アヤノ ~捨てられた歌姫は骨を拾われる、のか?~

momomo

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第08話 宿、そして翌日

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 ギルドから紹介された宿は、思ったより大きな宿だった。看板に書かれた屋号は『熊々亭』。
「もちっと、良い名前はなかったんかい!!」
 ミミが奇声を上げるが、全員スルーして中に入る。
「看板に偽りあり! ここはムッサイおっさんが居るべき!!」
 ビシッと言う効果音が出るかに思える勢いで、ミミがカウンターの美人を指差して言い放つ。そんなカウンターの30代前半と思える美人は、一瞬驚くが直ぐに笑顔を浮かべた。
「ごめんね。熊じゃ無くって、こんな美人で」
「グオッ! ヌケヌケと言う! でも、事実だから言い返せん!」
 アホな事を言っているミミの頭をペチっと叩いて、俺が用件を伝えた。
「新成人の冒険者ね。雑魚寝なら…」
「個室で!!」
「あら、大丈夫?」
 新成人という事と、装備はともかく、その下に身につけている衣服から孤児ないしはそれに類する者と判断して、当たり前のように『雑魚寝なら』と言おうとするカウンターの美女。もしかしたら『雑魚寝なら』の後には『うまやなら』が続くのかもしれない。
 それ故に、ミミのヤツが例のごとく、被せるようにして言った、『個室で』と言う発言には、かなり驚いたようだ。
「大丈ブイ! 四人分、夕食と朝食付きで、締めて92ダリ!!」
 そう言い放ちながら、カウンターに前もって準備していたお金を置く。宿泊費が一人当たり20ダリ、食事代が朝夕合わせて3ダリだ。
「あらあら、頑張ったのね。優秀なのかな?」
「両方! メッサ頑張った!!」
 そう言って、皆無な胸を張るミミ。そして、それを見て微笑むカウンターの美人だったが、直ぐに少し困った顔になる。
「う~ん、どうしよう。個室は二部屋しか空いてないの」
 なるほど、同性四人や、男女二人ずつなら問題ないが、俺達のように男一人、女三人だと二人部屋二つと言う訳にはいかない。
 ここで、俺と誰か一人が恋人同士だったのなら問題ないのだが、宿で長年カウンター業務をやっていると思われる彼女は、その経験から俺達四人の関係性を見て取ったようだ。
「オー・マイ・ガー! なんてこったい! こんな伏兵が潜んでいたとは! 孔明の罠か!」
 アホな事を言うミミはともかく、さすがにこれは予定外だ。二人部屋に一人で泊まる事は無論可能では有る。だが、当然宿泊費は二人分かかる。まあ、現状の俺達の資金であれば、出来ない訳ではないが、部屋自体が二部屋しか空いてない以上どうしようもない。仮に、部屋が余っていたにしろ、着の身着のまま状態の身としては、色々買わなくてはいけない者が目白押しだ。お金はいくらあっても足りない。……所で、目白押しの目白って何だ?
 この状況を打破したのは、ティアのあっけらかんとした声だった。
「えっ? 私とロウで一部屋で良いよ。孤児院出も、ずっと一緒だったし」
「マジッ?」
「良いのか、ティア」
「うん、別に問題ないけど?」
 相次いでミミとシェーラが聞くが、ティアは特になんの気負いも無く返した。
「分かってるよ、ね!」
 ミミが、俺の背中をバシッと強く叩き、そう言ってくる。
 まあ、言いたい事は分かる。だけどな、前世は別として今世では、俺は生後間もなく、ティアは三歳頃から同じ孤児院で生活してるんだ。物心ついた時には横にいたんだよ。ほぼ家族だよ。10歳ぐらいまでは、一緒に風呂(水風呂だけどな)にも入ってた。
 まあ、前世の記憶を思い出したから、若干それが影響している事は否定しないが、まだまだ家族という意識の方が強い。
「あのなー、お前は俺をなんだと思ってる」
「え、痩せ狼?」
「……せめて、痩せ、は抜けよ。狼もしくは牙狼とかさ」
「え~っ! そんな格好良くあるか! ハイエナくりそつな痩せ狼で十分!!」
 ハイエナって、おま……。まあ、痩せて、ガリガリ一歩手前なのは認めるけどさ……。それは、スラム近くの孤児院で、他の孤児院より食糧事情が悪かったせいだ。ティアも痩せてるだろ……。
 そういえば、『痩せ狼』を最初見た時、俺も『これ狼じゃなく、ハイエナだろ!』と突っ込みたくなった。狼の持つ精悍さや知性が全く感じられなかったからだ。アレに『狼』の名を付けた者にもの申したい。いやマジで。
 『痩せ狼』自体についてはともかく、ミミには言い返そうと思ったんだが、言い負けるのが目に見えていたので止めておいた。無駄なエネルギーは使わないにこした事はない。
「あら、話が纏まったのね。部屋は、ここから一番近い101と102ね。女の子が多いから、丁度良いね。あと、これが食券。赤が夕食、青が朝食。食堂は隣、そこの扉からいけるから。向こうで食券を渡してね」
 屋号とは似ても似つかないカウンターのお姉さんは、木で出来た二枚の食券をそれぞれに渡してきた。
 部屋割りは、ミミとシェーラが101、俺とティアが102となった。
 と言う訳で、それぞれの部屋へと入ろうとすると、ミミのヤツが「ティア、気をつけてね!」と言ってきたので、「シェーラ、気をつけろよ」と言って置いた。それぞれ言われたティアとシェーラは、意味が分からず首をかしげていた。
 まあ、ミミに関しては、ズカ属性はあっても、それだけだろうからシェーラは無事だろうがね。

