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アーサーの章
第三話:天来のギュスターヴ
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神聖レオパルド帝国。
八年前、皇帝エスエメラルダ・レオパルドの元に、それぞれ十二の種族を代表する国家の君主が協定を結び成立した巨大な帝国。
皇帝以下の十二の君主は対等な立場を保ち、種族間での差別や戦争を禁止し、宗主国として君臨する神聖レオパルド王国、通称『央都』が外交を司っている。
央都は帝国領の中心部に位置するため商業が盛んで、各地から富豪や商人が集まる。しかし央都の盛況さは何より、王族の住む城だ。金属細工や建築技術に優れた種族ドワーフが主軸となり、多くの種族が有する創意工夫や資材が持ち寄られ、まさに十二種族の結束を形にしたような立派な城がこの地に建っている。この城を一目見ようと多くの人間が毎日のように央都を訪れるのだ。
今、央都は終戦記念のパレードの真っ最中で、彩られた町並みは、多くの来訪者を迎えながら昼夜問わず賑わいを見せている。
そんな喧騒から隔絶された城の、幾つかある中庭の一つ。花と共に生きてきたエルフ達が彩った庭園は晴天の輝きを目一杯に浴び、その蕾を開かせている最中だった。
中庭の中心には、雨宿りや日陰の提供、休憩や庭園を見渡しての茶会を目的として建てられたパビリオン、真っ白なガゼボがある。
そこに美しい金髪の長髪を携えた少女と、三十代ほどの紫色のストレートヘアの男性が向かい合って座り、金の装飾が施された純白のティーカップを手にしている。少女側には端正な顔立ちの短い金髪とがっしりとした鎧を着込んだ男騎士、紫髪の男性の後ろにはウルフヘアで白髪の、眼光の鋭い女騎士がそれぞれ立つ。
少女は紅茶の香りに顔をほころばせながら、口を開く。
「でも本当に良いの? 流石に悪いんじゃ無いかしら。ほら、ギュスターヴ、最近忙しくしていたでしょう?」
歳の差に全く動じない、凜とした響きの声。その言葉を受けて、向かいの男、ギュスターヴはその糸目の目尻を下げる。
「今更何を、もうお手紙は出されたのでしょう? 遠慮なさらないで下さい。エリス様らしくも無い。私の忙しさなど、エリス様にはかないません」
そんなことはない、と謙遜するエリス。更にギュスターヴは続ける。
「そもそも、アーサーをガジ村へ送ったのは私の独断です。謹んで君主の代役を務めさせていただきますよ。なんなら、暫く向こうに滞在していただいても構いません。エリス様は、働き過ぎですから」
笑顔で、柔らかい口調のその言葉にエリスも表情がほころぶ。
「で、でも……こんな時期だし、やっぱり私だけ休暇だなんて」
戦後直ぐの状況を憂いて、申し訳なさを含んだ声色。帰省を始める騎士や兵士、パレードを見に集まる人々、むしろ警備を固めなければいけない状況で、個人的な理由で央都を離れることを渋り続ける少女にギュスターヴは咳払いを一つ。
「失礼を承知で申し上げますが、エリス様はまだお若い。戦場で指揮を執るだけでなく、自身の国の統治や公務にも追われる日々。側近としてお側で力添えをして参りました私から言わせれば、エリス様は十二分に責務を果たされました。戦争が終わって平和が訪れたのですから、今こそ年相応のわがままの一つや二つ、許されざる道理はありません」
淡々と語るギュスターヴ。エリスは照れくさそうに「そ、そうよね」と紅茶を飲み干した。
「うん。分かった。ありがとうギュスターヴ。じゃあ後は、アーサーの返事次第ね」
席を立つエリス。
「行きましょうロザリオ。休憩中に呼びだして悪かったわ。それじゃあ」
ロザリオと呼ばれた男の騎士を引き連れてガゼボを離れていくエリス。ギュスターヴは彼女らを見送りながら、ゆっくりと立ち上がり回廊へ向かう。
シャルロットは一礼し、エリス達とは反対側の扉から庭園を後にするギュスターヴを見送る。テーブルに残されたギュスターヴのカップには、紅茶がなみなみと残っている。
ギュスターヴは時代を先取った綺麗な一面板ガラスの廊下を歩む。つい数年前までの窓ガラスと言えば、フラスコの底を切り取り鉄枠にはめ込んで並べていた、光を取り込むだけが目的のようなものだったが、帝国が成立したことで多種族の技術が流れ込み、このような外の光景が綺麗によく見えるガラスを作り出すことが可能になった。
ドワーフの繊細で熟達した加工技術に、エルフが受け継いできた弾よけの術式。板ガラスの四隅にはうっすらと術式が書き込まれているそれは、公用語とは異なる古代の言葉で描かれており、一つの装飾のようにすら思える。
「美しい」
