ジ・エンドブレイカー

アックス☆アライ

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第一章 とても不思議な世界

15話 見習い魔導士達②

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 「誰か居るのか?」

 人気の無い研究室から、呟く様な声が聞こえ、キリアンは持っていたランタンで前方を照らし声を掛けた。
後に続いていたオレガノとリグラも、キリアンの背中から様子を見る様に顔を覗かせた。

 「あれ、日々喜? どうしたの、明かりも持たずに」

 オレガノが尋ねた。

 「マウロさんから、皆の研究会に参加する様に言われて、待ってたんだ」
 「今、誰かと話してなかったか?」
 「いいや。僕一人さ」
 「ふーん、一人で外でねぇ。律儀な奴だな」

 キリアンはそう言うとランタンをリグラに手渡し、研究室の扉のカギを開けた。

 「声をかけてくれりゃ良かったのにさ。……どうした? 入れよ」

 キリアンに誘われ、日々喜達は研究室の中へと入って行った。
 キリアンは研究室に備え付けられているテーブルに向かうと、自身の持つアトラスを解体し、小脇に抱えていた羊皮紙を新しいページとして付け加え始めた。

 「日々喜こっちに来て」

 オレガノが日々喜を引っ張り、キリアンの実験が良く見える椅子に座らせた。
 編纂を終えたアトラスを手にしながらキリアンは立ち上がると、右手にロックハンマーを握りながら目の前にかざした。

 「始めるぜ、良く見とけよ」

 四人のながめる前方の床に、薄っすらと淡い光を放つ円陣が出現した。
 それは、直径にして一メートル程の円であった。円は僅かな間隔を開ける様に縁取りが作られ、その間隔を埋める様に幾本もの木の枝らしきものが描かれる。そして、まるで急速な成長を遂げて行くかのように枝葉を茂らせていった。大きさは大小様々、形に至っては楕円形やハート形、大きく切れ込みが入った様にくびれたもの等、こちらも様々であった。
 縁取りの内側には、何か特別な意味を感じさせる幾何学的な紋様と、その隙間を埋める様に、ここでは魔法言語と呼ばれる英単語によって、
 
 Undine:The elemental of water。
 Salamander:The elemental of Fire。
 Sylph:The elemental of wind。
 Gnome:The elemental of earth。

 とういう、説明書きの様なものが付記されて行った。
 やがて、魔法陣の中央にはキラキラと輝く光の粒が、螺旋を描く様に中心に向かって降り注いでいくのが確認できた。その光の粒が降り注ぐ中心部分に、小さい水晶の結晶が出来上がった。
 日々喜達は、キリアンが行使している魔導の効果、現象をただ黙って見つめていた。そして、魔法陣の中心に生み出された結晶が、降り注ぐ光の粒を吸収するかのように、徐々に大きく成長する様を見て思わず感嘆の声を漏らした。

 「凄い……」
 「ええ、とっても綺麗ね」
 日々喜の言葉に続く様に、オレガノは目の前の現象に対する感想をそのまま言葉にした。
 「まあ、こんな具合だな」

 キリアンはそう言うと、手にしていたアトラスを閉じた。同時に、それまで床に展開されていた魔法陣が瞬時に消え去り、後には手のひら大程度の水晶の柱が残された。

 「魔導でエレメントを生成する際には、そのエレメントが存在する環境に似せたものを魔法陣の中で作り出せばいい。後は今見せたように、水晶が成長する為のエレメントを生成するだけで、勝手に大きくなる」

 キリアンはオレガノに向かって話しながら、右手に握ったロックハンマーを使い、床に生えた水晶を砕いた。そして、幾つかの塊に砕けた水晶を拾い上げると、ながめていた三人に手渡し始めた。

 「ここに来てからまだ一日しか経っていないのに、もうそんな魔導が作れるんですか?」

 リグラがキリアンに質問した。

 「ここに来る前に作った。学院の図書館に、国内全てのジオメトリーが収められてる。それを参考にすれば、王都でもイバラ領のチャートは組めるだろ」
 「意外と勉強家なのねキリアン。さすが、王立魔導学院の出身」
 「意外ってなんだよ。俺に言わせれば、ここに来る事が決まってながら、チャートの一つも作って無い奴の方が意外なんだけどな」