 部屋で一旦落ち着いた後、各自がタオル等の最低限必要な物を買いに行き、宿の浴場(水風呂というか、水がためてある桶が有るだけ)で汗を流すなどした。
 俺はこの間、ずっと『気配察知』スキルを実行し続けた。MPが切れると回復を待って、まただ。これは、寝る寸前まで実行する。多分、今後はこのスキルが俺達の生命線となるはずだからだ。だから、少しでも早く成長させ、使えるレベルにしなくては成らない。
 現在は視界が広い草原地帯が活動域だが、その後は森なども活動域となっていく。森の視界はほとんど無い。現在の『気配察知』の認識範囲の10㍍と言う状態では、話にならないからな。できるだけ早く、スキルレベルを上げておかないと。
 一通りのやるべき事が終わった俺が、『気配察知』スキルを使いながらベッドに横になっていると、同じように隣のベッドに横になったティアが話しかけてきた。
 多分、何か言ってくるだろう、とは思ってはいたので、ある程度気構えてはいた。
「ねえ。ロウ…… 私ってブスかな」
「そうだな」
「即答!」
「いや、美人かブスか、って言われればブスだろう」
「……じゃあ、普通かブスかなら?」
「う~ん微妙だな」
「微妙なんだ……」
「ああ、普通よりのブスか、ブスよりの普通か、悩む所だよな」
「悩む所、そこ!」
「そうだけど」
「…………」
「なんだ、顔、気にしてるのか?」
「…………」
「心配すんな、嫁のもらい手が無かったら、俺がもらってやるよ」
「えぇー!!!」
「最悪、俺がいると思えば楽だろう」
「え、えっと……」
「まあ、俺としても、ティアなら全然問題ないしな。なあ、俺達が結婚したとしてイメージしてみろよ、何か問題がありそうか?」
「えっと…… 問題ある気はしない、かな……」
「だよな。だから問題ない。売れ残る事なんか気にするな。骨は拾ってやる」
「骨って言った! 骨って!」
「(笑)骨が嫌なら、シェーラ位とは言わないけど、肉付けろよ」
 バフバフと枕で叩いてくるティアの攻撃を、手でカバーしながら俺は考える。ティアが顔の事で言いたかったのは、もちろん天川の事だ。だが俺は、わざと別の事に話をすり替えた。そして、本気で『俺がいる!』的にでは無く、冗談的な言い方にした。それは、俺達の関係が『孤児院的家族』であって『恋人』やそれに近い程の関係ではないからだ。
 だが、完全にいい加減な話としてでは無く、実際に結婚したら、と言う状況をイメージさせる事で多少の現実感も与えた。それによって、僅かではあるが彼女に別の未来像を挿入したかったのだ。その未来像が、天川の事にまつわる絶望感に、細くとも光として差すように。
 ちなみに、ティアに言った、俺達の結婚による問題と言う事については、無くて当たり前なんだよ。なんせ、今の状態で俺との結婚生活を思い浮かべれば、それはそのまま孤児院での生活となる。つまり、今までの生活関係が思い浮かぶという事さ。
 孤児院自体はともかく、孤児院時代の俺達は完全に家族状態であり、全く問題など無い関係だった。で有れば、そのイメージに違和感や問題点が浮かぶ事はない。これは、いわゆるレトリックと言うヤツだな。
 とはいえ、俺が出来たのは僅かにこれだけだった。実際、彼女の心に対してどれだけの効果があったかは分からない。所詮レトリックで有り、根本的な解決は全くもって行われていないのだから……。
 その晩、彼女は遅い時間まで、ベッドの中で声を押し殺して泣いていた。俺は、それに気づかないふりをする事しか出来なかった。無能だ。無力だ。自分の力のなさを思い知ったよ……。
 
