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第二章 奪い合う世界
9話 魔法から科学へ⑥
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汽車は、機関部と客車両合わせて五両の編成。全長にして約百メートル程の大きさ、そして、日々喜の良く知る蒸気機関車にそっくりだったのだ。
「魔導列車だよ、日々喜」
田舎者丸出しの反応を見せる日々喜の事をサフワンとチョークはクスクスと笑った。
「魔導列車?」
「そうさ。魔法技術で動く。だから魔導列車さ。おいで、もっと近くで見てみよう」
サフワンとチョークが列車の機関部を目指して歩き出した。日々喜は後に続いて行く。
「この列車はイスカリ領から来てる。イスカリ領内にあるアーティファクトの力で、領内を自由に動いていたんだ」
歩きながらも、サフワンは解説を続けた。
イスカリ領を含む東西南北と中央の五つの主要領域において、インフラの下支えともなり得るアーティファクトの力がそれぞれ働いている。各種、火、水、土、風の四つの属性に依るエレメンタルを操り、そこで作られた工業製品を動かすためのエネルギー需要に応えているのである。
この特殊なアーティファクトについては、それぞれ、エレメンタルに因んだ名前が付けられており、イスカリ領内に存在するアーティファクトの事をウンディーネコアと呼んだりもする。
この水を操るウンディーネコアの力によって魔導列車は動かされていた。そして、力の及ばぬ範囲においては、乗り込んでいる魔導士達の力によって動かされるのである。その為、イスカリ領を越えたこのヴァーサ領内においては、殆ど人力で動かされている様な物だった。
当然の事ながら、人力では巨大な機械を長い距離で運用するには限界がある。領外での列車の本数は、一日に二本程度の往復に限られ、時間通りに運行される事も無かったのだ。
「だけど、新しい技術によって、動力は人力じゃなく、送られて来る魔力によって動く様になったのさ」
サフワンの解説は続く。
「新しい技術? さっき話してた、生成した魔力を実用化してるって事?」
サフワンは足取りを止める事無く頷いた。
やがて、動力部へと到着した。外見はやはり、写真などで良く見た蒸気機関車と変わる所が無い。
「日々喜。こいつの中には、複雑に編まれたコーディネートが施されているんだ。だから、あんたが運んでる洗濯機みたく、送られた魔力を動力に変えられる」
そこからチョークが解説し始めた。
「ただのコーディネートじゃないんだよ。ヴァーサ領外で生成された魔力を領内まで送り込み、尚且つそれを水のエレメンタルに変換させてる。こいつは、領域の特色に依存しないまったく新しい技術。しかも、このヴァーサ領で生まれた技術なのさ」
チョークは自慢げに、魔導列車を誇張する様に両手を広げた。
「チョークは構造を詳しく知ってるの?」
「え!? し、知ってるよ。当然だろ。ほら、線路の中央に、魔力を伝える導線が通ってる。あれを列車が拾って、機関内で水のエレメンタルに変換させるんだ。水のエレメンタルは、機関内のシリンダーの中で水蒸気を生み、動力に変えるのさ」
「シリンダーの中で、蒸気を……」
それって、蒸気機関の様にシリンダーに蒸気を送り込むのではなく、内燃機関の様に、燃料をシリンダー内で爆発させる事に近いんじゃ。
日々喜は、機関部から生える煙突を見上げた。そこからは、排出された蒸気がモクモクと立ち昇っている。チョークの話しに依るのなら、車の排気ガスの様に、シリンダーの中で発生した蒸気が排出されているのだろう。
「水だけでそんな事をするなんて……。すごい、機械構造とコーディネートを合わせているんだ」
荷馬車に積んである洗濯機とは全く別物だと、日々喜は感じた。
「新しいコーディネートってのは、どうなってるんだ?」
今度は、サフワンがチョークに質問した。
「コーディネートは……、シリンダーと導線に施されているよ」
チョークは適当に答える。
「施されてる場所じゃなくてさ。どうして領域に依存せず、動かす事が出来るんだい?」
「それは……」
チョークは口籠る。
「コーディネーターさん、本当に構造を知ってるの?」
