つれづれ司書ばなし

つづれ しういち

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5「グリフィンとお茶を」

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 前回がちょっと重い話だったので、今回は少しお気楽に参ります。

 今回紹介したいのは、

「グリフィンとお茶を ~ファンタジーに見る動物たち~」
 荻原規子・著/徳間書店(2012)

 である。
 著者はあの「空色勾玉そらいろまがたま」や「RDG レッドデータ・ガール」で有名な荻原規子おぎわらのりこさんだ。
 ただこれは創作小説ではなくて、これまで荻原さんが読んでこられて影響を受けたという古今東西のファンタジー小説を、「動物」というキーワードで分けて紹介した、本に関するエッセイ集なのである。

 昨今は、読書案内の本というのが多数刊行されていて、私の務める図書館にも「中学生までに読んでおきたい〇〇」とか「有名人の選ぶ〇冊」といったタイトルの本が何冊も置かれている。これもまた、読書離れの進む子供たちを、どうにかして本に近づけてあげたいと考える人たちによる苦肉の策なのだろう。

 ちょっと話がそれるけれど、司書にとってもっとも困る利用者からの質問のひとつは、
「なんか面白い本ありませんか」
 これである。
 そうして、それは大体、普段はあんまり本を読んだことがない子ほど訊いてくるような気がしている。

 自分でネット小説も書いている身として日々ひしひしと感じているが、「面白い」というのは完全に、個人個人の主観でしかない。Aさんが「面白い」と思ったものでも、Bさんは「なんだこんな本、つまんねえ」と思って放り出すなんてザラなのである。
 だからこそ、司書はその利用者が普段どんなものを見聞きしていて、どんなことに興味があるのかをゆっくり聞いてみるぐらいの心の余裕を持っている必要がある。時には、その子が普段、どんなマンガやドラマを見て楽しんでいるのかを「良かったら教えてもらってもいい?」という感じで聞き出してみる、なんてこともある。
 まあ、そうは言っても日々時間に追われている学校という現場で、それを保つのは至難の業であったりもするけれど。

 まあ、それはさておき。
 そんな時、「あなたはどんな動物が好き?」というのはひとつのいい質問、とっかかりになるかも知れない。
 そして、たとえばその子が「クマ」とか「ライオン」とか答えたのなら、この本の中からその部分を見せて、「じゃあ、こんな本が楽しいかもしれないね」なんて答えるのも、ひとつの手である。ただし、ここではファンタジー小説に限られるのだけれども。

 ちなみに「ライオン」の項で紹介されているのは、C・S・ルイスの「ナルニア国物語」シリーズである。
 このほか、「ドラゴン」であれば「ゲド戦記」や「龍の子太郎」、さらに前出の「ナルニア国物語」、「馬」なら「十二国記」といった具合だ。
 なお、「十二国記」についてはまた、別項でお話ししようと思う。

 さて、「グリフィンとお茶を」を読んで、私が初めて手に取ろうと思った本が二つある。
 まさにこの本のタイトルにも使われている「グリフィン」の項で紹介された、

「ダークホルムの闇の君」
 ダイアナ・ウィン・ジョーンズ著/東京創元社(2002・※文庫版)

 と、「ウサギ」の項で紹介された

「ウォーターシップ・ダウンのウサギたち」(上・下巻)
 リチャード・アダムズ・著/評論社(2006/※ただし、日本での最初の版は1975年)
        
 である。
 なんと言っても、荻原さんご自身が影響を受けたとおっしゃるぐらいの本を、冴えわたる手法でもって様々にご紹介くださるのだ。読みたくならないわけがない。
 もちろん荻原さんは、ある程度のストーリーを紹介しながら、さほどのネタばれはしないでおいてくださっている。そういう気づかいが、また流石だなあと思わせる。

 今、私は「ウォーターシップ・ダウンのウサギたち」を少しずつ読んでいるところだが、確かにとても面白い。そこかしこに、アナウサギの生態に詳しい作者でなければ表現できない、凄まじいリアリティがあるのだ。決して、子供だましではないのである。
 実はこれは、今の中学校のとある国語の教科書にも紹介されている本だ。

 しかし、当の中学生はというと「ウサギたち」というタイトルを見た瞬間に本棚の前を素通りしてしまう。
「ああ、童話なんかでもよくある、ただのウサギの冒険物語なんでしょ」
 と思われてしまっているのだろうなと思うと、残念でならない。
 読了し次第、またPOPなどを書いてみんなにプッシュしていきたい作品だ。

 ちなみにこちらは、神宮輝夫さんが翻訳をなさっている。神宮さんは、あの「ツバメ号とアマゾン号」シリーズも手掛けた方だけれども、品がありながらも分かりやすく、迫力のある文体はとても勉強になると思っている。

 ところで、日本の作家が本の紹介をしてくれる本でもうひとつ思い出すのが、

「物語ること、生きること」
 上橋菜穂子・著/講談社(2016)

 だ。
 こちらも、上橋さんが少女時代からこれまでにどんな本を読んできたか、そしてどんな影響を受けて来たかを書かれた自伝的なエッセイである。こちらは、より「物語とはなにか」「書くということはなにか」ということについても突っ込んで書かれた部分があって、非常に興味深い。
 ものを書く人間として、どうしても読まずにはいられない本のひとつではないかと思う。
 
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