つれづれ司書ばなし

つづれ しういち

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83 課題図書2024

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 こんにちは。
 学校司書のみなさまにとって、1学期のはじめは特にとても多忙な時期ではないかとお察しいたします。
 特に予算の配分と、それを使ってどのように選書していくのか、「今年の目標」みたいなものを立てたりと、そんな時期ではないでしょうか。
 課題図書もそろそろ入手されて、生徒さんたちへの紹介も始めている司書さんも多いのではないかと思います。

 今年はこちら、兼任している両校とも少しばかり課題図書ゲットの時期が遅れてしまいまして焦ったのですが、なんとか無事に読み終わって紹介プリント等の作成にまでこぎつけることができました。
 私は中学の担当なので、中学校向けの課題図書のみとなりますが、今回も簡単にご紹介させてください。

 今年もまた、昨年発行された本の中から日本文学を1冊、海外文学を1冊、そして9類以外の本が1冊選ばれていました。
 まずはこちらから。

 〇「アフリカで、バッグの会社はじめました 寄り道多めの仲本千津の進んできた道」
 江口絵里・著 / さ・え・ら書房(2023)

 今回、私が3冊の中で何より心に刺さったのはこちらの本。
 仲本さんはまだお若い女性なのですが、そのバイタリティたるや、すさまじいものがあるかたです。
 学生時代、授業を通じて「国境なき医師団」に参加することを決意するも、当初はそのために医者の道をめざしたものの、理数系の勉強があまりにも向いていなくて断念。
 それでも「なにか困った人を助けるような仕事がしたい」という強い情熱に突き動かされて、紆余曲折ありながらもついにアフリカはウガンダでアフリカン・プリントと呼ばれる印象的な布地をつかったバッグの会社「リッチーエブリデイ」を立ち上げます。

 現地の、特に女性たちを雇用しているのも素晴らしい。
 あちらは日本以上に男尊女卑が根強く、自分の意に沿わない理由でシングルマザーになることを余儀なくされてなくされている女性が多数おられるとのこと。彼女たちの多くはひどく貧しいのです。
 子どもたちは学費が払えなければすぐに学校から追い出されるという環境のため、なかなかまともに教育を受けることもままなりません。つまり、なかなか貧困から抜け出す道が見いだせないのです。

 仲本さんの事業はまず、そういう女性たちを救うために興されたというわけです。
 こうした社会貢献を目指す会社を起業する人のことを「社会起業家」といい、仲本さんはまさにその社会起業家なわけですね。

 単なるお仕事モノとしてだけではなく、地元の布を使うとか、化学薬品などを使ったり環境を汚染したりする方法でつくられる素材は使わないなど、SDGsやエシカル消費についても同時に学べる、そして大変読みやすい仕様の素晴らしい一冊でした。
 「これは大いに中学生のみなさんに読んでほしい! お勧めしたい!」と思える内容でした。お勧め甲斐がありそうですね~! いまから楽しみ。

 さて、2冊目はこちら~。

 〇「希望のひとしずく」(A Drop of Hope)
 キース・カラブレーゼ・著 / 代田亜香子・訳 / 理論社(2023)

 町の名前の看板にイタズラをした者がいて、それが「if only(もし~だったら)」と読めるために「残念な街」と呼ばれるようになった、アメリカはオハイオ州のちいさな田舎町が舞台。
 そこである日、年老いた老人が孫の少年アーネストに、不思議な遺言をのこして亡くなります。老人は彼に、屋根裏部屋にある不思議な物たちを預けたのでした。
 それらは新品ではあるものの、かなり昔に購入されたらしいもの。それぞれにつながりは見えませんし、誰にどう必要なのかもわかりません。アーネストはその謎に頭を抱えることに。

 ところでこの町には、とある伝説のある不思議な井戸があります。
 その井戸にコインを投げ込んでお願いをすると、その願いがかなう、というのです。

 アーネストとクラスメイトの少年ライアンは、たまたま丘の中腹にある洞窟に入り込み、この井戸を見つけます。そこへお金が投げ入れられてきて、とあるクラスメイトのお願いを聞いてしまうことに……。
「まさか願いがかなうなんてことはないよね」と思いながら家に帰ったふたりでしたが、アーネストはなぜか屋根裏にあるあのいろいろな品物のひとつを学校に持っていく気になります。
 そこでなんとも不思議なつながりが生まれ、最初の願いを言った人の願いが叶ってしまうのでした!

 と、そんな暗示で、アーネストたちはまったく「そうしよう」と思っていなくても、屋根裏のいろいろな品物がなぜか必要な人のためにあれこれと作用して、不思議なめぐりあわせがつながっていき、願いを持つ人の願いを叶えていくのです。
 なんとも不思議な物語。
 主人公は先ほどのアーネストと、友人の少年ライアン、その幼なじみの少女ジーンという中学1年生の子供たちです。
 かれらは人の願いを聞いてしまうことにより、表面上は幸せそうに見える街の人たちが、実はいろんな悩みをかかえているんだなということに気づいていきます。
 そうこうするうち、過去に起こった大きな盗難事件や殺人事件の事実がわかってきて……。

 読み味としては全体にほっこり、可愛くて温かな物語です。
 「若い人たちに生きる勇気を」と考えて書かれたものだなあという印象。
 著者は高名な脚本家なのだそうで、伏線の張りかた、構成の妙にはうならされます。

 で、最後は日本の小説ですね。

 〇「ノクツドウライオウ 靴ノ往来堂」
 佐藤まどか・著 / あすなろ書房(2023)

 著者の佐藤まどか氏は、以前にも課題図書となった「一〇五度」の作者でもあります。
 あちらもモノづくり(椅子)の内容でしたが、今回は靴のモノづくり。

 大きなビルに挟まれた、100年も昔に建てられた古くて小さなオーダーメイド靴店「靴ノ往来堂」。百年前の看板のため、右から左へ書かれているため、「ノクツドウライオウ」なんて道行く小学生に読まれてしまいます。
 主人公はこの店の孫娘、夏希なつき

 手の器用な兄がいて、てっきり兄が往来堂を継ぐものと思っていたのに、突然兄は姿を消してしまいます。
 こだわりの靴職人である祖父は、店では「マエストロ」と呼ばれていてすごい職人。
 夏希はもちろん、そんな祖父を尊敬しています。でも、靴づくりは好きだけれど、自分が継ぐと言えるほどの自身はないし、古めかしいデザインばかりの往来堂の靴だけではつまらない気もして、もやもやと気持ちは揺れ動いているのでした。
 そこへ「この土地を売ってくれ」と不動産屋の営業がやってきたり、「見習いになりたい」と、態度が悪くて気に入らないクラスメイトの少年がやってきたり……。

 こちらもまた「お仕事モノ」と言えるのではないかと思いますが、オーダーメイドの靴がどのようにつくられ、どのように素晴らしいのかを理解する一助にもなる内容かなと思いました。
 分量も多くはなくて、中学生には読みやすい内容ではないかと思います。

 ではでは、今回はこのあたりで~!
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