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聞いたら負け、な気がして。何のために勇者が選ばれたのかを聞かずに一週間がたった。努力の甲斐もありルドヴィークの魔法スキルもメキメキ上がって…今では目に見える範囲の赤い物全てを一瞬で火を付けられるようになった!
「違う、そうじゃないでしょう勇者よぉお!」
ほっといたらどんな魔法が増えるのか、進化するのか見て見ようと好きにさせてみたら大変なことになった。何でこの謎魔法磨いた?
私が妹ちゃん達とお茶したり刺繍教えて貰ったりダンスとマナーレッスンしてもらったりしてる間に、あんたは一体何してたの?
「楽しい?周囲を明るくして楽しい?」
「そう言われても…。俺にはこの魔法だけではないですか」
「そこに不満を持ってほしかったの!改良して、他にもっとこうだったら…とか思い浮かびませんでしたか!?」
選ばれた勇者なんだから、コツさえつかめば後はばっちりかと思うでしょ?思ったの、私は!
「難しいです…」
「仕方がありませんね、微力ながらまた私が力を貸しましょう」
今日妹ちゃん達はお友達の家に遊びに行っている。暇だから何か魔法を考えてようデイとする。
え、勇者の優先順位が低いって?せっかくの異世界、私だって楽しみたいからしょうがないよね。
「水と火は使ったので次は風にしましょう」
「お待ちください、いつの間に水の魔法を?」
「紅茶が湧き出ていたでしょう。あれがそうじゃないんですか」
一番最初の記念すべき魔法現象だったはずだが、印象に残っていない様子。
「風と言えば何を連想しますか?」
「…目に見えないもの、でしょうか」
「いいですね、目に見えない風の刃。気付かれることなく防がれることなく攻撃できますね」
「見えないのに、刃?刃の定義はどうなるのでしょう。幅、長さ、切り込む向き等具体的に」
「うん、面倒なので別のものにしましょうね。ルドヴィークにはまだ早いようです」
細かい説明を求められても困る。図で描いて伝えようとした歪な三日月のようなマークでは、漫画に縁がない人には伝わらないだろう。
「竜巻や嵐を経験したことはありますか?立っていられないような物凄い風を」
「この国の天候は年中穏やかですので。よその国や話で聞いた程度の知識しかありません」
「んー、鳥のように空を飛んでみたいと思ったことは?風に乗って飛ぶんですよ鳥は」
「人には風を受ける翼がないので…考えたこともないです」
「貴方がつけているそのマントなんかどうかしら?マントを羽だと思ってちょっと飛んでごらんなさいよ」
ルドヴィーク立ち上がり、マントをばさばさと動かしてみたものの何も起きない。困ったような顔をしているから、きっと全然イメージが湧いていないんだろうな。
「そうだ、風は全然関係ないけどあったら便利な魔法があるわよ!」
CGクオリティが無理な彼にでもできそうな地味に便利な魔法。
「物を軽くする魔法ってよくない?ソファーもベッドも片手でひょいっとね」
「その魔法は様々な場面で役に立ちそうですね。エナ様、具体的にはどのような原理なのでしょう?」
「ちょっと見てて、今からパントマイムやるわ」
高校時代、文化祭の出し物で練習したことがある。定番の見えない壁があるネタと、鞄が持ち上がらないってやつと、階段フェードアウト。
意外と階段を下りていくようにしゃがむのが難しくて、私の担当は鞄が持ち上がらないってやつだったのよなんてナイス配役。ありがとう言い出した青山。
何か抱えるのにちょうどいい大きさのものを探して、部屋を一周する。
「この…時計なんだけ、ど!」
ドレッサーにあった飾り時計を、さも重そうに大げさに持ち上げてみた。あっとゆーまに直ぐに湧きそうな大きさと重さで、下部に小さな引き出しがついている。何か入ってるのだろうか。
それは、おいといて。
「運びます!」
すかさずマルクが申し出たが、首を振って断る。うっかりパントマイムします宣言をしてしまったけど、通じてないようでなによりだ。
よろよろ歩み寄って、ルドヴィークの目の前に置く。
「ふー、重かった。この時計なんだけど、ちょっと魔法をかけるとふっと軽くなるのよ」
その前に、片手で持とうとしてみる。ぐっと力を入れて踏ん張る。ぐぉー、片手じゃ持ち上がらないとあピール。
あ、軽くする魔法の呪文ってピンとこないな。浮かせるからフライ?ヨイタキイデント、だめだな短いのがいいもん。
「いくわよ、…ライト!」
ヘビィとライト。光る魔法はキャンプファイアーだし、ライトで混乱ないでしょう。
後ろによろける勢いで、時計を持ち上げて見せる。
きょとんとした様子でこちらを見て固まっているルドヴィークに、時計をぽんと投げてやる。
「どう、軽いでしょ!」
「はい。…元々この程度だったはずですが」
うるせー、なんでこんな客間の時計の重さを知ってる!?
