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08 シェリーの杖
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深夜に、ふと目が覚めた。
枕元に置いている鉢の上で、4人の妖精が輪になって踊っている。風が木の葉を揺らすようなざわめきと、金属が鳴るようなキーンと心地よい音。
ぼんやりとその光景を眺めていたけれど、まるで歌うような穏やかな音に、いつの間にかまた夢の中に居た。
『シィ』
夢の中で、毎年見てきたコガナの麦畑に立っていた。
『マタ、アタシノコト ミニキタノネ』
…嬉しそうなリナーが、麦穂の海を泳いで遊んでいた。
***
「うんうん、状態はまずますね。」
今日から、杖の制作に入る。と言っても、まだ土壌しか準備できていないんだけど。
「夜に妖精たちが、この鉢を囲んで何かしてました」
「力を贈ってくれていたのね、きっと。いい杖ができるわよ」
先生は、机の上に色んな木の実を並べて行く。
「さぁはじめましょうか」
赤い実、青い実、黄色い実。色もそうだが、種類も様々に揃っている。
苺、コケモモ、グミ、ヤマボウシ、桑の実、リュウノヒゲ、どんぐり。良く分からないのが他にたくさん。
「もしかして、これが種ですか?」
「そうよ、どれでもいいの。どれがいいかしら」
「なら美味しいから苺がいいです。でも、木にはなりませんよね」
杖を作るには、種から育てる必要がある。仮杖が木の枝なのだから、本当の杖も木を育ててそこから切り出すのだと思っていたけど…。
苺は頑張っても木にはならないし、杖にできるほど蔓は固くない。
「植物の核が必要なだけなの。成長する見込みのあるもの、成長する未来があるものならなんでもいいのよ。たとえば有精卵でも構わないんだけど、それだと産れる予定だった命が可哀想だから使わないだけ」
「卵からでも杖が……」
それは知らなかったし、思いもしなかった。
「苺を、その鉢の中に埋めるのよ」
仮杖の粉を指で掘って、苺を埋める。
「次に水をあげます」
「本当に植物を育てるみたいに作るんですね」
「必要なのは、魔力という栄養と、自然界の光と水。確かに植物を育てる手順と同じね」
次に先生は、戸棚から次々に小瓶を取り出す。
「その種と相性のいい水を探さないとね。あなたの妖精と相談して、色々ためしてみるといいわ」
「言葉は通じないって言ってませんでしたっけ」
「頭の中でも心の中でも。やりやすいように妖精に伝えてみなさい。因みに私は口に出しちゃうタイプだけど」
そういえば、家でお父さんが妖精に向かって話すとこなんて見たことなかったな。
そういうタイプだったのかな。
わたしも真似して、まずは想像で話かけてみる。
…どの水がいいと思う?
リナーはわたしの方を、じっと見つめている。けど、意味は伝わってなさそう。
ルーフは小瓶が気になるのか、わたしに見向きもしない。
リーグとダナーはふよふよ浮いてるだけで無反応。
「みんな、どの水がいいと思う?」
次に先生の真似をして、声に出してみる。
今度は何かしら感じ取ってくれたようで、リナーは小瓶の上を行ったり来たり。
リーグとダナーも小瓶の方へ飛んでいって、ルーフと何かお話ししてるみたい。
「先生、声に出したら伝わったみたいです。何ででしょうか」
「妖精と人は違う言葉を使うの。同じものを見ていても、当てはめる音が違ったりね。だから、大事なのはイメージなの。シェリーは頭で考えた時、うまくイメージできていなかったのかもね」
言われてみれば、言葉を意識しただけで、水の事を考えられていなかったかも。
口に出したときは、私自身も水を意識していたように思う。
「こればっかりは馴れの問題ね。私のはクセみたいなものだけど」
水の泡が、弾けるような音が聞こえる。
見れば、ルーフがひとつの小瓶の前で呼んでいた。
「これがいいの?」
問いかけると、体をぷるぷると揺らす。いや、イエスかノーかわかりづらいんだけど…。
わたしの肩まで飛んできたリナーに視線をやると、頭を立てにふっている。
どうやらイエスらしい。
「正解は、これですね!」
「どうかしらねー、育ててみないと…」
「え?」
「シェリーが契約したルーフは川の側の木に住んでいたし、きっといいチョイスだとは思うけどね。どういう成長を見込んで選んだのか分からないから、あなたにとっての正解になるか分からないのよ」
この種を成長させるのはこの水がいい、という決まりはないらしい。
どれでもいいなら、わたしだったら日替わりで色んな水をあげて育ててみたくなっちゃうけど、せっかくわたしの妖精が決めてくれたんだから、選んでくれた水で育てようと思う。
「一体、どの水を勧められたのかしら?」
小瓶のラベルを確認すると、井戸水と書かれていた。
「井戸水って書いてますね」
「よかったわね、聖水や湖の水だったら毎日準備するのが大変だったわよ。南棟の裏に井戸があるから、毎日くんであげてね」
「それは授業じゃなくて、わたしが適当な時間にあげればいいんですか?」
「普通ならそうだけど…足並み揃えるべき子も居ないものね。いいわ、最初の授業に水やりを入れましょう。弓科の子に絡まれるのも嫌だしね」
