ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ

文字の大きさ
15 / 285
一章 ナイナイづくしの異世界転生

15. 領民がいナイ

しおりを挟む
 コッコの卵を五つ、藁と羽毛を詰めた蓋付きの籠に入れ、ダーモットに持たせた。

 エステラにしっかりと品質保持の魔法をかけてもらったので、落としても割れることもない。

 護衛兼何かあった時の連絡係用に、ダーモットの鞄にはマゴー16号、ケーレブの鞄にはマゴー17号もこっそり入れて、途中まで目立たぬように転移魔法で。その後は貸し馬車で王宮へと向かってもらう。

 マゴーは転移魔法も使えたのだ。


 ハンフリーもコッコ(オス)にニレル特製鞍と手綱をつけ、さらに鞍の両脇に籠を取り付け、マゴー30番台から50番台をみっちり詰めていく。

 領民達に領地大改良に伴う家屋の新築と引越しについて説明するついでに、作業を迅速に行うために収納魔法を使えるマゴーを貸出す事にしたのだ。

(一世帯に一マゴー貸し出すとして、二十か三十世帯くらいしか領地に居ないのかしら……)

 このただっぴろい領地に、いくらなんでも少なすぎる……

 前世でいえば、ご町内の一~二班程度しか領民がいない事になる。超過疎地だ。

 これじゃあ税収なんて期待しようもない。子爵家の資産がすり減ったわけだ。

 マグダリーナはハンフリーがエステラの『全部作りたい』をあっさり認めた理由がわかる気がした。

 これを気に、領民が増えてくれると良いのだけども。


 ハンフリーを送り出した後、マグダリーナとアンソニーは、昨夜までにコッコ達が討伐し、マゴー達が解体した魔獣の素材を魔法収納に詰めていく。

 肉と皮は冬の準備に使うので、マゴーの魔法収納に収める。
 マゴー達は袋片手に、コッコの抜け羽毛も抜け目なく収集している。

 誰も指示していないが、彼らにはエステラの知識がインプットされてるので、周囲の状況から判断して動いているのだろう。素材集めに余念がない。


 今日のマグダリーナの予定は残ったメンバーで隣のゲインズ領にある冒険者ギルドへ素材の買取をしてもらうことだ。
 治安の件は、ニレルとエステラも一緒に来てくれるので、気にしすぎないことにした。

 冒険者ギルドでは本名を名乗る必要は無いから、身分は隠せる。
 マグダリーナとアンソニーはそのまま愛称のリーナとトニーで通すことにした。
 ニレルはニィでエステラはタラと名乗っているらしい。

 マグダリーナの髪色は目立つので、念のため魔導具で茶色にする。

 そうして冒険者ギルドにコッコ(オス)で乗りつけたら、当然注目が集まった。

 ガチガチの筋肉をまとった、あまりお行儀の良くなさそうなおじさま達の視線が痛い。

「ヨォ、ニィさん、なんだいこの変な鳥は」
「やあチャド、この子の従魔なんだ。おいで」

 ニレルに手招きされて、マグダリーナとアンソニーは慌てて近寄る。

「リーナとトニーだ。これから素材の買取のためにここに通うことになると思うから、よろしく頼むよ。リーナ、トニー、彼はチャド。こう見えて子供好きで面倒見が良いから頼りにするといい」
「「よろしくお願いします」」

 チャドと呼ばれた無精髭の男は、弱ったように顎をかいた。

「なんでおまえさんは、こんな毛色の変わった子供ばかりここに連れてくるかねぇ。ま、一応気をつけてはおくよ。あ、ギルドに用事があるんなら、今日はさっさと済ませて帰った方がいいぜ」
「何かあったのかい?」
「大物の討伐に失敗したやつがいるらしい」

 それだけ言うと、チャドはヒラヒラ手を振って去っていった。

「討伐に失敗したらどうなるの?」
 早く帰れというくらいだから、気になってマグダリーナはニレルを見る。

「依頼時の条件にもよるけど、最悪契約不履行で損害賠償を払うことになる場合もあるね。ただそういうのは荷運びやその護衛の場合で、魔獣討伐だけだと、一番の問題は怪我かな。教会の治癒師は貴族しか診ないから、回復薬で対応するしかない。怪我の具合によっては上級回復薬を使用する場合もある」