 翌朝、ティアの「おはよう! 朝だよ!」の声で目を覚ます。彼女の瞳は、よく見ないと分からない程ではあるが、確実に赤かった。そして、俺達の二日目が始まる。
 新成人冒険者にとっては、二日目からが本当の冒険者活動だと言える。初日は、間引きされたフィールドで弱いモンスターだけを相手にすれば良かった。
 だが、今日からは違う。昨日のうちに、王都周辺に残されていたレベル1~2程のモンスターは、ほぼ刈り尽くしたと言っていい。俺達新成人冒険者の手によって、だ。
 そのため、今日からは昨日よりも遠くまで行く必要があり、高レベルのモンスターと遭遇する可能性が高くなる。つまり、昨日の何倍も警戒が必要だって事だ。
「てな訳で、二日目! ガンガン行って、ガッツガッツ稼ぐよー!! 私の替え下着のために!!」
 だから、こんな事を言うアホの頭は、当然引っぱたいたのは言うまでもない。
 まあ、下着の事に関しては気持ちは分かる。ミミも、アレで、一応女の子だ。着の身着のままはさすがに、な。
 ちなみに俺達孤児組はともかく、ミミは親が居て、その親元から出た訳なので下着の替えぐらいは、と思ったんだが……。
「あにょね、口減らしに子供を売っぱらおうって親が、着替えなんか持たすと思っちょるんかぁー!!」
 との事。
 まあ、親が居るから幸せ、とは限らないって事だな。俺の場合、生後間もない赤ちゃんをスラムに捨てるような親に育てられるのと、最低限とはいえ生活が出来る孤児院で育てられるのとでは、どちらか良かったのか、って事だな。多分、後者だと思うよ。
 この日、俺達は宿屋を出ると、ギルドへは向かわず真っ直ぐに西門を目指す。俺達のように、まだ依頼を受けられない者が、朝、ギルドに行く必要は無いからだ。
 そして、この移動の間も、当然ながらMPの減りを見ながらスキルのレベル上げを行っていく。攻撃スキル以外持っていないミミを除いてだが。
 ティアは『歌唱』、シェーラは『強力ごうりき』、俺は『気配察知』だな。
 ミミは、内門を過ぎて畑地に入った段階から、上空に向かって『ファイヤー・ボール』を放っていく。ただ、周囲に人が居たり、馬車などが居る場合は出来ないので、あまり効率は良くない。
 この世界の馬は、軍馬以外でもある程度魔法になれているので、近くで魔法が放たれても、それほど驚いて竿立ったりする事は無い。何せ、馬車移動時はモンスターや盗賊に襲われる事が普通にあり、その際、護衛に魔法使いがいるのも普通だからだ。
 それでもやはり、通常、魔法が使用されない場所で使用すると、馬も驚く。当然、人間も。だから使えない。
「おにょれ~! 絶対、時間を作って、門近くでスキルレベル上げしちゃる!!」
 そんなミミを宥めながらの移動となった。
 
