ジ・エンドブレイカー

アックス☆アライ

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第一章 とても不思議な世界

19話 宿舎での生活③

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 タイムがどちらで食事を取るかを気にしていたクレスが、戻って来た日々喜に一番に声をかけた。

 「タイムはこっちで食べるって?」
 「食べない。向こうで食べるって」

 そう言うと、日々喜は自分の席に置かれているスープとサラダの皿をつかんだ。両手の塞がった状態でどうやってパンを持って行くか、バスケットに入っているパンの方を見ながら思案する。

 「そう……」
 「みんな一緒に食べればいいのに、使用人だからって気を使う事はないのにな」
 「そういう事じゃないわピーター、あの子は……」
 「いいんじゃない、仕方ないわよ。だってタイムは北部の獣人でしょ」

 言い辛そうに言葉をつぐむクレスに代わり、ラヴァーニャがその後を継いだ。その言葉の所為か、クレスは咄嗟に自分の耳を気にする様な仕草を見せる。

 「獣人だとどうして仕方ないのラバーニャ?」
 「知らないのオレガノ? 有名な話よ。あの地域の獣人はお皿から直接――」
 「やめて!」

 隣で聞いていたクレスが声を荒げて、ラバーニャの言葉遮った。

 「そういう話はしないで」
 「や、やだ、冗談よクレス。そんな話信じてるわけ無いじゃない」
 「冗談に聞こえないわ……」

 寝ているキリアンを除き、食卓に着いていた者全員がクレスとラバーニャの方に注目し、動向を伺うかのように沈黙してしまった。
 その間に、日々喜はバスケットからパンを二つほど取って自分の席に戻ると、そのまま自分のサラダにパンを突っ込んだ。

 「え!? な、何してるんですか?」

 目の前で奇行を演じる日々喜に対して、食卓越しにリグラが声をかけた。

 「タイムと一緒に厨房で食べるよ」

 そう言うと、日々喜は皿をつかみ厨房へと歩いて行ってしまった。

 「待って日々喜。私も行くわ」

 隣に座っていたオレガノが、日々喜に続いてその場を後にする。
 そんな二人の姿を目で追いかけながらピーターは溜息を吐くと、気まずそうにしているクレスとラバーニャに向けて話しかけた。

 「二人ともやめろよな、食事中だぞ」
 「やめろって? 何をよ」
 ラバーニャがピーターに反論する。

 「ケンカだろ? オレガノと日々喜が、厨房に引っ込んじゃったじゃないか」

 クレスは少し声を張り上げた事を反省するかのように目を伏せた。しかし、ラバーニャは自分が責められるいわれが何処にあるのかと言わんばかりにピーターを見つめ返している。

 「朝食は全員集まって食べなきゃダメなんだよ。リグラだってそう思うよな」
 「え? はあ、そうですね」
 「まあ、今日はいいさ。だけど、明日から厨房と食堂に分かれて食べるなんて、俺はやだぞ」

 ピーターは自分の言いたい事を言い終わると、朝食を食べ始める。

 「なによそれ……」

 不服そうにラバーニャは呟く。隣に座るクレスとは目も合わせようとしない。

 「おい、キリアン。いい加減起きろよ、スープが冷めるぞ」

 キリアンはピーターに起こされ、眠たそうな表情を浮かべながらスープを口に運び始めた。
 一同が沈黙する中、ピーターが朝食の出来栄えや今朝の天気等の話を一人でしながら食事が進められて行く。
 そして、ようやく食べ終わる頃になって、マウロとローリが宿舎へと顔を出した。

 ◆◇◆◇◆

 「厨房でお食事なんてなんだか変な感じだけど、新鮮でたまにはいいかもしれないわね」
 「オレガノさん、日々喜さん、ごめんなさいにゃ。私のせいでこんな所で食事をさせてしまって」
 「タイムが気にする事じゃないわ」

 厨房に置かれた調理台をテーブル代わりにして、日々喜、オレガノ、タイムの三人は朝食にありついていた。
 タイムは恥じらいを感じてか、食べ物を少しずつ口に運んでは、上目遣いに二人の顔を伺っている。日々喜はそんなタイムをじっと観察しながら食事を続けた。

