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記憶 ー仲間と誇りー
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『アリア様…。王命、です。
【炎】の巫女として記載の場所を防衛するように、とのことで、す…』
言い残して伝令が息絶える。
驚いた。
王命が来たことに、ではない。
王や王をはじめとした指揮系統がまだ生きていたことに。
残った全勢力を一か所に集中させ、アンデッドたちに反撃を試みるのだとか。
守るべき領民も家族も、すでに失っていた。
この屋敷だっていつ襲撃にあうかわからない。
だから、あたしは迷わずに発った。
向かうのは生き残りが避難している古城。
城内には思ったよりも多くの生き残りがいた。
だが、そのだれもかれもが―――
生きているだけだった。
あたしも例外ではないから何とも言えないけど。
近くの兵士に声をかける。
『お疲れ様。王はどこにいらっしゃるの?』
『王は、その、崩御なされました。ここに向かう途中で』
『…そう。わかったわ。ありがとう。』
道中でアンデッドの仲間入り、と。
本当に救いようがないわね。
その場に座りこみたい気持ちを抑え、
少し歩いた先の瓦礫の上に腰を下ろす。
何を考えるでもなく、崩れた階段を眺めていると。
『アリア・レオンハート様ですね?』
声をかけられた。
顔を上げる。青いローブをまとった若い男。
『ええ。そうだけど。何か御用?』
『【予知の御子】、グレイと申します。
アリア様に会っていただきたい方がいます』
御子。男性が特異な力を持つ場合もあり、彼らはそう呼ばれる。
断る気力もなかったため、【予知の御子】とやらについていく。
中庭に出る。壊れた噴水に枯れ木。
見る人の心を癒す、なんて役割はとうに失った空間。
その中央。
御子は石像の前で足を止める。
彼はおもむろにローブから鍵を取り出し、石像の裏側へ。
石像がガリガリと音をたてながら移動。
現れたのは下り階段。
珍しい仕掛けだが、隠し階段自体は珍しくもないので驚かなかった。
『ここが本当に本当の最終防衛ライン、ってところかしら?』
『はい。ここの最奥を守りさえすれば、最悪の未来は避けることができます』
最悪の未来。人類滅亡、とか?
だとしたら手遅れに近いと思うけど。
御子は階段を下る。
地下独特のひんやりとした、かび臭い空気。
『居住区です。決戦が始まったら、非戦闘員はここに退避します。
生き残りを全員収容するだけの容量はあります』
と、言うよりはそれしか生き残りがいないのよね。
通路を進む。
居住区を抜けたのか、左右に並んでいたドアがなくなった。
やがて、少し広い部屋にでる。
幕などの装飾品や燭台。
貴族が使うようなベッド。
ベッドの上には真っ黒な女性が眠っていた。
肩には届かない程度の長さの黒髪。
腰まである外套も黒。烏の刺繍をあしらったブーツも黒。
やけにポケットの多いショートパンツも黒。
黒くないのは露出している脚部と顔くらい。
端正な顔立ちをしているのがむしろ不吉さを助長する。
まるで、物語にでてくる死神みたい。
『彼女は?』
『護衛です。
あとでわかるかと思いますので説明は割愛させてください』
御子はまっすぐに部屋の奥に見える通路へ。
この部屋は目的地ではないらしい。
螺旋状の通路を下る。
さっきよりも少し広く、豪華な部屋に出る。
ベッドの上と椅子に座っている二人の女性。
見覚えのある白い髪と青い髪。
彼女たちを見てあたしは息を飲む。
年月を経て大人びているが…。
『リリーじゃない!あなた、無事だったのね!』
卒業以来会う友人。再会をとうに諦めていた一番の友人。
『お久しぶりです。アリアさま。
う、近いです。熱苦しいです。
…くすっ。
お元気そうでよかった』
『あたしは元気よ!今、元気になった!』
ベッドの上の白い女性に向き合う。
『ねえ、あなた。もしかしてマシロなの?
それとも、妹さん?』
『もう、アリアったら。わたくしですよ。マシロです。
そんなに幼く見えますか?
