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第一章 とても不思議な世界
16話 見習い魔導士達③
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「ほら日々喜。これ読んどけよ」
キリアンはジオメトリーと書かれた本を日々喜に手渡した。
「話しを聞く限り、基礎からやった方が良い。あんたもイバラ領に来たてだから丁度いいだろ」
「分かった。でも、幾何学は勉強した事があるんだ」
「ん?」
日々喜の言葉にキリアンは不思議そうな表情を浮かべる。
「ジオメトリーって、幾何学の事じゃないの?」
「……あんた、ジオメトリーを知らないのか?」
キリアンの言葉に、リグラが驚いた。
「本当ですか日々喜。それじゃあ、どうやってチャートを作ったんですか?」
「チャート? それは、えっと?」
「羊皮紙に記述した魔導の構成式の事です。各領地で編纂されたジオメトリーに基づいて作る物ですよ」
「良く分からない」
「分からないですか? それじゃあ、そのアトラスに纏められているチャートは、どうやって作ったと言うんですか?」
「これは、僕が作った物じゃないんだ。コウミの知り合いの物を借りていて」
「お師匠さんの、お知り合いが……」
「僕も詳しくは勉強中なんだよ」
キリアンが口を開く。
「それがアンタの師匠の教え方なのかもしれないけど、基礎を飛び越えてるぜ。始めは、魔導の使い方や作り方よりも、エレメンタルの働きを学ぶもんだ。いいか、ジオメトリーってのは、各領域のエレメンタルの働きを記した書物だ。魔導を作る際には、実地で作る場合もあるけど、ジオメトリーを読めばわざわざ現場に足を運んで作る必要が無い。王都では、魔導の事をジオマジック何て呼んでる奴が居るくらいメジャーな代物さ」
「エレメンタルの働き……。エレメントを操る力が、各領域で異なる働きをしているの?」
「当然だろ。エレメンタルの働きが異なるから、各領域で特色が生まれてる。自然環境が違うモノになる。時間の経過によって季節が生まれるんだ。魔導はその領域、その時に合わせて作らなくちゃ、精度が大きく落ちるんだよ。さっき見せた魔法陣にだって、イバラ領の特色である異形葉紋が現れてただろ」
「葉紋? 外枠の葉っぱの紋様がそうなんだ」
「そうさ。チャートがちゃんと組まれていれば、その領域の特色が、魔法陣の境界、つまり外枠に描かれるんだ」
「異形葉紋。それが、イバラ領の特色……」
日々喜は先程見た魔法陣の光景を思い起こす。そして、昼前に見たフェンネルの展開する魔法陣や、タイムの頭の上に展開されていた魔法陣の事を思い起こした。
魔法陣の大きさは大小様々、そして、内部に描かれる幾何学的な紋様はそれぞれ異なる所があったように感じる。しかし、キリアンの言う通り、外枠の縁取りは、どれも桑の葉の様な整わない葉っぱの形を描いていた。
「覚える順序が逆転しているから、イバラに滞在している間は、ジオメトリーを読んでおくと良い。ここには最新版が置いてあるからな。……オレガノ、もう理解できたか?」
話の切れ目に、キリアンはオレガノのしんちょくを確認する様に尋ねた。
「まだ。もうちょっと待って」
「遅っ、早くしろよな」
オレガノの返答にキリアンは呆れながらそう言った。
「皆はここで、イバラ領の魔導について研究しているんだね」
「それもありますが、修練期間中は主に、魔導士としてのたしなみと自分の専門分野を磨く事に重点を置いていますね」
日々喜の質問にリグラが答える。
「修練期間?」
「知りませんか? この国での魔導士になる為の制度なんですが」
「アンタと同じさ。学院を出たての見習い魔導士は、三年間旅をしたり門戸に入ったりして、自分で自分の腕を磨いて行く。その期間を無事に修了すれば、晴れて魔導士試験の受験資格が下りる。因みに、来年度で俺とオレガノは二年目。リグラは卒業してから一年間、学院に籍を残してたから、出たての一年目」
「私も同じ二年目です! 学院では、卒業後に自分の専門性を磨いていました」
