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第23話 骨

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 翌日、早朝からティアに昨晩の決定を伝え、寺西の家へと残し、俺達はスキルレベル上げも兼ねて村の周囲で狩りを行う。
「三人だけって初めてだな」
「だやね~」
「この村の周囲なら問題ないだろう」
 そんな会話をしながら、森の中へと入って行く。そして、『気配察知』でターゲットを選びながら狩りを行った。
 ここも俺達の狩り場じゃないから、荒らす訳には行かない。だから、この村常駐の冒険者達が狩らない、狩っても益がないモンスターを狩る。『痩せ狼』『大蛭』『緑猿』などだな。
 森の中でも比較的古い森に入り、ミミの炎魔法が使いやすいようにする。古い森は、木々が大きく、結果的に木々の間隔が広くなる。更に、早朝であれば地面や草木が朝露で湿っている点も、延焼を防止する効果がある。
 そして、前世で言うところの午前10時頃、『オーク』の集団と遭遇した。10匹程の群れで、雄、雌が半々だ。
 周囲に延焼しやすい物が無かったので、ミミが即座に6発の『ファイヤーアロー』を同時展開させて放つ。その放たれた『ファイヤーアロー』は、ミミにコントロールされ、大きく弧を描いて『オーク』を真横から襲った。
 『オーク』達は、その6発の『ファイヤーアロー』によって、10匹全てが足や下半身を貫かれ動けなくなる。貫通属性を持つ『ファイヤーアロー』ならではの有効的な使用方法だ。
 今回ミミの使った『ファイヤーアロー』は、例の『魔法のコントロール』によって、通常よりも大きく軌道を変えていた。伊達に『魔導師ギルド』から『炎旋』の称号をもらっている訳ではなく、スキル、ステータスに関係しない所での操作は、他の魔法使いより勝っている。こう言った努力だけは怠らないんだよな、ミミってヤツは。
 俺は動けなくなった『オーク』に『ステール』しながら止めを刺すだけの楽なお仕事だ。
 そんな、楽なお仕事の最後の一匹の時、『レア光』が放たれ、その中に剣が現れた。
「レア来たー!!」
「剣か」
「長剣だな。柄の長さ的にバスタードソードの一種だろう」
 両手持ち、片手持ち可能な剣の通称だ。
「蜂よりオークの方がレベルが上だから、闇の双剣より良い物の可能性が高い!!」
 ミミのヤツはそう言うが、俺は微妙だと思っている。
「確かにオークの方がレベルは上だけど、それ程差は無いだろう。一般品も低級回復薬と低級解毒薬で同ランクだし、あんまり期待すんなよ」
 俺の意見にシェーラも頷いている。そうそう良い品がドロップする訳がない。
 その後、戦闘でこの剣を使用してみた所、切れ味は『闇の双剣』には遙かに及ばないが、MP吸収率は同じくらいある事が分かった。
 『鑑定』で詳細が分かるまでは、剣種的にシェーラに使ってもらう事にする。そのため、久しぶりに『闇の双剣』の片割れが俺の背中に帰ってきた。
 シェーラは、このバスタードソードを通常は『魔法のウエストポーチ』に入れておき、使う段階で取り出して使用する。うん、『魔法のウエストポーチ』は便利だ。もっと早く手に入っていれば、『ゾンビ』の時のような騒動にはならなかったんだけどな……。
 ちなみに、俺達の『魔法のウエストポーチ』は、全て『スモールテール』の『袋』を使った物に替えられている。だから、1㍍以上ある剣も、斜めポジション以外でも楽々入る。
 この『袋』を市販のウエストポーチに縫い付けたのは、俺とティアだ。ミミとシェーラは、余りに下手すぎたので途中で止めさせた。あんまり下手過ぎると、『袋』の機能自体を壊す可能性が有ったからだ。いや、マジで下手だったんだよ……。
 