「うるさいな。最新技術の応用なんだから、一口には説明できないんだよ。確か、……確かコーディネート、……何とかって」
チョークは、以前聞いた覚えのある単語を何とか思い出そうとした。
「コーディネート・アクシス?」
「そう! それだ。コーディネート・アクシス。……え?」
突然、後ろからそのように声を掛けられ、二人は振り返る。そこには、工房で別れたアルファが立っていた。
「ヘリックス卿!?」
「やあ、また会ったね、サフワンと日々喜。それと……」
「あ! クレレ商会のチョーク・リーネです。いつもお世話になってます!」
「こんにちはチョーク。さっき会ったよね?」
「はい! お会いできて光栄です」
恐縮するチョーク。アルファは緊張させまいとしているのか、同世代の子が使うような喋り方を崩す事が無かった。
「チョークはコーディネートに詳しいんだね。流石はヴァーサのコーディネーター。聞き入っていたよ」
「いいえ、そんな。あたしなんて、まだまだ見習いの端くれでして。それよりも、ヘリックス卿もコーディネートに興味があるんですか?」
アルファは、列車を見つめながら話し続けた。
「ヴァーサで生まれた技術には僕達も注目している。まさか、賢者会の示唆した魔力の生成に関する技術が、こんな東端の領域で実用化されるなんて思っても見なかったから。これが本格的に普及して行けば、ここだけじゃない、国中がイスカリ領の様な主要領地と同じ生活水準に引き上げる事が出来るはずなんだ。……少し遅すぎたかもしれないけど」
「復興機関の名に偽り無しですね。頑張っていただけて、僕らも助かってますよ」
サフワンの言葉にアルファは苦笑する。
ただ、その言葉に気になる節があったのか、直ぐに聞き返した。
「僕らも?」
「はい。イバラ領のモンスター出現の騒ぎです。田舎にまで復興機関の方々が手を回してくれて、僕らも助かってますよ」
「……まあね、困っている時は助け合わなくちゃ。復興機関は本来それだけを目的に活動する物だから。……それだけをね」
物鬱気な溜息を交え、アルファそう答えた。そして今度は、盛んに列車を調べている日々喜に尋ねた。
「なあ、日々喜。フェンネルは元気にしてるかい?」
日々喜は車両の下に配される動輪を眺め続けていた。まるで、アルファの言葉が耳に届いていない様子だった。
「日々喜! 日々喜ったら。ヘリックス卿が質問されているよ」
サフワンにそう言われ、日々喜は鼻を啜りながら、漸くこちらを振り返った。
「何ですか?」
「フェンネルの事だよ。いつも優しい彼女は元気にしてるかな?」
アルファの質問に、日々喜は少し伏し目がちに考え、答えた。
「元気に振る舞われてます」
日々喜はアルファに貰ったハンカチで鼻を拭きながらそう言った。
「大丈夫かい? 少し貧血を起こしてる様だけど」
アルファの言う通り、日々喜は少しふらついていた。サフワンが支える様に日々喜の下に駆け寄る。
「日々喜、もう暫くだけ、彼女の事を頼めるかな」
「僕は、お嬢様の従者として働いてる。彼女の力になると約束しているんです」
アルファは、日々喜の下に歩み寄った。
「フェンネルは僕にとって大切な家族の様なものだ。そんな彼女のそばに、君が居てくれるなら僕も安心できる。大丈夫さ、直ぐに事態は良くなるから。……今日は、君に会えてよかったよ」
アルファは最後に付け加える様に言った。
日々喜はサフワンに肩を借りながら、駅のホームを後にして行く。チョークもその後に続きながら、たまにアルファの方へと振り返り、頻りに別れの挨拶を繰り返していた。
「振る舞うか……」
立ち去る三人の後姿を最後まで見送っていたアルファがぽつりと呟いた。
「いっそ何もかも投げ出す事が出来たなら、そんな真似をしなくて済むと言うのにね」
そう言ってアルファは一人笑みを浮かべた。
自分の知るフェンネル・フォーリアムという人間は、そんな生き方を選ぶくらいなら、死を選ぶに違いない。
デーモンに襲われた時でさえ、震えるマルキの事を抱きしめながら、最後まで気丈に振る舞い続けた。だからきっと、今回も、最後まで。
考え事に耽るアルファの視界に、二名の復興機関の厚生員らしき人物が入る。
今しがた到着した列車から降りて来たのだろう。彼らもまた、アルファの姿を見咎めたらしく、こちらに向かって歩いて来た。
