埋(うずみふ)風――風が吹いたら死体が見つかり、ぼくは少女を殺す夢を見る

三章企画

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少女と死体と夢と現実(4)

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 理由はわからないのだが、ぼくが見つけたのは、そのほとんどが自殺や他殺と言った変死体ばかりで、事故や遭難、病死は対象外のようだった。それもあって、当初は遭難や行方不明者の捜索にも駆り出されていたが、次第に自殺が予想される場合やごく稀に犯人の供述に基づく被害遺体の捜索に呼び出されるように変わっていった。
 当初の人捜しから、ことばは悪いが、遺体探し(それも面倒な)に変わっていくにつれて、捜索依頼に対する職場内でのぼくへの対応も、好意的なものから嫌悪感を帯びたものへと変わっていった。
 例えば、捜索に参加する時間が、職務該当から有給休暇へ変わり、ついには欠勤扱いになった。で、捜索への参加は、土日か祝祭日あるいは早朝か夜間の、プライベートでの参加となった。
 仕事上の待遇というよりも、尋常ではない死者との関わりそのものへの嫌悪感。そちらの方が強かったかもしれない。捜索に加わっている間、出勤すると机の上には塩や榊や厄よけのお札がこれ見よがしに置かれるようになった。
 気持ちは分かるが、わずか五人の職場では、かなり居づらい現状と言わざるを得ない。
 ぼくは、次第に捜索の依頼を断るようになった。だが、断れないものもある。どうあがいたところで、吹いてくる風全てをよけきれる人間など居はしないものだし、よけきれない風には、いつもそれなりの予兆があった。
 あの、少女を殺す悪夢を見る……。
 一口で言えば、そうなる。
 少女を殺す夢。
 それが警察に発覚して逮捕される夢。
 その夢を見てうなされる夢。
 どうしてそんな夢を見るのかと悩み続ける夢。
 夢は、依頼の受否に関わらず見、結局死体を見つけるまで続いた。
 見たい夢ではない。
 だから、夢を見始めたら即座に依頼を引き受け、即刻現場出向くことにしていた。
 今回の場合、週末に依頼を聞いたときには悪夢を見なかった。それで一旦は断ったのだが、昨夜、悪夢を見た。で、引き受けることを即答した。場合によっては、見つかるまで欠勤もやむを得ない。
 覚悟は出来ていた。でないと悪夢を見続けることになる。
 それが嫌だった。

 翌早朝。三月下旬の、まだ夜中と言っていい午前四時半過ぎには、K市街と言えども人通りもほとんどなかった。
 ぼくは六時半に携帯電話のアラームをセットして車を出した。
六時半に現場を引き上げれば、就業時間には充分間に合う計算だった。
 松元町に行くには、自宅からはいったん南進して南九州自動車道に乗って北進。それから西進するのが近道で、そちらに向かうつもりが、気が付くと自動車道に乗るどころか、北進して小野町の北部清掃工場へ向かう丘陵の間道を走っていた。
『ま、いいか』
 ぼくは呟き、車の窓を開けた。早春の冷気が吹き込んできた。
 微かにコンクリートを破砕した粉塵の匂いが混じっている。
 もともと丘陵の雑木林を切り開いて作った道路沿いには、生コン工場や建設資材置き場、建設廃材のリサイクル場が点在しているが人家はない。早朝の覆い被さる木々の闇の中に、時折ヘッドライトに照らされた工場のフェンスや鉄条網が浮かび上がって遠離っていく。ふいにフェンスに反射したヘッドライトの光が、瞼の奥にオレンジ色の光の染みを作り、目の前をゆっくりと流れていった。
 ぼくは車を止めた。
 開いている窓から冷たい外気が静かに吹き込んでくる。
 ぼくは車を降りて振り向いた。
 両側を木々の枝で覆い被された暗闇の中、路面だけがうっすらと浮かび上がり、凝らした眼の中で光の染みが道路と重なりながら踊っている。
 すぐに背後から、やわらかな風が休み休み吹き出し始め、風を感じた背中から後頭部にかけて、ぞくりとした悪寒が走った。
「風に遭った……」
 ぼくは小さく呟いた。あれが、風が来たのだ。
 
 目の前の林は切れ、雑草が覆い被さる中に鉄条網の柵が見えている。
 車のダッシュボードを開け、懐中電灯と昨日もらった周辺地図を取り出した。
 現在地から西に直線で四キロほどの場所に旧松元町役場がある。被捜索者の自宅からでも三キロほど。間にある幾つかの森には捜索済みの斜線が引いてあったが、今ぼくがいる道路周辺は未捜索になっていた。
『たぶん、この中だろう』 
 そう思いながら懐中電灯を向けると、丈の高い雑草の中の、錆びきった鉄条網の柵の向こうに妙に閑散とした建設資材置き場が見えた。有限会社日高建設という傷みきった看板が、外れたまま、やっとのことで軒先にぶら下がっていた。
 ぼくは、松元分遣所に電話を入れた。午前五時半過ぎだったが、当直が直ぐ出た。
 事情を説明し、場所を告げた。
「たぶん、この敷地内の地面の上で見つかる」と。
 このまま、ぼくが敷地の中に入って探せば、直ぐに遺体は見つかるだろう。だが、それではいろいろと面倒なことになる。危うきに近寄らず、だ。
――ぶら下がっていなくて良かった。
 背中のぞくぞくした悪寒を残したまま、ぼくはその場を後にした。
 その日九時の始業前には、見つかった旨の連絡があり、すぐに机の上のお札と榊を片づけて普段通りの作業に入った。今日、火曜日は午後から配送作業が入っている。午前中は、切り返しと堆肥の袋詰めに追われ、休む時間はたぶんないだろう。午後から配送に出れば、工場長と顔を合わすこともないはずだった。
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