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第六章 窮追
6 地下へ
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「オレが言うのもアレだけどさあ。『引き際』って大事よ? あ、これは一回、めちゃめちゃ下手を打っちまったオレだから言えることなんだけどさあ」
言うまでもない。マルコの姿をした真野だった。
俺はふと疑問を覚えた。
「真野。なぜ出てこられた? そもそもお前は、マルコに<催眠>を掛けなければ出てこられなかったんじゃないのか」
「あ~、うん。そうなんだけどさあ」
真野が苦笑する。
「ほら、こいつ、子供じゃん? そもそも、体力がないんだよなあ。ここに来るまで、お前らについて来るのでだいぶ無理してたみたいだし。めちゃくちゃ緊張もして、疲れがたまってたんだろ。ちょっとふらふらっとして、意識が遠のいたところでちょいっと、オレがすり替わっちゃったってわけ」
てへ、とばかりに片目をつぶって舌など出している。
……誰だお前は。
あちら世界での、あの陰気で伏し目がちだった真野のイメージとはどうも重ならなくて、俺は眉間に皺を立て、腕組みをした。
というか、こいつも本来はこういう性格の人間だったということなのか。
と、キリアカイが憤然と真野を睨みつけて言った。
「あんた、一体、何様のつもりなの? あんたみたいな子供なんかに、このあたくしが意見される覚えなんてないんだけど。無礼なことを言う舌は、即刻、引っこ抜いてあげてもいいのよ?」
「無礼なこと」の内容は、おそらく先ほど真野の言った「おばちゃん」という単語ではないかと思われる。
「あ、そっか。そうだよなー」
真野はひどく面倒くさそうに女を見て、にまっと笑った。
「名乗りが遅れて悪い。オレ、マノン。前の魔王な。久しぶりだな、キリアカイ」
「な……なんですって?」
「あの時、確かに一応死んだんだけどさ。一部だけ、こいつの体の中に残ってたってわけ」
「そんな。まさか──」
キリアカイが絶句して俺を見る。
俺とフェイロンは、黙って彼女に向かって頷いて見せた。真野は満足げにまた笑って、改めてキリアカイに向き直った。
「さっきフェイロンも言ってたけどさあ。これって案外、いいタイミングなんじゃないかと思うぜ? ヒュウガのバカはあんたのこと、別に攻めるとも殺すとも言ってねえんだし」
「…………」
「いま逃げなかったら、最悪あんた、ここで死ぬぜ? それでもいいの? そんなにまで大事な財宝なんて、本当にあんのかよ」
「う……る、さいわよっ……!」
キリアカイが激昂し、いきなりその手の中に光る魔撃の塊を作り出した。ギーナや他の魔導師たちが、即座に皆を取り囲む<魔法シールド>を作り直す。
「ほっといてよ! もう、みんなあたくしを放っておいて!」
女がわめいた次の瞬間、キリアカイの手の先から直径三メートルばかりの光球が十数個も飛んできた。ズバババッと空気を切り裂くようにして、光球群がシールドにぶち当たってくる。
それで一瞬、みんなが怯んだその隙に、キリアカイは<浮遊術>で浮き上がり、あっという間に広間の外へと飛び出ていった。俺たちもすぐに同様にして後を追った。
「ついて来るなあッ!」
キリアカイは叫びながら広間を出、城の中心部を垂直に貫いている吹き抜けまで出ていくと、そのままいきなり真下へ向かって急降下を始めた。
この城は、ちょうど中国の仏塔を非常に巨大化したような造りになっている。各種の部屋は側面にぐるりと配置され、中央部はこの吹き抜けになっていて、魔術の使える者は<レビテーション>によって自在に各階を移動することが可能になっているらしい。
キリアカイは餌を見つけた隼さながらの猛スピードで、何十メートルの高さを一気に降下していく。吹き抜けの底は真っ暗になっていてここからでは見えない。塔そのものの高さよりもずっと深いように思われた。
女を追ってしばらく降下していくと、やがて中華風の灯篭やら提灯などで明るく照らされた階層がとぎれて、急に薄暗いゾーンに入った。どうやら地下に入ったらしい。
建物の基礎部分である石組みや木材部がなくなって、ごつごつとしたなまの岩肌がむき出しになり、あちこちにちらほらと灯火がある以外には、なんの明かりもなくなっている。
俺たちは所々で、連れてきている兵士ら数名ずつを残してキリアカイを追った。さらにまわりは真っ暗になっていき、やがて何も見えなくなった。俺たちは一度止まって、それぞれに<暗視>の魔法を使用した。猫族であるレティには不要だが、ヒューマンであるライラにはギーナが魔法を掛けてやる。
キリアカイはそこからさらに数百メートルも降下して、やがて穴の底に近い場所までたどり着くと、とある横穴へ入ったようだった。俺たちもすぐにその後を追う。
「なーんだ、こりゃあ……」
横穴の入り口で、思わず真野が声を洩らした。
そこは武骨な観音開きの大扉がどっしりと道を閉ざしていた。鉄製に見えるが、全体が二十メートルはありそうな非常に巨大な扉である。単純に物理的な障壁であるばかりでなく、それには厳重に強力な魔法も掛けてあるようだった。
「キリアカイはこの中か」
「だろうな。ここが例の宝物庫ってわけだろうよ」
俺の独白に答えたのはゾルカン。
「かなり強力な術式で、幾重にも封がなされていますな。……陛下、しばしお下がりを」