口から無意識のように漏れ出る言葉。魅入られたかのようにギュスターヴは足を止める。
ガラス越しの、未だ賑わいを残す色とりどりの装飾がたなびく街を背景に、そっとなでた。
八年前、皇帝エスエメラルダ・レオパルドの元に、それぞれ十二の種族を代表する国家の君主が協定を結び成立した巨大な帝国。
皇帝以下の十二の君主は対等な立場を保ち、種族間での差別や戦争を禁止し、宗主国として君臨する神聖レオパルド王国、通称『央都』が外交を司っている。
央都は帝国領の中心部に位置するため商業が盛んで、各地から富豪や商人が集まる。しかし央都の盛況さは何より、王族の住む城だ。金属細工や建築技術に優れた種族ドワーフが主軸となり、多くの種族が有する創意工夫や資材が持ち寄られ、まさに十二種族の結束を形にしたような立派な城がこの地に建っている。この城を一目見ようと多くの人間が毎日のように央都を訪れるのだ。
今、央都は終戦記念のパレードの真っ最中で、彩られた町並みは、多くの来訪者を迎えながら昼夜問わず賑わいを見せている。
そんな喧騒から隔絶された城の、幾つかある中庭の一つ。花と共に生きてきたエルフ達が彩った庭園は晴天の輝きを目一杯に浴び、その蕾を開かせている最中だった。
中庭の中心には、雨宿りや日陰の提供、休憩や庭園を見渡しての茶会を目的として建てられたパビリオン、真っ白なガゼボがある。
そこに美しい金髪の長髪を携えた少女と、三十代ほどの紫色のストレートヘアの男性が向かい合って座り、金の装飾が施された純白のティーカップを手にしている。少女側には端正な顔立ちの短い金髪とがっしりとした鎧を着込んだ男騎士、紫髪の男性の後ろにはウルフヘアで白髪の、眼光の鋭い女騎士がそれぞれ立つ。
少女は紅茶の香りに顔をほころばせながら、口を開く。
「でも本当に良いの? 流石に悪いんじゃ無いかしら。ほら、ギュスターヴ、最近忙しくしていたでしょう?」
歳の差に全く動じない、凜とした響きの声。その言葉を受けて、向かいの男、ギュスターヴはその糸目の目尻を下げる。
「今更何を、もうお手紙は出されたのでしょう? 遠慮なさらないで下さい。エリス様らしくも無い。私の忙しさなど、エリス様にはかないません」
そんなことはない、と謙遜するエリス。更にギュスターヴは続ける。
「そもそも、アーサーをガジ村へ送ったのは私の独断です。謹んで君主の代役を務めさせていただきますよ。なんなら、暫く向こうに滞在していただいても構いません。エリス様は、働き過ぎですから」
笑顔で、柔らかい口調のその言葉にエリスも表情がほころぶ。
「で、でも……こんな時期だし、やっぱり私だけ休暇だなんて」
戦後直ぐの状況を憂いて、申し訳なさを含んだ声色。帰省を始める騎士や兵士、パレードを見に集まる人々、むしろ警備を固めなければいけない状況で、個人的な理由で央都を離れることを渋り続ける少女にギュスターヴは咳払いを一つ。
「失礼を承知で申し上げますが、エリス様はまだお若い。戦場で指揮を執るだけでなく、自身の国の統治や公務にも追われる日々。側近としてお側で力添えをして参りました私から言わせれば、エリス様は十二分に責務を果たされました。戦争が終わって平和が訪れたのですから、今こそ年相応のわがままの一つや二つ、許されざる道理はありません」
淡々と語るギュスターヴ。エリスは照れくさそうに「そ、そうよね」と紅茶を飲み干した。
「うん。分かった。ありがとうギュスターヴ。じゃあ後は、アーサーの返事次第ね」
席を立つエリス。
「行きましょうロザリオ。休憩中に呼びだして悪かったわ。それじゃあ」
ロザリオと呼ばれた男の騎士を引き連れてガゼボを離れていくエリス。ギュスターヴは彼女らを見送りながら、ゆっくりと立ち上がり回廊へ向かう。
シャルロットは一礼し、エリス達とは反対側の扉から庭園を後にするギュスターヴを見送る。テーブルに残されたギュスターヴのカップには、紅茶がなみなみと残っている。
ギュスターヴは時代を先取った綺麗な一面板ガラスの廊下を歩む。つい数年前までの窓ガラスと言えば、フラスコの底を切り取り鉄枠にはめ込んで並べていた、光を取り込むだけが目的のようなものだったが、帝国が成立したことで多種族の技術が流れ込み、このような外の光景が綺麗によく見えるガラスを作り出すことが可能になった。
ドワーフの繊細で熟達した加工技術に、エルフが受け継いできた弾よけの術式。板ガラスの四隅にはうっすらと術式が書き込まれているそれは、公用語とは異なる古代の言葉で描かれており、一つの装飾のようにすら思える。
「美しい」
口から無意識のように漏れ出る言葉。魅入られたかのようにギュスターヴは足を止める。
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