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1章 牢獄編
前哨戦
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ゼファーが作った「ギリギリ武器」と呼べるものを皆で選んでいた時だった。
ガコンッ、と重たい音が鳴り響き、牢獄の空気そのものが揺れた。
「作戦決――」
デリックが掛け声をあげようとした瞬間、大量の足音が牢内を駆け抜ける。
何が起こっているのか分からず身動きできない僕に、ラグが覆いかぶさった。
急な衝撃に息を呑む。しかし拘束感から解放されたことで、一瞬だけ安堵を覚える。だがその安心感はすぐに剥ぎ取られた。
視線を向けると、壁に叩きつけられた大男が見えた。顔面からはハンマーが生え、力が抜け落ちていくのが目に見えて分かる。その手から、先ほどまで隣で批評していた武器が床に転がった。
「……今ので、もっと減らせると思ったがな。死んだのは五人だけか」
聞き覚えのない声。声の主を探して前を向いた瞬間、それは目に飛び込んできた。
同じ制服を纏い、槍やハルバード、剣を構えた兵の集団。
こちらでは武器が落ちる音が不規則に響くのに、あちらからは規則正しい足音が近づいてくる。
「モーラン様の勘はやはり当たったな。脱獄を企てたお前らは全員、この場で極刑だ」
足音が迫るたび、脳に響く振動と一緒に身体も震える。
あれほど頼もしく見えた筋骨隆々の囚人たちも、今や命乞いや発狂にすがる姿を晒していた。その光景を見せられ、わずかに残っていた闘争心が粉々に砕け散る。
「セドリックさん? 大丈夫ですか?」
「大丈夫だ」と答えようとしたが、声にはならなかった。
「ずいぶん派手なショーをやってくれるじゃないか。この牢の主役を奪われて、俺は今すっごく悲しいぜ」
デリックの声が響いた瞬間、大量の投擲物が風を裂いた。
敵兵が思わず後退した隙に、何本ものナイフが僕の頭上を掠めて飛んでいく。
指揮官らしき男は即座に反応し、ナイフを弾いた。しかし、上に意識を取られた周囲の兵士の体には次々と刃が突き立った。
「目には目を、というわけか」
指揮官の憎々しげな視線がデリックに向けられる。
「いや? お前らが、俺のやろうとしたことをパクっただけだ」
圧倒的な威圧感を放っていた敵部隊が一気に数を減らし、こちらにも余裕が生まれた。
武器を拾い直す者、投擲に備える者、未だ立ち上がれずにいる者――混沌とした状況だが、さっきまでの絶望に比べればはるかにマシだ。
精神も幾分落ち着いたところで、ラグに礼を言おうと姿を探す。だが見当たらない。嫌な汗が背中を伝う。
その時、背後からデリックの大声が轟いた。
「やっと起きたかお前ら! これはあくまで前哨戦だ。俺らが狙うのはモーランを越えて外に出ることだろ? 無名の兵士ごときには無傷で勝つぞ!」
「「「おおおおっ!」」」
先ほどまで怯えていた囚人たちが、一斉に声を張り上げる。
闘志に火がついたのか、それとも恐怖を紛らわすためかは分からない。だが士気が上がったのは確かだった。
「さすがだな、ヴァルドネロの組長。人心掌握が実に巧みだ。だがどれだけ凡夫を勢いづけようと、俺の首は取れない」
指揮官は残った兵士に撤退を命じる。兵たちは投擲を警戒しつつ、じりじりと距離を取っていった。
その背を追って囚人五人が飛び出す。だが、三人は指揮官の一太刀で両断され、残る二人も脇に控えていた槍兵に貫かれた。
それを見て、続こうとした者たちの足が止まる。
「……ふぅん」
背後からガロスの低い声が響く。同時に、何かが宙を回転する音。
それに呼応するように、寝そべった状態から一人が跳ね起き、敵に向かって走り出した。ラグだ。
しかも敵は、ガロスの投げたハンマーに気を取られ、ラグの接近に気づいていない。
「ただ返すだけじゃつまらねぇ。ありったけの投擲物を喰らいやがれ!」
デリックが大声で煽り、囚人たちは一斉に周囲の物を投げ始める。ナイフ、石、果ては死体の眼球まで――投げられるものはすべて飛んだ。
ラグはその隙に、弾かれたハンマーを拾い、再び駆ける。
槍兵がラグの接近に気づき、鋭い突きを放った。だがラグは槍を掴み、そのまま頭をハンマーで叩き割った。
「……こんな開けた空間で、俺が敵の接近に気づけないとはな」
敵指揮官はこちら側の投擲が尽きたと判断し、ラグへハルバードを振り下ろす。
だが、その刃がラグに届くことはなかった。倒れたのは指揮官の方だ。
「俺がその場にあるもんを投げたせいで、手持ちの武器は尽きたと勘違いしたな雑魚め。……大事な武器、使わせやがって」