「旅回りは初めてだろ。だったら、一年目の奴と変わらないし。そもそも卒業までに自分の専門何て、ある程度定めておくもんだ」
「そ、それは、そうかもしれませんが……」
キリアンの言葉にリグラは口籠った。
「キリアンの専門は何なの?」
「俺は鉱物の合成と生成を専門にしてる。さっき見せたクリスタルの生成はその一環さ」
「鉱物ならどんな物でも作れるの?」
「その土地によりけりだね。相性があるのさ。まあ、クリスタルの様な鉱石は、場所に依らず作りやすいかな」
「リグラの専門は何なの?」
「私はキノコです」
「リグラはキノコ?」
「菌糸類の培養を魔法陣の中で行うんです」
「そんな事も出来るんだ」
「出来ますよ。菌類に限らず、培養したい種子や株があれば、必要な栄養素を生成して自在に育てる事が出来ます」
「面白そうな研究だよな。取り組んでるのは退屈な奴なのに」
キリアンが口を挟んだ。
「い、一々! 憎まれ口を言わなきゃ気が済まないんですか、貴方は!」
「別に、思った事をそのまま口にしただけさ。貶してなんかいないぜ」
「この人は、本当に口の減らない人!」
見習い魔導士達の話を聞き、そのやり取りを見つめながら、日々喜は自分の学校で過ごして来た日々を思い起こした。
自分の所属したSSH(スーパーサイエンスハイスクール)での授業やワークショップ。同じ研究チーム内で競い合い、互いに学び合ってきた仲間達の姿を彼らに重ねた。
勉学に励んできた自分達と、研究に励む見習い魔導士達の間に大きな違いは無く。そうでありながら、自らが設定する専門性に取り組み、それを自らの手で磨いて行く彼らの姿勢に、何か強い憧れの様な物を感じ始めていた。
そして、その気持ちをそのまま表す様に、過去に聞かされた言葉をつい口ずさんだのだった。
「我々は、考える人間の喜びであるこの進んだ知識の貯えを慎重に守り、増大させよう。それは、航海術と地理学に大きな貢献をした。しかし、その最大の功績は、天文現象が招いていた恐怖を一掃し、我々と自然との真の関係についての無知から生じた誤りを消滅させた事である」
「……何です、それ?」
リグラが尋ねた。
「ピエール・シモン・ド・ラプラース」
「ラプラース?」
日々喜は頷き答える。
「僕、誤解してたよ。魔導は力を示す道具かと思ってた。だけど、皆の話を聞いていたら、どうやらこれは、科学の発展の為にあるものだって分かったんだ」
日々喜は二人に対して自分の所感を述べた。
「キリアン、リグラ。魔導って、凄いじゃないか」
日々喜の言葉に、キリアンは照れ臭そうに鼻を鳴らした。
「感想にしては、大袈裟な言葉だったけど、悪くないな」
「いいえ、その言葉に見合うだけの物ですよ。魔導は人の営みを守る為にある物ですから。我が国の誇るべき技術です」
「フン、国は敷居を高くしてるだけさ。オレガノ、終わったかい?」
「まーだ」
「もういいだろ。とりあえずやって見せろよ。理解してない所は後で指摘するから」
「もう! 馬鹿にしないで」
オレガノはプリプリしながら魔導の行使に当たる。
再び四人の前に魔法陣が出現した。
キリアンが出した物よりは一回り程大きい。傍観する三人がそう認識した時、先程、魔法陣の中で起きた現象が、魔法陣のサイズに合わせた大きさで繰り返され始める。
そして、魔法陣の中心には人の腕程の大きさの水晶がそびえ立ち、その周りを囲うように比較的小さい水晶が幾本も生え始めた。
「ほーら出来た」
自分の魔導の成就を確認し、オレガノは喜々としてそう言った。
「馬鹿! 力を抑えろ!」
「オレガノ、いけません! 中止です! アトラスを閉じて!」
二人が止めるよりも早く、魔法陣内に降り注ぐ光の粒を水晶は吸収し始める。すると、見る見ると水晶が成長を始め、あっという間に天井に達する程の大きさになった。
天井からメキッという木の軋む大きな音が聞こえ、オレガノは慌てて自らのアトラスを閉じる。
魔法陣が消え、そこで、水晶も成長を止めた。
「おっかしいなー? ここまでするつもりは無かったのに」
オレガノが水晶を見上げながら言った。
