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再会と家族
しおりを挟む「エルヴィーラ様!」
馴れないタウンハウスの一室で両親を待っていると、久しぶりに再会したザーラに声をかけられた。
「ザーラ!」
アンスガーと並んで座っていた長椅子から、思わず立ち上がってしまった。
近寄ってきたザーラの瞳には、少し涙が滲んでいる。
「お元気そうで……本当に良かったです」
「ザーラ……」
ザーラのいたわりが滲む声に、涙ぐみそうになってしまう。
「ザーラ……ザーラは大丈夫だった?」
置いてきた立場の私が言えることではないが、私付だったザーラが酷い目にあっていなか心配だった。
「ええ……私は世渡りが上手いですから」
涙ぐみながら自画自賛するザーラに、苦笑いを返した。たしかに、なぜ私の味方をしてくれたのか不思議なほど、ザーラは世渡り上手で、他の使用人たちと上手くやっていた。
「良かった……もし必要なら紹介状を書こうと思っていたのよ」
貴族の使用人が別の家で働くには、悪いことをして辞めた訳じゃないと証明するため紹介状が必要だ。父である当主の紹介状ではないので箔は落ちるが、私のものでも無いよりはましだろう。
「私は伯爵家に残りますよ」
ザーラの強い瞳に、驚いて目を見開いた。
「ここにいて、エルヴィーラ様になにもしないよう見張っています」
「ザーラ……」
ザーラの有難い言葉に、涙が出そうになった。火傷をおってから家で良い思い出はあまりなかったが、ザーラがいたことだけは救いだった。
「遠く離れても、エルヴィーラ様の幸せを祈っています」
笑顔で言ってくれるザーラに、胸が熱くなった。すでにこれまでの経緯と、結婚しようと思っていることは、手紙を送って知らせてある。
「ええ……今まで本当にありがとう」
笑顔でお礼を言うと、扉をノックする音が聞こえた。
「旦那様と奥様、並びにゾフィーナ様がおみえです」
侍女の言葉に、私は肩に力が入った。いよいよ家族と対面しなければいけない。
「エルヴィーラ様、私はこれで……」
ザーラが静かに言ったので、顔を見合わせると一つ頷いた。
長椅子に座っていたアンスガーは、緊張した面持ちで立ち上がった。そして私に顔を向けると、整った顔に微笑を浮かべ、安心させようとしてくれる。私もぎこちなく微笑を浮かべる。
「どうぞ」
小さく返事をすると、3人が部屋に入ってきた。まず私を見下げるように見て、それからアンスガーに視線を移し目を見開いていた。特に母とゾフィーナは、アンスガーをなめるように見ている。
「座りなさい」
2人の視線を反らすように、父が機嫌が悪そうな声で言った。全員が席に着くと、父は居住まいを正し口を開いた。
「それで1ヶ月も家を空けたと思ったら、いきなり平民と結婚すると言い出して……お前は何を考えているんだ」
父の威圧的な声色に、私はびくんと体を揺らして動揺してしまった。
「僕が結婚を申し込んだのです。昔から懇意にしておりまして……」
父は胡乱な瞳で、アンスガーを見た。アンスガーは背筋を伸ばし、堂々としている。その姿に勇気をもらえた気がした。
「アンスガーの言う通りです。手紙に書きました経緯が全てです」
私が言うと、父はアンスガーに向けたものと同じ視線をよこした。
「お姉さま、ブルクハルト卿に振られたからって、平民に手を出したの? 浅ましいこと」
ゾフィーナの馬鹿にしたような声に、カッと頭に血が上った。何か言い返そうとして、ぐっと思い止まった。
貴族籍を抜ける書類に署名をもらうまでは、何があっても反論はしない、と事前に話をして決めていた。
「そうよ、この子は妹の婚約者を姑息な手段で取ろうとした挙句、上手くいかなくて逃げ出したのよ」
母もゾフィーナに便乗するように、私を見下げ薄ら笑いを浮かべながら言った。今も母は美しく、大きな子供が2人いるとは思えない。
アンスガーは美しく微笑むだけで、2人の言葉には何も答えなかった。意気揚々と話をしていた2人は次第に笑顔を消し、面白くなさそうな顔をしている。
「それで結納金のことなのですが」
アンスガーは顔を父に戻すと、懐から紙を取り出し渡した。金額を確認した父は、驚いた顔をした後、紙とアンスガーを交互に見ている。
「ド派手な式でもするつもりか?」
「いえ、そちらはご家族への気持ちも入っております。エルヴィーラはこのまま、私の家で暮らしますので、ドレスの仕立てなども不要です。持参金もいりません」
アンスガーの言葉の意味は、結婚準備金である結納金を丸々、フェルステマン伯爵家に渡すという意味だ。そして通常は貴族の子女が嫁ぐ際は、相手の家に持参金を持っていくのが習わしだが、それも不要ということだ。
「……本気か?」
父は疑わしそうな顔をしてアンスガーを見る。
「ええ、もちろん」
アンスガーの返答に、父はごくりと唾をのみ、次に満面の笑みを浮かべた。
ちなみに私はアンスガーがいくら出すのか知らされていない。悲し気な瞳で、それは男側の甲斐性だから、と言われてしまった。
「……そうか、そうか! 良し、許そう。さっそく貴族籍を抜ける書類を用意しないとな」
上機嫌になった父に、母とゾフィーナは眉を寄せている。
私とアンスガーは視線を合わせると、ほっと息を吐いた。
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