高校球児、公爵令嬢になる。

つづれ しういち

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第八章 事態は一転、どん底です

7 魔力の檻につつまれます

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「では。よろしいですか、マグニフィーク大尉」
「はい。いつでもお願いします」

 十日後。
 俺は帝都から北へ十キロほどいった草原にいた。
 周囲には騎士団をはじめ、帝国軍の一団と魔塔の魔導士たちの一群が立ち、中心に立った俺とドット、宗主さま、そしてベル兄を見つめている。
 非常に危険なので、当然、ここに両陛下は来ていない。
 ここが、魔族と取り決めた約束の場所だった。

「今からあなたを魔導士たちの《魔力のおり》によって包みます。そうなればあなたからの連絡は、その《魔力の珠》を通じてしか行えなくなります。よろしいですか」
「はい」

 言われて俺は、腰の革バッグをそっと撫でた。その中には俺の《魔力の珠》と皇子のそれが一緒に入れられている。

「あなたが内側から魔撃を撃つことはもちろんですが、外部からあなたを害するなんらかの攻撃、物理的な攻撃も魔力攻撃もまた防がれます。これは先にご説明したとおりです」
「はい。わかってます」

 宗主はそこで、少しだけ厳しかったそれまでの表情をふっと緩めて微笑んだ。
 まさしく精霊王の微笑みだ。

「では、あとはすべて手筈どおりに。どうか我らを信じてください。そしてこれだけは約束してください」
「ん? なんスか」
「……最後まで、決して希望をお捨てになりませぬよう。希望こそが、最後に絶望しかかった人々の未来をひらき、人を救う唯一の命綱となるものですから」
「……はい。ありがとうございます」

 俺はぐっと感極まりそうになる自分の顔を叱咤して、わざと笑って見せ、ぱっと宗主さまに頭を下げた。ひとつうなずいて宗主さまが一歩さがる。
 すると、今度はベル兄が近づいてきた。やっぱり青白い顔をして俺をじっと見つめてくる。
 いつもの元気で明るい兄が、見る影もないほど憔悴している姿。本当の弟ってわけでもない俺でさえ、胸の痛みを感じずにはいられない。
 俺は敢えてその顔に、にかっと笑って見せた。

「ベル兄。そんな顔すんなよ。笑ってくれよ」
「……うん。そうだな」
「だから笑えっつーの。『笑う門には福来ふくきたる』だぞ? ベル兄」
「なんだよ、それ」

 あ、そうか。これはあっち世界のことわざだったな。

「とーにかく! キッツい時ほど平気な顔して笑っとけってこと! そうすりゃ、こんなかなり難しい時でも福の神様がこっち向いて笑ってくださるってことよ」
「……おまえ、すごいな。シルヴェ……いや、ケント」
「そうでもねーよ」

 俺は笑いをへにゃっと崩した。
 ばりばり後頭部を掻く。

「だって見ろよ。こうでもしてねーと、足なんかもうガックガクでさあ。なんかしゃべってねえと歯の根も合わねえし。怖くてもうなんもできなくなりそーだもん。それじゃマズいっしょ、さすがに」
「うん」
「だぁから! んな、肩を落とすなっつーの、ベル兄らしくもねえ!」
「…………」
「陛下も宗主さまも、あんだけいろんな作戦を立ててくださった。俺はそれを信じてる。俺は俺なりに、自分のベストを尽くすって決めた。だからさ」

 俺はぽん、とベル兄の肩をたたいた。

「そんな泣きそーな顔すんなって。笑ってくれよ、ベル兄。頼むよ。なっ!」
「……うん」
 
 ベル兄はやっとぎゅっと顔を上げて、俺を真正面から見た。ひくひくっとその頬が震えていたけど、なんとかいつもの笑顔をつくる。

「たのむぜ、ケント。皇子を絶対に助けような」
「ああ。もっちろんよ! ベル兄も頼んだぜッ」
「おお」

 互いの腕をごちんと打ち付け合う。
 ああ、いい兄貴だ。
 俺、あんたのことも大好きさ。

 最後の挨拶が済むと、宗主さまが片手をあげた。ベル兄が下がっていき、周囲にいた魔導士たちがすすっと俺を囲むような形になる。そのまま、低い魔法詠唱の声が始まった。
 周囲の《気》みたいなもんがゆるゆると集まりはじめ、俺の周りを取り囲みはじめる。ドットはどうしたって俺から離れる気がないみたいなんで、俺の肩に乗ったまま一緒に包まれた。
 ビシビシ、バシバシと小さな雷の音みたいなのが響き、紫のプラズマが走る。風の魔法の強風で髪があおられる。氷結魔法のものらしい、小さな氷の粒がその周囲を包んで小さな吹雪の球を構成していく。

 やっとその動きが止まった。
 目を開けてみると、俺は何重にもかけられた魔力障壁で囲まれていた。ちょうど、小さな《魔力の檻》に閉じ込められた形だ。なんか小鳥にでもなった気分。
 このままの状態であっちへ送られる予定なんだ。
 その俺と、あっちの皇子との交換になる。

「……さて。そろそろ約束の刻限だな」

 宗主さまがそうつぶやいた時だった。
 北方の空に巨大な暗黒の渦が現れたと思ったら、ぐんぐんこっちに近づいてきた。
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