たしかにあんまり成長しませんでしたけど』
と言って頬を膨らませる彼女。
『やっと、会えた…。
どこにいたのよ!何度も探したんだからね?』
『ごめんなさい。いろいろと事情があって』
肩を落としつつこちらを伺う。
目が笑っているのを隠しきれていない。
『いいわ。許してあげる。』
にやつきを抑えながらあえて横柄に言う。
表情を引き締め、言葉を続ける。
『あのね。マシロ。
あなたに会って伝えたいことがあったの』
言いたい事は言える時に。こんな世界ではなおさら。
『はい。なんでしょう』
にこにことマシロが待つ。
息を吸う。
『ありがとう。あなたの言葉がきっかけで変われた。
あの後さ、がんばって自分に素直になって。
たくさん良い友達ができたんだよ』
『それは、アリアが頑張った結果ですよ。
わたくしはただ言葉をかけただけです』
『ううん。その言葉があたしを動かしたのよ。
もしもあなたと会わなかったら…。
リリーや他の子たちと仲良くなれずに
寂しさを誤魔化しながら生きていたわ』
『ん。そう、ですか。お役に立てていたみたいで嬉しいです』
と柔らかく微笑む。
よいタイミングだと判断したのだろう。
穏やかな表情であたしたちを眺めていたリリーが口を開く。
『さて、積もる話もありますが。
生憎と時間はあまり残されていません。
重要な話を先にして、旧交を温めるのはそのあとにしましょう』
マシロが頷く。
『はい。リリーさんの言う通りです。
グレイさん。お願いしても?』
『はい。皆さんの再会に水を差すようで恐縮ですが、
アリアさんをここにお呼びした理由をお話します』
グレイが話しだす。静かだが力のこもった口調。
『まずは、ふむ。
リリー様が【氷の巫女】でいらっしゃることはご存知ですね?』
黙って頷く。
『リリー様の力を応用し、マシロ様を冷凍保存します』
『…』
無意識のうちに左手が発火している。
手を払って消火。
深呼吸をしてから口を開いた。
『あんた、ふざけてんの?』
御子は顔色一つ変えない。
『いたって真剣です。
特定の方法で人体を生きたまま冷凍し、
仮死状態で病や老いを防ぐ古代技術です。』
『そんなことしてどうするの?』
『僕が【予知の御子】であることは先ほどお話しましたね。
そう遠くないうちに、人間は滅びます』
能力がなくてもわかるわね、そんなこと。
『アリアさんが想像するような最期ではありません。
空が割れ、どこからともなく光が広がり、
一瞬のうちに生存者はアンデッドの仲間入り。
屋内だろうが関係なし。
僕が見たのはそういう光景です』
…何、それ。
そんなのどうしようもないじゃない。
『それでも、僕は人類をあきらめたくない。
打てる手は打とうと思っています』
なるほどね。でも。
『マシロの冷凍保存はどう効果があるの?』
『その光、動かない死体には何の変化も起こさなかったんです。
この冷凍保存は仮死状態になるので、死体としてやり過ごせるかと』
『まあ、可能性はありそうね。マシロである理由は?』
『マシロ様』
御子はマシロに視線をやる。話してもいいか、ということだろう。
彼女が頷いたのを確認し、話を続ける御子。
『マシロ様は【遺志の巫女】です。
死者の遺志を浄化し、力とする。
生き残りとしてふさわしい力でしょう』
え。マシロも巫女だったの?
石?意志?
