傷物転生令嬢マグダリーナと原初の魔法使いエステラの幻想譚-女神とスライムの光とともに- (旧タイトル:ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異

天三津空らげ

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四章 死の狼と神獣

64. よるべない子供達

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 ヘンリー・オーブリーは、愛するパイパーに裏切られていた現実を受け入れられなかった。


 パイパーに出会ったのは学園を卒業して間もなく。領地の教会でだ。
 誰もいない夜の教会で、裸足で踊る彼女は、奇しくも美しく、すぐに虜になった。

 次に会ったのは酒場だった。彼女は踊り子で、ヘンリーを見つけると、可愛く何度もウインクを送ってくれた。だから言ったのだ「酒場で踊らず、私のそばでずっと踊っておくれ」と。


 何度も断られた。何度も追いかけた。
 やっと捕まえて、やっと手に入れた。
 子供も産まれて幸せだった。
 自由だと思った。


 父のベンソンは血統重視の野心家だった。
 公爵家から嫁いで来た妻が自慢で、いつかオーブリーの血が王族の血筋に入ることを望んでいた。だが産まれたのは男子ばかりだ。

 母は何度も妊娠し、三人目からの男子は皆産まれてすぐ父に処分された。
 ヘンリーはそんな父が大嫌いだった。

 しかも、貴族の娘と結婚しなければ、侯爵家は継がせないと言う。
 地位とお金がなければ、パイパーと可愛い我が子を養っていけない。

 ヘンリーは父の決めた相手と結婚した。

 妻は優雅で美しい女性だった。だが、ライアンをオーブリー家に迎え教育を受けさせればどうかなどと言う。
 可愛いライアンを、あの恐ろしい父のいる家に入れるのは絶対に嫌だった。

