醜い私は妹の恋人に騙され恥をかかされたので、好きな人と旅立つことにしました

つばめ

文字の大きさ
13 / 24

再会と家族

しおりを挟む

「エルヴィーラ様!」

 馴れないタウンハウスの一室で両親を待っていると、久しぶりに再会したザーラに声をかけられた。

「ザーラ!」

 アンスガーと並んで座っていた長椅子から、思わず立ち上がってしまった。
 近寄ってきたザーラの瞳には、少し涙が滲んでいる。

「お元気そうで……本当に良かったです」
「ザーラ……」

 ザーラのいたわりが滲む声に、涙ぐみそうになってしまう。

「ザーラ……ザーラは大丈夫だった?」

 置いてきた立場の私が言えることではないが、私付だったザーラが酷い目にあっていなか心配だった。

「ええ……私は世渡りが上手いですから」

 涙ぐみながら自画自賛するザーラに、苦笑いを返した。たしかに、なぜ私の味方をしてくれたのか不思議なほど、ザーラは世渡り上手で、他の使用人たちと上手くやっていた。

「良かった……もし必要なら紹介状を書こうと思っていたのよ」

 貴族の使用人が別の家で働くには、悪いことをして辞めた訳じゃないと証明するため紹介状が必要だ。父である当主の紹介状ではないのではくは落ちるが、私のものでも無いよりはましだろう。

「私は伯爵家に残りますよ」

 ザーラの強い瞳に、驚いて目を見開いた。

「ここにいて、エルヴィーラ様になにもしないよう見張っています」
「ザーラ……」

 ザーラの有難い言葉に、涙が出そうになった。火傷をおってから家で良い思い出はあまりなかったが、ザーラがいたことだけは救いだった。

「遠く離れても、エルヴィーラ様の幸せを祈っています」

 笑顔で言ってくれるザーラに、胸が熱くなった。すでにこれまでの経緯と、結婚しようと思っていることは、手紙を送って知らせてある。

「ええ……今まで本当にありがとう」

 笑顔でお礼を言うと、扉をノックする音が聞こえた。

「旦那様と奥様、並びにゾフィーナ様がおみえです」

 侍女じじょの言葉に、私は肩に力が入った。いよいよ家族と対面しなければいけない。

「エルヴィーラ様、私はこれで……」

 ザーラが静かに言ったので、顔を見合わせると一つ頷いた。
 長椅子に座っていたアンスガーは、緊張した面持ちで立ち上がった。そして私に顔を向けると、整った顔に微笑を浮かべ、安心させようとしてくれる。私もぎこちなく微笑を浮かべる。

「どうぞ」

 小さく返事をすると、3人が部屋に入ってきた。まず私を見下げるように見て、それからアンスガーに視線を移し目を見開いていた。特に母とゾフィーナは、アンスガーをなめるように見ている。

「座りなさい」

 2人の視線を反らすように、父が機嫌が悪そうな声で言った。全員が席に着くと、父は居住まいを正し口を開いた。

「それで1ヶ月も家を空けたと思ったら、いきなり平民と結婚すると言い出して……お前は何を考えているんだ」

 父の威圧的な声色に、私はびくんと体を揺らして動揺してしまった。

「僕が結婚を申し込んだのです。昔から懇意にしておりまして……」

 父は胡乱うろんな瞳で、アンスガーを見た。アンスガーは背筋を伸ばし、堂々としている。その姿に勇気をもらえた気がした。

「アンスガーの言う通りです。手紙に書きました経緯が全てです」

 私が言うと、父はアンスガーに向けたものと同じ視線をよこした。

「お姉さま、ブルクハルトきょうに振られたからって、平民に手を出したの? 浅ましいこと」

 ゾフィーナの馬鹿にしたような声に、カッと頭に血が上った。何か言い返そうとして、ぐっと思い止まった。
 貴族籍を抜ける書類に署名をもらうまでは、何があっても反論はしない、と事前に話をして決めていた。

「そうよ、この子は妹の婚約者を姑息こそくな手段で取ろうとした挙句、上手くいかなくて逃げ出したのよ」

 母もゾフィーナに便乗するように、私を見下げ薄ら笑いを浮かべながら言った。今も母は美しく、大きな子供が2人いるとは思えない。
 アンスガーは美しく微笑むだけで、2人の言葉には何も答えなかった。意気揚々と話をしていた2人は次第に笑顔を消し、面白くなさそうな顔をしている。

「それで結納金のことなのですが」

 アンスガーは顔を父に戻すと、懐から紙を取り出し渡した。金額を確認した父は、驚いた顔をした後、紙とアンスガーを交互に見ている。

「ド派手な式でもするつもりか?」
「いえ、そちらはご家族への気持ちも入っております。エルヴィーラはこのまま、私の家で暮らしますので、ドレスの仕立てなども不要です。持参金もいりません」

 アンスガーの言葉の意味は、結婚準備金である結納金を丸々、フェルステマン伯爵家に渡すという意味だ。そして通常は貴族の子女が嫁ぐ際は、相手の家に持参金を持っていくのが習わしだが、それも不要ということだ。

「……本気か?」

 父は疑わしそうな顔をしてアンスガーを見る。

「ええ、もちろん」

 アンスガーの返答に、父はごくりと唾をのみ、次に満面の笑みを浮かべた。
 ちなみに私はアンスガーがいくら出すのか知らされていない。悲し気な瞳で、それは男側の甲斐性だから、と言われてしまった。

「……そうか、そうか! 良し、許そう。さっそく貴族籍を抜ける書類を用意しないとな」

 上機嫌になった父に、母とゾフィーナは眉を寄せている。
 私とアンスガーは視線を合わせると、ほっと息を吐いた。


しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

報われなくても平気ですので、私のことは秘密にしていただけますか?