ひとまず今日のところは小瓶の水をあげて、実際に井戸に行くのは明日からとなった。
枕元に置いている鉢の上で、4人の妖精が輪になって踊っている。風が木の葉を揺らすようなざわめきと、金属が鳴るようなキーンと心地よい音。
ぼんやりとその光景を眺めていたけれど、まるで歌うような穏やかな音に、いつの間にかまた夢の中に居た。
『シィ』
夢の中で、毎年見てきたコガナの麦畑に立っていた。
『マタ、アタシノコト ミニキタノネ』
…嬉しそうなリナーが、麦穂の海を泳いで遊んでいた。
***
「うんうん、状態はまずますね。」
今日から、杖の制作に入る。と言っても、まだ土壌しか準備できていないんだけど。
「夜に妖精たちが、この鉢を囲んで何かしてました」
「力を贈ってくれていたのね、きっと。いい杖ができるわよ」
先生は、机の上に色んな木の実を並べて行く。
「さぁはじめましょうか」
赤い実、青い実、黄色い実。色もそうだが、種類も様々に揃っている。
苺、コケモモ、グミ、ヤマボウシ、桑の実、リュウノヒゲ、どんぐり。良く分からないのが他にたくさん。
「もしかして、これが種ですか?」
「そうよ、どれでもいいの。どれがいいかしら」
「なら美味しいから苺がいいです。でも、木にはなりませんよね」
杖を作るには、種から育てる必要がある。仮杖が木の枝なのだから、本当の杖も木を育ててそこから切り出すのだと思っていたけど…。
苺は頑張っても木にはならないし、杖にできるほど蔓は固くない。
「植物の核が必要なだけなの。成長する見込みのあるもの、成長する未来があるものならなんでもいいのよ。たとえば有精卵でも構わないんだけど、それだと産れる予定だった命が可哀想だから使わないだけ」
「卵からでも杖が……」
それは知らなかったし、思いもしなかった。
「苺を、その鉢の中に埋めるのよ」
仮杖の粉を指で掘って、苺を埋める。
「次に水をあげます」
「本当に植物を育てるみたいに作るんですね」
「必要なのは、魔力という栄養と、自然界の光と水。確かに植物を育てる手順と同じね」
次に先生は、戸棚から次々に小瓶を取り出す。
「その種と相性のいい水を探さないとね。あなたの妖精と相談して、色々ためしてみるといいわ」
「言葉は通じないって言ってませんでしたっけ」
「頭の中でも心の中でも。やりやすいように妖精に伝えてみなさい。因みに私は口に出しちゃうタイプだけど」
そういえば、家でお父さんが妖精に向かって話すとこなんて見たことなかったな。
そういうタイプだったのかな。
わたしも真似して、まずは想像で話かけてみる。
…どの水がいいと思う?
リナーはわたしの方を、じっと見つめている。けど、意味は伝わってなさそう。
ルーフは小瓶が気になるのか、わたしに見向きもしない。
リーグとダナーはふよふよ浮いてるだけで無反応。
「みんな、どの水がいいと思う?」
次に先生の真似をして、声に出してみる。
今度は何かしら感じ取ってくれたようで、リナーは小瓶の上を行ったり来たり。
リーグとダナーも小瓶の方へ飛んでいって、ルーフと何かお話ししてるみたい。
「先生、声に出したら伝わったみたいです。何ででしょうか」
「妖精と人は違う言葉を使うの。同じものを見ていても、当てはめる音が違ったりね。だから、大事なのはイメージなの。シェリーは頭で考えた時、うまくイメージできていなかったのかもね」
言われてみれば、言葉を意識しただけで、水の事を考えられていなかったかも。
口に出したときは、私自身も水を意識していたように思う。
「こればっかりは馴れの問題ね。私のはクセみたいなものだけど」
水の泡が、弾けるような音が聞こえる。
見れば、ルーフがひとつの小瓶の前で呼んでいた。
「これがいいの?」
問いかけると、体をぷるぷると揺らす。いや、イエスかノーかわかりづらいんだけど…。
わたしの肩まで飛んできたリナーに視線をやると、頭を立てにふっている。
どうやらイエスらしい。
「正解は、これですね!」
「どうかしらねー、育ててみないと…」
「え?」
「シェリーが契約したルーフは川の側の木に住んでいたし、きっといいチョイスだとは思うけどね。どういう成長を見込んで選んだのか分からないから、あなたにとっての正解になるか分からないのよ」
この種を成長させるのはこの水がいい、という決まりはないらしい。
どれでもいいなら、わたしだったら日替わりで色んな水をあげて育ててみたくなっちゃうけど、せっかくわたしの妖精が決めてくれたんだから、選んでくれた水で育てようと思う。
「一体、どの水を勧められたのかしら?」
小瓶のラベルを確認すると、井戸水と書かれていた。
「井戸水って書いてますね」
「よかったわね、聖水や湖の水だったら毎日準備するのが大変だったわよ。南棟の裏に井戸があるから、毎日くんであげてね」
「それは授業じゃなくて、わたしが適当な時間にあげればいいんですか?」
「普通ならそうだけど…足並み揃えるべき子も居ないものね。いいわ、最初の授業に水やりを入れましょう。弓科の子に絡まれるのも嫌だしね」
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