「やあ、遅かったね」
アルファが二人に話し掛けた。
「ヘリックス代行、困りますよ。一人で出歩かれては」
厚生員の一人が辟易した表情を浮かべながらそう言った。
「仕方ないじゃないか、ここはシェリルの故郷なんだよ。じっとなんかしていられないさ。それに、今日はとても素敵な出会いがあったんだ」
苦言を呈されながらも、アルファは飄々とした態度を変える事は無かった。
「アルファ・ヘリックス機関長代行殿。ご自身の立場を考えて頂きたい。仕事中にはしゃいでいては、王都のゴッドフレイ卿がお嘆きになられますよ」
「ああ、それはいけない。早く先生の憂鬱を取り払い、倒錯から戻っていただかなくてはいけないのにね」
「そのような事を……」
秘匿にすべき話題をこんな場所で口にしてほしくない。そう表情で訴えられ、アルファはクスリと笑いを返した。
「心配する事は無いよ。先生の仰る通り、ツキモリ・コウイチの研究室はクレレ邸にあった」
「おお、それでは、コーディネート・アクシスについても?」
「まだ内容は確認していない。取り敢えず、エリオット・クレレ氏から許可を取っているから、全て運び出しておいてくれ」
「分かりました。そう言う事であれば、直ぐにでもクレレ邸へ参りましょう」
二人の厚生員は、アルファの話を聞いて安心した様子を見せた。
「うん。ただ、少し気になる事が出来たんだ」
「気になる事?」
アルファは頷いて答える。
「どうやら先生が……、ゴッドフレイ機関長が病床につかれる最中、僕らの末端を動かそうとする者が出たらしい」
「……それは、どういう――」
アルファ達の目の前に止まっていた魔導列車が汽笛を鳴らす。それを聞きつけた乗客達が慌てた様子で客車両へと乗り込んで行った。すると、魔導列車は規則的にシュッシュッと蒸気を煙突から吹かしながら、ゆっくりと動き始めた。
「イスカリに行く。ここは君達に任せるよ!」
「え? あ!? 代行!」
アルファは、二人が止める間も無く、目の前を過ぎ去ろうとする魔導列車に飛び乗った。
「よろしく頼むよ、二人共!」
後に残される者達に向けて、アルファは手を振りながらそう言い放った。
「ちょ、ちょっと、待ちなさい! 止まって! その列車、止まりなさい!」
走り去る魔導列車に目掛け、厚生員の叫ぶような声が空しく響いた。
「魔導列車だよ、日々喜」
田舎者丸出しの反応を見せる日々喜の事をサフワンとチョークはクスクスと笑った。
「魔導列車?」
「そうさ。魔法技術で動く。だから魔導列車さ。おいで、もっと近くで見てみよう」
サフワンとチョークが列車の機関部を目指して歩き出した。日々喜は後に続いて行く。
「この列車はイスカリ領から来てる。イスカリ領内にあるアーティファクトの力で、領内を自由に動いていたんだ」
歩きながらも、サフワンは解説を続けた。
イスカリ領を含む東西南北と中央の五つの主要領域において、インフラの下支えともなり得るアーティファクトの力がそれぞれ働いている。各種、火、水、土、風の四つの属性に依るエレメンタルを操り、そこで作られた工業製品を動かすためのエネルギー需要に応えているのである。
この特殊なアーティファクトについては、それぞれ、エレメンタルに因んだ名前が付けられており、イスカリ領内に存在するアーティファクトの事をウンディーネコアと呼んだりもする。
この水を操るウンディーネコアの力によって魔導列車は動かされていた。そして、力の及ばぬ範囲においては、乗り込んでいる魔導士達の力によって動かされるのである。その為、イスカリ領を越えたこのヴァーサ領内においては、殆ど人力で動かされている様な物だった。
当然の事ながら、人力では巨大な機械を長い距離で運用するには限界がある。領外での列車の本数は、一日に二本程度の往復に限られ、時間通りに運行される事も無かったのだ。
「だけど、新しい技術によって、動力は人力じゃなく、送られて来る魔力によって動く様になったのさ」
サフワンの解説は続く。
「新しい技術? さっき話してた、生成した魔力を実用化してるって事?」
サフワンは足取りを止める事無く頷いた。
やがて、動力部へと到着した。外見はやはり、写真などで良く見た蒸気機関車と変わる所が無い。