「持てないものが持てるようになる…。これがパントマイム?」
「ばっちり聞いてたしね!」
せっかく便利な魔法を授けてあげようと思ったのに、大失敗だ。
「御使い様!!」
やさぐれる前に、男の人が怒鳴り込みに来た。がっちりしてる男の使用人。執事でもないしこういう人の事何て呼んでるんだろ。女の子はメイドっていうのにね。従僕?
「癒の勇者と名乗る者が訪ねてこられて…ただ隣国の勇者の事は詳細が出回っておらず確認がとれておりません。いかがしましょう」
って言われててもなぁ。
「勇者を導く御使いは各勇者の元へ現れるのですか?」
「勇者の力が4つに分かれたのは今回からです。御使い様の事は特に触れられておらず…エナ様が来られる前日に信託がありお迎えに行かせていただいた次第でして」
今回からです、っていう謎情報よ。んー、とりあえず会えば本物か偽物か分かるかな?御使いの勘で。
いやでもルドヴィークのこと別に特別だとか感じないし無理かな。
「とりあえず顔だけ見て見ましょうか。どこに居るの」
「まだ城に上げていません。門の所に…あの馬です」
バルコニーから乗り出して、外を確認する。馬っぽいシルエットは判別できるけど、そこに寄りそう人の等見えるはずもない。
「エナ」
ルドヴィークに呼ばれる。作戦会議をすべく振り向こうとしたが、背中からぐぐっと引っ張られるように体が持ち上がって叶わない。
背中っていうか、肩甲骨?不思議な違和感と、左右の視界が陰る存在感。
つま先が浮いて、息を吸い込んだタイミングで聞こえる羽ばたき。落ち着こう、深呼吸。すってーはいて。すって、はく。
バサっ バサっ
「……………ルドヴィーク?」
「なんでしょうか。俺も着いて行った方が?」
待って、おかしい。私に翼が生えて、動揺しているのが私しかいない。
「この羽、貴方の魔法ですよね?」
「そうなのですか?」
え、無自覚なの。
「今何か考えてました?身を乗り出したから、私が飛んでいくとでも思いましたか」
「えぇまぁ。顔を見ると言ってバルコニーへ向かったので、そこから行くのかと」
「御使いの壁画には今のエナ様のようなお姿が多く描かれていますし、私もやはり隠しておられただけでエナ様にも翼があったのだなと思いましたが…違いましたか」
予想外の流れで空を飛ぶ魔法を会得!!
まぁでもこのまま飛んでいく勇気はないわ。有効範囲も有効時間も飛び方もよく分かんないし。まさかまさか私が!飛べるようになるだなんてねぇー…。
「みんなで会いに行きましょう、歩いてね」
この羽、ちゃんとなくなるんでしょうね?
「違う、そうじゃないでしょう勇者よぉお!」
ほっといたらどんな魔法が増えるのか、進化するのか見て見ようと好きにさせてみたら大変なことになった。何でこの謎魔法磨いた?
私が妹ちゃん達とお茶したり刺繍教えて貰ったりダンスとマナーレッスンしてもらったりしてる間に、あんたは一体何してたの?
「楽しい?周囲を明るくして楽しい?」
「そう言われても…。俺にはこの魔法だけではないですか」
「そこに不満を持ってほしかったの!改良して、他にもっとこうだったら…とか思い浮かびませんでしたか!?」
選ばれた勇者なんだから、コツさえつかめば後はばっちりかと思うでしょ?思ったの、私は!
「難しいです…」
「仕方がありませんね、微力ながらまた私が力を貸しましょう」
今日妹ちゃん達はお友達の家に遊びに行っている。暇だから何か魔法を考えてようデイとする。
え、勇者の優先順位が低いって?せっかくの異世界、私だって楽しみたいからしょうがないよね。
「水と火は使ったので次は風にしましょう」
「お待ちください、いつの間に水の魔法を?」
「紅茶が湧き出ていたでしょう。あれがそうじゃないんですか」
一番最初の記念すべき魔法現象だったはずだが、印象に残っていない様子。
「風と言えば何を連想しますか?」
「…目に見えないもの、でしょうか」
「いいですね、目に見えない風の刃。気付かれることなく防がれることなく攻撃できますね」
「見えないのに、刃?刃の定義はどうなるのでしょう。幅、長さ、切り込む向き等具体的に」
「うん、面倒なので別のものにしましょうね。ルドヴィークにはまだ早いようです」
細かい説明を求められても困る。図で描いて伝えようとした歪な三日月のようなマークでは、漫画に縁がない人には伝わらないだろう。
「竜巻や嵐を経験したことはありますか?立っていられないような物凄い風を」
「この国の天候は年中穏やかですので。よその国や話で聞いた程度の知識しかありません」
「んー、鳥のように空を飛んでみたいと思ったことは?風に乗って飛ぶんですよ鳥は」
「人には風を受ける翼がないので…考えたこともないです」
「貴方がつけているそのマントなんかどうかしら?マントを羽だと思ってちょっと飛んでごらんなさいよ」
