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第一章 とても不思議な世界
7話 森を調べる
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イバラの森。街道を挟んだ西側。
いくつか点在している小高い丘の上にコウミは立ち、辺りを見渡した。
森に引かれる街道は、南に向かって森を抜けると、そこから南東の方角と南西の方角に別れている。
南東に向かう道筋は、幾つかの畑を越え街へと伸びていた。
サフワンの言う通り、高い建物等はまばらであったが、コウミの立つ場所からでも街としての建ち並びを確認する事が出来る。
南西の方角には平野が広がっており、二又に別れるもう一方の道筋はこの平野を越え、イバラ領の西側の地域を囲う様にして広がる森へと続いている。その森の中からは、大きな館が一つ顔を覗かせていた。
「ここらにするか」
コウミはその場所の視界の良さを確認すると、大きな館の方角を見つめ、クスクスと笑いをこぼした。
「日々喜か? 上手くやっているかな、あいつ」
大きな館へと続く南西の道筋。
森の手前で、ゴマ粒よりも小さく映る馬車の中から、さらに小さい二人の人物が降り立つ。最早、肉眼では確認する事も難しいだろうが、コウミにはそれがサフワンと日々喜であると分かった。
先導するサフワンに続き、重たい足取りで、日々喜は森の中へと消えて行った。
「一人で行けと言った時の慌てふためき様ったら、あいつ絶対にボロを出すぞ」
昨晩は街の宿場で泊まり込み、そこで、ひとしきりの段取りを行った。そうであるにもかかわらず、朝になって、コウミは日々喜に一人で魔導士の館に向かうように言い渡したのだった。
「さて、今日は一日中観察したいが、俺は俺のやる事をやるかな」
サフワンから聞いた限り、森の東側はイバラ領のルーラーが住んでいる。そうなれば、化け物が森で住める場所は西側のみになるだろう。
コウミはそう考えながら、森の西側を見渡した。
広大な森は、鬱蒼とした木々に覆われていた。季節は、新芽の生え始める時期だ。大半は落葉し、茶色い枝木の姿を晒している。しかし、そうであっても見通しの利く範囲は近場に限られた。そこから森の中を徘徊する生物を見出すのは、至難な事に違いない。
それでも、コウミは木々の枝が重なり合う、僅かな隙間から動物的な動きを見出そうと、観察を続けた。
「見つけた。緑肌の小僧共か」
コウミはそう呟くと、小高い丘の上から飛び降りた。そして、森の中の一点を目指して直進する。
猿よりも身軽に枝から枝へ飛び交い、地上すれすれを滑空するつばめ程の速度で進んで行った。誰かがその姿を見れば、コウミの装束も相まって、まるで黒い影が通り抜けた様にしか感じられなかっただろう。
やがて、二、三匹の化け物達が集う場所にコウミは辿り着く。
化け物達は全員子供の様な体格をしており、その肌の色は苔でも生えているのかと思う程の緑色であった。紛れも無く、昨晩出くわした者達に違いない。
「おい、お前ら」
「ウキャ!? キャキャ」
突然のコウミの出現に驚き、猿の様な奇声を上げて、化け物達はその場から散り散りになって、逃げ出してしまった。
「待て! ……ちっ」
弱い生き物だ。コウミはそう思いながら周囲を観察する。
「これは?」
地面に落ちている器の様な物に気が付き、それを拾い上げる。
陶器だった。きっと、近場に住む人間の持ち物を盗んだに違いない。器の中には、木々の新芽やキノコ等が詰められていた。
「採取か? 人型は営みの仕方が、人間に近づいて来るものだが」
中の物を取り出し、器を地面に捨てると、そのまま口へ運んだ。不味い。だが、腹の足しにはなる。
「領域内に、人以外の営みが生まれつつある。……ルーラーは何をやっているんだ」
コウミは、緑の化け物達が逃げ去った方角を目指し、森の中を進み始めた。
森林の中を通り、やがて、森の中に切り開かれた化け物達の小さな集落らしき場所に出た。