「力み過ぎだ馬鹿! チャートをよく理解しろって言ったろ。少しの魔力でも十分だってのに」
「キリアンが急かすからじゃない! それと、私の事を馬鹿馬鹿言わないでよ!」
「屋根にぶつかった様ですけど、大丈夫でしょうか?」
「え!? 大変! 穴を開けたら、サルヴィナに怒られちゃうわ」
「自業自得だっての」
「もう、一緒に謝ってよね」
「やーだね」
「キリアン!」
「ま、まあまあ、二人共。もう夜ですし、少し落ち着いて」
傍から三人の事をながめていた日々喜が、堪え切れなくなったように笑い声を立てた。
「酷いわ、日々喜。笑うなんて」
オレガノは恥ずかし気に、日々喜が笑った事をとがめる。
「ごめん。可笑しくてつい」
「可笑しくないわ。実験に失敗は付き物だもの!」
「そうだね、オレガノ。僕も皆と一緒に謝るから、それで許して」
「なら、いいわ。許してあげる。フフフ」
「皆って、俺も入ってんの?」
キリアンが笑い合う日々喜とオレガノの間に口を挟んだ。
「当然よ!」
「キリアン、仕方ないですよ。我々の研究会なんですから。連帯責任です」
リグラがキリアンを宥めた。
「連帯責任よ!」
オレガノは意気揚々と、自分の不手際を皆の責任にすり替えた。
「はいはい。分かりましたよ。とりあえず、今日はこれで解散しようぜ。この水晶が消えなきゃ、満足に研究室使えないだろ」
「そうですね。私も、昨日の今日で少し疲れました」
四人の見習い魔導士達は、自分達の使った研究室の後片付けをし始める。
「この水晶はどうするの?」
掃除を終えかけた時、日々喜が巨大な水晶を見上げながら尋ねた。
「自然に消えるわ。大きいから少し時間が掛かるけど」
「自然に……?」
「魔導で作ったエレメントは、魔法陣が消えると、自然に消えて行ってしまうのよ」
「魔法陣が消えると、作り出したエレメントも自然に消える……」
オレガノの言葉を聞き、日々喜は不思議そうに水晶を見つめた。
良く見れば、水晶には所々ヒビが入り始めていた。既に形を維持する事も止めてしまったように映る。
「さあ、日々喜行きましょう」
キリアンとリグラが研究室を後にする中で、オレガノが日々喜に声を掛けた。
キリアンはジオメトリーと書かれた本を日々喜に手渡した。
「話しを聞く限り、基礎からやった方が良い。あんたもイバラ領に来たてだから丁度いいだろ」
「分かった。でも、幾何学は勉強した事があるんだ」
「ん?」
日々喜の言葉にキリアンは不思議そうな表情を浮かべる。
「ジオメトリーって、幾何学の事じゃないの?」
「……あんた、ジオメトリーを知らないのか?」
キリアンの言葉に、リグラが驚いた。
「本当ですか日々喜。それじゃあ、どうやってチャートを作ったんですか?」
「チャート? それは、えっと?」
「羊皮紙に記述した魔導の構成式の事です。各領地で編纂されたジオメトリーに基づいて作る物ですよ」
「良く分からない」
「分からないですか? それじゃあ、そのアトラスに纏められているチャートは、どうやって作ったと言うんですか?」
「これは、僕が作った物じゃないんだ。コウミの知り合いの物を借りていて」
「お師匠さんの、お知り合いが……」
「僕も詳しくは勉強中なんだよ」
キリアンが口を開く。
「それがアンタの師匠の教え方なのかもしれないけど、基礎を飛び越えてるぜ。始めは、魔導の使い方や作り方よりも、エレメンタルの働きを学ぶもんだ。いいか、ジオメトリーってのは、各領域のエレメンタルの働きを記した書物だ。魔導を作る際には、実地で作る場合もあるけど、ジオメトリーを読めばわざわざ現場に足を運んで作る必要が無い。王都では、魔導の事をジオマジック何て呼んでる奴が居るくらいメジャーな代物さ」
「エレメンタルの働き……。エレメントを操る力が、各領域で異なる働きをしているの?」
「当然だろ。エレメンタルの働きが異なるから、各領域で特色が生まれてる。自然環境が違うモノになる。時間の経過によって季節が生まれるんだ。魔導はその領域、その時に合わせて作らなくちゃ、精度が大きく落ちるんだよ。さっき見せた魔法陣にだって、イバラ領の特色である異形葉紋が現れてただろ」