あたしはマシロを見る。
彼女は静かに微笑んだ。
視線を御子に戻す。
『話はだいたい理解したわ。
それで、あたしは何をすればいいの?』
『アリア様には冷凍保存からの解凍、
つまりマシロ様の復活をお願いできればと思います』
『放っておけば解けてくるんじゃない?』
『冷凍と同じく解凍も技術が必要になります。
そして、冷凍に成功しても解凍で失敗すれば命はありません』
『それでは困るわね。なるほど。
って。あれ?あたし自身はどうやって最期の瞬間を乗り切るのよ?』
『…』
3人とも表情が暗くなる。
御子は首を振る。
『乗り切れないと想定し、時限式の術式を組んでいただきます。』
それは、つまり。
『あたしが死んでもマシロの復活は自動でできるようにしておく、ってことね。
それで、その術式とやらは?』
『え、ええ。それに関しては僕の方で準備してあります。
詳細はのちほど説明しますが、
時が来ればこの蝋燭に火が灯り、冷凍保存されている者を復活させる仕組みです』
珍しく御子が動揺しつつ話す。あたしの返事があっけらかんとしていたからか。
ん?何か引っかかるわね。
『私自身もその仕組みで生き延びられないの?』
『多くの力が本人を対象にすると機能しなくなるのはご存知ですよね。
アリア様の火がアリア様を焼くことはなく、リリー様もご自分の力で凍えることはない。
ちなみに、僕も僕個人の未来は見えません。
特殊な術式とはいえ、その例には漏れません。
お2人自身にはこの方法は使えないのです』
そっか。残念ね。
『あなたはいいの?』
『僕にはやることがあります。最後まで。
それに、あまり人数を増やすと成功率が下がりますから』
揺るぎのない瞳だった。
あたしは力強く頷く。
『いいわ。あたしに任せなさい』
『さすがはアリア様。噂通りの頼もしいお方ですね』
御子はこころなしか安心しているように見える。
ふふん。
さて。
『難しい話はこれくらいでいいかしら?
リリー、マシロ』
2人の方へ向き、提案する。
『せっかくまた会えたのだから
お茶でも飲みながらお話しましょうよ!
御子さんもいかが?』
『お気持ちはうれしいですが、
ここで僕が混ざるのも無粋かと。
皆様でお楽しみください。
そうそう。明日の夜、戦いが始まります。
昼過ぎまではご自由にお過ごしください。
…くれぐれも思い残しのなきよう』
言い残して御子は階段を上って行った。
あたしたち3人は出がらしのお茶と
干からびた携帯食料を片手にお互いの話をした。
今までのどんな豪華な茶会よりも楽しかった。
涙がでるくらい。
夜になっても解散するのが名残惜しく、
最後にはベッドの上で3人仲良く横になった。
世界がこんなことになって。大事な人達を失って。
あたしたちは孤独に耐えてきたんだから。
これくらい幸せになってもいいよね。
…絶対、またここに戻ってくる。
アリア・レオンハートの名にかけて。
両脇に温もりを感じながら意識を手放す。
【炎】の巫女として記載の場所を防衛するように、とのことで、す…』
言い残して伝令が息絶える。
驚いた。
王命が来たことに、ではない。
王や王をはじめとした指揮系統がまだ生きていたことに。
残った全勢力を一か所に集中させ、アンデッドたちに反撃を試みるのだとか。
守るべき領民も家族も、すでに失っていた。
この屋敷だっていつ襲撃にあうかわからない。
だから、あたしは迷わずに発った。
向かうのは生き残りが避難している古城。
城内には思ったよりも多くの生き残りがいた。
だが、そのだれもかれもが―――
生きているだけだった。
あたしも例外ではないから何とも言えないけど。
近くの兵士に声をかける。
『お疲れ様。王はどこにいらっしゃるの?』
『王は、その、崩御なされました。ここに向かう途中で』
『…そう。わかったわ。ありがとう。』
道中でアンデッドの仲間入り、と。
本当に救いようがないわね。
その場に座りこみたい気持ちを抑え、
少し歩いた先の瓦礫の上に腰を下ろす。
何を考えるでもなく、崩れた階段を眺めていると。
『アリア・レオンハート様ですね?』
声をかけられた。
顔を上げる。青いローブをまとった若い男。
『ええ。そうだけど。何か御用?』
『【予知の御子】、グレイと申します。
アリア様に会っていただきたい方がいます』
御子。男性が特異な力を持つ場合もあり、彼らはそう呼ばれる。
断る気力もなかったため、【予知の御子】とやらについていく。
中庭に出る。壊れた噴水に枯れ木。
見る人の心を癒す、なんて役割はとうに失った空間。
その中央。
御子は石像の前で足を止める。
彼はおもむろにローブから鍵を取り出し、石像の裏側へ。
石像がガリガリと音をたてながら移動。
現れたのは下り階段。
珍しい仕掛けだが、隠し階段自体は珍しくもないので驚かなかった。
『ここが本当に本当の最終防衛ライン、ってところかしら?』
『はい。ここの最奥を守りさえすれば、最悪の未来は避けることができます』
最悪の未来。人類滅亡、とか?
