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第十一章 両国を巻きこんで動きだします
2 シルちゃんと魔王が会話します
しおりを挟む(しまった。魔王に聞かれちま──)
ハッとして口をおさえたけど、もう後の祭りだった。
なぜなら次の瞬間、俺の部屋の真ん中に魔王が出現していたからだ。
「なかなか面白そうな話をしているじゃないか? ケント」
「ひょえうぎゃどひゃああああ!」
「いきなり騒々しいな、お前は」
五メートルぐらい余裕でとびすさった俺を、魔王は変な生き物を哀れむ目で見た。くっそう。
「あわわわ……って! なにシレッと人の部屋に現れてんですかあ! ビックリさせないでくださいよぉ!」
「魔法の使える者なら《転移》魔法など基本中の基本だろうが。第一、そもそも魔王城内で余が自由には入れぬ場所などあろうはずがない。不平を言われる筋合いはこれっぽっちもないんだが?」
「いやそーゆー問題じゃねえ! 一応女の子の部屋、しかも寝室ッスよ? こんなんセクハラでしょーがっ」
「『せくはら』とはなんだ」
うん。久々だなこういうリアクション──じゃねえわ。
真顔できくなや!
つい言葉に詰まっちまったわ。
魔王は相変わらずのキレイなイケメン顔でまっすぐ俺を見据えてきた。
「なにやら面白そうな話が聞こえたのでな。そなた、本物のシルヴェーヌと話ができるのであろう。今夜はひとつ、余も加えてくれぬかと思ってな」
「なっ……なななな」
口をぱくぱくさせてる俺、たぶん金魚みてえな顔してんだろうな。やっぱり「哀れな生き物枠」かもしんねえ。うっせえわ!
「んなこと、できるわけないっしょ! 大体、女子の会話にまぎれ込もうなんざ盗人猛々しいわ。どんなに若いイケメンづらしてたってアウトだわ。あんたはおっさん! まぎれもないオッサン! 入ってくるんじゃありませーん!」
叫んで顔の前ででかいバッテンを作ってやる。
と、頭の中でシルヴェーヌちゃんの心配そうな声が響いた。
《あのう……健人さん?》
《なに? シルちゃん》
《一応、相手は魔王なのですが……。大丈夫なのですか? そのようなぞんざいな物言いをしてしまって。あなたは一応、捕虜というお立場だったのでは──》
「あ。う……」
慌てて口をつぐむ。
いかんいかん。こいつの逆鱗に触れちまったら、俺はともかくシルちゃんの体が危ねえんだったわ。シルちゃんの体に傷でもついたら、元の体にもどしてあげるとかなんとかいう以前の問題になっちまうもんな。やべえやべえ。
ちろっと盗み見たら案の定、魔王は不機嫌そうな三白眼で俺をにらんでた。
「人のことをオッサンオッサン連呼する資格が貴様にあるのか? 時と場合によって都合よく女子の枠に収まるな。中身はそんじょそこらのクソガキの分際で」
「クッ……クソガキだとぅ!?」
殴ったろかこいつ。
あ、そうそう。ドットはと言うと、さっきからとっくに目を覚まして、なんか面白そうに俺と魔王を見比べている。緊張感の「き」もない顔だ。むしろ、ときどきあくびなんかして、超リラックスした様子。
この子が警戒心を見せてないからこそ、俺も軽口をたたいてられるんだよな。もし魔王が本気で殺気を発したら、まずドットが黙ってねえもんよ。
「会話に参加っつったって、どーするんスか。俺とシルちゃん、頭の中だけで交信してるんスけど」
「つまり《感応》みたいなものだろう? 異なる世界をまたいでの交信ゆえ、難しさがないわけではなかろうが──まあ、問題ない」
言って魔王は人差し指をもちあげ、顔の前でくるりと円をえがくようにした。
途端、部屋の中の空気が一変した。
うまく言えねえ。でもなんかこう、部屋中にあたたかいゼリーでも流し込まれたみたいな、不思議な感覚。たぶん結界だろう。外からは俺たちの声が聞こえないようにしたんだと思う。
それからまた、魔王の容姿に変化が起こった。
中学生ぐらいだった姿がぐっと大人びて、二十代ぐらいの青年の姿になったんだ。髪がさらに伸び、背も伸びて手足がすらりと長くなる。ひょろっとしたひ弱な感じは全然なくて、ちゃんと鍛えられたいイイ体。
どこからどう見ても、ちょっとアブナイ感じのイケメンだ。目つきはかなり妖しくて、危険な香りを漂わせてる。
でも俺、知ってる。こーゆーのもかなり女子からの需要があるんだってこと。なぜならあの姉貴が乙女ゲーとかで推してるの、こういうタイプが多かったもん。
なんかこう、そこはかとなくむかつくのはどーしてなんだ。
──そして。
《そら。これで聞こえるだろう》
「ええっ!?」
魔王の声が直接脳に響いて、心底ビビる。
え、マジか。本当にこの人、やっちゃったの?
《本物のシルヴェーヌ嬢のほうはどうだ? 余の声が聞こえているか》
《あ、……はい。さすがは魔王様でいらっしゃいます》
《ふん。褒めても何も出んぞ》
《遅ればせながら、魔王様にご挨拶を申し上げます。マグニフィーク公爵家の二女、シルヴェーヌにございます》
声の調子だけでわかる。シルヴェーヌちゃん、ドレスの裾をつまんで頭を下げる、貴婦人としての礼をしてるって雰囲気だ。……って言ってもまあ、今はただの田舎の高校球児としての顔なんだろうけどさ。
──うん。想像はすまい。ぜったいすまい。
《うん。堅苦しい挨拶は抜きだ。早速本題に入ろう。シルヴェーヌ嬢にはあまり時間がなかろうゆえ》
そう言って魔王はつらつらと、驚くべきことを話し始めた。
そこからは俺もシルヴェーヌちゃんも固唾を飲んで、ひたすらに魔王の言葉を聞くことになった。
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