 外門を通過した。一応、戦闘フィールドだ。
 一般冒険者はギルドに寄っているるので、この時間はまだそれらしい姿は周囲には無い。他の新成人組も見当たらず、俺達だけのようだ。もちろん、既に視界外に移動してしまっている可能性も有るんだけどな。
「うっしゃ~! 一番乗り!」
「我々しか居ないという事は、それだけ危険だという事だ」
「そうとも言う!!」
 今日のミミとティアは、リュックを背負っている。これは昨日の反省の元、夕方に買って置いた物だ。何せ昨日は、薬草類を採っていく気満々だったくせに、入れ物を一切持っていなかったのだから……。
 このリュックは当然中古で、かなりへたっているが、そうそう直ぐに破れる程ではない。ちなみに、このリュックを背負っているのが、体力のないティアとミミなのは、戦闘時激しく動く俺とシェーラが背負う訳には行かなかったからだ。入れた薬草類がシェイクされて痛んだら、元も子もないからな。
 昨日、魔石やドロップポーションを入れていた、ミミ持参の小汚い小袋は、ミミと俺のベルトに付けられている。
「手はずは昨日と同じね! バチコン!と行って、スパッと盗ってウハウハ!!」
「ミミちゃん、それって、手はずって言わないよ」
「とりあえず、ガンガン行こうぜ!、でよろ!!」
 よろ、じゃねーよ! 全く。まあ、最初は全力で行く方が良いのは間違いないけどな。昨日の感覚を取り戻しておきたいし。
「んじゃ、ティア、まず、ハイパードー○の歌からいったんさい!」
 そう言うミミの指示で、多分前もって話し合っていたのか、ティアはためらわずに直ぐに唄いだした。
 ……聞いた事がない歌だ。自分のパラメーターを見ると、『力』と『素早さ』に+2、『スタミナ』と『運』に+1が入っている。…あれ、時々『運』が+2に成ったりするぞ。安定してないな。
「うっしゃ~! 伊達に楽勝が付いてないね~!」
 楽勝? まあ、楽勝かどうかは別にして、最初に遭遇した『緑大トカゲ』、次の『痩せ狼』四匹は全く問題なく狩れている。瞬殺とまでは行かないが、サクッと終わったのは間違いない。
 そして、『スティール』も、『緑大トカゲ』『痩せ狼』共に一匹ずつから魔石を盗る事が出来た。良い滑り出しだろう。
 さて、この戦闘時だが、一番大変なのは実はティアかもしれない。なぜなら、俺の状況を見極めて、歌を八代な『ラッキーソング』に切り替える必要があるからだ。
 また、状況によっては、他のメンバーに危険が及ぶ場合には、『ラッキーソング』に切り替えない判断も必要となってくる。
 『ラッキーソング』は、俺だけに向け、スポットで唄うため、他のメンバーにそれまで付与されていた補正値が、急にゼロになる事から、感覚が一気に変わってしまう。とても危険だ。だから、状況の見極めは難しく、大変なんだよ。
 ところで、今日の行動だが、昨日と違い危険度が高い事を考慮して、『スティール』にはこだわらない事にしている。手加減なんかしている余裕はない、って事だ。もちろん、そんな中でも出来るタイミングがあれば、当然やるけどな。
 そんな感じで、時折薬草類の採取も行いながら、一時間半程狩りを続けた時、ティアのいつにない大きな声が俺達の耳を打つ。
「前! 10匹以上! 狼!!」
 昨日からの経験で分かったのだが、俺達の中で一番眼が良いのはティアのようだ。彼女が見付けたのは、こちらに向かって来ている13匹の『痩せ狼』だった。その距離80㍍ほど。微妙な高低差によって、それまでは見えていなかったようだ。
 俺はいつものように、即座に前に出たミミとシェーラの間に入り、二人のスキル発動後のフォローに入る。
 そのポジション取りが完成した時、ミミからティアに声が掛けられる。
「ティア! 不運!! 狼にだよ!! 絶対、こっちに掛けたら駄目だかんね!!」
 この歌も前もって話し合っていたのだろう。だからティアは、ミミが『不運』と言った瞬間には『歌唱』スキルを実行していた。今回は、イントロ無しでいきなり歌詞部分からだ。初めて聴くが、どうやらそう言うことも可能らしい。
 ティアの歌声が流れ出した時、『痩せ狼』との彼我の差は50㍍程にまで近づいていた。
 …………
 ……この世界における『歌唱』と言うスキルの力とは、どのようなモノなのだろうか。いや、この場合は、『運』と言うパラメーターが与える効果とは、と言うべきか……。
 ティアの歌、『事故』だの『天災』がどうだのと言う歌が流れ出した直後、先頭を走っていた『痩せ狼』が唐突に転んだ。何かに足を取られたのか、前転するように地面に突っ込んで、それに後続の二匹が巻き込まれ団子状になって転がる。更に、それを避けようとした他の二匹が左右に避けると、その左右それぞれの位置に居た別の『痩せ狼』にぶつかり、周囲の個体を巻き込んで転んでしまう。
 その状況を見て取った、ミミとシェーラは、即座にその団子になっている『痩せ狼』達に『ファイヤー・ストーム』『地裂斬』の範囲攻撃スキルを放つ。
 その後も、続けざまに後続に対しても同スキルを連続して叩き込む。前方の団子によって、行く足の止まっていた後続にそれを避ける事が出来るはずも無く、範囲攻撃スキルに捉えられ、命を刈り取られていった。
 最後は、一番最初に転がった三匹の団子に俺が駆け込み、切り付けつつ『スティール』を実行して終わりだ。
 更に、『ファイヤー・ストーム』で死にきっていなかった一匹から『スティール』で『牙狼ナイフ』を入手できるというおまけ付き。