「本人が回復薬を持ってない場合はどうなるの?」
「ギルドの回復薬を使用して、手持ちが無ければ代金は分割払いかな」

 なるほど。なるべく軽い怪我だといいなと思った。


 冒険者ギルドに入ると、受付の女性の視線がニレルに集中した。

 ニレルは素知らぬ顔で優雅に通り過ぎて、奥の買取カウンターへ行く。

「さ、ここで買取してもらえるよ」

 柔和な雰囲気の初老の男性が、「品物を見せてくれるかね」とカウンターに品物を置くよう促した。

 マグダリーナとアンソニーが魔法収納から素材を出すのを見て、一瞬驚いた顔をするも、騒ぎたてたり詮索することもない。

「二人分一緒にまとめて買取でいいのかい」
「はい」
「ふむ、どれも状態がいいね…数が多いから、この番号札を持って、そこに座って待っててくれるかい」


 しばらく待って番号を呼ばれると、まず金額の確認をと明細を渡される。

エアウルフの爪、牙、骨 銀貨五枚 二十体分
マーダーグリズリーの爪、牙、骨、肝 大銀貨五枚 四体分
角兎の角、前歯、骨 銀貨三枚 二十体分
火蛇の毒袋、牙、目 金貨二枚 十体分
オークの脂、牙、骨、精巣 大銀貨三枚 十体分

(蛇たっか……)
 蛇は泣く泣くマグダリーナの収納にしばらくそのまま入れてあっただけに、嬉しい。

「さて、合計で二百六十六万エルになるが、金貨二十六枚と銀貨六十枚でいいかな。良ければここにサインを頼むよ」

 マグダリーナもアンソニーも、お金のことは全くわからなかったので、ニレルとエステラを見る。

 二人とも頷いたので、適正価格なんだろうけど……

「金貨じゃなくて大銀貨で欲しいんだ」

 ニレルがそう言うと、ギルド職員のおじさまは、大丈夫かいと聞く。

「大銀貨が二百六十枚だとかなりの重さになるが」
「収納魔法付与の鞄があるから大丈夫だよ」

 そっとエステラがマグダリーナに囁いた。

「一エル一円の感覚でいけるわ。銀貨一枚が千エルで、大銀貨一枚が一万エル、金貨一枚が十万エル」

(なんてこと……!! エステラに出会わなかったら、教会に二十万エル支払わなければいけなかったのね!)


 コッコが討伐したのだからと、アンソニーにサインしてもらう。もちろん偽名で。

 革袋に入ったたっぷりの大銀貨と銀貨を受け取り、アンソニーが何気ないそぶりで買取のおじさまに聞く。

「あの、コッコカトリスの卵の買取価格はいくらなんですか?」
「コッコカトリスの卵かい? 状態にもよるけど、かなり珍しいから一つ金貨十くらいかね……」

「「金貨十……」」

(食べてる……食べてるよ私達毎日百万エル……買取でその価格なら売るのはもっと高いのよね? それを素材に作る特上回復薬っていくらになるの? 病気怪我には気をつけるようにしなくちゃ)

 母が回復薬が無くて流行病で亡くなったことを思い出し、マグダリーナはまず皆んなの健康に気をつけようと思った。

 そうして、さて帰ろうかというときに、少女の悲鳴が響き渡った――
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

転生特典〈無限スキルポイント〉で無制限にスキルを取得して異世界無双!?

スピカ・メロディアス
ファンタジー
目が覚めたら展開にいた主人公・凸守優斗。 女神様に死後の案内をしてもらえるということで思春期男子高生夢のチートを貰って異世界転生!と思ったものの強すぎるチートはもらえない!? ならば程々のチートをうまく使って夢にまで見た異世界ライフを楽しもうではないか! これは、只人の少年が繰り広げる異世界物語である。

転生したので、今世こそは楽しく生きます!~大好きな家族に囲まれて第2の人生を謳歌する~

結笑-yue-
ファンタジー
『可愛いわね』 『小さいな』 『…やっと…逢えた』 『我らの愛しい姫。パレスの愛し子よ』 『『『『『『『『『『我ら、原初の精霊の祝福を』』』』』』』』』』 地球とは別の世界、異世界“パレス”。 ここに生まれてくるはずだった世界に愛された愛し子。 しかし、神たちによって大切にされていた魂が突然できた輪廻の輪の歪みに吸い込まれてしまった。 神たちや精霊王、神獣や聖獣たちが必死に探したが、終ぞ見つけられず、時間ばかりが過ぎてしまっていた。 その頃その魂は、地球の日本で産声をあげ誕生していた。 しかし異世界とはいえ、神たちに大切にされていた魂、そして魔力などのない地球で生まれたため、体はひどく病弱。 原因不明の病気をいくつも抱え、病院のベッドの上でのみ生活ができる状態だった。 その子の名は、如月結笑《キサラギユエ》ーーー。 生まれた時に余命宣告されながらも、必死に生きてきたが、命の燈が消えそうな時ようやく愛し子の魂を見つけた神たち。 初めての人生が壮絶なものだったことを知り、激怒し、嘆き悲しみ、憂い……。 阿鼻叫喚のパレスの神界。 次の生では、健康で幸せに満ち溢れた暮らしを約束し、愛し子の魂を送り出した。 これはそんな愛し子が、第2の人生を楽しく幸せに暮らしていくお話。 家族に、精霊、聖獣や神獣、神たちに愛され、仲間を、友達をたくさん作り、困難に立ち向かいながらも成長していく姿を乞うご期待! *:;;;;;:*◈*:;;;;;:*◈*:;;;;;:*◈*:;;;;;:*◈*:;;;;;:*◈*:;;;;;:*◈ 小説家になろう様でも連載中です。 第1章無事に完走したので、アルファポリス様でも連載を始めます! よろしくお願い致します( . .)" *:;;;;;:*◈*:;;;;;:*◈*:;;;;;:*◈*:;;;;;:*◈*:;;;;;:*◈*:;;;;;:*◈