「葉紋? 外枠の葉っぱの紋様がそうなんだ」
「そうさ。チャートがちゃんと組まれていれば、その領域の特色が、魔法陣の境界、つまり外枠に描かれるんだ」
「異形葉紋。それが、イバラ領の特色……」
日々喜は先程見た魔法陣の光景を思い起こす。そして、昼前に見たフェンネルの展開する魔法陣や、タイムの頭の上に展開されていた魔法陣の事を思い起こした。
魔法陣の大きさは大小様々、そして、内部に描かれる幾何学的な紋様はそれぞれ異なる所があったように感じる。しかし、キリアンの言う通り、外枠の縁取りは、どれも桑の葉の様な整わない葉っぱの形を描いていた。
「覚える順序が逆転しているから、イバラに滞在している間は、ジオメトリーを読んでおくと良い。ここには最新版が置いてあるからな。……オレガノ、もう理解できたか?」
話の切れ目に、キリアンはオレガノのしんちょくを確認する様に尋ねた。
「まだ。もうちょっと待って」
「遅っ、早くしろよな」
オレガノの返答にキリアンは呆れながらそう言った。
「皆はここで、イバラ領の魔導について研究しているんだね」
「それもありますが、修練期間中は主に、魔導士としてのたしなみと自分の専門分野を磨く事に重点を置いていますね」
日々喜の質問にリグラが答える。
「修練期間?」
「知りませんか? この国での魔導士になる為の制度なんですが」
「アンタと同じさ。学院を出たての見習い魔導士は、三年間旅をしたり門戸に入ったりして、自分で自分の腕を磨いて行く。その期間を無事に修了すれば、晴れて魔導士試験の受験資格が下りる。因みに、来年度で俺とオレガノは二年目。リグラは卒業してから一年間、学院に籍を残してたから、出たての一年目」
「私も同じ二年目です! 学院では、卒業後に自分の専門性を磨いていました」
「旅回りは初めてだろ。だったら、一年目の奴と変わらないし。そもそも卒業までに自分の専門何て、ある程度定めておくもんだ」
「そ、それは、そうかもしれませんが……」
キリアンの言葉にリグラは口籠った。
「キリアンの専門は何なの?」
「俺は鉱物の合成と生成を専門にしてる。さっき見せたクリスタルの生成はその一環さ」
「鉱物ならどんな物でも作れるの?」
「その土地によりけりだね。相性があるのさ。まあ、クリスタルの様な鉱石は、場所に依らず作りやすいかな」
「リグラの専門は何なの?」
「私はキノコです」
「リグラはキノコ?」
「菌糸類の培養を魔法陣の中で行うんです」
「そんな事も出来るんだ」
「出来ますよ。菌類に限らず、培養したい種子や株があれば、必要な栄養素を生成して自在に育てる事が出来ます」
「面白そうな研究だよな。取り組んでるのは退屈な奴なのに」
キリアンが口を挟んだ。
「い、一々! 憎まれ口を言わなきゃ気が済まないんですか、貴方は!」
「別に、思った事をそのまま口にしただけさ。貶してなんかいないぜ」
「この人は、本当に口の減らない人!」
見習い魔導士達の話を聞き、そのやり取りを見つめながら、日々喜は自分の学校で過ごして来た日々を思い起こした。
自分の所属したSSH(スーパーサイエンスハイスクール)での授業やワークショップ。同じ研究チーム内で競い合い、互いに学び合ってきた仲間達の姿を彼らに重ねた。
勉学に励んできた自分達と、研究に励む見習い魔導士達の間に大きな違いは無く。そうでありながら、自らが設定する専門性に取り組み、それを自らの手で磨いて行く彼らの姿勢に、何か強い憧れの様な物を感じ始めていた。
そして、その気持ちをそのまま表す様に、過去に聞かされた言葉をつい口ずさんだのだった。
「我々は、考える人間の喜びであるこの進んだ知識の貯えを慎重に守り、増大させよう。それは、航海術と地理学に大きな貢献をした。しかし、その最大の功績は、天文現象が招いていた恐怖を一掃し、我々と自然との真の関係についての無知から生じた誤りを消滅させた事である」
「……何です、それ?」
リグラが尋ねた。
「ピエール・シモン・ド・ラプラース」
「ラプラース?」
日々喜は頷き答える。