小桜
恋愛
レフィナード城の片隅で治癒師として働く男爵令嬢のペルラ・アマーブレは、騎士隊長のルイス・クラベルへ密かに思いを寄せていた。 しかし、ルイスは命の恩人である美しい女性に心惹かれ、恋人同士となってしまう。 突然の失恋に、落ち込むペルラ。 そんなある日、謎の騎士アルビレオ・ロメロがペルラの前に現れた。 「俺は、放っておけないから来たのです」 初対面であるはずのアルビレオだが、なぜか彼はペルラこそがルイスの恩人だと確信していて―― ペルラには報われてほしいと願う一途なアルビレオと、絶対に真実は隠し通したいペルラの物語です。

短編 一人目の婚約者を姉に、二人目の婚約者を妹に取られたので、猫と余生を過ごすことに決めました

朝陽千早
恋愛
二度の婚約破棄を経験し、すべてに疲れ果てた貴族令嬢ミゼリアは、山奥の屋敷に一人籠もることを決める。唯一の話し相手は、偶然出会った傷ついた猫・シエラル。静かな日々の中で、ミゼリアの凍った心は少しずつほぐれていった。 ある日、負傷した青年・セスを屋敷に迎え入れたことから、彼女の生活は少しずつ変化していく。過去に傷ついた二人と一匹の、不器用で温かな共同生活。しかし、セスはある日、何も告げず姿を消す── 「また、大切な人に置いていかれた」 残された手紙と金貨。揺れる感情と決意の中、ミゼリアはもう一度、失ったものを取り戻すため立ち上がる。 これは、孤独と再生、そして静かな愛を描いた物語。

【完結】大好きな彼が妹と結婚する……と思ったら?

江崎美彩
恋愛
誰にでも愛される可愛い妹としっかり者の姉である私。 大好きな従兄弟と人気のカフェに並んでいたら、いつも通り気ままに振る舞う妹の後ろ姿を見ながら彼が「結婚したいと思ってる」って呟いて…… さっくり読める短編です。 異世界もののつもりで書いてますが、あまり異世界感はありません。

【完結】何回も告白されて断っていますが、(周りが応援?) 私婚約者がいますの。

BBやっこ
恋愛
ある日、学園のカフェでのんびりお茶と本を読みながら過ごしていると。 男性が近づいてきました。突然、私にプロポーズしてくる知らない男。 いえ、知った顔ではありました。学園の制服を着ています。 私はドレスですが、同級生の平民でした。 困ります。

三度裏切られたので堪忍袋の緒が切れました

蒼黒せい
恋愛
ユーニスはブチ切れていた。外で婚外子ばかり作る夫に呆れ、怒り、もうその顔も見たくないと離縁状を突き付ける。泣いてすがる夫に三行半を付け、晴れて自由の身となったユーニスは、酒場で思いっきり羽目を外した。そこに、婚約解消をして落ちこむ紫の瞳の男が。ユーニスは、その辛気臭い男に絡み、酔っぱらい、勢いのままその男と宿で一晩を明かしてしまった。 互いにそれを無かったことにして宿を出るが、ユーニスはその見知らぬ男の子どもを宿してしまう… ※なろう・カクヨムにて同名アカウントで投稿しています

お母様が国王陛下に見染められて再婚することになったら、美麗だけど残念な義兄の王太子殿下に婚姻を迫られました!

奏音 美都
恋愛
 まだ夜の冷気が残る早朝、焼かれたパンを店に並べていると、いつもは慌ただしく動き回っている母さんが、私の後ろに立っていた。 「エリー、実は……国王陛下に見染められて、婚姻を交わすことになったんだけど、貴女も王宮に入ってくれるかしら?」  国王陛下に見染められて……って。国王陛下が母さんを好きになって、求婚したってこと!? え、で……私も王宮にって、王室の一員になれってこと!?  国王陛下に挨拶に伺うと、そこには美しい顔立ちの王太子殿下がいた。 「エリー、どうか僕と結婚してくれ! 君こそ、僕の妻に相応しい!」  え……私、貴方の妹になるんですけど?  どこから突っ込んでいいのか分かんない。

ヒロインが私の婚約者を攻略しようと狙ってきますが、彼は私を溺愛しているためフラグをことごとく叩き破ります

奏音 美都
恋愛
 ナルノニア公爵の爵士であるライアン様は、幼い頃に契りを交わした私のご婚約者です。整った容姿で、利発で、勇ましくありながらもお優しいライアン様を、私はご婚約者として紹介されたその日から好きになり、ずっとお慕いし、彼の妻として恥ずかしくないよう精進してまいりました。  そんなライアン様に大切にされ、お隣を歩き、会話を交わす幸せに満ちた日々。  それが、転入生の登場により、嵐の予感がしたのでした。

【完結】 メイドをお手つきにした夫に、「お前妻として、クビな」で実の子供と追い出され、婚約破棄です。

BBやっこ
恋愛
侯爵家で、当時の当主様から見出され婚約。結婚したメイヤー・クルール。子爵令嬢次女にしては、玉の輿だろう。まあ、肝心のお相手とは心が通ったことはなかったけど。 父親に決められた婚約者が気に入らない。その奔放な性格と評された男は、私と子供を追い出した! メイドに手を出す当主なんて、要らないですよ!

処理中です...