「不運とは、恐ろしいな」
 状況が完全に落ち着き、一息ついた所でシェーラがぼそりと呟いた。その事については、俺も完全に同意する。しかし、どこから、どこまでが『不運』による効果なのだろうか? 分からないな……
「ティア! グッジョブ!!」
 俺達と違い、満面の笑みで、そう言ってくるミミに対して、ティアは若干戸惑い気味に「う、うん…」とだけ返していた。うん、そうだよな、戸惑うよな…普通は。

 その後、試しに『スライム』と『緑大トカゲ』にも『不運ソング』を試したのだが、思うような効果は発揮されなかった。その後出会った『痩せ狼』には、効果の差異はあるものの、間違いなく効果は出ていた。
「うみゅ~、対象の知力が一定以上必要なんかもしんないね」
 ミミは、そう分析した。なんとなく、有りそうな『設定』では有る。
 と、言う訳で、更なる検証を行っていく。
 今度は『子守歌』だ。遭遇モンスターの個体数が少ない場合だけに限定して検証する。…………こちらも、『痩せ狼』にはある程度効果があったが、『スライム』と『緑大トカゲ』には全く効果が無かった。
「子守歌はまだレジスト率が高いから、もうちょっちスキルレベルが上がるまで封印、だやね」
 子守歌を聴いた『痩せ狼』は一応眠りそうになるが、そのためつんのめったりする動きによって直ぐに目を覚ましていた。確かに、まだ実戦で使用するのは危なそうだ。
 ちなみに、子守歌は、童謡、某昔話のテーマソング、演歌等、複数の歌を試している。効果は、似たり寄ったりで、大差は無い。比較的、童謡が少し効果があったかな?と言う程度だ。
 バフと違ってデバフは、自身のパラメーターで確認が出来ないので数値的な実証が出来ない。試しに俺達に掛けて、と言うのは、『運』と言う要素が曖昧すぎて怖いので、試せないで居る……。
 