木々を寄せ集めて作った骨組みに、土を盛って作った釜倉の様な家が、幾つか並んで立てられている。その家の前では緑の化け物達が火を焚き、やはりどこかから盗んできた鉄製の鍋を使って、調理の真似事らしき事を行っていた。
「おい!」
コウミが声を掛けると、慌てた様子で、家の中へと逃げ込んで行く。
「慌てるな、お前ら。狩りに来たわけじゃない」
家の出入り口から顔を覗かせ、こちらの様子を見る緑の化け物にコウミは話し掛けた。
「言葉が分かる奴は居ないのか? 俺の言ってる意味が分かる奴だ」
化け物達は、依然として家から出てこようとしない。しかし、コウミの言葉に反応を示す様に、ガヤガヤと家の中でやり始めた。やがて、立派な髭を生やした化物の一人が、家の中から姿を現す。
「皆、静まるのじゃ!」
髭の化け物は各家々に向かってそう号令をかけるとコウミの前に進み出て来た。
「おお……、貴方様は」
「お前は、言葉が分かるのか?」
「分かります。分かりますとも、魔導士様。よくぞ、お戻りになられた」
「……何? 戻った?」
「そうですじゃ。さあ、皆よ! 宴げの準備じゃ! 魔導士様を歓迎するのじゃ」
化け物の言っている意味が理解できない。そんなコウミをほったらかしにして、化け物達は次々と家の中から出て、各々宴げの準備に取り掛かり始める。
コウミはその光景を茫然とながめた。想像する以上の数が居たのだ。この集落だけで、ざっと三十匹くらいにはなった。
「おい、そこの髭」
「ワシの事ですかな?」
「お前は、この集落の頭か?」
「おやおや、お忘れですかな魔導士様? 我ら氏族を取り仕切る、このヅケ・ワサビの事を」
「……ヅケ氏族? いや、そんな事はどうでもいい。お前、何か勘違いしている様だがな、俺はここに来たばかりだ。お前達の事など知らん」
「お、おお、そんな。何と嘆かわしい――」
「色々説明してもらうぞ。ここは人間の領域であって、お前達が住み着くような場所ではないはずだ」
「――その黒衣の装束。顔を隠したるやんごとなきお立場。尊大なる佇まい。我々をお導き下さった魔導士様に間違いございませんじゃ」
「聞いてるのかワサビ?」
「おお、嘆かわしい。我々の導き手、救いの手を差し伸べて下さった魔導士様は、その誇り高き意思を貫く事なく、哀れな我々を道すがらに捨てて行くと仰せなのですね」
集落中に響き渡る程の声で、ワサビは嘆きの文句を垂れ始める。すると、周りの者達も何事かとばかりに集まり始めた。
「長老ー!」
「ワサビ長老様ー!」
「おお、おお! 皆の衆。やせ細った我らゴブリン、我ら氏族。今だけは共に抱き合い、共に温もりを感じようぞ」
集落に潜む化け物達は、尊大に佇むコウミを尻目に、その目の前で集まり抱き合い始めた。
「コラアア!!」
感傷に浸ろうとする化け物達をコウミが怒鳴りつける。三十匹からなる緑の大群が一斉にビクリと身体を揺らし、コウミの方を見た。
「漬物共が! 俺の聞きたい事にだけ答えやがれ! 吊るして干物にするぞ!」
コウミに急かされ、漬物達は自らの窮状を漸く話し始めた。その場に座り込むコウミに合わせる様に、集落の者が一堂に会しコウミの目の前に集まり座り込む。
「話しを要約すると、お前達はここより北の山里近くで生まれたゴブリンと言うモンスター、という事か。元々は人の道具や食料を盗んで細々と暮らしていた一族。それが、人から自立した生活を送る為に山里を離れ、各地を転々とするうちにここに辿り着いたと……」
「そうですじゃ。行くあてのないまま、朽ちる運命にあった我ら氏族。哀れな我らに手を差し伸べ、この土地に導いて下さったのが、他ならぬ貴方様と同じ魔導士様でございました」
「巡り巡って、結果的に人の居る土地に戻って来るとは、笑わせる奴らだな。だいたい、お前達の使っているその道具はなんだ? 人間の物だろ? 住処は変えても姑息な生き様は変えぬまま過ごしていたのか?」
「こ、これは、魔導士様よりご提供いただいた品々でして、決して人から盗んだものではございません」