 その後、帰りがけに『ワイルドボア』を発見し、シェーラの『加重』付きの一撃で、頭だけを潰して、そのまま俺の『魔法のウエストポーチ』へと入れて持ち帰る。宿屋のおばさんが『料理人』のJOBで、『血抜き』スキルを持っていると聞いていたので、血抜きは頼むつもり。
 そんな感じで、午前中の狩りを終えた俺達は、宿屋へ帰り、肉を分ける条件でおばさんに『血抜き』をしてもらい、その後一緒に解体をしていたのだが、その作業は一組の冒険者達の声によって中断させられる。
「骨だ! 骨が出た! 北の森から大量の骨がー!」
 裏返った声で叫ぶようにがなっている、言葉の意味が最初は分からなかった。
「うみゅ? 大量死体遺棄場所が発見されたん?」
 俺も、ミミと同じように思った。だが、シェーラだけは、そうは受け取らなかったようだ。
「スケルトンか!」
 シェーラの叫びで、やっと理解した。
「マジかー!!」
「ティアを呼んでくる! 詳細を聞いていてくれ!」
 俺はそれだけミミに言って、寺西の家へと走り出す。全速力で街中を駆け抜け、2分と掛けずにたどり着く。
 家の前には、ティア達三人が出ていた。どうやら、例の冒険者達の声がここにも届いていたようだ。
「ロウ! 何の騒ぎ!?」
「まだ確定じゃないが、もしかしたらスケルトンが出たかもしれない!」
「スケルトン!? アンデッドの!?」
「ああ、今ミミ達が詳細を聞いてる。悪いけど、ティアも来てくれ」
 心配げな顔をする寺西に、ティアは「大丈夫だから!」と笑って言うと、俺と共に宿屋の方向、つまりギルド支部の方向へと向かって走り出す。
「不浄の泉?」
「多分な。骨系のモンスターなんて、アンデッド以外にはいないはずだ」
 俺達がそんな会話をしながら宿屋まで走って行くと、そこでは、ミミが10歳以上年上の冒険者達に指示を飛ばしていた。
「二人は早馬で領都のギルドに連絡! 一人は村長ん所に! あと二人は各外門に走って門閉鎖準備! まだ閉鎖したら駄目だかんね! 外に人がいる間は仮閉鎖! 北門に関しては即時完全閉鎖!! 門付近から外を覗くのも禁止!! スケを呼び寄せるかんね!!」
 17歳の…いや、外見上は12~13歳程度にしか見えない小娘からの指示なのだが、30代前後の冒険者達は不思議な位普通に従っていた。
「ミミちゃの様子からすると、本当に出たんだ……」
 どうやらそうらしい。いろいろと細かな指示を出していたミミが俺達に気付く。
「二人とも! マジで出やがった!! この村、常駐冒険者今5組しか居らんのよ! 一組は領都と近くの村に連絡出すから、たった四組!! 私ら入れて5組で当座何とかせんといかんのんよ! 直ぐ西門から出るから準備!!」
 小さな村だと思っては居たが、常駐冒険者が5組しかいないとは……。これはキツいな。
「ミミ、戦場は!?」
「北西側に広い草原があるらしいんで、そっちにおびき寄せる予定! 出現場所の森が北外門と近すぎるらしいんよ! 500㍍位しか離れてなくって、ついでに北側は農耕地に適していないらしくって、外門と内門の間が200㍍しか無いちゅーおまけ付き! 最悪じゃー!!」
 外門と内門の間が200㍍か、外門付近を破られたら、直ぐに街に手が届くって事だ。確かに最悪だな。
 俺達だけで無く、周囲の村人達も騒ぎ始めている。
「畑に出ているヤツら、全員帰るように言え!」
「子供達で、外に薬草採りに出てるヤツはいないだろーな!」
「地区ごとに人数当たれ。あとで誰それがいませんじゃ話になんねーぞ!」
 村の中の事は彼らに任せるしか無い、俺達は外に行く。
「うっしゃー! 皆! 行くよ!」
 ミミの号令で俺達は西門に向かって走り出す。
「これは、やっぱりミミのせいだな。般若心経を手に入れた時、あんな事を言ったから」