だとしたら手遅れに近いと思うけど。
御子は階段を下る。
地下独特のひんやりとした、かび臭い空気。
『居住区です。決戦が始まったら、非戦闘員はここに退避します。
生き残りを全員収容するだけの容量はあります』
と、言うよりはそれしか生き残りがいないのよね。
通路を進む。
居住区を抜けたのか、左右に並んでいたドアがなくなった。
やがて、少し広い部屋にでる。
幕などの装飾品や燭台。
貴族が使うようなベッド。
ベッドの上には真っ黒な女性が眠っていた。
肩には届かない程度の長さの黒髪。
腰まである外套も黒。烏の刺繍をあしらったブーツも黒。
やけにポケットの多いショートパンツも黒。
黒くないのは露出している脚部と顔くらい。
端正な顔立ちをしているのがむしろ不吉さを助長する。
まるで、物語にでてくる死神みたい。
『彼女は?』
『護衛です。
あとでわかるかと思いますので説明は割愛させてください』
御子はまっすぐに部屋の奥に見える通路へ。
この部屋は目的地ではないらしい。
螺旋状の通路を下る。
さっきよりも少し広く、豪華な部屋に出る。
ベッドの上と椅子に座っている二人の女性。
見覚えのある白い髪と青い髪。
彼女たちを見てあたしは息を飲む。
年月を経て大人びているが…。
『リリーじゃない!あなた、無事だったのね!』
卒業以来会う友人。再会をとうに諦めていた一番の友人。
『お久しぶりです。アリアさま。
う、近いです。熱苦しいです。
…くすっ。
お元気そうでよかった』
『あたしは元気よ!今、元気になった!』
ベッドの上の白い女性に向き合う。
『ねえ、あなた。もしかしてマシロなの?
それとも、妹さん?』
『もう、アリアったら。わたくしですよ。マシロです。
そんなに幼く見えますか?
たしかにあんまり成長しませんでしたけど』
と言って頬を膨らませる彼女。
『やっと、会えた…。
どこにいたのよ!何度も探したんだからね?』
『ごめんなさい。いろいろと事情があって』
肩を落としつつこちらを伺う。
目が笑っているのを隠しきれていない。
『いいわ。許してあげる。』
にやつきを抑えながらあえて横柄に言う。
表情を引き締め、言葉を続ける。
『あのね。マシロ。
あなたに会って伝えたいことがあったの』
言いたい事は言える時に。こんな世界ではなおさら。
『はい。なんでしょう』
にこにことマシロが待つ。
息を吸う。
『ありがとう。あなたの言葉がきっかけで変われた。
あの後さ、がんばって自分に素直になって。
たくさん良い友達ができたんだよ』
『それは、アリアが頑張った結果ですよ。
わたくしはただ言葉をかけただけです』
『ううん。その言葉があたしを動かしたのよ。
もしもあなたと会わなかったら…。
リリーや他の子たちと仲良くなれずに
寂しさを誤魔化しながら生きていたわ』
『ん。そう、ですか。お役に立てていたみたいで嬉しいです』
と柔らかく微笑む。
よいタイミングだと判断したのだろう。
穏やかな表情であたしたちを眺めていたリリーが口を開く。
『さて、積もる話もありますが。
生憎と時間はあまり残されていません。
重要な話を先にして、旧交を温めるのはそのあとにしましょう』
マシロが頷く。
『はい。リリーさんの言う通りです。
グレイさん。お願いしても?』
『はい。皆さんの再会に水を差すようで恐縮ですが、
アリアさんをここにお呼びした理由をお話します』
グレイが話しだす。静かだが力のこもった口調。
『まずは、ふむ。
リリー様が【氷の巫女】でいらっしゃることはご存知ですね?』
黙って頷く。
『リリー様の力を応用し、マシロ様を冷凍保存します』
『…』
無意識のうちに左手が発火している。
手を払って消火。
深呼吸をしてから口を開いた。
『あんた、ふざけてんの?』
御子は顔色一つ変えない。
『いたって真剣です。
特定の方法で人体を生きたまま冷凍し、
仮死状態で病や老いを防ぐ古代技術です。』
『そんなことしてどうするの?』
『僕が【予知の御子】であることは先ほどお話しましたね。
そう遠くないうちに、人間は滅びます』
能力がなくてもわかるわね、そんなこと。
『アリアさんが想像するような最期ではありません。
空が割れ、どこからともなく光が広がり、
一瞬のうちに生存者はアンデッドの仲間入り。
屋内だろうが関係なし。
僕が見たのはそういう光景です』
…何、それ。
そんなのどうしようもないじゃない。
『それでも、僕は人類をあきらめたくない。
打てる手は打とうと思っています』
なるほどね。でも。
『マシロの冷凍保存はどう効果があるの?』
『その光、動かない死体には何の変化も起こさなかったんです。
この冷凍保存は仮死状態になるので、死体としてやり過ごせるかと』
『まあ、可能性はありそうね。マシロである理由は?』
『マシロ様』
御子はマシロに視線をやる。話してもいいか、ということだろう。
彼女が頷いたのを確認し、話を続ける御子。
『マシロ様は【遺志の巫女】です。
死者の遺志を浄化し、力とする。
生き残りとしてふさわしい力でしょう』
え。マシロも巫女だったの?
