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二話
しおりを挟む神隠しに最初にあった年は定かでは無く、村人の何処かの家の次男坊が消えたらしいという事だけが伝わっていた。
そしてその次男坊を探しに出掛けた長男が二番目に消えたようだ。
明治頃だったので兄弟も多く跡継ぎには困らなかったが、熊にでも食われたかと危惧した当時の人々は大掛かりな山狩をしたそうだ。
だが熊は居なかったし、痕跡も無かった。食べられた様子もなく森はただただ静かだったという。
その翌年は誰も消えたりしなかったのだが、その次の年になると五人もの子供が消えたらしい。その次の年には七人が消え、その次の年には一人消え、何時しか村民の子供は誰も居なくなったらしい。
悲しみに暮れた村民は一人、また一人と【上村】を去り、何処かの街へ消えたらしい。
村民が居なくなった村は村長一家だけになってしまった。
だが村長一家は村に居続けた。
何時しか誰かが帰ってきた時に、誰も居なかったら可哀相だからと、その日が来るまで村を守り続けると誓ったそうだ。
明治後半になった頃、今度は当時の村長が居なくなった。
今まで子供だけだと思っていたから村長一家は急に不安になったそうだ。
【下村】の村民達が噂にしていた言葉が頭によぎり、一語一句思い出す。
『あの村は生贄の村だ。差し出さなくともすべて奪われるのだ、あの山には近づくな!神隠しにあうぞ!』と……。
恐ろしくなった奥様は家の者を全て連れて、着の身着のままで、その日の内に山を降りたらしい。
その後【下村】へと移り住んだ一家は、山の麓を開拓して田畑を造り、姓は上村と名乗り年二回だけ山頂への道の草刈りだけは欠かさず行ったが、民家には入らなかったそうだ。
で、その一家の長男が上村爺さんなのだそうだ。
爺さんの子供はそんな仕来りみたいなモノは信じなかったらしく働ける様になると村を出て、今は都内で働いてるらしい。
また上村爺さんも身体がキツいし帰ってくる者も既に100年以上居ないので、もう守らなくても良いだろうと売りに出したらしい。
曰く付きだった事を内緒にして売った事を後悔してたらしく、俺の前に茶封筒に入った10万円を差し出して
「もし気味が悪いと思うなら、返しても良いですよ」
と眉尻を下げて言ってきた。
俺は即答で答えた。
「勿論返しません!夢の山暮らし何ですよ」
そう言って茶封筒を押し返しながら満面の笑み付きで伝えた。
そう言う俺を少し驚いた後、ありがとうと答えた上村爺さんと婆ちゃんと俺を見ていた下村の皆さんから拍手を貰った。
その日の夜は宴会になり集会はそっちのけでたらふく呑んで騒いだ。
皆が集合してやる祭りも元々は【上村】で神隠しにあった方々を祀る為の祭りで神村祭りと言うらしい。
そして俺もその祭りに参加する様に言われた。住所がある訳でもなく、親戚縁者も居ないからと一度は断ったのだが、コレから元【上村】の管理もするのだからと参加してくれと頼まれた。
これも何かの縁だろうと上村婆ちゃんもいうし、参加することになった。
日時は丁度休みの終わる前日で、それなら呑めるなぁと肩を叩かれながら祭りの内容等を聞きながらその日は明け方まで呑み、次の日には二日酔いになり、昼過ぎに山に着いた。
起きた時部屋に誰も居なかったが台所に上村婆ちゃんが居て、味噌汁を温めていた。
少し遅い朝飯を御馳走になりながら他の人は? と聞くと、朝も早くから上村爺さんの畑作業の手伝いに出かけたよという。
逞しいなぁと思いながら頭痛に悩まされている俺を見ては、上村婆ちゃんは笑っていた。
帰りしな持って行けと渡された籠には朝採った夏野菜が沢山入っていた。
婆ちゃんお礼を言って爺さんに宜しくと伝えたあと山へ向けて走り出した。