「あー! そうだった! 言ってた! 言ってた! ミミちゃん!」
「む、無実じゃー!! えん罪じゃー!!」
 そんな、いつものやり取りでリラックスする。だが、一人だけシェーラの表情だけが硬い。いつに無いシェーラの様子をいぶかしんでいると、ふと思い当たる事があった。
「シェーラ。ひょっとして、親父おやじさんが無くなったのって、スケルトン戦か?」
 俺がそう言うと、シェーラだけで無くティアも驚いた顔でこっちを向いた。
「えっ! そうなの!?」
 ティアの問に、シェーラは無言で頷いた。
 今日、あの冒険者達が『骨が出た』と言った時、シェーラだけは即座に『スケルトン』と考えた。それだけ、彼女にとって『スケルトン』と言う存在が頭の片隅に常にある存在なのだろう。俺が気付いたのも、あの件があったからだ。以前、父親はモンスター討伐で死亡した事は聞いてはいたが、何のモンスターだかは聞いていなかった。そうか、『スケルトン』か。
かたきって言うのは少し違うかもしれないけど、徹底的に殲滅してやろうぜ」
 そう言うと、シェーラは少し驚いた顔をしたが、直ぐに強く頷いた。
「先ずは、誘導だかんね! その上で殲滅! ティア!般若心経よろ!」
「利くかな~?」
「利く! 利かいでか!! 百鬼夜行を鎮める般若心経が、たかだかスケ公程度に利かんはずが無いっちゅうねん!!」
「そうなの?」
「当~然!!」
「そうなんだ」
 ……はい、ティアの洗脳完了。ティアの『歌唱』は、今までの検証からして、ティアのイメージが大きく作用している事が分かっている、歌詞そのものには実際の所意味は無い。その曲自体にティアがどういったイメージを持っているか、それが付与値に影響を与える。
 仮にティアが『君が代』に筋肉もりもりなイメージを持っていたとすれば、『力』補正値に+5とかが付与される。
 詰まる所、『歌唱』というスキルは、MPエネルギーをイメージという力で特定のベクトルへと変換するスキルだと言える。そのイメージしだいで、ベクトルの方向(パラメーターの種類)、力の強さ(付与される値の大きさ)が変わってくる、と言う事だ。
 だから、ミミは『般若心経はスケルトンに利く』とティアに思い込ませた訳だ。
「ロウ! スティールもよろ!」
 これまた、いつもどおりに、お気楽に言って来る。
「一応、スケルトンの動きを見てからだぞ。スケルトンの方がゾンビよりレベルが上だから、動きも良い可能性が高いからな」
「……ティアの歌がスケルトンに効果があれば良いんだが……」
 久しぶりに口を開いたシェーラだったが、やはり若干ネガティブだ。
「お~、そだ、そだ、あん時みたいに止まれば、スティールし放題!! 楽勝じゃん! ロウ! じゃんじゃん盗れ!!」
 方やミミは、超ポジティブ。
「一応、あの時からすれば、スキルレベルも2、JOBレベルも2上がってるからな。多少レベルが上程度なら、いけない気はしないな」
「あに言ってんの! 般若心経もあるっしょ! 賛美歌であれなら、般若心経なら消滅まで行けるはず!!」
 ……お前は、どこの般若心経信者なんだよ。真言宗教徒か? 空海大好きっ娘か? 護摩焚くのか?。
 そして、移動する事25分。別の門から回り込んでこの時間。近すぎる。
「うげっ! 多過ぎじゃん!!」
 ミミの言うとおり、村の北部に広がる森から、続々と『スケルトン』が手前の草原地帯にあふれ出てきている。草原にいる数だけで言って、5000は楽に越えているのは間違いない。
「と、とにかく誘導!!」
 ミミの言葉に従って、『スケルトン』の集団に対して西側から接近して行く。
 一番近い『スケルトン』まで100㍍程の距離に達した時点で、一部の『スケルトン』がこちらの存在に気づき、移動を開始する。だが、大半の『スケルトン』はこちらに気付いては居らず、てんでバラバラな方向へと移動していた。