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

神の手違い転生。悪と理不尽と運命を無双します!

yoshikazu
ファンタジー
橘 涼太。高校1年生。突然の交通事故で命を落としてしまう。 しかしそれは神のミスによるものだった。 神は橘 涼太の魂を神界に呼び謝罪する。その時、神は橘 涼太を気に入ってしまう。 そして橘 涼太に提案をする。 『魔法と剣の世界に転生してみないか?』と。 橘 涼太は快く承諾して記憶を消されて転生先へと旅立ちミハエルとなる。 しかし神は転生先のステータスの平均設定を勘違いして気付いた時には100倍の設定になっていた。 さらにミハエルは〈光の加護〉を受けておりステータスが合わせて1000倍になりスキルも数と質がパワーアップしていたのだ。 これは神の手違いでミハエルがとてつもないステータスとスキルを提げて世の中の悪と理不尽と運命に立ち向かう物語である。

捨てられた前世【大賢者】の少年、魔物を食べて世界最強に、そして日本へ

月城 友麻
ファンタジー
辺境伯の三男坊として転生した大賢者は、無能を装ったがために暗黒の森へと捨てられてしまう。次々と魔物に襲われる大賢者だったが、魔物を食べて生き残る。 こうして大賢者は魔物の力を次々と獲得しながら強くなり、最後には暗黒の森の王者、暗黒龍に挑み、手下に従えることに成功した。しかし、この暗黒龍、人化すると人懐っこい銀髪の少女になる。そして、ポーチから出したのはなんとiPhone。明かされる世界の真実に大賢者もビックリ。 そして、ある日、生まれ故郷がスタンピードに襲われる。大賢者は自分を捨てた父に引導を渡し、街の英雄として凱旋を果たすが、それは物語の始まりに過ぎなかった。 太陽系最果ての地で壮絶な戦闘を超え、愛する人を救うために目指したのはなんと日本。 テンプレを超えた壮大なファンタジーが今、始まる。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

アルフレッドは平穏に過ごしたい 〜追放されたけど謎のスキル【合成】で生き抜く〜

芍薬甘草湯
ファンタジー
アルフレッドは貴族の令息であったが天から与えられたスキルと家風の違いで追放される。平民となり冒険者となったが、生活するために竜騎士隊でアルバイトをすることに。 ふとした事でスキルが発動。  使えないスキルではない事に気付いたアルフレッドは様々なものを合成しながら密かに活躍していく。 ⭐︎注意⭐︎ 女性が多く出てくるため、ハーレム要素がほんの少しあります。特に苦手な方はご遠慮ください。

猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣で最強すぎて困る

マーラッシュ
ファンタジー
旧題:狙って勇者パーティーを追放されて猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣だった。そして人間を拾ったら・・・ 何かを拾う度にトラブルに巻き込まれるけど、結果成り上がってしまう。 異世界転生者のユートは、バルトフェル帝国の山奥に一人で住んでいた。  ある日、盗賊に襲われている公爵令嬢を助けたことによって、勇者パーティーに推薦されることになる。  断ると角が立つと思い仕方なしに引き受けるが、このパーティーが最悪だった。  勇者ギアベルは皇帝の息子でやりたい放題。活躍すれば咎められ、上手く行かなければユートのせいにされ、パーティーに入った初日から後悔するのだった。そして他の仲間達は全て女性で、ギアベルに絶対服従していたため、味方は誰もいない。  ユートはすぐにでもパーティーを抜けるため、情報屋に金を払い噂を流すことにした。  勇者パーティーはユートがいなければ何も出来ない集団だという内容でだ。  プライドが高いギアベルは、噂を聞いてすぐに「貴様のような役立たずは勇者パーティーには必要ない!」と公衆の面前で追放してくれた。  しかし晴れて自由の身になったが、一つだけ誤算があった。  それはギアベルの怒りを買いすぎたせいで、帝国を追放されてしまったのだ。  そしてユートは荷物を取りに行くため自宅に戻ると、そこには腹をすかした猫が、道端には怪我をした犬が、さらに船の中には女の子が倒れていたが、それぞれの正体はとんでもないものであった。  これは自重できない異世界転生者が色々なものを拾った結果、トラブルに巻き込まれ解決していき成り上がり、幸せな異世界ライフを満喫する物語である。

処理中です...