高校球児、公爵令嬢になる。

つづれ しういち

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第七章 今後の進路に悩みます

4 ふたたびの魔塔です

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 結論から言おう。
 パパンは驚いた。ママンも驚いた。
 でも、拒否はされなかった。

 魔塔の宗主であるグウェナエル様は多忙の身だ。陛下が魔族との和平交渉に入ったこの段階でも、文字通り各地を東奔西走して仕事をなさっている。
 つまりアポなしで突撃するなんてあり得ない。いくら陛下から名誉勲章をいただいた「救国の女神」(恥ずっ!)の俺でもあり得ない。
 だから俺は、パパンを通じて先に約束を取りつけたわけだ。

 その日、俺はパパンの伝手つてで調達してもらった《魔法馬車》に乗り、ひさしぶりにあの魔塔に向かった。
 《魔法馬車》ってのは、魔力をこめた魔石を使って空を飛ぶことができるようにしてある馬車だ。普通の馬車の何十倍のスピードで進める。そいつで魔塔のある広大なカルデラのある山のふもとまで飛び、そこから魔塔の入り口までは、迎えに出てきた魔導士のおっちゃんの跳躍魔法でとんでいく。
 前にもここを案内してくれた魔導士のおっちゃんについて、俺たちは魔塔に入った。

「……んで。あんたらどこまでついてんだよ!?」

 これ、何回目の質問だろう。
 目を細め、シュパッと振り向いて言い放った俺の目線の先にいるのは、いつものメンツだった。
 いやエマちゃんはいいのよ? 俺のお付きとして仕事で来てるんだからね!
 この子のはれっきとしたオ・シ・ゴ・ト!
 あ、そうそう。エマちゃんも俺の帰還と名誉勲章の授与はもう、めっちゃくちゃ喜んでくれた。目なんかキラッキラさせちゃって、俺はベル兄のとき以上に「おめでとうございます!」の嵐にさらされました、一応報告終わり。
 で、問題は残りのふたりだ。実際にはそのうちの一人に護衛騎士がふたりほどついてるもんで、都合四名だけどな。

「なに言ってるんだよシルヴェーヌ。俺はちゃあんと、父上からお前のお目付け役を頂いて来てるんだからな。もちろん最後までお供させてもらうぜ~?」

 まず、得意げに胸を叩いて言い放ったのはベル兄。

「……わかった。んじゃ百歩譲ってベル兄はいいとして。あんたはダメだぞ皇子──いや殿下!」
「なぜだ。ベルトランが良くて私がいけない理由が理解できない」

 そうなんだ。
 なんと今回、またクリストフ皇子がついてきてんだよわけわかんねえ!
 なんだよその、もはや「当然」みてえな顔はよお。
 ってか騎士としては休暇でも、あんたにゃ皇子としての仕事もアレコレあるんじゃねえのか? 前に「休みだとはいえ私自身はちっとも休みじゃない」とかブーたれてなかったっけか。あんなこと言っといて、実は意外とヒマなのか皇子!

「話の内容までは知らないが、今回の宗主さまとの面談は非常に重要だと聞いているぞ。単に、私の《魔力の珠》も持参しておく方が良いだろうという判断だ」
「むうう……っ」
「まあ私も、個人的に宗主さまにお話しもあるしな」
「え? なんスかそれ」

 不安になって訊いたら、皇子はふっと微笑んだ。

「そなたが言うなら私も教える」
「……イヤっス」

 ちっくしょう。ああ言えばこう言う。
 でもまあ確かに皇子の言うとおりだ。《魔力の珠》の出番はあるかもしんない。
 だけどさ。
 あんた絶対、先に言い訳を考えてから来てるだろ!

(ちぇっ……。会いたくなかったのに)

 っていうのは、半分は本当だけど半分は嘘だ。
 今朝、《魔法馬車》の前にいきなり現れたのを見たときにハッキリわかった。遂に自分の気持ちを自覚しちまった俺は、この人とまともに目を合わせるのもちょっと怖くなっちゃってるんだってことに。
 なんか、まともにこの人の顔がみられねえ。
 くっそう。自分の気持ちが自分の目からナントカビームみてえに発射されて、皇子に気づかれやしねえかと冷や冷やするし。

(うう……心臓だまれ!)

 そうなんだよ。ちょっと目が合うだけでも心臓がなんか病気になっちまったんじゃないかってぐらいバックンバックンうるせえしっ。耳とか首とか、変に熱くなっちゃうしっっ!

「……?」

 皇子が一瞬、怪訝けげんな顔になったような気がした。
 ああもう! また目を逸らしちまってたし。
 俺は慌てて、さも「こうするために逸らしたんです~」って言わんばかりに肩にとまってるドットを「よしよし~」なんて撫でてみたりする。

「きゅるるるう?」

 ドットは相変わらずの可愛さだ。そして甘えん坊は大爆発中。
 さらになんとなーくだけど、皇子に対しては牽制を掛けてる様子。皇子が俺にちょっと寄ってくると、あからさまに歯をむきだして「シッシッ」みたいな態度になるんだよなあ。かわええ~。
 それにしてもこの子、短い期間でずいぶん大きくなっちゃった。肩に乗せるには、すでにかなり重い。正直、できればずっと飛んでてほしい。毎日めちゃくちゃ食うしなあ、しかも肉を。

 そうこうするうち、例の大広間に到着した。
 護衛騎士さんたちはそこでちゃんと空気を読んで、部屋の外に待機してくれる。
 中に入ると、再びあの白くて静謐せいひつな空間が目の前に広がった。
 巨大な《魔力の珠》の前に、あの日と同じ姿で宗主グウェナエルが立っている。なんかものすごい既視感を覚えて、脳が一瞬くらりとする。
 案内者の紹介を受けて、俺たちはそれぞれに騎士としての礼をした。

「……お久しぶりです、グウェナエル宗主」
「遠方をようこそいらっしゃいました。前線での疲れは癒えましたか、マグニフィーク大尉」

 これは俺のことだ。なぜならこの場にもう一人いるマグニフィーク、つまりベル兄は、俺と同じ時期に一階級あがって少佐になったから。皇子も同じくだ。

「おかげ様で、十分休めました。ありがとうございます」
「それで、お話というのは」

 多忙な様子を一切見せないかただけど、多忙なのは事実みたいだ。宗主はすぐに本題に入ることを勧めてきた。
 
(ん~。どうしよっかな)

 背後に立っている三人……特にベル兄をちらりと見て、ちょっと考える。
 あとの二人はともかく、この件、まだベル兄には話してないんだもんなあ。
 俺は頬をぽりっと掻いて、ベル兄に苦笑して見せた。

「えっと……ベル兄には初耳なこともあるけど、驚かないでね?」
「は? どういうことだよ」

 途端、ベル兄が片眉をはねあげ、皇子とエマちゃんはハッとして、何かを勘づいた顔になった。
 俺はそのまま宗主に向き直り、話を始めた。
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