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目覚め
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形あるものはいつか壊れる。
命あるものはいつか死ぬ。
それは定めであり、義務であり、そして権利だ。
少なくとも、私はそう思う。
白い光。
閉じた目蓋を赤に染める。
顔を背けつつ、目を開ける。
瞬きを数回、意識的に行いつつ
ゆっくりと体を起こす。
光に順応した目に映るのは見慣れない部屋。
二か所ある入口にはボロボロになった垂れ幕。
壁際にはいくつかの麻袋。
随所には燭台と蝋燭の残りかす。
私の近くの一本だけは不自然に真新しい蝋燭に
心もとない炎が揺らめいている。
窓はない。空気の匂いや不自然なほどの静けさから、地下だと判断。
祭場か何かだろうか?
直前の記憶がない。
いつ、どうして、どうやって私はこの場所に来た?
「あの…」
反射的に飛びのく。暗殺者としての本能。
同時に腰のナイフに手を伸ばすが、
いつもと違い、柄に手が当たらない。
視界にとらえたのは白い女、いや、
まだ少女といってもよい年ごろか。
戦いには向かない真っ白なドレスに身を包んだ彼女は、
私の動きを見てあっけにとられているのだろう。
声をかける姿勢のまま固まっている。
表情と動作から敵意はないと判断。
警戒は継続しつつも臨戦態勢は解き、会話を試みる。
「あなたは?」
声がうまく出ないが、意思疎通はできる程度の声量だろう。
「えっと、わたくしは【遺志】の巫女です。名前はわかりません」
巫女。特異な力を持つ者たちの総称。
【風】の巫女は嵐で敵軍を吹き飛ばし、
【癒し】の巫女は死んでさえいなければどんな傷も癒す。
しかし、【遺志】の巫女など聞いたこともない。
暗殺者という仕事の都合上、
現存する巫女は一通り把握しているはずなのに。
巫女が遠慮がちに、
しかし期待に目を輝かせながら言葉を続ける。
「あの、あなたのことを聞いても?」
「話せることはないかな。
言えることは、そうね。
あなたみたいな人は関わらない方が良い人種ってことくらい」
私の言葉を聞いた巫女はしゅんと肩を落としている。
軽い罪悪感。自分のような人間にそんな感情が残っていたことを自嘲する。
私から話せることはないが、この子の話を聞くことはできる。
警戒を解いた私は
口調に気を付けつつ巫女に話しかけた。
「ごめんね。
意地悪してるわけじゃなくて本当に言えないの。
あのさ、ここがどこかはわかる?」
とたんに顔をぱぁっと明るくした巫女。
しかし、すぐに顔を曇らせる。
「いいえ。わたくしも目を覚ましたのはついさっきで…」
「そう。話してくれてありがとね」
この子も状況がわからないのは同じらしい。
それにしてもこの齢の子が
この状況で一人とはさぞ心細かっただろう。
白く美しい髪を撫でる。
嫌がられるかとも思ったが満更でもなさそうだ。
巫女がこちらをじっと見つめる。
落ち着かなくなって口を開く。
「何?」
「ふふっ。お優しい人だな、って。安心しました。
お洋服は真っ黒だし、起きてもお話してくれないし、
怖い人なのかと思いました」
「…私を怖い人だと思うのは正しい判断だけどね。
そんなことはいいか。ここを出るよ。
あなたも来るでしょう?」
「はいっ!」
あふれんばかりの笑顔。調子が狂う。
命あるものはいつか死ぬ。
それは定めであり、義務であり、そして権利だ。
少なくとも、私はそう思う。
白い光。
閉じた目蓋を赤に染める。
顔を背けつつ、目を開ける。
瞬きを数回、意識的に行いつつ
ゆっくりと体を起こす。
光に順応した目に映るのは見慣れない部屋。
二か所ある入口にはボロボロになった垂れ幕。
壁際にはいくつかの麻袋。
随所には燭台と蝋燭の残りかす。
私の近くの一本だけは不自然に真新しい蝋燭に
心もとない炎が揺らめいている。
窓はない。空気の匂いや不自然なほどの静けさから、地下だと判断。
祭場か何かだろうか?
直前の記憶がない。
いつ、どうして、どうやって私はこの場所に来た?
「あの…」
反射的に飛びのく。暗殺者としての本能。
同時に腰のナイフに手を伸ばすが、
いつもと違い、柄に手が当たらない。
視界にとらえたのは白い女、いや、
まだ少女といってもよい年ごろか。
戦いには向かない真っ白なドレスに身を包んだ彼女は、
私の動きを見てあっけにとられているのだろう。
声をかける姿勢のまま固まっている。
表情と動作から敵意はないと判断。
警戒は継続しつつも臨戦態勢は解き、会話を試みる。
「あなたは?」
声がうまく出ないが、意思疎通はできる程度の声量だろう。
「えっと、わたくしは【遺志】の巫女です。名前はわかりません」
巫女。特異な力を持つ者たちの総称。
【風】の巫女は嵐で敵軍を吹き飛ばし、
【癒し】の巫女は死んでさえいなければどんな傷も癒す。
しかし、【遺志】の巫女など聞いたこともない。
暗殺者という仕事の都合上、
現存する巫女は一通り把握しているはずなのに。
巫女が遠慮がちに、
しかし期待に目を輝かせながら言葉を続ける。
「あの、あなたのことを聞いても?」
「話せることはないかな。
言えることは、そうね。
あなたみたいな人は関わらない方が良い人種ってことくらい」
私の言葉を聞いた巫女はしゅんと肩を落としている。
軽い罪悪感。自分のような人間にそんな感情が残っていたことを自嘲する。
私から話せることはないが、この子の話を聞くことはできる。
警戒を解いた私は
口調に気を付けつつ巫女に話しかけた。
「ごめんね。
意地悪してるわけじゃなくて本当に言えないの。
あのさ、ここがどこかはわかる?」
とたんに顔をぱぁっと明るくした巫女。
しかし、すぐに顔を曇らせる。
「いいえ。わたくしも目を覚ましたのはついさっきで…」
「そう。話してくれてありがとね」
この子も状況がわからないのは同じらしい。
それにしてもこの齢の子が
この状況で一人とはさぞ心細かっただろう。
白く美しい髪を撫でる。
嫌がられるかとも思ったが満更でもなさそうだ。
巫女がこちらをじっと見つめる。
落ち着かなくなって口を開く。
「何?」
「ふふっ。お優しい人だな、って。安心しました。
お洋服は真っ黒だし、起きてもお話してくれないし、
怖い人なのかと思いました」
「…私を怖い人だと思うのは正しい判断だけどね。
そんなことはいいか。ここを出るよ。
あなたも来るでしょう?」
「はいっ!」
あふれんばかりの笑顔。調子が狂う。
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