終わった世界を弔うために私達は旅をする

へへいの兵

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束の間の平穏

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数体のアンデッドを倒しつつ
道を進んでいくと、景色に変化があった。
通路の両側に均等な間隔で金属製のドア。

無数のドアのうち、
手前の一つをこじ開けて中に入る。

中は居住スペースのようだった。
ベッドが一つと机といすが一組。
奥にはタンスと本棚もある。

おそらくは他のドアの向こうも同じような構造だろう。
この辺りは居住区だったのかもしれない。

ドアが閉まっていたことが幸いしたのか、
中の家具は存外きれいな状態だった。
アンデッドの気配もない。

振り返る。
巫女に疲労が見える。
表情にこそだしていないものの、
息はあがり、歩幅は狭くなっている。

「ここで休憩しましょうか」

巫女はコクコクと頷いた。



ベッドに腰掛ける巫女。
彼女の呼吸が整うのを待ち、声をかける。
「ねえ」

「はい。なんでしょうか?」
と首をかしげる巫女。

「さっき、名前はわからないって言ってたよね。
何か理由があるの?」

「理由があるか、はわかりません。
えっと、記憶がないんです。
自分の力に関すること以外は何も」

巫女は伏し目がちに答えた。

「そうだったんだ。
ごめんね、答えづらいこと聞いて」

いえ、と小さく言って首をふる巫女。

気まずくなり、考えがまとまらないまま言葉を継ぐ。
私らしくもない。

「名前ないと不便だしさ、
そう、シロナって呼んでいい?
あなた、髪も体も綺麗な白だから。
…ど、どうかな」

気が付けば天井に向いていた視線を
おそるおそる巫女に戻す。

巫女は両目いっぱいに涙をためて瞳をうるうると揺らしていた。
しまった。何かを間違えたか。

「あ、ごめんね。嫌だったら---」
言葉の途中で巫女がぎゅっと抱き着いてきた。

「ううん!うれしいです!
素敵な名前、ありがとうございます!」

これまでの人生、うれし泣きというものと無縁過ぎて
その存在を失念していた。

小声でしろな、しろなと繰り返していた彼女は
何かに気が付いたように
ばっとこちらに顔を向ける。

「あの、あなたのことはっ!
なんとお呼びすればいいでしょうか?」

またもこの上目遣い。
密着された状態でこれをされると
思考能力が何割か落ちる気がする。

「名前か。なくはないけど好きじゃないんだよね。
あなたの、えっと、シロナの好きなように呼んで」

シロナは私に抱き着いたまま真剣に考え込む。
別に、私の呼び名なんて適当でいいのに。

数秒後、自信満々の顔でこちらを見上げる。
「…クロハさん。というのはどうでしょう。
黒いお洋服なのと、戦う姿が華麗でまるで羽のようだったから。
それに…
わたくしのシロナと雰囲気が似てて姉妹みたいでしょう?」

「そ、そうね。いい名前」
なんだろう。なぜか顔が熱い。

「こほん。じゃあ、改めてよろしくね。シロナ」
「はい!よろしくお願いします!クロハさん」
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