元上村の村落があった場所が佐藤さん達と初日にバーベキューした場所だった。
既に家屋は腐り土に帰ったそうだが、長年人が住んでいた事から地面は固く平らに踏み固められ、短い雑草しか生えないのだそうだ。
其処を拠点にして作業を進めて行く予定だったのだが、山頂に向かう道すがら雑草が無くなっていることに気が付いた。
その訳は広場に着いた時に分かった。
【下村】の住人の方々や昨晩一緒に飲んだ方々が朝の畑作業が終わってから、家屋の周りの草や蔦を綺麗に刈りとってくれていたからだった。
俺が慌てて駆け寄ると上村爺さんが声を掛けてきた。
「よぉ、おはよーさん」
「おはよーございます上村爺ちゃん!って違う!草刈り有難うございます!野菜も!てか、皆さんまで!」
そう言って頭を下げて回っていたら
所々から「気にすんな」とか、「仲間だろ」とか笑顔で言われた。
何となく暖かい気持ちで一杯になり涙ぐんでいると、背中をバシッと叩かれて
「男が泣くな泣くな!」
っと、上村爺さんが豪快に笑いながら励ましてくれた。
暫く皆に弄られて笑いあったりしたのち、家屋どーすんだ?って誰かが言ったので
「柱や梁はしっかりしてるので二階をロフトの様にして、壁と床は貼り替える予定です」
「そっかそっか、んじゃある程度壊しちまうわ」
そういうが早いか『ドゴーン!』と、けたたましい音を出しながらでかい木槌を振り回し壁を破壊してくれた。
地元の解体業を営む方らしく、凄い速さでどんどん壁を壊し、腐った床板を剝して回ってくれた。
俺は特にする事が無く、手伝おうとすると「餅は餅屋だから」とやんわり断られ、なんなら昼飯作ってくれと言われる始末。
適材適所と後ろから声をかけられ、俺よりも若そうな兄ちゃんに肩をポンポンされながら
「俺肉くいてーな!」
と、催促された。
俺も「あいよ!」と、応えて高い肉の入ったクーラーボックスを車から持ってくる。
野菜も冷やしておこうかと井戸の水を取りに行くと、雑草が刈り取られて昨日まで見えなかった場所の奥から水の流れる音が聴こえた。
あんな所に川なんて有ったのかと思い、近付くと少し降った場所に小川が流れていた。少し薄暗かったので車から防水性の懐中電灯を持ち、作業着を着て向かった。
ソッと地面を確かめながら慎重に降りて行くと、サラサラと流れる沢だった。
水は恐ろしいほど澄んでいて、底が見える。
落ちてた棒を拾いどの位深いか確かめると50cmはありそうだった。
流れる水に手を突っ込むと少しぬるい。
流れてくる川を辿りながら上流へと歩いていくと、岩に空いたトンネルから流れて来るみたいだ。
俺は何故か無性に気になって、小川にザブザブと入り、トンネルの奥を懐中電灯で照らしてみた。
中は意外と広く、深さも腰くらいでトンネルの奥の方から光もさしていた事から、何処に繋がってるのか確かめたくなった。
水もぬるいのでそのままトンネルへと歩む。底もヌルヌルとはしておらず、歩きやすかった事もありどんどん奥へと進んでいく。
緩やかにカーブしていた様で、後ろを振り向くと光は見えるが向こう側は見えなかった。
近くに光があると安心するのか気にせず奥へと進むと、水は無くなり壁が光る不思議な場所へと出た。
眩しくはないがやたら光る壁を触るとツルツルしている。
何かの水晶でも含まれているのか外からの光が反射して全体が光っているようだった。
出口付近に近づいたのか風が吹き込んでくる。
その風は少し冷たかったが心地は良かった。
ようやくトンネルを抜けるとそこは滝の裏側みたいな場所だった。
滝の様に流れるのは水の様で水ではなかった。
何故なら手を翳しても触れなかったからだ。
見た目は水の中に手を入れている筈なのに、滝の水も手に当たって居るように跳ねるのに、水の感触は無かった。
