終わった世界を弔うために私達は旅をする

へへいの兵

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記憶 ー孤独と誇りー

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「クロハ!クロハっ!」
私を呼ぶ声。
ぱたぱたと足音が近づいてくる。

閉じた視界が暗くなる。
少し眩しかったからちょうどいいな。

「目を覚ましてください!クロハっ!」
なにか勘違いしてる、この子。

片目を開けて返事。
「起きてるよ。死んでもない。
疲れただけだから少し休ませて」

シロナは安堵した表情を一瞬見せたのち、
頬を膨らませる。
「もう、そうならそうと言ってください。
心配しましたよ」

「あはは。ありがと」
…戦闘後にこんな言葉をむけられたこと、今までなかったな。



そのままの体勢で休息。
シロナは炎の女性に祈りを捧げている。

「…え?これって」
シロナのかすれるような声が聞こえた。

起き上がり、彼女の方へ向かう。

そういえば、
死者の記憶は祈りを捧げているときにも見える、と彼女は言っていたな。
何か有力な情報を得たのだろう。

シロナのもとへたどり着く。
彼女の顔をのぞき込んで、驚いた。
目を固く閉じ、涙を流している。

祈りはすでに終わっていたらしく、
白骨死体と白いもや―――【遺志】が残されている。
これまでのどのアンデッドのものよりも大きく、
輪郭がはっきりとしている。

「シロナ。【遺志】、回収しちゃうよ?」
事情が分からないので念のため聞いておく。

シロナが頷いたのを確認し、私は手を伸ばす。

視界が白い光で満たされる。






『アリア。誇りは忘れてはなりませんよ。
あなたはレオンハート家の人間なのですから』

腰に手をあて、こちらの視点に合わせて中腰で話す若い女性。

―――母上。それを言うのは何万回目よ?
言われなくてもわかっているわ。

あたしは誰にも屈しないし、負けない。
誇りってそういうことでしょう?

【炎】の巫女としての力だってちゃんと制御できるし、
お勉強だって欠かしてない。

あたしはこんなにすごいのに。
なのに、なんで。
だれも遊んでくれないの?

学園の初等部に入ったあたしは張り切っていた。

『あら。男爵家のリリーじゃない。
どうせ暇なんでしょう?
あたしのお茶に同席させてあげるわ!』

『ごめんなさい。アリアさま。
急ぎの用事があるので。
失礼します』

…急ぎの用事、ね。

ひそひそ声が聞こえる。
『アリアさまって高飛車で嫌な感じよねぇ』
『ええ。あまりお友達にはなりたくありませんね』

こんなことが続いた夜。
メイドすらいない寮の部屋であたしは泣いた。
決心する。友達なんていらない。

あたしは誇り高いレオンハート家の人間。
有象無象となれ合う必要なんてない。

このさみしさも心細さも、誇り高く生きるには必要なことに違いない。



辺境の地で開かれた社交パーティー。

なんでも学園長とのパイプのある方の主催だそうで、
あたしが属する初等部も含めて学園の全生徒が強制参加。

迷惑な事この上ないわ。
あたしがこんな馴れ合いに参加するわけがないでしょう。

腹いせにテーブルクロスにこっそり着火。
騒ぎになっているうちにパーティー会場であるお屋敷を脱出する。

ふう。こういう時の外の空気は格別ね。

…~…♪

裏手の森からかすかに音がする。
これは、歌?

