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第四章 新たな仲間たち

6 ノンテイマー勇者

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「よろしいですか、ヒュウガ様。ご存じの通り、今、あなた様には三名の奴隷がついております。もちろんこちらのライラとレティ、それにギーナの三名です」
「はい」

 とある宿屋の一室である。
 結局、その後ドラゴン二頭に乗って、俺たちは北上し、次の街を目指した。
 そこで中程度クラスの宿に部屋を取り、夕食後、こうして借りた部屋のひとつに集まったのだ。もちろん先ほどの、もと奴隷の女たちも同席している。

「すでにご存じの通り、ライラは身の回りのお世話に関してはほぼ完璧です。いつも美味しい食事や勇者様のお世話をありがとうございますね、ライラ」
「え? はっ、はい……いいえ!」

 ぱっとライラが赤くなった。彼女は大きめのテーブルの一番端に座っている。彼女が何かを遠慮しているのは明らかなようだった。マリアはそんなライラを少しの間見つめてから再び口を開いた。

「ですが。いかんせん、ライラはヒューマン。魔力はありませんし、今のところはなんの武器も扱えません。女性であるうえ体格もこのとおりですので、物理的な力も弱い。戦闘力はほぼゼロと申し上げて差しつかえないでしょう。……ライラ、ごめんなさいね? どうか気を悪くしないでくださいね」
「いっ、……いえ……。本当の、ことですし……」

 ライラはもう、真っ青な顔になって俯き、自分のスカートを握りしめるようにしている。その体は震えていて、とっくに目を涙で潤ませていた。隣に座っているレティが「ライラっち……」としょぼくれた顔をして彼女に寄り添っている。ぽすぽすとその長い尻尾が、なだめるようにライラの背中をたたいていた。
 そんな二人を見て俺は少し、胸の奥に温かなものを覚えた。この少女たちは無理やりに俺の「奴隷」などにさせられても、こうして互いを思いやる優しい気持ちを忘れていない。それは素晴らしいことだと思った。それは俺にとっても、ひとつの救いのようにも思えた。
 マリアはしばらく彼女たちを見ていたが、やがて俺に向き直った。

「先日も申し上げた通り、あなた様は魔法攻撃に対して非常に脆弱です。ですから魔法職の仲間が大勢必要なことは事実なのです。もしもあなた様が、本気で魔王を倒そうと思うなら……ですけれど」
「いや、しかし。だから、彼女たちを加えよと? ですから、それは──」
「話は最後までお聞きください」

 にこにこと優しげな笑顔を絶やさぬままで、マリアはぴしゃりと言い放った。

「何も、必ずしも<テイム>を使わねばならないわけではありません。そうでございましょう? このお三方は、すでにヒュウガ様をお慕い申し上げておられます。皆さんのお顔を見れば歴然でございましょう」
「…………」

 それを聞いた途端、ライラとレティ、それにギーナがなんとも奇妙な顔になった。一番近い表現としては「むっとした」なのだが、それとも少し違うような。
 だが、今はそれを気にしていられなかった。

「どういうことです。はっきりおっしゃってください、シスター」
「お分かりになりませんか? 単に仲間を増やすだけのことなら、<テイム>なしでも可能なのです。別に必ずしも『奴隷』でなければならないわけでもありませんし」
「え──」

 唐突に目の前が開けたような気になって、俺は目をしばたいた。ここへきてさほどの日数が経ったわけでもないのに、俺はすっかりこの世界の「常識」に囚われてしまっていたのだろうか。
 俺はこれまでの自分の視野の狭さを恥じた。
 確かにそうだ。マリアの言う通りなのだ。
 なにも、必ずしも俺が他人に<奴隷徴用スレイヴ・テイム>を使う必要などない。そもそも「仲間」を増やすために、そんなものに頼ること自体が間違っているのだ。
 俺の目の色を読み取ったように、マリアがふと穏やかな笑みになった。

「ヒュウガ様ご自身がそれだけの魅力をお持ちなのですから。別にあの<テイム>のような、いわば手段を使わなくとも、いくらでも協力者は現れましょう」
「……ですが、それでは──」

 それにはひとつ、問題もある。
 新しく加わりたいと言ってきているこの者たちも、残念ながらと言うか、みな女だ。これで俺の周りに女性が六名──いや、マリアとリールーを含めれば八名か──という恐るべきことになってしまう。
 結局それでは、見たところほかの勇者たちと変わらない。次々に美しい女たちを<テイム>して自分の陣営を強力にする。あるいはちやほやと相手をされる。そういうほかの勇者たちと同列に見られるのは、俺としてはとても承服しがたいことだった。

「お気持ちは分かります。そうおっしゃるとは思っていました。……ですから、ここからは頭の使いようです」
 マリアは微笑みを絶やさぬいつもの顔でそう言うと、目の前にあった木製のカップから茶を飲んだ。香草で煮だした、独特の香りのする茶だ。
「ヒュウガ様。あなた様は、それこそを武器になさいませ」
「えっ……?」

 突拍子もないことを言われて、さすがに二の句が継げなくなる。周りの女性たちもぽかんとして、マリアを凝視するばかりだ。

「これより、どの街に入る時にも、誰に自己紹介をされる際にも、大々的にアピールすればいいのです。『勇者ヒュウガは、テイムをしない勇者である』と。『宿代も踏み倒さない、食事代も物品の代金もきちんと支払う』。『決して<テイム>に頼って人を集める勇者ではないのだ』と」
「な……。それは──」
「ここにいる女性がたも、身をもって証明してくださいましょう。……そうですわよね? みなさま」
「あ……。も、もちろんです!」

 俺以上に呆然と話を聞いていた三人の女たちは、急に威儀を正したように座り直してそれぞれに頷いた。
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