埋(うずみふ)風――風が吹いたら死体が見つかり、ぼくは少女を殺す夢を見る

三章企画

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少女が見つかる日(その4)

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 一週間後の六月二十一日。
 薄曇りで、十時過ぎから時折日照雨が走り抜けるような天気になった。
 いつも通りの日曜のひとり作業を続けて、正午前、早飯に事務所に戻った。
 ほどなく、打ち合わせ通り戸田刑事が訪ねてきた。
 瀬ノ尾刑事、確か小藤と言った婦警、それに川南多津子さん、野瀬弁護士が一緒だった。
「例の骨は、川南雄一さんのものと断定されました。それで川南多津子さんにも同道いただきました」
「奥さんの処に、何かあったんですか」
 ぼくは、川南さんの臭いの全くしなかった、多津子さんの部屋を思い出しながら尋ねてみた。
「いや、川南雄一さんの実家の方から提供してもらいました」
「そうですか……」
――だろうな、と改めて思った。
「早速ですが、木塚さんから、川南多津子さんに、発見までの経緯を説明して欲しいんですが」
 戸田刑事が、打ち合わせ通り切り出した。ぼくは頷き、
――事務所の備品倉庫を見せ、七年間、骨の入ったサンプルをここに保管してあったことを話した。
 次ぎに発酵槽へ案内し、一次発酵槽NO.2を見せた。
 発酵槽から、隣接した神村産業の集積場に移動したわずかの間、烈しい驟雨が駆け抜けていった。
 集積場に着いたときには、何ごともなかったかのように、晴れ上がっていた。
 ぼくは、タブグラインダーを示し、グラップルを説明した。
「これで切り刻んだのなら、殺人事件じゃないですか」
 野瀬弁護士が、呆れたように、また非難めかすように吐き捨てた。
「細切れにされて、骨の欠片しか残ってなければ、死因は特定できません。凶器か自白かがないと。既に、死体遺棄・破損では時効が成立していますし、殺人罪での立件は困難でしょう。残念です」
 戸田刑事が噛みしめるように言った。視線は、川南多津子さんを捕らえたままだが、戸田刑事の茫洋とした表情からは、感情が読みとれなかった。
「川南さん、そのグラップルに乗ってみませんか」
 戸田刑事が突然切り出した。
「犯人は、そのグラップルで旦那さん、川南雄一さんを挟みタブグラインダーに放り込んだ。そして粉砕し、ベルトコンベアーで、近々使う予定のチップの山にばらまいた。そこに座って犯人の気持ちになると、何故そんなことをしたのか。我々ではわからない、夫婦だからわかることもあるんじゃありませんか。殺害相手の心当たりとか……。なんとか、思いついてもらいたいんですが」
「ちょっと、君。何てことを言うんだ。少しは彼女の気持ちも考えたらどうなんだ。失踪宣告をしたと言っても、現実にこういう……」
 多津子さんの表情が青ざめ強ばっていく。
――さすがに言い過ぎだ、
 そう思いながら、近々使う予定のチップの山……。
 そう言った戸田刑事のことばが、ひっかかった。戸田刑事は、野瀬弁護士に構わず、ぼそぼそと、しかし腑《はらわた》にしみ通る音韻《こえ》でしゃべり続けている。
「川南さん。あなたは重機運転の免許持ってらっしゃいましたね。動かしてみませんか。あの雷雨の日に、川南さんが動かしたように」
 川南が、と多津子さんがやっとのことで言った。
「何をしたと言うんですか」
「女性の肉体をタブグラインダーで破砕したんです」
 戸田さん、ぼくは思わず大声を上げた。
「それ、本当ですか」
 まちがいなく、と戸田刑事は頷いた。
「川南さんの骨と一緒に、プラスティックの髪留めの破片が発見されましてね。破損してできた罅《ひび》と、破損断面の細かな気泡痕の中からも、女性の血液が検出されました。普通に考えて、血の海にでも浸さないと入りはしません。それに、予備の交換用に保管してあったタブグラインダーの古いスクリーンからも、ふたりの血液が検出されたんです」
「だったら、第三者がふたりを殺害した可能性もあるんじゃないか」
 多津子さんを支えるように立っていた、野瀬弁護士が抗議するように言い放った。戸田刑事は大きく首を振った。
「ええ。その可能性もあります。ただ、ふたりを殺害したとは考えにくいんです」
「どうしてだ?」
「木塚さん。チップを運ぶベルトコンベアーの位置は決まっていますよね」
「ええ、搬入車両の経路を開けておく必要があるので、通常はヤードの中の一番新しく積み始めた山に向かって据えてあるはずです。動かすのは簡単ですけど……」
「近々搬出する予定の山に向かっては、据えてないのが普通……。そういうことですよね」
「ええ」
「ところが、骨片は五月二十九日に堆肥センターに搬入されている。川南さんは、どの山が近々搬出されるかも、搬出先も、搬出後どう取り扱われるかも知っていた。生ゴミと攪拌されて発酵が終わり、出荷の際には、さらに細かく分別され、振り分けられた骨や貝殻などは別途粉砕される。川南さん自身が骨の粉砕作業にあたれば、まさかの事態《はっかく》も防げる。コンベアの移動は、全てを見越した最初の作業です。それができるのは、堆肥センターの人間か、神村産業の人間。そうなりませんか」
 戸田刑事に、視線で問われた野瀬弁護士は黙っていた。
「その日の所在がわからないのは、川南さんだけでした。そして、その夜、十時三十七分、神村産業のここの事務所から、川南さんの自宅に電話が入っています。二十分ほど話していますが、電話を取ったのは、あなたでしょう、川南多津子さん」
「……」
「どんな内容だったか、電話を受けたあなたがどうしたか。聞かせてもらえますか」
「……」
 それは、と野瀬弁護士が口を出した。
「どういう趣旨の質問になるのか、まず聞かせてもらいたい。川南さんには黙秘権もある。はっきりするまで、答えなくてもいいですから」
 ええ、と戸田刑事が哀しげに笑った。
「私なんぞに答える必要はありませんよ。木塚さん、あなたが、あなたの聞きたいことを聞けばいい。あの夜、川南多津子さんが、何を見、誰を見たのか……」
 ぼくは、え、と言ったきりだった。
 戸田刑事のことばは理解できたが、感情がどうしても追いつかない。
 自分のすべき次の行動が思いつかない。
 ただ、戸田刑事を、川南多津子さんを交互に見やるのが精一杯だった。
 見かねた戸田刑事が、そっと一枚の紙切れを握らせてくれた。
 一城美奈子さんの似顔絵……。
 ぼくは、多津子さんに突きつけた。
――この人を、
 一音ごとに、声を絞り出すようにして、やっと言った。
 
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