あたしは不気味に思う一方、
歌をもっとはっきり聞きたいとも思った。

あたしは迷わず森へ。
なにか出たとしても焼き払えばいい、という考えもあった。

左手に火を灯す。これで道も見える。
屋敷の人達が使う道かしら。思ったより歩きやすい。


~~~♪

開けた空間に出る。
歌が急にはっきり聞こえるようになった。

切株に腰掛け、月を見上げる少女。
長い白髪がそよ風になびく。

彼女が紡ぐ静かな歌は森の静寂と調和し、
まるで森が彼女の唇を借りて歌っているかのようだった。

あたしはしばらく見惚れていた。

もっとよく見ようと一歩を踏み出したとき。

ぱきっ。

あたしは枝を踏んでしまった。

歌が止む。
妖精のような女の子がこちらを向く。

曇りのない綺麗な瞳があたしに向く。
きょとんとした表情から満面の笑みへ。

切株を降りた白い少女はたたた、
とこちらへ小走りに近づいてきた。

『こんばんは!今夜は風が気持ちいいですねっ!
あなたもお散歩ですか?』

『あ、いえ。あたしは…』
いきなり距離を詰めてきた少女にあたしは戸惑うばかりだった。

あたしが満足な返答をしないことも意に介さず、
少女はもう一歩距離を詰めてくる。

『わあ、綺麗な赤髪!』
と言ってあたしの髪に触れる。

『ちょ、ちょっと!気安く触れないで!
あたしは誇り高きレオンハート家の…』

少女が悲し気に目尻を下げる。
それを見ていたら言葉に詰まってしまった。

『う、ううん!どうしてもって言うなら
触らせてあげないこともないのよ?』
気が付いたら自分でも驚くようなことを口にしていた。

少女の表情が一瞬で明るくなる。
『はいっ!どうしてもです!』

しばらく黙って髪を撫でられていた。



『ねえ。あなた、名前は?』

『わたくしですか?マシロと言います~』

『マシロね。あたしはアリア・レオンハートよ。
…マシロはここで何をしていたの?』

『お散歩です。本当はお屋敷の外にでちゃダメなんですけどね。
今夜は月がとってもきれいだったので、えへへ』

『お屋敷って、○○卿の?』
あたしがさっきまでいた屋敷の主の名前だ。

『○○様、ですか?存じ上げないですね~』



『アリア様は何歳なんですか?』

『10歳よ』

『あら。同い年ですね、わたくしたち。
なんだか嬉しいです!』

『うーん。マシロ、あなた生まれ月は?』

『霜の月です~』

『ふふん。あたしは雨の月だからあたしの方が上よ。
お姉さまとお呼びなさい!』

『はい!アリアお姉さま!』

『…』
言わせておいて恥ずかしくなってしまった。


他にもいろいろなことを話した。
学園のことや家のこと、好きな食べ物。

だれかとこんなにたくさん話した経験はなかった。
だから、それがこんなに楽しくて
安心するものだとは知らなかった。

『そろそろ、帰らないと』
マシロが切り出した。

『えー。もう少し話さない?』
名残惜しくて、引き留める。

マシロが困った顔をしている。
『そういっていただけて、とっても嬉しいです。
でもそろそろ屋敷のみなさんが起きだしてしまうので…』

『そっか。残念だけどこれでお別れね。
…楽しかったわ、本当に』
これ以上引き留めるのも恰好が悪いと思い、別れを受け入れる。

『はい!わたくしもです!
いつか、どこかで会えるといいですね~!』

小走りで去っていく白い少女。
名残惜しく思いながらその背中を見送っていると
少女がくるりと振り返る。

『あ、最後にひとつだけ!』

なんだろう?

『アリアさんは素敵な人です!
ちょっと不器用だけど、
とっても優しくて、可愛い女の子です』

…。

『だから。
アリアさんが素直になって、
まっすぐに向き合えば!』

『きっとたくさん、良いお友達に恵まれます!』

言葉がでなかったので頷いて答えの代わりにした。

白い少女が朝日に消えていく。
手を振って見送る。

『素直に、ね。』
簡単に言ってくれるじゃない。

でも。
『レオンハート家の人間が
それくらいできないでどうするのかしら』

誇りにかけて、
初めての友達の言葉を守ろうと思った。



それから、いろいろなことがあった。
学園で多くの友人に恵まれ、学園を卒業。
【炎】の巫女として人々を助けたりもした。
婚約の話もあったけど
気が向かずにのらりくらりと避けていたりもした。

マシロと出会った森には何回か訪れたが、
白い少女の姿はなかった。



そして、世界が終わった。
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