不思議に思いその滝へと顔を突っ込むが息苦しさも無かった。
なのでそのまま滝へと身を全て投げ出し、足元を確かめながら抜けて行くと陽の光で反射しているのか、光って見える湖というか、溜池の様な場所に出た。
その池の真ん中には島があり、真ん中に大きな気が生えていて池に反射された陽の光がその木の実を照らし、まるで光っている林檎の様だった。
何となくその池の中を渡り、島に上がる。
ソッと林檎の様な木の実を手に取ると軽くひねってもぎ取った。
もぎ取った木の実から甘い香りがしたので、特に気にせずにおもむろに食べてみた。
これが物凄く美味くて気付けばガツガツと食いすぎて13個位の芯が転がっていた。
腹も膨れたし気持ちの良い風にも当てられ、さんさんと降り注ぐ陽の光も暖かくて何時しか俺は寝ていたようだ。
◇
どれ程の時間を寝ていただろうか……
目が覚めるがまだ日も高く数分か数十分か……その割にはすっかり二日酔いも治り、心なしか躰も軽い。
濡れていた筈の服も乾いていた。
風と太陽のせいで乾いたのだろうと気にせずに改めて周りの景色を眺める。
ここは中々深い森の中の様で、この池の周りには原生林かと思われる木々が生えていた。
人が手を繋いでぐるりと一周回るには何人必要なのか分からない様な太い幹の樹木もある。
樹齢にしたら何百年どころか何千年かもしれない。
そんな太古から生えてるみたいな場所が日本にあるとも思えなかったが、神秘的な雰囲気を感じた。
俺は急に背筋が寒くなり、来た道を戻ろうかとも思ったが森の隙間から煙が立ち上ってる場所が目に入った。
こんな所にも人がいた様で少しホッとしたので、行ってみることにした。
もしかしたら【下村】の人達も居るんじゃないかと思ったからだった。
少しばかり遠そうだったのでもぎ取れる高さに生えていた木の実をキャンプベストに入るだけ入れた。
バックを着るベストのようなもんで、収納力は意外と高く愛用している。
が、流石に多かったのか入り切らず、残りは手に持てる分を抱え泉を渡り、歩き出した。
◇
獣道を通り森林の中へと歩むと、直ぐにひんやりとした空気に当たった。
空気は乾燥しているのかジメジメとはしておらず、時折通る風が気持ちよかった。
ある程度歩くと少しばかり開けた道の様な場所に出れた。
その周辺は多少人の手が入った様な自然林だった。
近所の人がたまに山菜でも取りに来てるような気がする。
切り株なんかもあったので材木でも取っているのかもしれない。
また暫く歩くと森は終わり林に切り替わったようで、所々葉の隙間から木漏れ日の様に光がさしてきた。
そして、泉から歩いて2時間くらい歩いたくらいでようやく木々が生えてない場所に出れた。
こんなに歩いたのは学生の頃以来だろうか、額と背中にジトっとした汗が流れていた。
少し寝たとはいえ机仕事が長かったせいもあり、体力は随分と落ちていたようだ。
丁度よい大きさの岩が転がっていたので、そこに腰を降ろし、しばしの休憩を挟むことにした俺は、手に持っていた分はとっくに食べきってしまい無かったので、キャンプベストから数個取り出して食べた。
甘いものを食べると体力が回復する様だ。
森に入る前くらいの体力が回復した感じがして、少し伸びをしたあと再び俺は歩き出した。
森を出た先は草原が広がっていて足首くらいしか生えてないような道を辿って道なりに歩むみ、少し急な峠を超えると麦畑が見渡す限りに広がっていた。
その先に小さく見えた建物は何処かお城のような、時計塔のような物が中心の高台にあり、まるで中世時代の城下町そのままな感じがした。
こんな場所にあんな観光地あったっけ?と思いながら取り敢えず向かうことにした。
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