 仕方ないので、妻と子を設けた。

 産まれた子は、父と同じ髪と目の色が嫌だったが、これでもう父がうるさく言ってくる事はないだろうと思って安心した。

 程なくして母がとうとう亡くなった。子を孕んでいたらしいが、無理な出産が祟ったのだろう、母子共に亡くなったらしい。

 しかし私はパイパーとの間に第二子を授かった。
 パイパーと同じ赤毛の可愛い女の子だ。

 ライアンとこの子だけが私の子だった。


 幸せだった。そのはずだった。


 妻の産んだ子は、父が望むほどの魔法が使えなかった。別にそれでも良かった。その子供はこの家を継がせる為のただの道具だ。

 だが、パイパーが。

 言ったのだ。

「ライアンに侯爵家を継がせたい」と。


 ――妻との子は、要らない道具になった。


 確実にライアンを侯爵にする為に、あの道具は始末しないと行けない。

 なんでもやった。愛するパイパーの為に。
 これから本当の家族だけで幸せになるはずだった。なのに。


《前侯爵夫人……侯爵の母君を殺害して、その子を侯爵との間に産まれた子だと偽装し、頃合いを見て子を連れ去る計画だったようです。聖属性持ちの子を狙っていたんですね》


 ヘンリー・オーブリーは、愛するパイパーに裏切られていた現実を受け入れられなかった。


 だから、娘ではなく妹……父が喉から手が出るほど欲しかった、公爵家の血を引くレベッカ。

 あの娘が産まれたから、パイパーは私を裏切らねばならなくなったのだ。

 あの娘さえいなければ、


 あの娘さえ、






「いやぁ!! 痛い!!」

 邸に帰ると直ぐにヘンリーはレベッカの髪を掴んで殴った。

「やめて! やめて!!」
「おま え さえ、」

 二度三度と続けて拳が振り上げられる。

 いつも優しい父の変貌に、ライアンは震えて妹を助けることもできない。

「私の娘でも無いくせに、」

 ヘンリーはレベッカを足蹴にして、鑑定の魔導具を手にした。

「ほら見ろ、偽物がっ!」

 魔導具が光り、レベッカと……側にいたライアンを照らし出す。


《レベッカ・オーブリー(10)(リーン国人)
 父:ベンソン・オーブリー(リーン国人)
 母:アビゲイル・オーブリー(リーン国人)
 父母の関係:夫婦》

《ライアン・オーブリー(12)(リーン国人)
 父:ゼフ(教国人)
 母:パイパー(教国人)
 父母の関係:夫婦》


「……ライ、アン お前、」
「あ……そんな……嘘だ……」

 狼狽えるライアンを、ヘンリーは蹴り上げた。

「ぐ……えっ……」

 胃の中身を吐き出して苦しむライアンを、さらにヘンリーは殴る。泣きながら、ヘンリーは殴った。
 ヘンリーの幸せは、全て偽りだったのだ。

「やめて! お父様もうやめて!」

 レベッカも泣きながらヘンリーの足にしがみつく。

「出て行け!! お前らは私の子じゃない!! 今直ぐここから出て行け!!」

 レベッカは泣きながら、ライアンに回復魔法をかけた。
 優しい父だった。泣いて甘えればやがて許してもらえるとレベッカは思った。

 でもライアンは違った。ゆっくり立ち上がり、レベッカの手を握った。

「行こう、レベッカ」
「どこへ?」
「わからない……でももう、ここには居られないんだ」

 レベッカは最後に父を見た。彼も泣いていた。

 そしてレベッカとライアンを決して見ようとしなかった。



◇◇◇



 行く当てもなく、とにかく二人は歩いた。

「レベッカ、痛くないか?」
「とっても痛い」
「ごめんな、俺ばかり治してもらって」

 レベッカはライアンの手をぎゅっと握った。

「私たちどうなるの……?」
「……とりあえず、どこか明るいところへ……」

 夕闇が迫りつつあった。
 人も恐いが、魔獣も恐い。

 レベッカがライアンの手を引っ張る。

「ねぇあそこ……あそこが明るいわ」



◇◇◇



『わたくしは精霊エルフェーラ。神界にいらっしゃる創世の女神の忠実なるしもべにして、地上における代理人』

「女神……様……ほんとに?」
「これが……神殿……」

 するりとライアンの手から、レベッカの手が離れた。

「レベッカ!!」

 意識を失ったレベッカを、エルフェーラが支える。

『なんて酷い怪我……』

 女神の手から、白い光が現れて、レベッカを優しく包む。みるみる傷が癒えていった。

「ありがとうございます、女神様……」
『何か願いがあってここへ?』

「いえ、ただ何処にも行くところがなくて……」

『それは、とても淋しいわね』

 ライアンはぎゅっと涙を堪えた。

 す、と女神が指をさす。
 キラキラと光る花の輪が出来ていた。

「妖精のいたずら……」

『お行きなさい』

 ライアンはレベッカを背負うと、恐る恐る、それを超えた。



◇◇◇



 気がつくと夜の暗闇の中で、水音がした。
 微かに淡い光を感じ、見上げると美しい噴水の真ん中に女神像があった。


「女神様……? ここは……」

「君たち、何処から来た子かな? もしかして迷子かい?」

ココッ ココッ

 近くの建物から出てきた青年が、声をかけてきた。
 彼は丸々とした、見たことのない鳥を連れている。
 すっと身を屈め、ライアンの顔を覗き込む。

「あまり顔色が良くないね、どこか痛いところでも?」

 ライアンは俯いた。

「俺も妹もいっぱい殴られて……」
「うん」

「傷は……神殿の女神様が治してくださったのに……」
「うん」

「どこももう、痛くないはずなのに……」

 ポタポタ足元に、雫が溢れた。

「とりあえず妹さんは、私が抱えよう。これでも毎日朝練に付き合わされてるからね、落とさないから安心していい。よっと」

 青年はライアンが背負っていた、レベッカを抱えた。

「重くて温かい。君はよく頑張ったね」
「……っ」

 青年の腕の中で、レベッカは身じろぎした。

「ここ……は?」
「大丈夫、君のお兄さんもちゃんと側にいる。だから安心してもう少し休んでいていい」

 レベッカはゆっくり目を閉じた。

「……あの、俺たち、何処にも行くところがないんです」
「そうか、じゃあうちの領民になればいい。とりあえず私と一緒に帰ろう」

 帰ろう、という青年の言葉が、じわりとライアンの胸に沁み込む。

「ここは、何処なんですか?」
「リーン王国ショウネシー領。私は領主を務めているハンフリー・ショウネシーだよ」
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