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路地裏と再会
しおりを挟む私は絶望した気持ちのまま、冷たく汚い路地裏に座りこんだ。屈辱と悲しみでホールを飛び出したは良いが、タウンハウスの場所が分からなかったからだ。
主にカントリーハウスの周りしか移動したことのない私にとって、道に迷うということは想像もしていなかった。しかし考えればすぐに気づけたのに、そんな簡単なことが分からないほど、自分はよっぽどあの場から逃げ出したかったらしい。
愚かさにまた涙が溢れた。
「痛い……」
かかとを見てみると、歩きすぎて擦れたからか、血が滲んでいた。普段はこんなに高いヒールをはかないので、慣れていなかったのもある。
惨めさと痛み、それから空腹が私を襲う。屋敷に一刻も早く帰りたい。けれど帰ったところで、家族は私を受け入れてくれないことを思うと、誰かに道を聞く気も失せた。
ぼんやりと顔を上げ、深い夜になりつつある空を見上げる。領地にいる頃よりも、星空が狭い気がした。
もう私にはどこにも居場所はない。知ってしまった事実に、胸が張り裂けそうだった。
私はこのまま路地裏で、腐り果てた方が良いのだろう。そう思い通り過ぎる人たちを横目に見る。みんな愛する家族がいて、これから家に帰るのだろうか。
私は膝を抱え小さくなると、顔を下に向け、ただじっとしていることにした。
「おい、良さそうな服を着ているな」
どれくらいそうしていただろうか。かけられた言葉に慌てて顔を上げると、身体中からお酒の臭いがする、汚れた男性と女性が複数人立っていた。
「お貴族様かしら。迷子ですかあ?」
「すごい火傷痕ねえ……あんたより私の方が、よっぽどそのドレスは似合うわ」
「あははは、それはどうだろうな。お前の顔は垢だらけだろう」
「あんたに言われたくないわ」
「くすくす、でも、乱暴したら後で罰せられない?」
「大丈夫だろ、顔なんて覚えちゃいない」
そう言いながら先頭にいた男性が、ゆっくりと手を伸ばしてきた。
私は恐怖で座ったまま後ずさりをする。路地裏の出口に顔を向けるが、人通りは少ない。それでも通る人に目掛けて叫んだ。
「た、助けてください!」
しかしちらりと私を見た男性と女性は、すぐに視線を反らしてしまった。慌てて違う男性にすがるように視線を向けるが、こちらも嫌そうな顔をして視線を反らした。
私は人々の冷たさに絶望した。
「ははは、助けるわけないだろ」
「みんな余計なことには関わりあいたくないのさ」
「しかもその顔じゃあねえ……」
にじり寄ってくる男女に、私はただ後退することしかできない。
どうしてこんな目に合わないといけないのだろう。私が何をしたというのだ、醜いからいけないというのか。
私以上に不幸な人間などいない、とさえ思った。
「何をしている!」
聞こえてきた大きな声に、目の前にいた男女は通りの向こうを見て、慌てだした。
「まずい! 自警団だ!」
「どけ!」
男女は私を押しのけ、路地裏の奥、闇の向こうに走っていく。
ばたばたと複数人の走る音が近づいて来て、ランタンの明かりが急に目の前に現れた。
「大丈夫ですか?」
かけられた言葉に安心すると同時に、なんだか懐かしい声だな、と思った。
ランタンの眩しさに目が慣れると、目の前にダークグリーンの瞳の美青年が立っていた。私も相手も驚いて目を見開いた。
「アンスガー……」
「エルヴィーラ」
約6年ぶりの再会だった。
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