「ふんっ。自立が聞いて呆れる……」
「寛大なる魔導士様のお計らいにより、我ら氏族は、この土地で生きる術を学んで参りました。しかし、慣れぬ環境の所為もあり、その数は減り続け、この冬の間に既に半数程に……」
「おいおいおい、ダメだろそれは。慣れないどころか、滅びかけてる。森で何があった」
「恥ずかしながら、この森に住む狼や猪等の獣によって、我ら氏族は存続を危ぶまれておるのでございますじゃ」
「下等種が! 何が氏族だ! それじゃ、森に餌を撒いているのと同じだろが。春を待たずに気が付け、この馬鹿!」
「うう、申し訳ございませんですじゃ」
「ちっ!」
何なんだこれは、意図がさっぱりわからない。単なる戯れなのか? ……いや、それにしては危う過ぎる。営みからはぶれた者が、どのような末路を辿るのか、魔導士なら知らぬはずがない。
呆れて言葉も出ない。と言う具合に、コウミは考えに耽る。すると、ワサビが唐突に声を上げた。
「あの白蛇ですじゃ!」
「白蛇?」
「魔導士様がお導き下さった。危険な獣も存在せず、食べ物も豊富にあった我らの楽園。東の森こそが我々の住むべき土地なのですじゃ! しかし、あの白蛇が現れた為に、我ら氏族は、この地獄の様な西側の森へ移り住む事を余儀なくされたのですじゃー!」
「東だと? ルーラーの住処近くに白蛇が居るのか?」
「おお、魔導士様! 再び我らにお力をお貸しくださいませ。あの悪魔の使いを貴方様のお力で打ち払ってくださいませ!」
「……場所は分かるのか?」
「分かりますじゃ。楽園までの道筋、脳裏に焼き付いておりますじゃ」
長老に続き、周りの漬物達が一斉にコウミに嘆願し始めた。
コウミは空を仰ぐ。漬物の声などに聴く耳を持っていない。しかし、白蛇の存在は気にかかる所であった。
ルーラーの住処近くに住み着くモンスター。もしルーラーの存在を危ぶむ程のものだったらどうなるだろうか? 自分達の敵ともなり得るだろうか?
そう考えを巡らせた。
「行ってみるか……」
コウミの言葉に、漬物達が猿の様な声で歓声を上げた。
いくつか点在している小高い丘の上にコウミは立ち、辺りを見渡した。
森に引かれる街道は、南に向かって森を抜けると、そこから南東の方角と南西の方角に別れている。
南東に向かう道筋は、幾つかの畑を越え街へと伸びていた。
サフワンの言う通り、高い建物等はまばらであったが、コウミの立つ場所からでも街としての建ち並びを確認する事が出来る。
南西の方角には平野が広がっており、二又に別れるもう一方の道筋はこの平野を越え、イバラ領の西側の地域を囲う様にして広がる森へと続いている。その森の中からは、大きな館が一つ顔を覗かせていた。
「ここらにするか」
コウミはその場所の視界の良さを確認すると、大きな館の方角を見つめ、クスクスと笑いをこぼした。
「日々喜か? 上手くやっているかな、あいつ」
大きな館へと続く南西の道筋。
森の手前で、ゴマ粒よりも小さく映る馬車の中から、さらに小さい二人の人物が降り立つ。最早、肉眼では確認する事も難しいだろうが、コウミにはそれがサフワンと日々喜であると分かった。
先導するサフワンに続き、重たい足取りで、日々喜は森の中へと消えて行った。
「一人で行けと言った時の慌てふためき様ったら、あいつ絶対にボロを出すぞ」
昨晩は街の宿場で泊まり込み、そこで、ひとしきりの段取りを行った。そうであるにもかかわらず、朝になって、コウミは日々喜に一人で魔導士の館に向かうように言い渡したのだった。
「さて、今日は一日中観察したいが、俺は俺のやる事をやるかな」
サフワンから聞いた限り、森の東側はイバラ領のルーラーが住んでいる。そうなれば、化け物が森で住める場所は西側のみになるだろう。
コウミはそう考えながら、森の西側を見渡した。
広大な森は、鬱蒼とした木々に覆われていた。季節は、新芽の生え始める時期だ。大半は落葉し、茶色い枝木の姿を晒している。しかし、そうであっても見通しの利く範囲は近場に限られた。そこから森の中を徘徊する生物を見出すのは、至難な事に違いない。
