テイマー勇者~強制ハーレム世界で、俺はとことん抵抗します~

つづれ しういち

文字の大きさ
224 / 225
終章

エピローグ

しおりを挟む
 魔族の国に、秋風が吹く。
 あちらとの二重生活であるために、こちらの時間は飛ぶように過ぎていく。向こうでほんの数週間を過ごしただけで、こちらでの季節はすでにひとめぐりしてしまっているのだ。

 俺はいつものように、ギーナと共にガッシュの背に乗り、各地の視察に回っていた。
 <北壁>も、トロルやオーガの<分限>も、すでにもとの状態に戻っている。人々はどうにか安寧を取り戻し、日々の仕事に従事している。
 すでに視察と今後の指示等々を済ませ、俺たちは魔王城に戻る途上である。

 雄大な魔族の国。
 空はどこまでも高く澄んで碧く、はるか上空に、刷毛でひと撫でしたように、細長い雲が走っている。
 南の人族側の国々との交渉もひとまずは順調に進められ、少しずつ互いの交流が始められつつあるところだ。

 ちなみに南側の「創世神」崇拝者たちは、マリアたちが消えると同時にその信仰を捨てざるを得なくなった。数千年にもわたったその信仰が贋物であることが明白になったのだから仕方がないが、さすがに人々の混乱は必至かと思われた。
 だが驚くべきことに、彼らは自分たちの崇める神をあっさりと、あの「いにしえのドラゴン」にすげ換えてしまったのだ。
 なにしろ、あのときの荘厳な光景を見た者は数万人もいる。

『ドラゴンしんさまは、遂に偽りの神の支配にしびれを切らし、人の世の融和を目指さんとする魔王ヒュウガに手を貸して、いかづちの鉄槌をもって偽りの神と、そのしもべどもを駆逐したのだ』──。

 どうやらちまたではそんなこっずかしい物語さえ、まことしやかに語られているらしい。すでに各地をめぐる吟遊詩人たちが様々な叙事詩をつくりあげ、あちこちで語り唄い始めているとも聞く。
 ……正直、やめてもらいたい。
 だが、下手に禁止するわけにもいかない。それでは民の表現の自由を奪うことになってしまう。一応、為政者のはしくれとして、それだけはできない話だ。まったくもって頭が痛い。
 ともかくも。この地の人々はたくましいのだ。それが俺にとって、ひとつの安心材料ではある。
 この世界には、まだまだ明るい未来があると、そう信ずることができるからだ。


「あのさ、ヒュウガ」
 例によって俺の前に座っていたギーナがふと言った。半分だけ顔をこちらに向けて、軽くもたれかかって来る。
「別に……いいんだよ? 無理しなくても」
「え? どういう意味だ」
 訊き返すと、彼女はゆっくりと俺から頭を離してこちらを向いた。
「だから、『無理しなくてもいい』って言ってんの。あたし、そのために自分の『種』をこっちに置いて行ったんだから」

 思わぬ言葉が来て、少し沈黙した。
 どうも、何を言わんとするのかがよく分からない。
 ギーナは俯いて、やや肩を落としている。なんとなく寂しげだ。

「……別にさ。マリアを生むのはあたしじゃなくってもできることだし」
「あたしなんて、やっぱりあっちの世界じゃ……浮いてるし」
「こんな年増なのだって、まずいだろうし。ヒュウガの兄弟、変な顔してたじゃない?」
「やっぱりどう考えたって、ヒュウガとは釣り合ってないんだし──」

 一旦言い出すと、まるで堰を切ったように、口がどんどん止まらなくなる。そのくせ自分で言っておきながら、彼女自身がどんどん傷ついているのが分かった。肩をさらに縮こまらせ、細かく震わせている。

「いや。ちょっと待ってくれ」
 俺はそう言って、足元のガッシュに指示を出した。
 この若い黒ドラゴンは、ここまでの会話を細大漏らさず聞いている。それでは困る話だと思ったからだ。

《へーへー。まっ、そーだな。オレが聞いてちゃマズイわなー?》

 ガッシュはあっさりそう言うと、俺たちをとある森へと連れて行った。そこは、中央部に小ぶりな湖を抱えた森だった。
 森のはずれに降り立ったガッシュをそこで待たせて、俺はギーナを連れ、二人で小道を歩いて行った。俺はガッシュから降りるときに引いた彼女の手を、そのまま放さずにつないでいる。
 秋口の森の中は、空気がさらさらと乾いて気持ちがよかった。紅葉のはじまった木の葉がざわめき、その間からちらちらと陽光が差して、地面をまだらに照らしている。
 やがて木立の向こうに、陽光を跳ね返す湖の水面みなもが見えてきた。
 全体を見渡せる場所には、大きな平たい岩が突き出たところがある。ギーナに手を貸し、俺たちはそこにのぼった。