 キリアンはリグラに目配せしながらそう言った。

 「学院を出立する日が決まったのが、つい最近だったからです! それに普通は、新年度から。卒業式の後に門下に加わるものじゃないですか……。私は、時間が無かったんです」
 「言い訳なんかいいさ。要は心構えの問題だからな。ほら、オレガノ。アンタがやって見る番だ。チャートを良く理解しろよ」

 キリアンはそう言って、先程アトラスに加えた羊皮紙を取り出し、オレガノに手渡す。

 「うーん、難しいなぁ」

 キリアンは羊皮紙に描かれている構文を指差しながら、要点を説明して行く。オレガノは、キリアンの指先が動く度に、それを目で追いウンウン頷き返していた。

 「ちゃんと分ってんのかね……。そう言えば日々喜。あんたは何を専門にしているんだ?」
 「専門?」
 「魔導のだよ。研究するにあたっての自分の専門さ」
 「えっと……」
 「まさか、まだ専門を持ってないのか?」

 言葉に詰まる日々喜に対して、キリアンは質問を繰り返した。

 「実は、ちゃんと勉強を始めたのは最近なんだ。魔法陣もうまく展開できないんだ」

 キリアンは、日々喜の話しを聞いて大袈裟な溜息を着いた。

 「仕方ないですよ、キリアン。トウワ国は魔導の歴史が浅いんですから」
 「いいや、リグラ。そんな事は関係ないね。こいつは俺達の研究会に参加してる。ハッキリさせとかなくちゃだめさ」
 「キリアン……」

 リグラの言葉を無視して、キリアンは日々喜の方へと向き直り話をし始めた。

 「いいか日々喜。一般的に、この国で魔導士になる為には二つの物が必要なんだ。一つは才能。もう一つは自分の専門に依る研究成果さ」
 「才能と研究……」
 「学院への入学には年齢制限があるって話をしたろ。後からどんなに努力したって、生まれ持った才能だけは変わらないからさ。そして、晴れて学院を卒業した者達は、魔導士になる為に自分の専門性を磨いて行く。研究を怠る者は魔導士にはなれないんだ」

 日々喜は黙ってキリアンの話を聞く。魔導士への道が自分の想像していた以上に狭く、険しい物である事を知った。

 「日々喜。つい最近勉強を始めたばかり、聞けば魔法陣の展開もおぼつかない。そんなあんたにハッキリ言っとく。あんた才能無いよ。あんたは努力しても無駄だ。だから、興味本位で魔導を知ろうとするなら他所でやってくれないか、俺達に取って迷惑でしかないからな」
 「キリアン、止めてくださいよ。そんな言い方しなくてもいいじゃないですか」

 キリアンの言い分を聞いていたリグラが、いたたまれずに口を挟んだ。

 「こいつの面倒見ながら自分の研究も進めるって言うのかい? 余裕なんだなリグラは」
 「私は、そんな事……」

 黙って二人の話を聞いていた日々喜が、漸く口を開いた。

 「ごめん、キリアン、リグラ。皆に迷惑を掛けるつもりは無かったんだ」
 「日々喜……」

 擁護の言葉が出ず、申し訳なさそうにリグラは日々喜の事を見た。

 「魔導に興味がある。コウミも僕には無理だと言ったけど、勉強する事は許してくれた。
だから、せめてここに居る間は、自分の知りたい事を勉強したい。そう思っただけなんだ」
 「師匠に見限られた、出来ない事をわざわざ勉強するのか? それって無駄な事だろ」
 「いいや、キリアン。無駄じゃない。勉強はどんな事でも大事だよ」

 日々喜は真っすぐキリアンの目を見つめながらそう答えた。
 キリアンは、日々喜のこれまでの経緯を知らない。それでも、気恥ずかしさを表情に出す事も無く、そんなセリフを述べる日々喜に対して、彼が未だに学問に対する純粋な気持ちを信奉している事を見て取る。
 キリアンは、思わず日々喜から目を逸らし、鼻で笑うような声を出した。

 「自分の専門が決まれば、そんな事言ってる余裕は無くなるさ……。まっ、俺達の邪魔にならない程度なら付き合ってやってもいいけどな」

 キリアンの言葉に、リグラは安堵した様に溜息を着いた。

 「何なんですか、キリアン……、試す様な事を言って」
 「俺達の研究会だぜ。入会には必要な事さ」

 キリアンはそう言いながら悪戯っぽい笑みを見せた。
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