言ってフェイロンが、ギーナをはじめとする他の魔導師らを集め、一斉に<封印解除>の呪文を唱え始めた。
言うまでもない。マルコの姿をした真野だった。
俺はふと疑問を覚えた。
「真野。なぜ出てこられた? そもそもお前は、マルコに<催眠>を掛けなければ出てこられなかったんじゃないのか」
「あ~、うん。そうなんだけどさあ」
真野が苦笑する。
「ほら、こいつ、子供じゃん? そもそも、体力がないんだよなあ。ここに来るまで、お前らについて来るのでだいぶ無理してたみたいだし。めちゃくちゃ緊張もして、疲れがたまってたんだろ。ちょっとふらふらっとして、意識が遠のいたところでちょいっと、オレがすり替わっちゃったってわけ」
てへ、とばかりに片目をつぶって舌など出している。
……誰だお前は。
あちら世界での、あの陰気で伏し目がちだった真野のイメージとはどうも重ならなくて、俺は眉間に皺を立て、腕組みをした。
というか、こいつも本来はこういう性格の人間だったということなのか。
と、キリアカイが憤然と真野を睨みつけて言った。
「あんた、一体、何様のつもりなの? あんたみたいな子供なんかに、このあたくしが意見される覚えなんてないんだけど。無礼なことを言う舌は、即刻、引っこ抜いてあげてもいいのよ?」
「無礼なこと」の内容は、おそらく先ほど真野の言った「おばちゃん」という単語ではないかと思われる。
「あ、そっか。そうだよなー」
真野はひどく面倒くさそうに女を見て、にまっと笑った。
「名乗りが遅れて悪い。オレ、マノン。前の魔王な。久しぶりだな、キリアカイ」
「な……なんですって?」
「あの時、確かに一応死んだんだけどさ。一部だけ、こいつの体の中に残ってたってわけ」
「そんな。まさか──」
キリアカイが絶句して俺を見る。
俺とフェイロンは、黙って彼女に向かって頷いて見せた。真野は満足げにまた笑って、改めてキリアカイに向き直った。
「さっきフェイロンも言ってたけどさあ。これって案外、いいタイミングなんじゃないかと思うぜ? ヒュウガのバカはあんたのこと、別に攻めるとも殺すとも言ってねえんだし」
「…………」
「いま逃げなかったら、最悪あんた、ここで死ぬぜ? それでもいいの? そんなにまで大事な財宝なんて、本当にあんのかよ」
「う……る、さいわよっ……!」
キリアカイが激昂し、いきなりその手の中に光る魔撃の塊を作り出した。ギーナや他の魔導師たちが、即座に皆を取り囲む<魔法シールド>を作り直す。
「ほっといてよ! もう、みんなあたくしを放っておいて!」
女がわめいた次の瞬間、キリアカイの手の先から直径三メートルばかりの光球が十数個も飛んできた。ズバババッと空気を切り裂くようにして、光球群がシールドにぶち当たってくる。
それで一瞬、みんなが怯んだその隙に、キリアカイは<浮遊術>で浮き上がり、あっという間に広間の外へと飛び出ていった。俺たちもすぐに同様にして後を追った。
「ついて来るなあッ!」
キリアカイは叫びながら広間を出、城の中心部を垂直に貫いている吹き抜けまで出ていくと、そのままいきなり真下へ向かって急降下を始めた。
この城は、ちょうど中国の仏塔を非常に巨大化したような造りになっている。各種の部屋は側面にぐるりと配置され、中央部はこの吹き抜けになっていて、魔術の使える者は<レビテーション>によって自在に各階を移動することが可能になっているらしい。
キリアカイは餌を見つけた隼さながらの猛スピードで、何十メートルの高さを一気に降下していく。吹き抜けの底は真っ暗になっていてここからでは見えない。塔そのものの高さよりもずっと深いように思われた。
女を追ってしばらく降下していくと、やがて中華風の灯篭やら提灯などで明るく照らされた階層がとぎれて、急に薄暗いゾーンに入った。どうやら地下に入ったらしい。
建物の基礎部分である石組みや木材部がなくなって、ごつごつとしたなまの岩肌がむき出しになり、あちこちにちらほらと灯火がある以外には、なんの明かりもなくなっている。
俺たちは所々で、連れてきている兵士ら数名ずつを残してキリアカイを追った。さらにまわりは真っ暗になっていき、やがて何も見えなくなった。俺たちは一度止まって、それぞれに<暗視>の魔法を使用した。猫族であるレティには不要だが、ヒューマンであるライラにはギーナが魔法を掛けてやる。
キリアカイはそこからさらに数百メートルも降下して、やがて穴の底に近い場所までたどり着くと、とある横穴へ入ったようだった。俺たちもすぐにその後を追う。
「なーんだ、こりゃあ……」
横穴の入り口で、思わず真野が声を洩らした。
そこは武骨な観音開きの大扉がどっしりと道を閉ざしていた。鉄製に見えるが、全体が二十メートルはありそうな非常に巨大な扉である。単純に物理的な障壁であるばかりでなく、それには厳重に強力な魔法も掛けてあるようだった。
「キリアカイはこの中か」
「だろうな。ここが例の宝物庫ってわけだろうよ」
俺の独白に答えたのはゾルカン。
「かなり強力な術式で、幾重にも封がなされていますな。……陛下、しばしお下がりを」
言ってフェイロンが、ギーナをはじめとする他の魔導師らを集め、一斉に<封印解除>の呪文を唱え始めた。
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