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第六十九話 ヴィオの回想

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 その何もない空間で僕は考えてた。
 とりあえず、予定通りだ。
 僕は、自由に動けない妖魔王に代わってレイチを助けるために生み出されたんだから。

 アイツは僕を食うつもりだと言っていた。それもいいと思う。淫魔は接触することで相手の内面を探ることができる。食われる瞬間接触するから、その時にアイツの記憶やデータを取れるだろう。
 僕が消滅しても、僕が取った情報は本体ヴィオラに還元されるから、無駄にはならない。
 必死で僕を助けようとしてたレイチを思うと、ちょっと辛いけど。

 食われるのは最後の手段だ。その前に淫魔的な接触を試みる。
 ただ、食われる前提の準備はしておこう。

 「ヴァス君」
 僕のパートナースライムを呼び出す。
 彼は普段は僕と一体化している。ずっと一緒にいたせいか、魔力化して僕の中に潜めるようになったんだ。おかげで僕が非物質化したときもヴァス君は一緒について来てくれる。

 レイチがこの子たちに“ナイトメアスライム”って名前をつけてから、この子は少しずつ普通のスライムとは違った方向に進化してる気がする。普通のスライムは薄く伸びて貼りついて存在感を消すだけで、魔力化とか一体化とかはできない。
 恐らく、この子だけじゃなくて淫魔のパートナースライムみんなそうなってるだろう。
 名前をつけたことによって、種族進化をしたのかもしれない。

 ヴァス君は僕の召喚に応え、スルリと実体化して出てきた。
 「僕の魔力を分けるね。もしも僕が食われて消滅したら、君が僕になるんだ」
 ヴァス君がふるふると震える。怖がってる。『ヴィオが消滅なんて考えたくない』
 「大丈夫だよ、ヴァス君。僕は本当の意味では消滅しない。心魔石がないからね、消滅してもまたヴィオラが僕の代わりを作ればいいだけだ」
 キュッと縮こまる。『そんな風に割り切って考えるのはムリ』
 「君が頑張ってくれれば、僕が無事に帰る確率が高くなる。だから、お願いだよ、受け取って。アイツに力をやりすぎないように、僕の魔力をギリギリまで減らしておきたいんだ」
 ヴァス君は観念したように静かになった。
 「ありがとう」
 彼を撫でると、その身を伸ばして僕の腕に巻き付いてきた。

 そのまま、僕は彼に魔力を移動させる。
 三分の二ほども移し、魔力移動を止め、気づいた。
 「ヴァス君、新しいスキル覚えたね」
 〈擬態/ミミクリー〉。たくさん魔力をあげたせいか、いきなりレベル2だ。
 「いいね、これは使える」
 思わずほくそ笑んだ。
 「ヴァス君、僕そっくりになれる?」
 ヴァス君は擬態を始めた。形が代わり、色が変化し、やがて僕そのままの姿に変わった。ただし、スライムサイズ。
 「ぷはっ、小っさ! 可愛いな。でも、このままじゃ使えないし……〈幻惑〉を重ねてみようか」
 小さいのを大きく見せて、さらに触れることもできるように……レベル2くらいでいいかな?

 すると驚いたことに、ヴァス君は僕がかけた〈幻惑〉の魔法を取り込んで、自分の擬態でその姿に変化できるようになった。スライムの体を魔力で膨張させて、触れても気付かれないほどの再現度だ。

 「すごい。〈幻惑〉で擬態対象を学習させることができるのか」
 思わず呟く。
 これはまさしく淫魔のパートナー、ふたりで完成させる魔法なんだな。
 「……すると、僕とヴァス君だけでレイチと3Pが可能なのか」
 ちょっと、うずうずとしてきた。
 まだ、食われたくないな。
 「よし、帰ろう。僕と君とふたりでレイチを可愛がってあげようね」
 ヴァス君はコクリと頷いた。喋れないし表情も乏しいけど、人としての動きは真似できてる。優秀だ。

 「たしかアイツ、魔力視できるんだよね。ヴァス君、僕から離れて隠れててくれる?一体化すると魔力を移動させた意味がなくなっちゃう」
 ヴァス君は魔力化して姿を消してくれた。