それでも、コウミは木々の枝が重なり合う、僅かな隙間から動物的な動きを見出そうと、観察を続けた。
「見つけた。緑肌の小僧共か」
コウミはそう呟くと、小高い丘の上から飛び降りた。そして、森の中の一点を目指して直進する。
猿よりも身軽に枝から枝へ飛び交い、地上すれすれを滑空するつばめ程の速度で進んで行った。誰かがその姿を見れば、コウミの装束も相まって、まるで黒い影が通り抜けた様にしか感じられなかっただろう。
やがて、二、三匹の化け物達が集う場所にコウミは辿り着く。
化け物達は全員子供の様な体格をしており、その肌の色は苔でも生えているのかと思う程の緑色であった。紛れも無く、昨晩出くわした者達に違いない。
「おい、お前ら」
「ウキャ!? キャキャ」
突然のコウミの出現に驚き、猿の様な奇声を上げて、化け物達はその場から散り散りになって、逃げ出してしまった。
「待て! ……ちっ」
弱い生き物だ。コウミはそう思いながら周囲を観察する。
「これは?」
地面に落ちている器の様な物に気が付き、それを拾い上げる。
陶器だった。きっと、近場に住む人間の持ち物を盗んだに違いない。器の中には、木々の新芽やキノコ等が詰められていた。
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中の物を取り出し、器を地面に捨てると、そのまま口へ運んだ。不味い。だが、腹の足しにはなる。
「領域内に、人以外の営みが生まれつつある。……ルーラーは何をやっているんだ」
コウミは、緑の化け物達が逃げ去った方角を目指し、森の中を進み始めた。
森林の中を通り、やがて、森の中に切り開かれた化け物達の小さな集落らしき場所に出た。
木々を寄せ集めて作った骨組みに、土を盛って作った釜倉の様な家が、幾つか並んで立てられている。その家の前では緑の化け物達が火を焚き、やはりどこかから盗んできた鉄製の鍋を使って、調理の真似事らしき事を行っていた。
「おい!」
コウミが声を掛けると、慌てた様子で、家の中へと逃げ込んで行く。
「慌てるな、お前ら。狩りに来たわけじゃない」
家の出入り口から顔を覗かせ、こちらの様子を見る緑の化け物にコウミは話し掛けた。
「言葉が分かる奴は居ないのか? 俺の言ってる意味が分かる奴だ」
化け物達は、依然として家から出てこようとしない。しかし、コウミの言葉に反応を示す様に、ガヤガヤと家の中でやり始めた。やがて、立派な髭を生やした化物の一人が、家の中から姿を現す。
「皆、静まるのじゃ!」
髭の化け物は各家々に向かってそう号令をかけるとコウミの前に進み出て来た。
「おお……、貴方様は」
「お前は、言葉が分かるのか?」
「分かります。分かりますとも、魔導士様。よくぞ、お戻りになられた」
「……何? 戻った?」
「そうですじゃ。さあ、皆よ! 宴げの準備じゃ! 魔導士様を歓迎するのじゃ」
化け物の言っている意味が理解できない。そんなコウミをほったらかしにして、化け物達は次々と家の中から出て、各々宴げの準備に取り掛かり始める。
コウミはその光景を茫然とながめた。想像する以上の数が居たのだ。この集落だけで、ざっと三十匹くらいにはなった。
「おい、そこの髭」
「ワシの事ですかな?」
「お前は、この集落の頭か?」
「おやおや、お忘れですかな魔導士様? 我ら氏族を取り仕切る、このヅケ・ワサビの事を」
「……ヅケ氏族? いや、そんな事はどうでもいい。お前、何か勘違いしている様だがな、俺はここに来たばかりだ。お前達の事など知らん」
「お、おお、そんな。何と嘆かわしい――」
「色々説明してもらうぞ。ここは人間の領域であって、お前達が住み着くような場所ではないはずだ」
「――その黒衣の装束。顔を隠したるやんごとなきお立場。尊大なる佇まい。我々をお導き下さった魔導士様に間違いございませんじゃ」
「聞いてるのかワサビ?」
「おお、嘆かわしい。我々の導き手、救いの手を差し伸べて下さった魔導士様は、その誇り高き意思を貫く事なく、哀れな我々を道すがらに捨てて行くと仰せなのですね」