「日々喜。こいつの中には、複雑に編まれたコーディネートが施されているんだ。だから、あんたが運んでる洗濯機みたく、送られた魔力を動力に変えられる」
そこからチョークが解説し始めた。
「ただのコーディネートじゃないんだよ。ヴァーサ領外で生成された魔力を領内まで送り込み、尚且つそれを水のエレメンタルに変換させてる。こいつは、領域の特色に依存しないまったく新しい技術。しかも、このヴァーサ領で生まれた技術なのさ」
チョークは自慢げに、魔導列車を誇張する様に両手を広げた。
「チョークは構造を詳しく知ってるの?」
「え!? し、知ってるよ。当然だろ。ほら、線路の中央に、魔力を伝える導線が通ってる。あれを列車が拾って、機関内で水のエレメンタルに変換させるんだ。水のエレメンタルは、機関内のシリンダーの中で水蒸気を生み、動力に変えるのさ」
「シリンダーの中で、蒸気を……」
それって、蒸気機関の様にシリンダーに蒸気を送り込むのではなく、内燃機関の様に、燃料をシリンダー内で爆発させる事に近いんじゃ。
日々喜は、機関部から生える煙突を見上げた。そこからは、排出された蒸気がモクモクと立ち昇っている。チョークの話しに依るのなら、車の排気ガスの様に、シリンダーの中で発生した蒸気が排出されているのだろう。
「水だけでそんな事をするなんて……。すごい、機械構造とコーディネートを合わせているんだ」
荷馬車に積んである洗濯機とは全く別物だと、日々喜は感じた。
「新しいコーディネートってのは、どうなってるんだ?」
今度は、サフワンがチョークに質問した。
「コーディネートは……、シリンダーと導線に施されているよ」
チョークは適当に答える。
「施されてる場所じゃなくてさ。どうして領域に依存せず、動かす事が出来るんだい?」
「それは……」
チョークは口籠る。
「コーディネーターさん、本当に構造を知ってるの?」
「うるさいな。最新技術の応用なんだから、一口には説明できないんだよ。確か、……確かコーディネート、……何とかって」
チョークは、以前聞いた覚えのある単語を何とか思い出そうとした。
「コーディネート・アクシス?」
「そう! それだ。コーディネート・アクシス。……え?」
突然、後ろからそのように声を掛けられ、二人は振り返る。そこには、工房で別れたアルファが立っていた。
「ヘリックス卿!?」
「やあ、また会ったね、サフワンと日々喜。それと……」
「あ! クレレ商会のチョーク・リーネです。いつもお世話になってます!」
「こんにちはチョーク。さっき会ったよね?」
「はい! お会いできて光栄です」
恐縮するチョーク。アルファは緊張させまいとしているのか、同世代の子が使うような喋り方を崩す事が無かった。
「チョークはコーディネートに詳しいんだね。流石はヴァーサのコーディネーター。聞き入っていたよ」
「いいえ、そんな。あたしなんて、まだまだ見習いの端くれでして。それよりも、ヘリックス卿もコーディネートに興味があるんですか?」
アルファは、列車を見つめながら話し続けた。
「ヴァーサで生まれた技術には僕達も注目している。まさか、賢者会の示唆した魔力の生成に関する技術が、こんな東端の領域で実用化されるなんて思っても見なかったから。これが本格的に普及して行けば、ここだけじゃない、国中がイスカリ領の様な主要領地と同じ生活水準に引き上げる事が出来るはずなんだ。……少し遅すぎたかもしれないけど」
「復興機関の名に偽り無しですね。頑張っていただけて、僕らも助かってますよ」
サフワンの言葉にアルファは苦笑する。
ただ、その言葉に気になる節があったのか、直ぐに聞き返した。
「僕らも?」
「はい。イバラ領のモンスター出現の騒ぎです。田舎にまで復興機関の方々が手を回してくれて、僕らも助かってますよ」
「……まあね、困っている時は助け合わなくちゃ。復興機関は本来それだけを目的に活動する物だから。……それだけをね」
物鬱気な溜息を交え、アルファそう答えた。そして今度は、盛んに列車を調べている日々喜に尋ねた。
「なあ、日々喜。フェンネルは元気にしてるかい?」
日々喜は車両の下に配される動輪を眺め続けていた。まるで、アルファの言葉が耳に届いていない様子だった。
「日々喜! 日々喜ったら。ヘリックス卿が質問されているよ」