 その時、僕はいきなり明るい空間に放り出された。
 目の前にはアイツがいた。あの魔術師だ。
 ヤツは僕を見下ろして眉をひそめた。
 「ずいぶん弱ってるな。身の程知らずにも、脱出を図ったか。ふん、その程度の魔力で我が〈次元牢〉から抜け出すことなど不可能だと言うに。無駄に魔力を浪費しおって」
 僕は悔しげな顔を作ってやる。
 よし、ヴァス君には気づいてない。
 さり気なくヴァス君を探したら、彼は結界の付近に漂って結界の魔力に紛れていた。いいぞ。

 「これでは食ろうても進化できぬ。チッ、余計な手間をかけさせおって」
 「回復させたいなら、簡単だよ。僕は淫魔なんだから、抱けばいい。ちんこ、勃つんでしょ?」
 言いながらヤツの下半身に手を伸ばす。触れようとした瞬間、パシッと叩かれた。
 「触るな、気色悪い淫魔め。儂はそのようなことはせぬわ!」
 「勃たないの? あ、犬たちが臭い臭い言ってたけど、もしかしてオジさんアンデッドなの? ちんこ腐り落ちちゃった?」
 「ふん、挑発には乗らぬぞ。淫魔は触れることで相手の記憶を読むと言うからな」
 すっごいドヤ顔された。
 どうでもいいけど、ほんとムカつく顔だね。妖魔族を見慣れたレイチが、コイツはじめ下級獣魔族の連中をブサイクブサイク言ってたけど、気持ちはわかる。見た目って大事だよ。特にコイツは内面が顔に出てる。

 それにさ、馬鹿だよね。今、僕の手を叩いた、その接触でコイツのデータ貰っちゃったよ。深いとこの記憶までは読めなかったけど。
 もうちょっと触れないかな。

 「怖いの? 僕、ただの淫魔だよ? 妖魔王の力は貰ってないからね。それに、食うつもりなんでしょ? それなら、記憶なんて読まれたって意味ないじゃん。食っちゃうんだから。その前にさ、楽しもうよ。僕、お腹ペコペコなんだよ。オジさんの淫気欲しい」
 言いながら魔術師──名をギレス、種族邪術師ウォーロック──の股間に触れる。

 うわ、すっご。こんなちっさいふにゃちん初めて。全く〈催淫〉を受けつけないのは魔術師スキルの高さなんだろうけど、それにしても子ども並みのサイズ。逆に見たくなるよ、これ。
 ローブの下に手を入れようとしたら、すっごい勢いで叩き落とされた。

 「触るな、下劣なこのクソ淫魔が! 貴様など儂が情をくれてやるまでもないわ! 獣どもを差し向けてやるから、貴様はそこで好きなだけ獣臭い魔羅を咥えてるがいい!」
 そう言い放つと、魔術師ギレスはプンスカ怒りながら部屋を出て行ってしまった。

 僕はこっそり笑った。さすが僕、想定通りだ。それにしても、ギレスの粗チン見たかったなぁ。皮被ってたのかなぁ。

 僕はそこで、ヴィオラに向けてメッセージを放った。
 “獣魔王丸裸計画遂行中”。

 とりあえず、魔術師のデータは取った。記憶もとりあえずアクセスできた。なんかおかしいんだよ、アイツ。その辺を知らせたいけど、それは帰ってからだ。

 実はヴィオラの呼びかけも聞こえてたし、レイチが何度も念話を飛ばしてきてたのも知ってる。
 答えないのは、多分僕が念話を送ると、ギレスらに聞かれるからだ。この結界、恐らく触れた魔力を読んでる。レイチへの念話は送れない。
 ヴィオラとの意志疎通は魔力を介さないから、このくらいのメッセージなら多分バレない。
 ただ、それもどうも不安定なんだけどね。それが結界のせいなのか、それとも他の理由なのかはわからない。

 「さ、ヴァス君、交代だ。多分、そろそろ鼻息荒くした男たちがやってきそうだから、ヴァス君のテクニックでいっぱい搾り取っちゃって」
 ヴァス君はさっき覚えさせた僕の姿に擬態する。
 僕は魔力の霧に姿を変えて待った。

 さあ、来い、獣魔たち。僕の魅了に抵抗できるか、勝負だ。
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