 俺達は、出来るだけ多くの『スケルトン』を誘導するために、更に近づいて行く。そして、一番こちらに近い『スケルトン』一匹と接触した。
「動きはゾンビより大分速いぞ! あと、剣を持っていやがる! 片手剣持ち、両手剣持ち両方だ!」
「接近戦は、ゾンビ程は楽はさせてもらえそうにないな」
「シェーラ! あにいってんの!? ゾンビよりメッサ楽じゃん! あの匂いがないだけで、メッサ楽!!」
「うん、それ、同感!」
「ロウ! 気配察知で見といて!」
 ミミはそう言うと、前方から近づいてくる『スケルトン』の集団に対して『ファイヤーストーム』を放った。俺は指示どおり『気配察知』で炎の渦の中で見えなくなっている『スケルトン』の気配を認識し続ける。お、消えた。
「約、3秒で消滅確認!」
「うっしゃー! 炎魔法はスケ公にも有効!!」
「次は、私だな」
 そう言ったシェーラは、20㍍程の距離まで近づいていた『スケルトン』の集団に『地裂斬』を放つ。
 現在、射程80㍍、岩杭の範囲8㍍まで成長した 『地裂斬』は、15匹を巻き込み、その全てを消滅させた。
「範囲内、全部消えたぞ。地裂斬も有効だな」
「えっと、それじゃ、私も」
 そう言ってティアが『歌唱』を発動させると、なんとも場違いな木魚の音が草原に響き渡る。若干、おま抜け感があるが、それもティアが歌い出す…読経?しだすすまでだった。
 読経…面倒だから以降歌で統一するよ。ティアが歌い出すと雰囲気が一変した。荘厳というのだろうか? いつに無い重低音で紡ぎ出される般若心経は、腹の底から響いてくる。
 そして、14、15㍍地点に達していた『スケルトン』の動きが完全に停止した。その後方も、動きがスローモーションとなっており、渋滞を作り出している。
 更に、先頭で完全に停止していた 個体が、徐々に崩れて消滅する。
「うっしゃー! 予定どおり!!」
 ミミが絶叫するのを聞きつつ、横にいたシェーラの肩を叩いて、声を掛ける。
「んじゃ、殲滅してやろうぜ!」
「ああ、殲滅だ」
 シェーラも、静かにではあるが、強く頷いている。そして、剣を持つ手に力が入る。
 シェーラは大丈夫だろう。いろいろ思う事はあっても、暴走するような事はない、はず。……本気で暴走されたら、止められる自信は無い。無理。頼むぞ!シェーラ!。
 俺達は、目的方向へと誘導を行いながら、殲滅戦を実行していった。ところで、『殲滅』なぞと言ったが、俺達四人でどうこうなるはずもない。それでも、最初の『ゾンビ戦』よりは格段に戦果が挙がっている。スキルレベルの上昇に伴うスキル効果範囲の拡大が、大いに影響を与えているからだ。
 俺に関しては、基本『ステール』マシーンだ。
「ロウ! 盗って盗って盗りまくりやがれ~!!」
 ミミがいつになくうるさいのは、『スケルトン』から『ステール』出来た『一般品』が、『低級MP回復薬』だったからだ。
 俺は、ティアの『般若心経』で停止状態の『スケルトン』から『ステール』を繰り返している。消滅する前に『ステール』して、『闇の双剣』で切り付けてMP吸収だ。入手した『低級MP回復薬』は、せっせとミミへと貢ぎつつ、ただひたすらに『スティール』。
 俺達は西側に移動を続けながら、前面の『スケルトン』を確実に消滅させていく。
 今回ばかりはミミも、「魔石がー!!」と口では言うものの、拾おうとはしない。MP回復休憩時に拾おうと思えば拾えるのだが、この『スケルトン』、剣を投げてくるんだよ。『般若心経』で動けなくなって渋滞している後ろからだ。
「般若心経バリアーだー!」
 などと言ってその中で『魔石』を拾っていたミミの直ぐ横に、ドスッと刺さった。ミミ真っ青。そして、ミミは『魔石』を拾わなくなった。