デリックは不機嫌そうに呟き、投げた武器の回収に向かう。
残った敵兵も、指揮官の死と同時にラグの手で次々と屠られていった。
ガコンッ、と重たい音が鳴り響き、牢獄の空気そのものが揺れた。
「作戦決――」
デリックが掛け声をあげようとした瞬間、大量の足音が牢内を駆け抜ける。
何が起こっているのか分からず身動きできない僕に、ラグが覆いかぶさった。
急な衝撃に息を呑む。しかし拘束感から解放されたことで、一瞬だけ安堵を覚える。だがその安心感はすぐに剥ぎ取られた。
視線を向けると、壁に叩きつけられた大男が見えた。顔面からはハンマーが生え、力が抜け落ちていくのが目に見えて分かる。その手から、先ほどまで隣で批評していた武器が床に転がった。
「……今ので、もっと減らせると思ったがな。死んだのは五人だけか」
聞き覚えのない声。声の主を探して前を向いた瞬間、それは目に飛び込んできた。
同じ制服を纏い、槍やハルバード、剣を構えた兵の集団。
こちらでは武器が落ちる音が不規則に響くのに、あちらからは規則正しい足音が近づいてくる。
「モーラン様の勘はやはり当たったな。脱獄を企てたお前らは全員、この場で極刑だ」
足音が迫るたび、脳に響く振動と一緒に身体も震える。
あれほど頼もしく見えた筋骨隆々の囚人たちも、今や命乞いや発狂にすがる姿を晒していた。その光景を見せられ、わずかに残っていた闘争心が粉々に砕け散る。
「セドリックさん? 大丈夫ですか?」
「大丈夫だ」と答えようとしたが、声にはならなかった。
「ずいぶん派手なショーをやってくれるじゃないか。この牢の主役を奪われて、俺は今すっごく悲しいぜ」
デリックの声が響いた瞬間、大量の投擲物が風を裂いた。
敵兵が思わず後退した隙に、何本ものナイフが僕の頭上を掠めて飛んでいく。
指揮官らしき男は即座に反応し、ナイフを弾いた。しかし、上に意識を取られた周囲の兵士の体には次々と刃が突き立った。
「目には目を、というわけか」
指揮官の憎々しげな視線がデリックに向けられる。
「いや? お前らが、俺のやろうとしたことをパクっただけだ」
圧倒的な威圧感を放っていた敵部隊が一気に数を減らし、こちらにも余裕が生まれた。
武器を拾い直す者、投擲に備える者、未だ立ち上がれずにいる者――混沌とした状況だが、さっきまでの絶望に比べればはるかにマシだ。
精神も幾分落ち着いたところで、ラグに礼を言おうと姿を探す。だが見当たらない。嫌な汗が背中を伝う。
その時、背後からデリックの大声が轟いた。
「やっと起きたかお前ら! これはあくまで前哨戦だ。俺らが狙うのはモーランを越えて外に出ることだろ? 無名の兵士ごときには無傷で勝つぞ!」
「「「おおおおっ!」」」
先ほどまで怯えていた囚人たちが、一斉に声を張り上げる。
闘志に火がついたのか、それとも恐怖を紛らわすためかは分からない。だが士気が上がったのは確かだった。
「さすがだな、ヴァルドネロの組長。人心掌握が実に巧みだ。だがどれだけ凡夫を勢いづけようと、俺の首は取れない」
指揮官は残った兵士に撤退を命じる。兵たちは投擲を警戒しつつ、じりじりと距離を取っていった。
その背を追って囚人五人が飛び出す。だが、三人は指揮官の一太刀で両断され、残る二人も脇に控えていた槍兵に貫かれた。
それを見て、続こうとした者たちの足が止まる。
「……ふぅん」
背後からガロスの低い声が響く。同時に、何かが宙を回転する音。
それに呼応するように、寝そべった状態から一人が跳ね起き、敵に向かって走り出した。ラグだ。
しかも敵は、ガロスの投げたハンマーに気を取られ、ラグの接近に気づいていない。
「ただ返すだけじゃつまらねぇ。ありったけの投擲物を喰らいやがれ!」
デリックが大声で煽り、囚人たちは一斉に周囲の物を投げ始める。ナイフ、石、果ては死体の眼球まで――投げられるものはすべて飛んだ。
ラグはその隙に、弾かれたハンマーを拾い、再び駆ける。
槍兵がラグの接近に気づき、鋭い突きを放った。だがラグは槍を掴み、そのまま頭をハンマーで叩き割った。
「……こんな開けた空間で、俺が敵の接近に気づけないとはな」
敵指揮官はこちら側の投擲が尽きたと判断し、ラグへハルバードを振り下ろす。
だが、その刃がラグに届くことはなかった。倒れたのは指揮官の方だ。
「俺がその場にあるもんを投げたせいで、手持ちの武器は尽きたと勘違いしたな雑魚め。……大事な武器、使わせやがって」
デリックは不機嫌そうに呟き、投げた武器の回収に向かう。
残った敵兵も、指揮官の死と同時にラグの手で次々と屠られていった。
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