石?意志?
あたしはマシロを見る。
彼女は静かに微笑んだ。
視線を御子に戻す。
『話はだいたい理解したわ。
それで、あたしは何をすればいいの?』
『アリア様には冷凍保存からの解凍、
つまりマシロ様の復活をお願いできればと思います』
『放っておけば解けてくるんじゃない?』
『冷凍と同じく解凍も技術が必要になります。
そして、冷凍に成功しても解凍で失敗すれば命はありません』
『それでは困るわね。なるほど。
って。あれ?あたし自身はどうやって最期の瞬間を乗り切るのよ?』
『…』
3人とも表情が暗くなる。
御子は首を振る。
『乗り切れないと想定し、時限式の術式を組んでいただきます。』
それは、つまり。
『あたしが死んでもマシロの復活は自動でできるようにしておく、ってことね。
それで、その術式とやらは?』
『え、ええ。それに関しては僕の方で準備してあります。
詳細はのちほど説明しますが、
時が来ればこの蝋燭に火が灯り、冷凍保存されている者を復活させる仕組みです』
珍しく御子が動揺しつつ話す。あたしの返事があっけらかんとしていたからか。
ん?何か引っかかるわね。
『私自身もその仕組みで生き延びられないの?』
『多くの力が本人を対象にすると機能しなくなるのはご存知ですよね。
アリア様の火がアリア様を焼くことはなく、リリー様もご自分の力で凍えることはない。
ちなみに、僕も僕個人の未来は見えません。
特殊な術式とはいえ、その例には漏れません。
お2人自身にはこの方法は使えないのです』
そっか。残念ね。
『あなたはいいの?』
『僕にはやることがあります。最後まで。
それに、あまり人数を増やすと成功率が下がりますから』
揺るぎのない瞳だった。
あたしは力強く頷く。
『いいわ。あたしに任せなさい』
『さすがはアリア様。噂通りの頼もしいお方ですね』
御子はこころなしか安心しているように見える。
ふふん。
さて。
『難しい話はこれくらいでいいかしら?
リリー、マシロ』
2人の方へ向き、提案する。
『せっかくまた会えたのだから
お茶でも飲みながらお話しましょうよ!
御子さんもいかが?』
『お気持ちはうれしいですが、
ここで僕が混ざるのも無粋かと。
皆様でお楽しみください。
そうそう。明日の夜、戦いが始まります。
昼過ぎまではご自由にお過ごしください。
…くれぐれも思い残しのなきよう』
言い残して御子は階段を上って行った。
あたしたち3人は出がらしのお茶と
干からびた携帯食料を片手にお互いの話をした。
今までのどんな豪華な茶会よりも楽しかった。
涙がでるくらい。
夜になっても解散するのが名残惜しく、
最後にはベッドの上で3人仲良く横になった。
世界がこんなことになって。大事な人達を失って。
あたしたちは孤独に耐えてきたんだから。
これくらい幸せになってもいいよね。
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