 と言う訳で、俺も『スティール』しながら上も気を付けなくちゃならない。かなりキツい。全くもって『楽々』ではなかった。
 
 『不浄の泉』から湧き出すアンデッドは、初日は5万匹近い数と言われているが、湧いたあとの移動方向は360度だ。谷間のような特殊な地形で無い限り、一方方向に来る数は1/4以下になるはず。故に、一万匹程を消滅させれば、当座は乗り切れる事になる。『不浄の泉』の位置が、森の出口付近にあった場合には1/2近くが草原側に出てくる事になるんだが……。まあ、これは今考えても仕方がない。
 いろいろ考えながら『ステール』を実行していると、「応援が来たようだ!」と言うシェーラの声が聞こえてくる。俺は、ティアの『般若心経』効果範囲内にいるため、周囲がほとんど見えない。半円状に凹んだ『スケルトン』の群れの中にいるからだ。
 しばらく経つと、シェーラの言っていた応援者達の声が聞こえてきた。見ると、三組の村の冒険者のようだ。
 彼らに、ミミが戦列、目的などを説明している。彼らとしてはティアの『般若心経』が疑問なようだが、ミミは「そう言うスキル!」で済ませてしまった。まあ、そんな事をいちいち説明していられるような状況じゃないからな。
 そんな訳で、応援が来たのだが、彼らの大半は俺達よりかなり年上なのだが、レベルは15~18とそれ程高くなく、スキルレベルもお察しだった。いわゆる、生活できればそれでいい組だな。
 だから、以前の『ゾンビ戦』程には、人数分の活躍は期待できない。と言うか、役に立たない。場合によっては、ミミの『火炎旋風』の邪魔をするケースもあった。
 そんな、いろいろと不完全な状態ではあるが、少しずつでも削っていく作業は続ける。
 俺に関しては、『スティール』のスキルレベルが上がったよ。それだけ多くの数を『スティール』したって事だ。ミミのヤツに50本以上貢いだ上で、また200本程が俺の『魔法のウエストポーチ』内に入っている。俺、頑張りすぎだと思うよ。マジで。まあ、投剣問題があるとは言え、『般若心経』で完全に停止した状況だからこそ出来た数字ではある。
 そしてこの日は、夕方ギリギリまで『スケルトン』狩りを行い、大きく遠回りをして村へと帰った。その後は、説明などは全てミミに丸投げして、俺は休ませてもらった。今日は、スタミナ的にではなく、精神的に疲れた。常時投げられる剣を気にしながら、と言うのがキツかった。だから、若干早い時間ではあったが、ベッドに入ると直ぐに意識を手放す。おやすみなさい。
 
 翌日は幸いな事に天気に恵まれた。こんな時に雨なんかが降ると最悪だからな。薄曇りは一番良い天気だと言える。
 と言う事で、今日も昨日と同じ作業だ。死なないように、囲まれないように気をつけながら『スケルトン』を消滅させていくだけのお仕事。誘導に関しては、もう既に出来る状況ではないので、村の北西部でやるだけだ。
 そう思ってたのだが、初っぱなから予定が狂う。なぜなら、既に村の西外門辺りまで『スケルトン』が現れていて、西外門が使えなかったらだ。
 そのため、俺達は南外門から出て西側に回り込んでいく事になった。そして、その途中、西外門付近にいる『スケルトン』をより北西側に誘導する事となる。う~ん、予定外。結局誘導する事になった。まあ、現実なんてこんなものだ。
 そんな誘導をしながらも、やる事は昨日と同じだ。俺はひたすら『スティール』。
「MP回復薬はいくらあっても困らん!!」
 そんなミミのお達しでやらされた。まあ、以前のように、『浄化師』の爺さんを守って『不浄の泉』まで行くとなれば、MPが命綱だから、大量にあるに超した事はない。
