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第二章 奪い合う世界
50話 新年度祭①
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イバラ領から脅威が完全に去った。
魔導士達の力によって、モンスターとよからぬ者の撃退を成したのである。
よからぬ者、キュプレサス・ラッルーを撃退した見習い達。
街の防衛を果たしたフェンネル達が、屋敷へと戻ってきて、ボロボロの姿で出迎える彼らを見て驚いたのは言うまでも無い。
「一体何があったの、皆!」
フェンネルはオレガノの事を抱きしめながら尋ねた。
抱きしめたのはオレガノが重傷を帯びていたからではない。二人共同年代とは言え、同門の姉と妹。単なる習慣の事だ。その為に、フェンネルは心配のあまり妹の事を抱きしめた。オレガノは、甘える様に姉の胸に顔を埋めた。
もちろん、周りに居る見習い達にもその事は分かってる。
大切な妹の役目とは、時として、最も頼りにすべき長姉の気を静める要である事を。
「お嬢様。私から全てお話いたします」
機は熟した。フェンネルのオレガノに対するかいぐりっぷりから、頃合い見計らっていたクレスが切り出した。
森に出現したよからぬ者キュプレサス・ラッルー。後継者を狙って屋敷へと進行してきた。
何某かの天啓によって、その事を知り得た自分達は、なんやかやして、危なげなくこれらを撃退した。
クレスは大袈裟な身振り手振りを交えながら、簡潔にこれらを説明して行った。
加えて、場外で負傷したノエル。暴行を加えたコウミの事は上手い具合に伏せられて行った。
「大した事なかったすよ」
ピーターがクレスの話しに相槌を入れる。
「私なんて、半分寝てましたわ」
ラヴァーニャが続いた。
これらは全て、フェンネルに心配を掛けまいと言う見習い達の配慮で、過度に行き過ぎた物だったろう。
実際、苛酷な戦いであったかどうかはボロボロになったその姿を見ればすぐに分かる事だった。
「何てこと……」
クレスの話を聞き終えたフェンネルは呟く。
「皆、ありがとう!」
功を奏した。フェンネルは、見習い達のボロボロの姿よりも、元気な立ち振る舞いに安心し、感謝の言葉を述べたのだった。
クレス、ピーター、ラヴァーニャとオレガノの四人は、漸く修羅場を乗り切ったかのように安堵の溜息を着いた。ここに来て二か月足らずのキリアンはそんな周到なやり取りを呆れながら眺め、リグラはその手際の良さにただただ感心していた。
とは言え、危険な行動に打って出たことに変わりはない。若年のフェンネルや、見習い達には思いつかない様な打開策もきっとあったことだろう。
クレスの話を聞き、フェンネルが自室へと戻って行くと、それまで穏やかな笑顔を作っていたサルヴィナが、豹変した様に見習い達を怒鳴りつけた。
「全員、そこに整列せよ!」
軍人の頃の血が甦るのか、サルヴィナは本当に怒るとそう言う口調なる。その事を知っている全員が、その場に凍り付く様に整列した。
「一体何を考えているのか! 危険を承知したのなら、何故、お嬢様と私がいる街へと来なかったのか! 少し考えれば分かる事のはず! そもそも、見習いとは、自らを鍛え上げる修練の期間。裏を返せば、貴方達は修練が必要な未熟な時期であると言う事! 時には、自分達だけで、考えて行動する事も必要でしょう。ですが、その考え自体、未熟なものであると言う事をちゃんと踏まえておきなさい! ガミガミガミガミ――」
長く続いたお叱りの言葉が終ると、サルヴィナは最後に見習い全員に対して、損傷した街の復興、及び、新年度祭の準備活動を手伝う事を言い渡した。
よからぬ者からイバラ領を守り抜いた。そんな功労者達に労働を強いる事は、この世界の人々の感覚から言っても気が咎める事に変わりはない。しかし、見習い達の話を聞く限り、キュプレサスは大した奴では無かったし、彼らが未熟な判断によって危険な行動に打って出た事実は変わらない。
黙々と奉仕活動を続ける見習い達の姿を眺め、これがフォーリアム一門の教育方針であると、イバラの街の人々は感心した様な眼差しを送り続けていた。
そうして、僅かに日を跨いだ頃、イバラ領に新年度祭が開催された。既に、四月も下旬に差し掛かると言う所で、漸く、イバラは新たな年度を迎えられたのだった。
イバラの街の中心を貫く街道は、立ち並ぶ商店の軒先に、机や椅子が並べられ、往来する街の人々が自由に入れ替わり立ち代わりで座り込む。
ある者は酒の入った器を片手に、道の間を行ったり来たり。またある者は、机に並べられた誰かの食べかけに手を伸ばし、知らない人間の会話に突然参加して行った。
陽気な雰囲気の漂うその街を道の脇に備え付けられた電飾めいたコーディネイトが明るく照らしている。
夜にもなれば、祭りの活気が本格化し始め、楽団の奏でる音楽に合わせ、キラキラと美しい輝きを放った。因みに、原動力は人力である。
「うわー、にぎやか……」
その光景を街の外から眺めていた日々喜が、感嘆の呟きを漏らした。
今日に至って体調がすっかり良くなり、お祭りの様子を見に来たのであった。
普段以上に活気にあふれる街の光景を眺め満足すると、日々喜は街に入るでもなく、その場をウロウロとし始める。
このままでは、街に入れない。
経験上、一人でお祭りの中を歩くと、身動きが取れなくなる程の腹痛が必ず起きる。原因は日々喜にも分からないが、恐らくは心理的な問題だろうと本人は考えていた。