 「獣人の子なんて学院でもいたし、一緒に生活して来てるもの。ラバーニャだって分かっているはずだわ。それなのにあんな軽口を叩くんだもの」

 オレガノはそう言うと怒った表情を作り、さも憤っていると言う姿をタイムに見せた。

 「日々喜さん……。やっぱり汚いでしょうか?」
 「そんなことはないわタイム。日々喜もそんなに睨まないで」
 「うん」

 オレガノに止める様に指摘されながらも、日々喜はその行為を止めようとはしなかった。

 「もう、全然聞いてない。女の子を観察しながら食事なんて、あんまりよ」
 「でも、汚い所があったら注意しないと」

 そう言うと、日々喜はサラダに突っ込まれたパンを自分の口に運び込む。タイムの食事風景を観察していた為か、自分の口元からボロボロこぼれるパンくずに全く注意を払っていない。

 「ただの噂に決まっているわ。それにタイムは七人兄弟のお姉さんなんだから、しっかりしていて当たり前よ」
 「七人!?」
 「故郷に弟と妹達が六人いますにゃ。自慢ではないですが皆そそうがないように教育しましたにゃ」
 「凄い……」

 義理とは言え弟から箸の持ち方を教えてもらった自分と、六人の兄弟達を教育したタイム。日々喜は思い上がった考えを知らしめられた気持ちになり、急に恥ずかしくなってしまった。
 気づけば、自分の膝元やテーブルの周りには、気になる程の食べかすが散乱している。
 これはいけない。
 とっさに食べかすをかき集め始める。しかし、隣に座るオレガノにはその現場をばっちり見られていた。

 「タイムから見習う事の方が多そうね」

 日々喜はタイムのテーブルの周りを確認した。
 食べかすなど全く落ちてはいない。勿論、タイムが少しずつしか口に運んでいなかった事もあるだろうが、日々喜と比べて綺麗に済ませているのは、当然他に理由があるのだ。

 「……タイム、育ちが悪いなんて言ってゴメン」
 「そんな事言ったの?」
 「言っちゃった……」
 「いいんですにゃ。気にしてないにゃ」

 日々喜の呪縛から解放されたタイムは、ようやく二人の前で普段通りに食事を取り始める。
 その食事のとり方には気にかかる所等はなく、三人は仲良く談笑しながら食事を進めて行った。
 食事が終りかけた頃、宿舎に戻って来たマウロが厨房に顔を出した。

 「本当に厨房で食事を取ってるのかい?」
 「あっ、マウロ」
 「ピーター達から聞いたよ、ラバーニャもクレスも反省しているようだし、二人ともヘソを曲げてないでちゃんと食堂で食べような」
 「クレスは悪くないわ! ラバーニャが変な事を言ったからクレスは怒ったのよ」
 「分かってるよオレガノ」

 マウロはオレガノにそう言うと、今度はタイムに向かって話しかけた。

 「タイム。今まで気が付かなくてすまなかったね。使用人である立場に甘んじて気を回せずにいたんだ。これから君も皆と同じ食卓で食事を取らないかな?」
 「でも……」
 「東部で君の事を悪く言う奴はいない。ましてこのフォーリアムの館に仕えている以上、君も俺達も家族の様なものだ。そういう意味でラバーニャやクレスだけじゃなくて、俺達全員が反省しなくちゃいけない事だと思う。機会を与えてくれないかな? タイム」
 「マウロさん……」

 タイムは、皆に家族とまで言われた事に嬉しさを禁じ得ない。後は自分から歩み寄るために、自分から勇気を振り絞るだけだった。
 その時、ちょうど食事を終えた日々喜が立ち上がる。

 「どうかしたか日々喜?」
 「タイムに汚い所はなかった。それどころかタイムには実績がある。タイムと一緒に食事を取ればたくさんの事が学べる気がします」
 「……? そ、そうだな。きっと、皆も日々喜と同じように感じるに違いない。……多分」

 日々喜とマウロの言葉に後押しされ、タイムも返答した。

 「分かりましたにゃ。皆さん、これからよろしくお願いしますにゃ」

 マウロは安堵したような表情を浮かべた。

 「オレガノも日々喜もそれでいいね?」
 「もちろんよ!」

 オレガノはマウロの意見に賛成する。

 「日々喜は?」

 日々喜の賛同が得られないと、マウロは日々喜の姿を探した。
 彼は既に流し台で食器を洗い始めていた。

 「変わった奴め……」

 マウロは苦笑して呟いた。
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