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おじい様と火傷痕
しおりを挟む「ずいぶんと別嬪さんだな。アンスガーは面食いだったのか」
おじい様はつまらなそうな瞳で私を見た。皮肉を込めたのだろう言葉に、頬を赤くしてしまう。
「いえ、それだけではありません。エルヴィーラの内面を好きになったのです」
アンスガーは眉を寄せ真剣な瞳でおじい様を見ながら言った。おじい様は睨むように一瞬だけアンスガーに視線を移し、しかしすぐに反らし、手に持っていたグラスを口につけた。
「でも驚いたわ。エルヴィーラさん、お化粧されると印象が違うのね」
お母様の言葉に、私は苦笑いを返した。
「あまりお化粧はしたことがないので、顔がかゆくて……」
「大丈夫、すぐに慣れるわよ」
お母様は楽しそうに言った。
「貴族のくせに化粧に慣れていないなどと……」
おじい様がテーブルを睨みながら言ったので、暗い気持ちになり下を向いた。何も言えず目の前の美しく盛り付けられた魚をナイフで切る。緊張で微かに震えるフォークをなんとか口まで運んだが、味はよくわからない。
「……エルヴィーラは着飾る人じゃないんだ」
私を庇うようにアンスガーが言った。そっと顔を上げ視線を横に向けると、アンスガーは優しく微笑んでくれていた。少しだけ緊張が和らぐ。
「……そうは見えないがな。それに火傷痕があるとか言っていたが、全く目立たないじゃないか。嘘だったのか。それとも元々、たいした傷じゃないのか」
おじい様の言葉に、思わず鋭い視線を向けてしまった。慌てて表情を戻し口を開いた。
「旅の途中で手に入れた薬が合ったようで……アンスガーさんには感謝しております」
おじい様は疑わしそうな表情をしている。
「……失礼ですよ。エルヴィーラは火傷痕で苦労してきたんだ。裕福で市民に信用されているおじい様よりもよっぽど」
アンスガーの言葉に、おじい様は眉と目を吊り上げた。
「なんだと……今まで貴族だったのだろう! 貴族どもは特権ばかり主張して、贅沢することしか考えていない……! そして平民を心底と馬鹿にしているっ」
おじい様の大きな声にびくりと肩を揺らしてしまった。よほど貴族が嫌いらしい。面と向かって貴族への不満を言う人に会ったのは初めてだった。
驚いている私の顔を見たおじい様は、気まずそうな表情をすると、気持ちを落ち着かるように息を吐いた。
「……怒鳴ってすまない……苦労とはなんだ」
おじい様の急な問いに視線をさ迷わせた。今までの惨めな自分のことを話すのは、とても恥ずかしい。義理の家族になるかもしれない人達には、良く思われていたかった。
そっとアンスガーに視線を移すと、心配そうな表情をしていた。その顔を見て、ふとアンスガーに全てを話した時のことを思い出した。話した後は心が軽くなって、打ち明けて良かったと思った。
おじい様とご両親に顔を戻す。アンスガーのご両親は馬鹿にしたりしないだろう。おじい様は心配だが、それでも非難するのであれば、生き様を知ってから判断して欲しいと思った。
だからゆっくりと口を開いた。
話を終えると、おじい様とご両親は、難しい顔をして黙ってしまった。
「……すまなかった」
おじい様は視線を反らしたまま、静かに謝ってくれた。
「私が言ったことは撤回しよう」
おじい様は椅子に背中を預けると、深いため息を吐いた。
「今日は、貴族からまた無理難題を言われてな……頭にきていたんだ。本当にすまない」
「八つ当たりですか」
おじい様の言葉に、すかさずお父様が言った。おじい様はものすごく眉を寄せた。
「貴族にも良い奴もいれば、嫌な奴もいる、ということはわかっているのにな。平民だってそうだ……なのにすぐに忘れて貴族だからと一括りにしてしまう。そういう凝り固まった考えは、自分に返ってくるのに」
おじい様はグラスを見つめながら独り言のように呟いた。
その言葉にデビュタントボールで責められた時のことが頭を過った。周りは全て敵だと思っていたが、あの中には真実を見極めていた人もいたのだろうか。
しかし家族や知り合いの貴族を思い出すと、心無い者が多いのは事実のように感じる。
「……私の家族はおじい様の言う、嫌な貴族でしょうね」
両親とゾフィーナ、それにブルクハルト卿や私を責めてきた貴族達。彼らが国を動かす立場になった時、きっと自分の都合の良いようにするだろう。
「どうしてそうなったんだろうね」
アンスガーがぽつりと呟いた。言葉の意味がわからなくて、横を向いて整った顔を見た。私を見ていたダークグリーンの瞳は静かに輝いていた。
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