パパと息子のオタク談義

つづれ しういち

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11 星レビューってなあに その2

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「主観的っていうのはわかるかな?」
「あー、うん。『客観的』の反対だよね」

 タケシ君が考えながら答えると、パパは笑ってうなずきました。

「そう。『主観』は、自分だけのものの見方ってことだよね。逆に『客観』っていうのは、いろいろな角度や考え方からものごとを見てみようとすることだ」
「うん」
「もちろんパパも、商品や作品についている星はけっして無意味な指標じゃないとは思うよ。とりわけ多くの人たちがどんな風に星をつけたかということは、ある程度はその商品を判断する材料になる。つまり客観性があがる、と言ってもいい」
「うん」
「でも、それだけを頼りにして何かを選んでしまうことには、かなりのリスクもある」
「どんな?」
 
 パパはそこで、ちょっと間を置きました。

「たとえばね。同じ町に、ネットのサイトで星がたくさんついて有名なレストランがあるとする。それに対して、あまり人目につかない場所にある、小さなレストランがあったとする」
「うん」
「小さなお店は、普段から人もあまり多くは来ない。だから当然、星をつける人も多くないことになる」
「うん」
「それでたまたま、そこに入ったお客さんがその店の味が好みに合わない人だったら? ……当然、星を多くはつけないだろうね」
「あー、うん。そうなるよね、きっと」
「大きなレストランはいいんだよ。ふだんからお客さんも多いわけだし、多くの人が星をつけることによって平均値もかなり信頼性が高くなっているからね。でも、小さいお店はそうはいかない。母数……つまり、票を入れた人の数だね。これが少なければ少ないほど、評価の信頼性は落ちていく」
「うーん……??」

 なんだか難しい話になってきました。
 タケシくんは自分も難しい顔になり、腕組みをして聞いています。

「ところがタケシも知っているように、ネット上のお店紹介サイトでは、大きな有名レストランもその小さなレストランも同じように並んで、星だけが見えるわけだ。……となると、どうなる?」
「……ええと」

 タケシ君は考え込みました。

「小さなお店は、もっと選ばれなくなって、もっとお客さんが減ってしまう……?」
「その通り。下手をすると、あまりに収入が少なくて続けられず、閉店なんてことにもなってしまうかもしれないよね」
「ええっ。そこまで……?」
「そう。そういうこともある。これは現実だ」

 それはきっと、お店の人がとても困ることになるのではないでしょうか。
 パパはじっとタケシ君の様子を見ているようです。

「だからネットの星評価っていうのは、お客の側もある程度、警戒しながら付き合っていく必要がある。実はいろんな界隈で、あの星を不正に操作してウソの情報を入れている人も実際にいるしね」
「えっ。そうなの?」
「そうなんだよ。恥ずかしいことだけど、なにしろお金が関係することだからね……そういうずるいことをしてしまう大人は一定数いる。嘘の評価を多めに入れる人もいるし、なにか悪意があってわざと低い評価を入れるような人もいる……」
「ええええっ!? ほんとに?」

 タケシ君、びっくりです。
 そんなこと、やってしまって大丈夫なのでしょうか。

「もちろんやっちゃいけないことだし、結局は、そのうちバレて本人が困ったことになるわけだけどね」
「ふーん……」
「だから余計に、あの星にあまり自分の判断をゆだねすぎるのは危ない。他人の嘘の評価がまざっている可能性があるからだ。下手をすると、本当に貴重なもの、自分の好みに合うものを見落としてしまうしね。最悪、気づかないうちにその店や作品がこの世から消えてしまう方に力を貸してしまうかもしれない。そういうリスクが、常につきまとうことになるからね」
「なあるほど……」

 これは、意外と大切なことかもしれません。
 正直なところ、タケシ君はいままでわりと簡単に「星が多いからすごいんだ、いいものなんだ」と考えてきました。でもそれは、「自分自身で考えること」を放棄することだったのかもしれません。これは反省しなくちゃいけないのかも。

「少なくとも、『星レビューに自分の判断を全部ゆだねることは危ない』という認識を持っているのとそうでないのには大きな違いがあると思う。パパはタケシにそういうことを知っておいてほしいと思っているわけだ。わかる?」
「うん」
「どんなものでも、まずは自分の目で耳で……五感で確かめてみるって大事なことだよ。たくさんの高い評価がついていなくても、実は価値があって素敵なものはこの世の中にまだまだたくさんあるかもしれない。いや、きっとある。いっぱいある。タケシには、そういう気持ちでいろんなものを見つめて、『本物』を見極めて欲しいなと思ってるよ」
「うん。わかった」
「これは当然なんだけど、いいものを見極めるには、自分の方にも能力が求められることになる。タケシはまだ小学生だし、そちらはまだこれからだろう。いろんなことをどんどん勉強して、視野が広くて公平な判断力をもった素敵な大人になってほしいなあ、パパは。……あ、もちろん、ママもそう思ってると思うよ」
「あはは。うん」

 タケシ君はちょっとだけ照れて頭を掻きました。
 実はタケシ君がこうすると、ママがいつも「タケシったら。いつのまにかパパの癖がうつってるわね~」って笑うのです。
 別にそれが、ちっともいやではないですけれど。
 もちろんこれは、パパにもママにも内緒ですけどね!
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