11 / 15
11 星レビューってなあに その2
しおりを挟む「主観的っていうのはわかるかな?」
「あー、うん。『客観的』の反対だよね」
タケシ君が考えながら答えると、パパは笑ってうなずきました。
「そう。『主観』は、自分だけのものの見方ってことだよね。逆に『客観』っていうのは、いろいろな角度や考え方からものごとを見てみようとすることだ」
「うん」
「もちろんパパも、商品や作品についている星はけっして無意味な指標じゃないとは思うよ。とりわけ多くの人たちがどんな風に星をつけたかということは、ある程度はその商品を判断する材料になる。つまり客観性があがる、と言ってもいい」
「うん」
「でも、それだけを頼りにして何かを選んでしまうことには、かなりのリスクもある」
「どんな?」
パパはそこで、ちょっと間を置きました。
「たとえばね。同じ町に、ネットのサイトで星がたくさんついて有名なレストランがあるとする。それに対して、あまり人目につかない場所にある、小さなレストランがあったとする」
「うん」
「小さなお店は、普段から人もあまり多くは来ない。だから当然、星をつける人も多くないことになる」
「うん」
「それでたまたま、そこに入ったお客さんがその店の味が好みに合わない人だったら? ……当然、星を多くはつけないだろうね」
「あー、うん。そうなるよね、きっと」
「大きなレストランはいいんだよ。ふだんからお客さんも多いわけだし、多くの人が星をつけることによって平均値もかなり信頼性が高くなっているからね。でも、小さいお店はそうはいかない。母数……つまり、票を入れた人の数だね。これが少なければ少ないほど、評価の信頼性は落ちていく」
「うーん……??」
なんだか難しい話になってきました。
タケシくんは自分も難しい顔になり、腕組みをして聞いています。
「ところがタケシも知っているように、ネット上のお店紹介サイトでは、大きな有名レストランもその小さなレストランも同じように並んで、星だけが見えるわけだ。……となると、どうなる?」
「……ええと」
タケシ君は考え込みました。
「小さなお店は、もっと選ばれなくなって、もっとお客さんが減ってしまう……?」
「その通り。下手をすると、あまりに収入が少なくて続けられず、閉店なんてことにもなってしまうかもしれないよね」
「ええっ。そこまで……?」
「そう。そういうこともある。これは現実だ」
それはきっと、お店の人がとても困ることになるのではないでしょうか。
パパはじっとタケシ君の様子を見ているようです。
「だからネットの星評価っていうのは、お客の側もある程度、警戒しながら付き合っていく必要がある。実はいろんな界隈で、あの星を不正に操作してウソの情報を入れている人も実際にいるしね」
「えっ。そうなの?」
「そうなんだよ。恥ずかしいことだけど、なにしろお金が関係することだからね……そういうずるいことをしてしまう大人は一定数いる。嘘の評価を多めに入れる人もいるし、なにか悪意があってわざと低い評価を入れるような人もいる……」
「ええええっ!? ほんとに?」
タケシ君、びっくりです。
そんなこと、やってしまって大丈夫なのでしょうか。
「もちろんやっちゃいけないことだし、結局は、そのうちバレて本人が困ったことになるわけだけどね」
「ふーん……」
「だから余計に、あの星にあまり自分の判断をゆだねすぎるのは危ない。他人の嘘の評価がまざっている可能性があるからだ。下手をすると、本当に貴重なもの、自分の好みに合うものを見落としてしまうしね。最悪、気づかないうちにその店や作品がこの世から消えてしまう方に力を貸してしまうかもしれない。そういうリスクが、常につきまとうことになるからね」
「なあるほど……」
これは、意外と大切なことかもしれません。
正直なところ、タケシ君はいままでわりと簡単に「星が多いからすごいんだ、いいものなんだ」と考えてきました。でもそれは、「自分自身で考えること」を放棄することだったのかもしれません。これは反省しなくちゃいけないのかも。
「少なくとも、『星レビューに自分の判断を全部ゆだねることは危ない』という認識を持っているのとそうでないのには大きな違いがあると思う。パパはタケシにそういうことを知っておいてほしいと思っているわけだ。わかる?」
「うん」
「どんなものでも、まずは自分の目で耳で……五感で確かめてみるって大事なことだよ。たくさんの高い評価がついていなくても、実は価値があって素敵なものはこの世の中にまだまだたくさんあるかもしれない。いや、きっとある。いっぱいある。タケシには、そういう気持ちでいろんなものを見つめて、『本物』を見極めて欲しいなと思ってるよ」
「うん。わかった」
「これは当然なんだけど、いいものを見極めるには、自分の方にも能力が求められることになる。タケシはまだ小学生だし、そちらはまだこれからだろう。いろんなことをどんどん勉強して、視野が広くて公平な判断力をもった素敵な大人になってほしいなあ、パパは。……あ、もちろん、ママもそう思ってると思うよ」
「あはは。うん」
タケシ君はちょっとだけ照れて頭を掻きました。
実はタケシ君がこうすると、ママがいつも「タケシったら。いつのまにかパパの癖がうつってるわね~」って笑うのです。
別にそれが、ちっともいやではないですけれど。
もちろんこれは、パパにもママにも内緒ですけどね!
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
月弥総合病院
僕君☾☾
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。
また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。
(小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる