醜い私は妹の恋人に騙され恥をかかされたので、好きな人と旅立つことにしました

つばめ

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結婚と手紙

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「暮らしには慣れたかい?」

 アンスガーは美しく光る海を眺めながら言った。2人で並んで海辺の塀に座り、屋敷から持ってきたサンドイッチを広げようとしているところだった。

「ええ……温暖で過ごしやすいわ」

 私は首だけを後ろに向けて、様々な色が使われている街並みを見た。色に表されている通り、この街の人々は賑やかで明るい。私の国の雰囲気とは違う。

「良かった……ここに来て半年だけれど、そろそろ向こうに戻りたくはないかい?」

 視線をアンスガーに戻すと、サンドイッチや飲み物をカゴから出している。美しく具材が挟まった食べ物を見ながら、自分の国だったらこんなに様々な食材はないだろうな、と思った。食べ物だけじゃない。衣類や家具、書物、目にするもの全てが、様々な国から集まっている。毎日刺激がいっぱいで、この半年はあっという間だった。それに火傷痕が薄くなり、奇異の目で見られることも減った。
 だからライムバッハー共和国に居る方が、自分の国にいるよりもずっと居心地が良かった。当初は問題だと思ったおじい様も、普通に接してくれている。市民から支持を集めるだけあって、貴族以外には素晴らしい人格者だった。

「あまり思わない……本当にずっとライムバッハー共和国に居たいわ」

 アンスガーはサンドイッチから視線を上げ、私の瞳をじっと見つめてきた。そしてダークグリーンの瞳を細めて、私の手をそっと握る。

「……婚約者から、伴侶になってくれないかな。そろそろ式を上げよう」

 驚いて目を見開き、アンスガーの顔を見た。

「本当は旅に出る前に結婚したかったけれど、エルヴィーラがライムバッハーを好きなってくれるか不安だったんだ……好きでもない国に縛られるのは嫌だろう。でもずっと居たいと言ってくれて、それなら大丈夫だと思ったんだ」

 アンスガーは私の国が好きじゃなかったのかもしれない、とふと思った。商売のために幼い頃に無理やり連れてこられて住んでいたけれど、きっと祖国であるライムバッハー共和国が恋しかったのではないだろうか。
 だから私がライムバッハー共和国を好きなるか不安だったのかもしれない。
 私はアンスガーのダークグリーンの瞳を見つめると、人生で一番に嬉しい気持ちを込めて笑った。

「もちろん。式の準備をしないとね」

 アンスガーも弾けるような笑顔になった。


※※


「お手紙が届いております」

 式を終え正式な夫婦となってから半月、お義母様おかあさまとお茶をしていると、使用人の女性が手紙を持ってきた。差し出された手紙には、私の生家であるフェルステマン伯爵家の家紋の封蝋ふうろうが押されていた。思わず眉を寄せてしまう。
 フェルステマン伯爵家の家紋を知らないお義母様は不思議そうな顔をしていた。
 恐々と手紙とペーパーナイフを受け取ったけれど、封を開けるのは戸惑ってしまい、じっと封蝋を見つめてしまう。

「どうしたの?」

 お義母様の不思議そうな声に、ぎこちなく笑みを返すと、手紙をテーブルに置いた。そしてゆっくりとぺーバーナイフで封蝋を切る。
 中から出てきた便箋びんせんは1枚きりだ。父の字で書かれている。内容はおざなりな私の身を案じる決まり文句から始まり、いかにフェルステマン伯爵家が困窮こんきゅうしているかと続いていた。つまりお金を工面してくれないかということだろう。

「顔色が悪いわ」

 怪訝な顔をしたお義母様が、心配そうな声で言った。

「え……ええ……」

 私は手紙をそっと置くと、何も言えなくて黙ってしまった。アンスガーのご家族に話をして、迷惑や余計な心配をかけたくない。

「見ても良い?」

 お義母様の問いに、びくりと肩が震え、思わず手紙を引っ込めそうになった。けれどここで断れば、さらに余計な疑惑や心配をうむかもしれない。
 私はおずおずと手紙を差し出した。
 お義母様はそっと受け取ると、素早く文字に目を走らせる。私の国とライムバッハー共和国の文字は似ているが、違いを理解していなければすぐに読み解くことはできない。さすが商会に嫁ぐだけあり、お義母様の知識の幅は広いのだろう。

「……何よこれは」

 お義母様は憎々しく言いながら手紙を睨みつけた。
 ああ、ここは怒る場面なのか、と私は思った。父からの手紙を受けて一番に思ったのは、怒りよりも身内の恥をさらしたくないという思いだった。まだ両親から完全に心を切り離せていないのだろうか。
 自分の感情に戸惑って苦笑いを浮かべると、お義母様は心配そうな顔になった。

「エルヴィーラさんはどうしたいの?」

 お母様の問いに、とっさに答えが出なかった。
 それは無理だ、と手紙を返すのが一番良いと思った。けれどそうしても、手紙は届き続ける気がする。その度に私は家族を思い出し、苦しむことになるのだろうか。

「無理だ……と手紙を書きます」

 迷うような声色で返事をした私に、お義母様は心配そうな表情のままだった。
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