 しばらく黙って、水面を見つめる。
 やがてギーナが、ぽつりぽつりと言い始めた。

「ライラとレティは、こっちでちゃんと年を取って、おばあちゃんになって……それで、いずれ自然にあっちに行こうと思ってる」
「……そうか」
「レティは『多分、猫になるんじゃにゃいかな』なんて言ってるよ。すごく楽しそうにさ。それで、あたしらのペットになるのが夢なんだって。面白くって可愛いよね、あの子」
「ああ……うん」

 そういえば、レティが少し前、そんな未来のことを楽しそうに話したのだった。

「ライラはそこまではわからないけど、でもやっぱり、あたしたちのそばにいたいんだって。『もしかして、ヒュウガ様たちの近所で生まれて、ヒュウガ様たちの子になったマリアの友達にでもなれたらいいですね』だってさ。ほんと、泣きたいぐらい優しい子だよ」
「そうだな」
「二人とも、今からほんと……楽しみにしてるみたいでさ」
「……そうなのか」
 うん、とひとつ頷いて、ギーナはおずおずと目を上げた。握った手に、力がこもる。
「だから……さ。あたしだって別に、それでも良かったんだ。ヒュウガの体が治ったんなら、もうあっちで魔法を使う必要だってないんだし。だから」

 いつも自信たっぷりで向こうっ気の強い彼女からすると、それは随分と心細げな顔に見えた。
 遂に、小さな声が聞こえる。

「ヒュウガがあたしのこと……イヤになったら。あたし、いつでも──」

 俺は最後まで言わせなかった。
 すぐに彼女の手を引いて両腕を回し、力をこめて抱き寄せる。
 ギーナが「ひゃっ」と変な声をたてて固まった。

「それはむしろ、俺の台詞セリフだ」
「え?」
「愛想を尽かすのは、むしろギーナのほうだと思う」
「え、そんな──」
「前にも言ったはずだ。あっちで本当の俺を見て、ギーナだってよく分かっただろう。俺はただの若造なんだ。まだ何の力もない。自分で自分の生活を支えることもできない、ただの子供に過ぎない」
「いや、ヒュウガ──」
「実際、ギーナのほうで俺に愛想を尽かす可能性のほうがはるかに高い。俺はそう思ってる」
「そんな……」
 ギーナが曖昧な顔で首を横に振る。
「だから、その時は遠慮するな。いつでも俺を捨てて、こっちに戻ってくれ。自分の人生を生きてくれ。俺には、ギーナの人生をどうこうする権利なんてない。そうでなくても、あっちで早速、苦労させてしまっているわけだし」
「いや、それはさ──」
「だからこれは、『お願い』だ」

 俺はギーナの両肩をつかんだまま、彼女の瞳をまっすぐに見た。

「もし、少しでも無理だと思ったら。その時は、迷わず自分が幸せになれると思う方を選んでくれ。俺のことなど気にするな。……絶対に、気にするな」
「ヒュウガ……」
「あっちに連れて行ってしまったことで、ギーナが不幸になるのだけは我慢ならない。あっちはこっちよりも、ずっと社会が複雑なんだ。どんな問題が発生しないとも限らない。まあ俺はあっちの人間だから、それでもあそこで生きていくしかないんだが」
「…………」
「でも、ギーナはそうじゃない。それでギーナが幸せになれなかったら……それだけは、断じて認めるわけにはいかない」
「ヒュウガってば……!」

 ギーナは俺の胸元に体を寄せ、やがておずおずと両手で俺の頬をはさみこんだ。
 桃色の瞳が悲しげに笑う。

「そうじゃないだろ? こういう時、いい男が言う台詞セリフはさ」
「え?」

 そこでギーナは少しうつむくと、小さく「バカだね」と言って笑った。

「だからさ。いい男はこう言うもんなの。……『何があっても幸せにする』って」
「…………」
「『俺が必ず幸せにする』、ってさ。……そうじゃない?」

 俺はじっと、ギーナの桃色の瞳を見つめた。

 そうか。
 そうだな。

 俺は、自分もギーナの頬を両手でそうっとはさみこんだ。
 互いの額が、今にも触れ合いそうなほどに近づく。

「……愛してる。ギーナ」

 桃色の瞳が、めいっぱい見開かれる。

「必ず、幸せにする。何があっても。俺が幸せにしてみせる。……だから」

 きらきら光る桃色の宝石に、うわっと熱い雫があふれ出す。
 美しい顔がくしゃっと歪んで、途端に少女のように幼くなる。
 水面みなもを吹き渡る風が、一瞬さっとその後れ毛をなびかせた。

