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美味しいごはんと手紙の行方
しおりを挟む「食事はとれるかな……」
アンスガーは目の前に、湯気がたった、美味しそうな食事を置いてくれた。
私は驚いて目を見開いた。カントリーハウスで出される食事より、食材が新鮮で種類も豊富だったからだ。
ちらりとあたえられた一室をみる。屋敷の大きさこそ、私が育ったものよりいくぶん小さいが、とても立派だ。用意してくれた替えのドレスも、とても肌触りが良く上等だった。
よほど事業が上手くいっているらしい、と感じた。
「ありがとう……」
私は小さくお礼を言うと、そっとスープスプーンを取り、たくさんの具材が入っている煮込み料理をすくった。そして口に入れる。
「お、おいしい……」
あまりの美味しさにびっくりして、思わず手で口を覆ってしまった。
「口に合ってよかった。いつも上等なものを食べているだろうかと思って」
「屋敷で食べるより美味しいわ! なんだろう……とても複雑な味がするというか……」
アンスガーは美しい顔を綻ばせた。私は小さい頃から変わらない、きらきらした笑顔に、思わず見惚れてしまった。
「東方からスパイスを取り寄せているんだ。試作もかねて料理にはそれを使うことが多いかな」
私は感心してしまった。東方からのスパイスはとても高級で、王族や上位貴族しか気軽に食べれないだろう。
私は感動しながら、すばらしい食事を次々に口に運んだ。
「……すこし元気がでた?」
私が食べ終わると、うかがうようにアンスガーは言った。
「ええ、ありがとう。何も返せないのに、こんなに良くしてもらって……」
私は感極まって、喉がつまりながらお礼を言った。
「……ところで本当に家に帰らなくて大丈夫なのかい?」
アンスガーの言葉に、びくりと体を揺らし固まってしまった。
アンスガーは路地裏で私を助けてくれた時、目立った怪我がないことを確認すると、タウンハウスまで送ってくれようとした。しかし私は途方に暮れてしまって、帰りたくない、と思わずもらしてしまったのだ。
複雑な顔をしていたアンスガーだったが、私の屋敷の者に連絡を入れてくれ、自身の家に招いてくれた。
「……迷惑よね。すぐに出て行くわ」
「いや、そうじゃないんだ。とりあえず今日は遅いし、泊まっていってもらって構わない」
アンスガーのとてもありがたい申し出に、私はほっと息を吐いた。
「明日は帰りたくなる?」
「……正直、わからない」
曖昧な私の言葉に、アンスガーは心配そうに眉を寄せた。そして席を立つと、使用人にお茶を持ってくるように声をかけた。
すでに用意してあったのか、使用人はすぐにお茶を机に置いた。ゆっくりとのぼる優しい湯気と良い匂いに、気分が安らぐのを感じた。
アンスガーに勧められ、一口含むと、ほのかに甘い味がする。とても美味しい。
「なにか大変なことがあったのかい」
自身も一口飲むと、アンスガーは優しく聞いた。私はカップをソーサーに置き、揺れる水面を見つめる。
話そうか迷ったが、しかし躊躇してしまう。私が屋敷や他の貴族に冷遇されていることは、小さい頃に何度もアンスガーに話している。
眉を寄せたアンスガーの整った顔をちらりと見る。心臓がどきどきと高鳴って、何も言えなくなってしまった。
なぜかどうしても、未だに家族にすら受け入れられていない、惨めな自分の話をするのが嫌だった。
「言えないのかな……」
黙ったままの私に、アンスガーは苦笑いをすると、再びカップを持ち上げた。
「ごめんなさい……」
私は居たたまれなくて、下を向いて謝る。
「気にしないで良いよ。それに屋敷に戻りたくないのならば、エルヴィーラの家族が許す限り、いくらでも居て良いよ」
アンスガーの再びのありがたい申し出に、私は目をきつく閉じた。
きっと家族は喜ぶだろう。しかしアンスガーの家にいても、ただの穀潰しのお荷物にしかなれない。
「嫌じゃなければ……だけど」
私が悩んでいると、アンスガーは悲し気に言った。
「嫌な訳ないわ」
慌てて顔を上げると、悲しそうな瞳のアンスガーがいた。
「そう、ならよかった……嫌われていると思っていたから」
私は驚いて目を見開いた。アンスガーを嫌いになる訳がない。
「な、なぜ……嫌いだなんてそんな……」
私の様子を見て、アンスガーは苦笑いを返した。
「小さい頃に別れてから、何度も手紙を送ったけれど、一度も返ってこなかったから……」
私はさらに目を見開いて、口を開け閉めしてしまう。
「な、なぜ……私も! 私も何度も送ったのに……」
私の言葉に今度はアンスガーが目を見開いた。
「……誰かが握り潰していたのか」
アンスガーの低い声に、とっさに両親やゾフィーナの顔が浮かんだ。握りつぶした理由は分からないが、犯人だと思えた。
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