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13.僕は咲く
しおりを挟む4月19日 金曜日
次の日、僕はみらいの言葉を繰り返していた。傷つけてしまったことを忘れるくらい、いっぱい幸せにすればい い。みらいらしい言葉だが、本当に本人の口から出たのかと疑うほどだ。
授業は通常通り行われた。けれども、僕はなかなか渡辺さんに話しかけるタイミングを掴めず、とうとう六限目が終わってしまった。渡辺さんは授業を集中して聞いていたが、その表情は険しかった。
六限の後は、担任の先生が必要事項などを話し、解散となる。渡辺さんは昨日同様、荷物をすぐにまとめて教室から出る。それに僕も追いかけるようにして教室を出た。
「ちょっと待って」
声をかけても、渡辺さんは振り返ろうとはせず、むしろ歩くのが速くなっていた。
「待って」
もう一度、声をかけるものの止まる気配はない。まわりの人が何事かあったのかと皆、こちらに視線を集めている。けれど、そんなことはどうでもよかった。
僕らは校舎を出た。けれど、渡辺さんは止まろうとはしなかった。けれど、教室を出た時に開いていた距離は少しずつ、縮まっていた。
「渡辺さんっ」
渡辺さんの手を掴んだ。すると、ハッとしたかのように渡辺さんはようやく僕のことを見た。しかし、渡辺さんは僕の掴んだ手をすぐに払いのけた。
「私にかまわないで、赤谷君には好きな人がいるんでしょ?」
「僕が好きなのは渡辺さんだけだ」
「嘘つかないで」
渡辺さんは僕を優しくだが、突き放そうとしてきた。そんな渡辺さんを傷つけてしまったことを僕は深く後悔している。だけど、今、僕が考えるべきなのは渡辺さんに自分の気持ちをどうやって伝えるかだ。
「嘘じゃない」
「嘘よ」
言葉なら何でも言える。だったら、そうすればいいか。僕の中で答えはひとつだった。
「きゃっ、な、なにするの?」
渡辺さんは唐突に高い声を出した。まぁ、こんなことされたらそうなるか。
僕は渡辺さんのことを抱きしめたのだった。渡辺さんの体温が僕にも伝わってくる。
「ちょ、ちょっとやめて。みんな見てるんだし」
まわりは僕らに視線を集め、ひそひそと話し声が聞こえてきた。前までの僕ならここでひるんでいただろう。だけど、渡辺さんに声をかけた時から覚悟は決まっていた。心臓の鼓動が耳にまで聞こえてきそうだ。
「僕は、渡辺さんのことが好きです」
僕が渡辺さんに告白した後、校舎裏に移動した。ふたりしてため息をついた後、渡辺さんに「あんな人が多い場所で言うことじゃないでしょ」と、ちょっぴり怒られた。あの時、感じていた心臓の鼓動は今では収まったものの、渡辺さんはまだ恥ずかしそうに顔を赤く染めていた。
僕は水曜日に渡辺さんに勘違いさせてしまったことを謝った。渡辺さんはその事実に気が付くと、さらに赤くなって顔をおさえていた。
「ごめんね」
「ううん、私の思い違いのせいだよ。あの時ね、赤谷君に私以外に好きな人がいるって知ったら、ちょっとわがままになっちゃった。赤谷君、ずっと私のことが好きだと思っていたから」
思っていない言葉に驚いて僕は目を見開いた。
「えっ、知ってたの?」
「気づいてなかったの? 私と話すときいつも顔真っ赤にしていたから、気づかないほうがおかしいよ。私も、話してるときドキドキしていたんだけど。赤谷君って、けっこう鈍感なんだね」
渡辺さんはいたずらに笑って見せた。僕はからかわれたのだ。だけど、ちょっぴりうれしかった。渡辺さんも僕のことを好きでいてくれていることがわかったから。
「あのさ」
控えめに笑う渡辺さんに声をかけた。そして、僕が渡辺さんと出会ってからずっと言いたかった言葉を口にする。
「僕とよかったら、付き合ってください」
怖くて、目をつぶっていた。もし、もし、違っていたらと考えると怖かった。何も返事がないのでおそるおそる目を開いた。目の前には春のひざしのように暖かく笑う渡辺さんがいた。
校門を出ると、左右に桜並木が続く。例年なら花びらがすべて散ってしまってもおかしくないのだけれども、今年はなんとか持ちこたえてくれた。渡辺さんに自分の気持ちを伝えることが出来たのも桜のおかげなのかなと考えた。
「どうしたの?」
となりで渡辺さんが声をかけてきた。
なにか忘れているような気がする。
「そういえば、今日はバイトないの?」
「あっ」
忘れていた。時間を見ると、シフトの時間よりも三十分遅れていた。今まで、遅れたことがないのに。
「またね」
僕は慌てながらも、渡辺さんに手を振って別れた。しばらくは、必死に走っていたものの途中で後ろを振り返った、けれども、渡辺さんの姿はなかった。もう帰ったのだろうと思ったのだが、この日から長い間、渡辺さんと会えなくなるということを僕は知らなかった。
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