サフワンにそう言われ、日々喜は鼻を啜りながら、漸くこちらを振り返った。
「何ですか?」
「フェンネルの事だよ。いつも優しい彼女は元気にしてるかな?」
アルファの質問に、日々喜は少し伏し目がちに考え、答えた。
「元気に振る舞われてます」
日々喜はアルファに貰ったハンカチで鼻を拭きながらそう言った。
「大丈夫かい? 少し貧血を起こしてる様だけど」
アルファの言う通り、日々喜は少しふらついていた。サフワンが支える様に日々喜の下に駆け寄る。
「日々喜、もう暫くだけ、彼女の事を頼めるかな」
「僕は、お嬢様の従者として働いてる。彼女の力になると約束しているんです」
アルファは、日々喜の下に歩み寄った。
「フェンネルは僕にとって大切な家族の様なものだ。そんな彼女のそばに、君が居てくれるなら僕も安心できる。大丈夫さ、直ぐに事態は良くなるから。……今日は、君に会えてよかったよ」
アルファは最後に付け加える様に言った。
日々喜はサフワンに肩を借りながら、駅のホームを後にして行く。チョークもその後に続きながら、たまにアルファの方へと振り返り、頻りに別れの挨拶を繰り返していた。
「振る舞うか……」
立ち去る三人の後姿を最後まで見送っていたアルファがぽつりと呟いた。
「いっそ何もかも投げ出す事が出来たなら、そんな真似をしなくて済むと言うのにね」
そう言ってアルファは一人笑みを浮かべた。
自分の知るフェンネル・フォーリアムという人間は、そんな生き方を選ぶくらいなら、死を選ぶに違いない。
デーモンに襲われた時でさえ、震えるマルキの事を抱きしめながら、最後まで気丈に振る舞い続けた。だからきっと、今回も、最後まで。
考え事に耽るアルファの視界に、二名の復興機関の厚生員らしき人物が入る。
今しがた到着した列車から降りて来たのだろう。彼らもまた、アルファの姿を見咎めたらしく、こちらに向かって歩いて来た。
「やあ、遅かったね」
アルファが二人に話し掛けた。
「ヘリックス代行、困りますよ。一人で出歩かれては」
厚生員の一人が辟易した表情を浮かべながらそう言った。
「仕方ないじゃないか、ここはシェリルの故郷なんだよ。じっとなんかしていられないさ。それに、今日はとても素敵な出会いがあったんだ」
苦言を呈されながらも、アルファは飄々とした態度を変える事は無かった。
「アルファ・ヘリックス機関長代行殿。ご自身の立場を考えて頂きたい。仕事中にはしゃいでいては、王都のゴッドフレイ卿がお嘆きになられますよ」
「ああ、それはいけない。早く先生の憂鬱を取り払い、倒錯から戻っていただかなくてはいけないのにね」
「そのような事を……」
秘匿にすべき話題をこんな場所で口にしてほしくない。そう表情で訴えられ、アルファはクスリと笑いを返した。
「心配する事は無いよ。先生の仰る通り、ツキモリ・コウイチの研究室はクレレ邸にあった」
「おお、それでは、コーディネート・アクシスについても?」
「まだ内容は確認していない。取り敢えず、エリオット・クレレ氏から許可を取っているから、全て運び出しておいてくれ」
「分かりました。そう言う事であれば、直ぐにでもクレレ邸へ参りましょう」
二人の厚生員は、アルファの話を聞いて安心した様子を見せた。
「うん。ただ、少し気になる事が出来たんだ」
「気になる事?」
アルファは頷いて答える。
「どうやら先生が……、ゴッドフレイ機関長が病床につかれる最中、僕らの末端を動かそうとする者が出たらしい」
「……それは、どういう――」
アルファ達の目の前に止まっていた魔導列車が汽笛を鳴らす。それを聞きつけた乗客達が慌てた様子で客車両へと乗り込んで行った。すると、魔導列車は規則的にシュッシュッと蒸気を煙突から吹かしながら、ゆっくりと動き始めた。
「イスカリに行く。ここは君達に任せるよ!」
「え? あ!? 代行!」
アルファは、二人が止める間も無く、目の前を過ぎ去ろうとする魔導列車に飛び乗った。
「よろしく頼むよ、二人共!」
後に残される者達に向けて、アルファは手を振りながらそう言い放った。
「ちょ、ちょっと、待ちなさい! 止まって! その列車、止まりなさい!」
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