「僕、誤解してたよ。魔導は力を示す道具かと思ってた。だけど、皆の話を聞いていたら、どうやらこれは、科学の発展の為にあるものだって分かったんだ」
日々喜は二人に対して自分の所感を述べた。
「キリアン、リグラ。魔導って、凄いじゃないか」
日々喜の言葉に、キリアンは照れ臭そうに鼻を鳴らした。
「感想にしては、大袈裟な言葉だったけど、悪くないな」
「いいえ、その言葉に見合うだけの物ですよ。魔導は人の営みを守る為にある物ですから。我が国の誇るべき技術です」
「フン、国は敷居を高くしてるだけさ。オレガノ、終わったかい?」
「まーだ」
「もういいだろ。とりあえずやって見せろよ。理解してない所は後で指摘するから」
「もう! 馬鹿にしないで」
オレガノはプリプリしながら魔導の行使に当たる。
再び四人の前に魔法陣が出現した。
キリアンが出した物よりは一回り程大きい。傍観する三人がそう認識した時、先程、魔法陣の中で起きた現象が、魔法陣のサイズに合わせた大きさで繰り返され始める。
そして、魔法陣の中心には人の腕程の大きさの水晶がそびえ立ち、その周りを囲うように比較的小さい水晶が幾本も生え始めた。
「ほーら出来た」
自分の魔導の成就を確認し、オレガノは喜々としてそう言った。
「馬鹿! 力を抑えろ!」
「オレガノ、いけません! 中止です! アトラスを閉じて!」
二人が止めるよりも早く、魔法陣内に降り注ぐ光の粒を水晶は吸収し始める。すると、見る見ると水晶が成長を始め、あっという間に天井に達する程の大きさになった。
天井からメキッという木の軋む大きな音が聞こえ、オレガノは慌てて自らのアトラスを閉じる。
魔法陣が消え、そこで、水晶も成長を止めた。
「おっかしいなー? ここまでするつもりは無かったのに」
オレガノが水晶を見上げながら言った。
「力み過ぎだ馬鹿! チャートをよく理解しろって言ったろ。少しの魔力でも十分だってのに」
「キリアンが急かすからじゃない! それと、私の事を馬鹿馬鹿言わないでよ!」
「屋根にぶつかった様ですけど、大丈夫でしょうか?」
「え!? 大変! 穴を開けたら、サルヴィナに怒られちゃうわ」
「自業自得だっての」
「もう、一緒に謝ってよね」
「やーだね」
「キリアン!」
「ま、まあまあ、二人共。もう夜ですし、少し落ち着いて」
傍から三人の事をながめていた日々喜が、堪え切れなくなったように笑い声を立てた。
「酷いわ、日々喜。笑うなんて」
オレガノは恥ずかし気に、日々喜が笑った事をとがめる。
「ごめん。可笑しくてつい」
「可笑しくないわ。実験に失敗は付き物だもの!」
「そうだね、オレガノ。僕も皆と一緒に謝るから、それで許して」
「なら、いいわ。許してあげる。フフフ」
「皆って、俺も入ってんの?」
キリアンが笑い合う日々喜とオレガノの間に口を挟んだ。
「当然よ!」
「キリアン、仕方ないですよ。我々の研究会なんですから。連帯責任です」
リグラがキリアンを宥めた。
「連帯責任よ!」
オレガノは意気揚々と、自分の不手際を皆の責任にすり替えた。
「はいはい。分かりましたよ。とりあえず、今日はこれで解散しようぜ。この水晶が消えなきゃ、満足に研究室使えないだろ」
「そうですね。私も、昨日の今日で少し疲れました」
四人の見習い魔導士達は、自分達の使った研究室の後片付けをし始める。
「この水晶はどうするの?」
掃除を終えかけた時、日々喜が巨大な水晶を見上げながら尋ねた。
「自然に消えるわ。大きいから少し時間が掛かるけど」
「自然に……?」
「魔導で作ったエレメントは、魔法陣が消えると、自然に消えて行ってしまうのよ」
「魔法陣が消えると、作り出したエレメントも自然に消える……」
オレガノの言葉を聞き、日々喜は不思議そうに水晶を見つめた。
良く見れば、水晶には所々ヒビが入り始めていた。既に形を維持する事も止めてしまったように映る。
「さあ、日々喜行きましょう」
キリアンとリグラが研究室を後にする中で、オレガノが日々喜に声を掛けた。
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