けた途端、そのような広い庭が陽の光に照らされて姿を現す。初めて訪れた者ならば、日々喜でなくとも思わず感嘆の声を漏らすかもしれない。
 そして、日々喜が庭の光景をながめていると、庭の中心に据えられた豪華な噴水の傍らに、一人の女の子が座り込んでいるのに気が付いた。
 女の子は、こちらを見つめ様子を窺っている。

 「日々喜。こっちだよ」

 サフワンは、庭の光景に見惚れる日々喜に対して声を掛け、使用人用の通用門を通らせた。

 「昨日の今日だもの、アポイントは取って無いから、さすがに馬車で入るのはね。でも、館の人には話してあるから大丈夫」
 「分かった」
 「クレレ会長の紹介状は持ってる?」

 サフワンにそう言われ、日々喜は自分の内ポケットをまさぐった。

 「うん、えっと……、あった」
 「緊張してる?」
 「うん、けど大丈夫だよ」
 「よし。おーい、オレガノ! 連れて来たよ!」

 サフワンは、噴水の前にいた女の子を呼びつけた。女の子はそれを合図にするかのように立ち上がると、こちらに向かって駆け寄って来た。
 そして、日々喜の手を両手でつかむと、勢い良く話し始めた。

 「こんにちは、長岐さん! 私、オレガノ・ザイードです。昨日、貴方に助けていただきました。ちゃんと、お礼を言いたくて、朝から貴方が来るのを待っていました」
 「な、長岐日々喜です。よろしくお願いします」
 「よろしくお願いします! 危ない所を助けてくれて、本当にありがとうございます」

 オレガノは握っていた手を離すと日々喜の挨拶に応え、肩に掛かる程の濃いブラウン色の髪を揺らして一礼し、感謝の言葉を述べた。

 「何だい、その挨拶。二人共落ち着けよ。ちゃんと、お互いの顔を見て、話しをしなって」
 「ごめんなさい。来てくれるのが待ち遠しくて、つい、緊張しちゃって」

 オレガノは眩しい程のあどけない笑顔を見せながらそう言った。

 「長岐日々喜です。よろしくお願いします」

 今度は、日々喜がお辞儀を返し、懐にしまい込んだクレレの紹介状を思わずオレガノに差し出した。

 「サフワンから、話を聞いているわ。短い期間かも知れないけど、私達きっといいお友達になれると思うの!」

 オレガノは差し出された紹介状を反射的に受け取ると、そう答えた。

 「ありがとうございました。では、失礼します」
 「え!? ちょっと、待って!」
 「日々喜! どうしたのさ。彼女はフォーリアム一門の見習いだけど、館の人間じゃないよ。ちゃんと、挨拶して来なくちゃ」
 「う、うん。そうだね」
 「長岐さん。貴方も緊張しているのね」

 日々喜の仕草を見て、オレガノはクスクス笑った。

 「オレガノ。今日はマウロさんかサルヴィナさんは居ないのかい?」
 「ステーションから魔導局の人が来ているの。モンスターの件で、お話をしているわ。だから、代わりに私がここで待っていたのよ」
 「大事になって来てるんだな。君が連れて来た奴らは無事だったの?」
 「ええ。不思議な話だけど、二人共怪我一つ無かったのよ。マウロから聞いたら、それが、マジックブレイカーの仕業だって」
 「マジックブレイカー? 何だいそれ?」
 「魔法陣を破壊してしまう力を持った者の事らしいわ。マウロは戦争中に、そういう力を持った人達を何人も見たと言ってた。魔法陣を破壊された魔導士は、怪我一つ負っていないのに、気を失ってしまうらしいの」
 「モンスターが魔法陣を破壊するか……。そりゃ大事にもなるな」
 「でも、大丈夫よ。イバラには私達魔導士が大勢居るんですもの。直ぐに駆除されるはずだわ」
 「そこらへんは魔導士さまさまだね。でも、君はまだ見習い魔導士なんだから、昨日みたいな危ない真似はもうしないでくれよ」
 「分かってるわ! 子ども扱いしないで」

 怒った表情を作るオレガノの事をサフワンは優しく見つめた。そして、日々喜の方へと向き直る。

 「さてと、俺はこの辺で仕事に戻るよ」
 「え!?」
 「またね、日々喜。オレガノ、後の事頼むよ」

 サフワンはそう言うと、二人に背を向けて門の方へと歩いて行った。

 「分かったわ。ありがとう、サフワン」
 「ま、またね……」

 オレガノと日々喜は、再び通用門を潜り、前庭に消えて行くサフワンの姿を見送った。

 「それじゃ、行きましょ! 長岐さん。皆の話が終わるまで、私達の宿舎で待ていればいいわ」
 「あ、……はい。宿舎はどちらですか、ザイードさん?」
 「中庭の方よ。付いて来て。後、私の事はオレガノと呼んで頂戴」
 「分かりました。僕の事は日々喜で」

 主庭から、館の右手へ回り込み裏庭を通って二人は中庭へと出た。
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