 そして『不運ソング』が最も効果を発揮したのは、俺達が初めて遭遇する『グリーンゴブリン』の群れだった。
 『グリーンゴブリン』、これは複数種居るゴブリン種の一番弱い種である。ただ、弱い、と言ってもレベル4から6程と、俺達からすれば十分に、いや、十二分に強い。
 だから、遭遇直後にミミは『不運ソング』をティアに要求した。通常であれば、パーティー全滅の可能性も有る状況だったからだ。
 そして、ティアが山田君とやらの不運を唄う歌を唄い始めると、コメディー映画かよ!と言いたくなるような状況が展開される。
 『痩せ狼』の時のように、これと言った物が無い所で転ぶヤツはもちろん、足を滑らせたあげく隣のヤツを持っていた錆びた剣で切りつけるヤツまで出る始末。中には転んだ拍子に、自分の剣で腹を刺すヤツまでいる……。
 10匹に襲われて、全滅が頭をよぎった俺としては、ただただ唖然とするだけだった。
 結局、四匹を自力で倒し、それ以外は自滅状態のヤツに止めをさすだけに終わった。
 『スティール』に関しては、残念ながら魔石しか手に入らなかったが、全部5ポイントの魔石だったので、全く問題ない。
 更に、「レベルアップ来た~!!」だ。レベル5だな。
 朝からの累積と、今回の『グリーンゴブリン』はレベル6が三匹、レベル5が七匹だった事が大きいだろう。この世界も、前世のゲーム同様に、自身より高いレベルのモンスターを殺した方が入手出来る『経験値』は多い。とは言え、だからといって無理すれば、待っているのは死だけだ。それは、絶対に回避すべきだろう。たとえ、『転生』と言うものが存在していて、死んでも次の『生』が待っている事を知ってるにせよ、だ。
 その後は、例のごとくSP振り分けだ。俺は当然『運』、ティアは今回までは『素早さ』、ミミは荷物持ちの事を考えて『力』に、シェーラはスキルレベル上げのために『MP』へ振った。
 そして、ミミは今回のレベルアップで、『MP』が150に達したため、『MP』が1ポイント回復するのに要する時間が、30秒から20秒に短縮されている。10秒の差と考えれば僅かな時間の差だが、2/3に縮まったと考えれば大きな差だとも言える。何より、この差が明暗を分ける事もあり得るのだから。
「ムッヒョ~! 良い事ずくめだ~! 今のゴブだけで魔石ポイント68! 午前中の魔石とポーション入れれば、それだけで100ダリ越え!! しかも、昼過ぎたばっか! 薬草もあるし! ウッヒョ~見えてきた! 下着の替えのある生活が!!」
 なんとも、微妙な宣言だが、ある意味、地に足がついた宣言だとも言える。
 だが、だからと言って、油断や気は抜かせない。
「分かった分かった。だけど今みたいに、自分たちより高レベルのモンスターに突っ込むのは無しだぞ! ティアの歌があっても、初見のモンスターに効くとは限らないんだからな!」
 今の戦闘は、完全な遭遇戦であり回避は難しかったのだが、それに味を占めて同じような事をするようでは、直ぐに死んでしまう。
 俺の言葉にシェーラも頷いている。ティアもだ。
「お、おぅ。もちのろんよ。私がそんな無茶する訳ないじゃん」
 ……なら、なぜどもる。あと、いつもの感嘆符はどうした! ビックリマークだよ!!
 
  ロウ  15歳
  盗賊  Lv.5
  MP   60
  力    1
  スタミナ 1
  素早さ  12
  器用さ  12
  精神   1
  運    4
  SP   ─
   スキル
    スティール Lv.1
    気配察知  Lv.1
    隠密    Lv.1

  ティア  15歳
  歌姫   Lv.5
  MP   120
  力    1
  スタミナ 6
  素早さ  5
  器用さ  1
  精神   18
  運    ─
  SP   ─
   スキル
    歌唱   Lv.1

  ミミ   15歳
  炎魔術師 Lv.5
  MP   150
  力    2
  スタミナ 3
  素早さ  6
  器用さ  1
  精神   18
  運    ─
  SP   ─
   スキル
    ファイヤーボール  Lv.1
    ファイヤーアロー  Lv.1
    ファイヤーストーム Lv.1

  シェーラ 15歳
  大剣士  Lv.5
  MP   74
  力    12 +2
  スタミナ 12
  素早さ  3
  器用さ  1
  精神   1
  運    ─
  SP   ─
   スキル
    強力ごうりき   Lv.1
    加重   Lv.1
    地裂斬  Lv.1
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