 そんな作業のような戦闘に変化が現れたのは、午前10時過ぎ頃。領都から応援冒険者達が到着し、参戦した。王都と違い、領都は小さい。だから、所属している冒険者の数もかなり少ない。
 だが、その人員を使って、何とか戦線を構築して、その上で戦線を押し上げていく。
 ミミは、それが可能なように、『火炎旋風』が使える者を上手く配置するように話し合いを行っていた。この辺りは、『炎旋』の二つ名が発言力を持っていたから出来た事のようだ。
 そんなミミの努力の甲斐あってか、戦線は維持され、少しずつではあるが東側に押し上げていけるようになっていた。
 ティアも、時折頭から『低級回復薬』を被りながら『般若心経』を歌い続けている。ポーションを使うのは、喉の痛みを癒やすためだ。歌は喉が命だからな。
 今回の『スケルトン』は、『ゾンビ』の時と違って、臭いと毒が無い事で、その動きの機敏さからすれば、大分楽ではある。基本、受けるダメージも剣による傷が大半なので、『低級回復薬』等で回復可能だ。そして、『回復薬』系は在庫は十分にある。『解毒薬』の時のような事は無い。
 それでもも時折重傷者は出るようで、『回復薬』や『増血薬』を求める叫び声が聞こえる事もある。俺達のように、ティアの『般若心経バリアー』がない者達は、危険度は大分高いようだ。そんな重傷者も、30分程で戦場復帰する辺りは、魔法というものが存在するファンタジー世界ならではと言う事だろう。
 さて、ティアの『般若心経』だが、検証によってほぼ正確な効果が分かってきた。消滅範囲は、5㍍地点で6秒後、6㍍地点で8秒後、7㍍地点で10秒後であり、それ以降は消滅には至らない。そして、完全停止限界は14㍍で、剣を投げる事が出来ないのは18㍍位までだ。そのため、ティアに投剣が届く事はない。
 そんな訳で、ティアが『般若心経』を唄っている間は、『スケルトン』の攻撃は全く当たらないため、俺は彼女のフォローに付く必要が無い。だから、ひたすら『スティール』という事になる。
 『スティール』で手に入れた『低級MP回復薬』がある程度溜まった段階でミミに持っていく時、それとなくシェーラの様子も見ているが、今のところ問題はなさそうだ。
 彼女の心の内にあるものが、恐怖なのか、怨嗟なのか、憎悪なのかは分からない。だが、そう言った感情を抱きながらも、それをコントロールできるのがシェーラだ。多分、俺達の中で、彼女が一番強いと思う。いろいろな意味で、な。
 
 領都からの応援を入れた戦線が限界に達したのは、応援が来た翌日の事だった。ここで言う『限界』とは、これ以上この人員では戦線を押し上げる事が出来ない所まで来た、と言う意味での限界である。
 それ程多くない人員で、十分な戦果が上げられていたのは、炎魔法使い達による広範囲攻撃『火炎旋風』などがあったからだ。だが、それも草原部分が終わり、森に到達すると使用できなくなる。
 他の広範囲スキルは炎魔法程には使えなくはならないが、木々に遮られるため一度の攻撃による殲滅効果は確実に落ちる。
 そのため、森の手前200㍍地点に戦線を固定して、森から出てくる『スケルトン』を削るだけに終始する事となった。更なる応援、そして『浄化師』が来るのを待つまでだ。
 ティアの『般若心経』で『不浄の泉』を消滅できないか、と言う話もあったが、あの『浄化師』の爺さんですら5分近く掛かっている事を考えると、出来たとしても1時間以上、もしかすれば2時間近く掛かると思えるので、却下となった。
 そんな訳で、現状を維持しつつ、応援を待つよりほかないと言う事だ。
 そして、待望の応援が来たのは、スケルトン発生から五日後で、騎士団及び『浄化師』の爺さんが来たのは、その翌日だった。
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