集落中に響き渡る程の声で、ワサビは嘆きの文句を垂れ始める。すると、周りの者達も何事かとばかりに集まり始めた。
「長老ー!」
「ワサビ長老様ー!」
「おお、おお! 皆の衆。やせ細った我らゴブリン、我ら氏族。今だけは共に抱き合い、共に温もりを感じようぞ」
集落に潜む化け物達は、尊大に佇むコウミを尻目に、その目の前で集まり抱き合い始めた。
「コラアア!!」
感傷に浸ろうとする化け物達をコウミが怒鳴りつける。三十匹からなる緑の大群が一斉にビクリと身体を揺らし、コウミの方を見た。
「漬物共が! 俺の聞きたい事にだけ答えやがれ! 吊るして干物にするぞ!」
コウミに急かされ、漬物達は自らの窮状を漸く話し始めた。その場に座り込むコウミに合わせる様に、集落の者が一堂に会しコウミの目の前に集まり座り込む。
「話しを要約すると、お前達はここより北の山里近くで生まれたゴブリンと言うモンスター、という事か。元々は人の道具や食料を盗んで細々と暮らしていた一族。それが、人から自立した生活を送る為に山里を離れ、各地を転々とするうちにここに辿り着いたと……」
「そうですじゃ。行くあてのないまま、朽ちる運命にあった我ら氏族。哀れな我らに手を差し伸べ、この土地に導いて下さったのが、他ならぬ貴方様と同じ魔導士様でございました」
「巡り巡って、結果的に人の居る土地に戻って来るとは、笑わせる奴らだな。だいたい、お前達の使っているその道具はなんだ? 人間の物だろ? 住処は変えても姑息な生き様は変えぬまま過ごしていたのか?」
「こ、これは、魔導士様よりご提供いただいた品々でして、決して人から盗んだものではございません」
「ふんっ。自立が聞いて呆れる……」
「寛大なる魔導士様のお計らいにより、我ら氏族は、この土地で生きる術を学んで参りました。しかし、慣れぬ環境の所為もあり、その数は減り続け、この冬の間に既に半数程に……」
「おいおいおい、ダメだろそれは。慣れないどころか、滅びかけてる。森で何があった」
「恥ずかしながら、この森に住む狼や猪等の獣によって、我ら氏族は存続を危ぶまれておるのでございますじゃ」
「下等種が! 何が氏族だ! それじゃ、森に餌を撒いているのと同じだろが。春を待たずに気が付け、この馬鹿!」
「うう、申し訳ございませんですじゃ」
「ちっ!」
何なんだこれは、意図がさっぱりわからない。単なる戯れなのか? ……いや、それにしては危う過ぎる。営みからはぶれた者が、どのような末路を辿るのか、魔導士なら知らぬはずがない。
呆れて言葉も出ない。と言う具合に、コウミは考えに耽る。すると、ワサビが唐突に声を上げた。
「あの白蛇ですじゃ!」
「白蛇?」
「魔導士様がお導き下さった。危険な獣も存在せず、食べ物も豊富にあった我らの楽園。東の森こそが我々の住むべき土地なのですじゃ! しかし、あの白蛇が現れた為に、我ら氏族は、この地獄の様な西側の森へ移り住む事を余儀なくされたのですじゃー!」
「東だと? ルーラーの住処近くに白蛇が居るのか?」
「おお、魔導士様! 再び我らにお力をお貸しくださいませ。あの悪魔の使いを貴方様のお力で打ち払ってくださいませ!」
「……場所は分かるのか?」
「分かりますじゃ。楽園までの道筋、脳裏に焼き付いておりますじゃ」
長老に続き、周りの漬物達が一斉にコウミに嘆願し始めた。
コウミは空を仰ぐ。漬物の声などに聴く耳を持っていない。しかし、白蛇の存在は気にかかる所であった。
ルーラーの住処近くに住み着くモンスター。もしルーラーの存在を危ぶむ程のものだったらどうなるだろうか? 自分達の敵ともなり得るだろうか?
そう考えを巡らせた。
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コウミの言葉に、漬物達が猿の様な声で歓声を上げた。
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