醜い私は妹の恋人に騙され恥をかかされたので、好きな人と旅立つことにしました

つばめ

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屈辱と家族の気持ち

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 2人はゆっくりとこちらに歩いてきた。目の前に来ると、ゾフィーナは派手な扇を口元に当て、私の姿を上から下まで舐めるように見てきた。

「まあ、お姉さまったら……私が着たデビュタントのドレスを着ていらしたのね」

 ゾフィーナの言葉に衝撃を受けた。

「何を言っているの……これは……」

 私は目を見開いたまま、ゾフィーナの隣にいるブルクハルト卿を見た。
 屋敷に来た時と違い、整った顔に、残虐な表情を浮かべている。違い過ぎる表情に、本当に同一人物だろうかと思った。

「どうしてもドレスが欲しい、と貴女が言うから用意したのですよ」

 私はブルクハルト卿の言葉に再度衝撃を受け、何も言えず、口を開け閉めしてしまう。強請ったつもりなどないが、ブルクハルト卿にはそう聞こえたのだろうか。
 いや、違うぞ、ともう一人の冷静な自分が警告をしてくる。

「浅ましいこと。しかもお姉さまは、馬車を直すかわりに、デビュタントボールで自分をエスコートするように、ブルクハルトに言ったのでしょう」
「ち、違うわ……!」

 とっさに否定をするが、2人は勝ち誇ったような顔で笑うだけだ。この笑顔は知っている。弱い者をいたぶっている人間がする残酷な笑顔だ。
 私は恐ろしくなり一歩後ずさったが、なんだか周りに違和感を感じ視線を左右に向けた。すると先ほどまで各々で楽しんでいた者たちが、好奇心を丸出しにして私たちの周りを囲んでいた。

「あの火傷は……確か領地にこもっているゾフィーナ嬢の姉君よね」
「今の話はどういうことかしら」

 ざわざわと噂する声が耳に入り、私は焦って混乱した。

「馬車が壊れて困っているブルクハルトになんて仕打ちでしょう。私も妹として謝ったわ……私という恋人がいるのに、エスコートを頼むなんて……よっぽどブルクハルトを気に入ったのかしら。それで私から略奪でもするつもりだったの?」

 ゾフィーナは見下げた瞳で言った。
 私はゾフィーナとブルクハルト卿が恋人だったなんて知らないし、ましてや略奪をしよう、などと企てたことはない。そして何より、デビュタントボールに参加するまでのやり取りが、あまりにも歪曲されている。

「まあ、とてもはしたないわね」
「そもそもあの顔で略奪できると思ったのかしら」
「どう考えてもゾフィーナから取れる訳ないだろうにな」

 聞こえてきた声に、思わず話している者達を見た。聞こえるように私を責める者達に見覚えがあった。そうだ、幼い頃にゾフィーナと一緒に、私を化け物だと言って追いかけ回していた、同じ派閥の貴族の子息子女ではないか。
 私の意識は混乱を極めた。

「そんな……そんなつもりじゃ……! 何より貴方たちが恋人だったなんて知らなかったわ!」

 私の悲痛な言葉は、しかしゾフィーナに一蹴されてしまう。

「姉が妹の恋人を知らないことなんて、ありえますか?」

 ゾフィーナは周りの人に問うように言った。そして大げさに肩を落として見せる。

「姉さんが私を妬んでいたことは知っていたけれど……まさかここまでするなんて」

 周りの人の同情する目が、ゾフィーナに集まった。そして次に敵意を込めた視線が私に向けられる。
 とても恐ろしくなり、一歩、また一歩と後ろに後ずさってしまう。

「心も容姿も醜い貴女を、私が選ぶはずもないというのに……」

 ブルクハルト卿の言葉に、弾かれたように視線を向けた。
 ブルクハルト卿は顔を歪めているが、しかし口元は馬鹿にしたように笑っている。私のことを美しいと言った同じ口で、私が最も言われたくない言葉を吐いたのだ。
 もう何を言っても無駄なのかもしれない。涙が溢れそうになるが、泣いたところで、この者達を喜ばせるだけなのは知っていた。

「本当に、なぜデビュタントボールに来たのかしら……しかもよりにもよって王宮主催のものに」
「ああ、良い恥さらしだ。同じ貴族だと思われたくないな」
「ゾフィーナ嬢もおかわいそう……あんな姉がいるなんて」

 口々に聞こえてくる罵倒に、屈辱でわなわなと体を震わせてしまう。
 あんな姉がいるなんて、という言葉を言われるのにふさわしいのは、私よりもゾフィーナだというのに。

「まったく、早く出て行ってくれないかしら、気分が盛り下がるわ」
「かわいそうよお、せっかく勇気を出してきたのに」

 聞こえてきた言葉に、私は下を向き、早歩きで出口に向かった。

「お姉さま!」

 しかしなぜか追ってきたゾフィーナが、私の肩を掴み止める。そして耳元に顔を寄せた。

「さっさと出てってよ。ここからもだけど、屋敷から。あんた1人を養うのだって金がかかる……お父様もお母様もずううっと同じ気持ちよ」

 私は勢いよく顔を上げ、ゾフィーナを見た。
 とても楽しそうに私を見下げている瞳は酷く残酷だ。見るに耐えられず、再び顔を下に向けると、足早に出入口へと向かった。
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