 愛してる。
 この人を、愛してる。

「……そばに居てくれ。これからもずっと」

 囁くようにそう言って、俺はギーナの唇に、自分のそれを触れさせた。


                          完

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【コミカライズ決定】勇者学園の西園寺オスカー~実力を隠して勇者学園を満喫する俺、美人生徒会長に目をつけられたので最強ムーブをかましたい~

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】 【第5回一二三書房Web小説大賞コミカライズ賞】 ~ポルカコミックスでの漫画化(コミカライズ)決定!~  ゼルトル勇者学園に通う少年、西園寺オスカーはかなり変わっている。  学園で、教師をも上回るほどの実力を持っておきながらも、その実力を隠し、他の生徒と同様の、平均的な目立たない存在として振る舞うのだ。  何か実力を隠す特別な理由があるのか。  いや、彼はただ、「かっこよさそう」だから実力を隠す。  そんな中、隣の席の美少女セレナや、生徒会長のアリア、剣術教師であるレイヴンなどは、「西園寺オスカーは何かを隠している」というような疑念を抱き始めるのだった。  貴族出身の傲慢なクラスメイトに、彼と対峙することを選ぶ生徒会〈ガーディアンズ・オブ・ゼルトル〉、さらには魔王まで、西園寺オスカーの前に立ちはだかる。  オスカーはどうやって最強の力を手にしたのか。授業や試験ではどんなムーブをかますのか。彼の実力を知る者は現れるのか。    世界を揺るがす、最強中二病主人公の爆誕を見逃すな! ※小説家になろう、カクヨム、pixivにも投稿中。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

ダンジョン冒険者にラブコメはいらない(多分)~正体を隠して普通の生活を送る男子高生、実は最近注目の高ランク冒険者だった~

エース皇命
ファンタジー
 学校では正体を隠し、普通の男子高校生を演じている黒瀬才斗。実は仕事でダンジョンに潜っている、最近話題のAランク冒険者だった。  そんな黒瀬の通う高校に突如転校してきた白桃楓香。初対面なのにも関わらず、なぜかいきなり黒瀬に抱きつくという奇行に出る。 「才斗くん、これからよろしくお願いしますねっ」  なんと白桃は黒瀬の直属の部下として派遣された冒険者であり、以後、同じ家で生活を共にし、ダンジョンでの仕事も一緒にすることになるという。  これは、上級冒険者の黒瀬と、美少女転校生の純愛ラブコメディ――ではなく、ちゃんとしたダンジョン・ファンタジー(多分)。 ※小説家になろう、カクヨムでも連載しています。

老衰で死んだ僕は異世界に転生して仲間を探す旅に出ます。最初の武器は木の棒ですか!? 絶対にあきらめない心で剣と魔法を使いこなします!

菊池 快晴
ファンタジー
10代という若さで老衰により病気で死んでしまった主人公アイレは 「まだ、死にたくない」という願いの通り異世界転生に成功する。  同じ病気で亡くなった親友のヴェルネルとレムリもこの世界いるはずだと アイレは二人を探す旅に出るが、すぐに魔物に襲われてしまう  最初の武器は木の棒!?  そして謎の人物によって明かされるヴェネルとレムリの転生の真実。  何度も心が折れそうになりながらも、アイレは剣と魔法を使いこなしながら 困難に立ち向かっていく。  チート、ハーレムなしの王道ファンタジー物語!  異世界転生は2話目です! キャラクタ―の魅力を味わってもらえると嬉しいです。  話の終わりのヒキを重要視しているので、そこを注目して下さい! ****** 完結まで必ず続けます ***** ****** 毎日更新もします *****  他サイトへ重複投稿しています!

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜

サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。 〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。 だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。 〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。 危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。 『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』 いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。 すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。 これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』

ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。 全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。 「私と、パーティを組んでくれませんか?」 これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!

処理中です...