ルドヴィーク立ち上がり、マントをばさばさと動かしてみたものの何も起きない。困ったような顔をしているから、きっと全然イメージが湧いていないんだろうな。
「そうだ、風は全然関係ないけどあったら便利な魔法があるわよ!」
CGクオリティが無理な彼にでもできそうな地味に便利な魔法。
「物を軽くする魔法ってよくない?ソファーもベッドも片手でひょいっとね」
「その魔法は様々な場面で役に立ちそうですね。エナ様、具体的にはどのような原理なのでしょう?」
「ちょっと見てて、今からパントマイムやるわ」
高校時代、文化祭の出し物で練習したことがある。定番の見えない壁があるネタと、鞄が持ち上がらないってやつと、階段フェードアウト。
意外と階段を下りていくようにしゃがむのが難しくて、私の担当は鞄が持ち上がらないってやつだったのよなんてナイス配役。ありがとう言い出した青山。
何か抱えるのにちょうどいい大きさのものを探して、部屋を一周する。
「この…時計なんだけ、ど!」
ドレッサーにあった飾り時計を、さも重そうに大げさに持ち上げてみた。あっとゆーまに直ぐに湧きそうな大きさと重さで、下部に小さな引き出しがついている。何か入ってるのだろうか。
それは、おいといて。
「運びます!」
すかさずマルクが申し出たが、首を振って断る。うっかりパントマイムします宣言をしてしまったけど、通じてないようでなによりだ。
よろよろ歩み寄って、ルドヴィークの目の前に置く。
「ふー、重かった。この時計なんだけど、ちょっと魔法をかけるとふっと軽くなるのよ」
その前に、片手で持とうとしてみる。ぐっと力を入れて踏ん張る。ぐぉー、片手じゃ持ち上がらないとあピール。
あ、軽くする魔法の呪文ってピンとこないな。浮かせるからフライ?ヨイタキイデント、だめだな短いのがいいもん。
「いくわよ、…ライト!」
ヘビィとライト。光る魔法はキャンプファイアーだし、ライトで混乱ないでしょう。
後ろによろける勢いで、時計を持ち上げて見せる。
きょとんとした様子でこちらを見て固まっているルドヴィークに、時計をぽんと投げてやる。
「どう、軽いでしょ!」
「はい。…元々この程度だったはずですが」
うるせー、なんでこんな客間の時計の重さを知ってる!?
「持てないものが持てるようになる…。これがパントマイム?」
「ばっちり聞いてたしね!」
せっかく便利な魔法を授けてあげようと思ったのに、大失敗だ。
「御使い様!!」
やさぐれる前に、男の人が怒鳴り込みに来た。がっちりしてる男の使用人。執事でもないしこういう人の事何て呼んでるんだろ。女の子はメイドっていうのにね。従僕?
「癒の勇者と名乗る者が訪ねてこられて…ただ隣国の勇者の事は詳細が出回っておらず確認がとれておりません。いかがしましょう」
って言われててもなぁ。
「勇者を導く御使いは各勇者の元へ現れるのですか?」
「勇者の力が4つに分かれたのは今回からです。御使い様の事は特に触れられておらず…エナ様が来られる前日に信託がありお迎えに行かせていただいた次第でして」
今回からです、っていう謎情報よ。んー、とりあえず会えば本物か偽物か分かるかな?御使いの勘で。
いやでもルドヴィークのこと別に特別だとか感じないし無理かな。
「とりあえず顔だけ見て見ましょうか。どこに居るの」
「まだ城に上げていません。門の所に…あの馬です」
バルコニーから乗り出して、外を確認する。馬っぽいシルエットは判別できるけど、そこに寄りそう人の等見えるはずもない。
「エナ」
ルドヴィークに呼ばれる。作戦会議をすべく振り向こうとしたが、背中からぐぐっと引っ張られるように体が持ち上がって叶わない。
背中っていうか、肩甲骨?不思議な違和感と、左右の視界が陰る存在感。
つま先が浮いて、息を吸い込んだタイミングで聞こえる羽ばたき。落ち着こう、深呼吸。すってーはいて。すって、はく。
バサっ バサっ
「……………ルドヴィーク?」
「なんでしょうか。俺も着いて行った方が?」
待って、おかしい。私に翼が生えて、動揺しているのが私しかいない。
「この羽、貴方の魔法ですよね?」
「そうなのですか?」
え、無自覚なの。
「今何か考えてました?身を乗り出したから、私が飛んでいくとでも思いましたか」
「えぇまぁ。顔を見ると言ってバルコニーへ向かったので、そこから行くのかと」
「御使いの壁画には今のエナ様のようなお姿が多く描かれていますし、私もやはり隠しておられただけでエナ様にも翼があったのだなと思いましたが…違いましたか」
予想外の流れで空を飛ぶ魔法を会得!!
まぁでもこのまま飛んでいく勇気はないわ。有効範囲も有効時間も飛び方もよく分かんないし。まさかまさか私が!飛べるようになるだなんてねぇー…。
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