このイバラの新年度祭を眺め、身体に起き始めた変調を敏感に感じとった日々喜は、危険を避ける様に暗い路地の中へと消えた。
魔導士達の力によって、モンスターとよからぬ者の撃退を成したのである。
よからぬ者、キュプレサス・ラッルーを撃退した見習い達。
街の防衛を果たしたフェンネル達が、屋敷へと戻ってきて、ボロボロの姿で出迎える彼らを見て驚いたのは言うまでも無い。
「一体何があったの、皆!」
フェンネルはオレガノの事を抱きしめながら尋ねた。
抱きしめたのはオレガノが重傷を帯びていたからではない。二人共同年代とは言え、同門の姉と妹。単なる習慣の事だ。その為に、フェンネルは心配のあまり妹の事を抱きしめた。オレガノは、甘える様に姉の胸に顔を埋めた。
もちろん、周りに居る見習い達にもその事は分かってる。
大切な妹の役目とは、時として、最も頼りにすべき長姉の気を静める要である事を。
「お嬢様。私から全てお話いたします」
機は熟した。フェンネルのオレガノに対するかいぐりっぷりから、頃合い見計らっていたクレスが切り出した。
森に出現したよからぬ者キュプレサス・ラッルー。後継者を狙って屋敷へと進行してきた。
何某かの天啓によって、その事を知り得た自分達は、なんやかやして、危なげなくこれらを撃退した。
クレスは大袈裟な身振り手振りを交えながら、簡潔にこれらを説明して行った。
加えて、場外で負傷したノエル。暴行を加えたコウミの事は上手い具合に伏せられて行った。
「大した事なかったすよ」
ピーターがクレスの話しに相槌を入れる。
「私なんて、半分寝てましたわ」
ラヴァーニャが続いた。
これらは全て、フェンネルに心配を掛けまいと言う見習い達の配慮で、過度に行き過ぎた物だったろう。
実際、苛酷な戦いであったかどうかはボロボロになったその姿を見ればすぐに分かる事だった。
「何てこと……」
クレスの話を聞き終えたフェンネルは呟く。
「皆、ありがとう!」
功を奏した。フェンネルは、見習い達のボロボロの姿よりも、元気な立ち振る舞いに安心し、感謝の言葉を述べたのだった。
クレス、ピーター、ラヴァーニャとオレガノの四人は、漸く修羅場を乗り切ったかのように安堵の溜息を着いた。ここに来て二か月足らずのキリアンはそんな周到なやり取りを呆れながら眺め、リグラはその手際の良さにただただ感心していた。
とは言え、危険な行動に打って出たことに変わりはない。若年のフェンネルや、見習い達には思いつかない様な打開策もきっとあったことだろう。
クレスの話を聞き、フェンネルが自室へと戻って行くと、それまで穏やかな笑顔を作っていたサルヴィナが、豹変した様に見習い達を怒鳴りつけた。
「全員、そこに整列せよ!」
軍人の頃の血が甦るのか、サルヴィナは本当に怒るとそう言う口調なる。その事を知っている全員が、その場に凍り付く様に整列した。
「一体何を考えているのか! 危険を承知したのなら、何故、お嬢様と私がいる街へと来なかったのか! 少し考えれば分かる事のはず! そもそも、見習いとは、自らを鍛え上げる修練の期間。裏を返せば、貴方達は修練が必要な未熟な時期であると言う事! 時には、自分達だけで、考えて行動する事も必要でしょう。ですが、その考え自体、未熟なものであると言う事をちゃんと踏まえておきなさい! ガミガミガミガミ――」
長く続いたお叱りの言葉が終ると、サルヴィナは最後に見習い全員に対して、損傷した街の復興、及び、新年度祭の準備活動を手伝う事を言い渡した。
よからぬ者からイバラ領を守り抜いた。そんな功労者達に労働を強いる事は、この世界の人々の感覚から言っても気が咎める事に変わりはない。しかし、見習い達の話を聞く限り、キュプレサスは大した奴では無かったし、彼らが未熟な判断によって危険な行動に打って出た事実は変わらない。
黙々と奉仕活動を続ける見習い達の姿を眺め、これがフォーリアム一門の教育方針であると、イバラの街の人々は感心した様な眼差しを送り続けていた。
そうして、僅かに日を跨いだ頃、イバラ領に新年度祭が開催された。既に、四月も下旬に差し掛かると言う所で、漸く、イバラは新たな年度を迎えられたのだった。
イバラの街の中心を貫く街道は、立ち並ぶ商店の軒先に、机や椅子が並べられ、往来する街の人々が自由に入れ替わり立ち代わりで座り込む。
ある者は酒の入った器を片手に、道の間を行ったり来たり。またある者は、机に並べられた誰かの食べかけに手を伸ばし、知らない人間の会話に突然参加して行った。
陽気な雰囲気の漂うその街を道の脇に備え付けられた電飾めいたコーディネイトが明るく照らしている。
夜にもなれば、祭りの活気が本格化し始め、楽団の奏でる音楽に合わせ、キラキラと美しい輝きを放った。因みに、原動力は人力である。
「うわー、にぎやか……」
その光景を街の外から眺めていた日々喜が、感嘆の呟きを漏らした。
今日に至って体調がすっかり良くなり、お祭りの様子を見に来たのであった。
普段以上に活気にあふれる街の光景を眺め満足すると、日々喜は街に入るでもなく、その場をウロウロとし始める。
このままでは、街に入れない。
経験上、一人でお祭りの中を歩くと、身動きが取れなくなる程の腹痛が必ず起きる。原因は日々喜にも分からないが、恐らくは心理的な問題だろうと本人は考えていた。
このイバラの新年度祭を眺め、身体に起き始めた変調を敏感に感じとった日々喜は、危険を避ける様に暗い路地の中へと消えた。
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