7 / 88
七話
しおりを挟むこの世界とあちらの世界(日本)とでは、ボーイの仕事内容が違ったらしい。
朝イチの仕事は、日が昇る前に起きて客室の前の廊下全てにランタンが壁にくっついるので其処の全ての蝋燭に火を灯す作業から始まる。
この宿屋は三階建てなので廊下も三つある。
最初の頃は指をぱっちんぱっちん鳴らしながら一個づつ灯して回ってたのだが、流石に数も多く時間だけが過ぎ去ってしまい効率が悪かった。
なので、廊下の端に立って一度だけ指を鳴らしてその廊下すべての蠟燭に火が灯るイメージをしてみたら、これが意外とうまく行った。
自分の部屋が屋根裏という事もあり、下に降りながら三回鳴らすだけで蠟燭の火をつける事が出来たおかげで大分楽になった。
一ヶ月もすると、寝起きと同時に指を鳴らすと宿屋すべての蠟燭に火が灯る様になった。
蝋燭つけが終わると次の作業は水汲みだった。主に調理場の水瓶に八分目ほどの水を貯める。
調理する場所だけあって水瓶も三本あるので大変な作業だったのだが、これも水が貯まるイメージをするだけで済むようになった。
魔法で言うイメージとは過程ではなく結果を頭に浮かべる事だったのだ。
その結果をイメージできた事によって作業の効率が格段に上がることになる。
半年が過ぎる頃には日に三、四回指を鳴らすだけで灯りを付ける作業、水を汲む作業、食堂の机や床の掃除に竈に火を付けたり、冬場は暖炉に火を付ける事が出来る様になっていった。
ただ、俺の魔法はあくまでも生活魔法だったので、マッチの火くらいの火力しか出せなかった。
なので、竈の火は付いてもお湯になるまで時間が掛かり、その間は野菜の皮むきや一口大に切る作業が追加された。
そのうち調理なんかも任せるような事を言っていたが、もう直ぐ半年が過ぎるので開放される筈だ。
開放されたらいよいよ荷物持ちの訓練をしようと思う。
荷物持ちは冒険者の狩った獲物を担いだり、獲物の皮を履いだり、時には泊りがけの食事を作ったりする裏方が主な仕事なのだそうだ。
意外と作業が多くて止めようかとも思ったが、この裏方の仕事を完璧にやり遂げると冒険者から重宝されるし報酬も割と高いのだそうだ。
宿屋に泊まりに来たパーティーの中に荷物持ちを職業にしてる方が居て、俺が将来そちら方向に進みたいと言ったら結構細かく教えてくれた。
明日か明後日には魔女が迎えに来てくれるので、教えてくれた事を元に準備するつもりでいたのだが……
半年が過ぎる少し前の月に、魔女が俺の様子をコッソリ見に来ていたらしく、俺の居ない所で何やら旦那と話しをしていたと女中のマキネさんに聞かされた。その時魔女の顔はニヤーとした笑みを浮かべていたそうだ。
その時の話は忙しかった事も有り、すっかり忘れていたのだが、ちょうど半年が経った日の朝、宿を出る準備をしていたところ、ノックと共に旦那が入って来た。
片付かれた部屋の様子を眺めた後、眉尻を下げながら俺の肩を掴み、今日から三年程預かることになったと聞かされた。
それと、二号店を出す事になったらしく、そこの運営を任された。
運営と言っても雇われ店長というだけで、金の管理はダッズの奥様がやるらしい。
俺の仕事は今までどおりの雑用に料理長と調理素材の仕入れまで担当するのだそうだ。
理不尽この上ない。
「わずか半年宿屋に居ただけで店主とか巫山戯んな! できるわけ無いでしょ!」
そう言って反論したのだが、宿の規模は今居る宿の三分の一の客室で二階建て、一階は俺の部屋と食堂で客室は2階の10部屋のみ、受付は今の宿屋でやるらしい。
宿屋の場所は町の外で、麦畑を過ぎて坂を下った先の草原の手前なんだそうだ……。
◇
二号店という名の臨時の宿屋は二年起きに作るらしくその理由が、とある生き物の繁殖が二年起きに始まるのだそうだ。
その生き物というのが魔の森の猪と書いて【魔森猪】と呼ぶらしい。
その名前を聞いた俺は吹き出しそうになったが耐えた。
そしてその魔森猪は二種類あり、茶色い魔森猪(茶魔森猪)と黒い魔森猪(黒魔森猪)がいるが、茶色の繁殖は森の中で毎年行うらしいのだが、黒い魔森猪は違うらしく、草原まで出て来て産むらしい。
一頭で20匹は産むらしく、多い個体だと30匹は産むのだそうだ。
遥か彼方まで広がっているような緑の草原が、ピンク色に染まる程産まれる。その猪を求めて国中からよりすぐりの狩人がこの地に集まり、町の宿屋はすべて埋まる。
それで足りない分を臨時の宿場が補うのだそうだ。
この街が発展したのはこの肉祭りのお陰なんだそうだ。
黒魔森猪の子供の名称は桃魔森猪と呼んでいるらしい。
この桃肉はとても柔らかく美味いのだそうだ。
煮て良し焼いて良しの優れ物で、この時期に大量に捕まえて燻製やベーコン等の保存食にしたりして、次の繁殖が始まるまでの二年間保たせるそうだ。
燻製の作り方は後程教えてやるからと言われ、取り敢えずこっち来いというので宿屋の裏へと回る。
宿屋の裏には草原が広がっていた。
まぁ草原の中に有るんだからそうなんだけど……。
そしてダッズの旦那はこの草原を指差しながら耕して畑を作れと言う。
「……いや、野菜の仕入れって買いに行くんじゃないのかよ! 畑から? 畑からなの? 耕すの? マジで?」
「ああ、買いに行ってもこの時期の市場は戦場でな? 此処から買いに走っても間に合わないんだ」
「マジかよ~……」
俺の宿屋と隣の宿屋は意外と距離が離れていた。
等間隔に離して馬車でも置くのかと思っていたが、まさか畑の為とは思わなかった。
そんなことを言ったら
「馬で来る事はあるが、皆お前同様アイテムボックス持ちを雇ってるからな? 持ち運びは楽なもんよ」
そうだった。この世界では誰でもって訳ではないが大体有名所の奴は自前のアイテムボックスを持っていたり雇っていたりしていた。
俺のやつだってそこそこ入る物を貰っていた。最初はレア物貰ったと浮かれていたが、高価ではあるが持てない物では無かったとあとから知った。
一口食べれば若返る実の方が遥かに高かったのだ。
1
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?
来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。
そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった!
亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。
「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」
「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」
おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。
現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。
お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、
美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!
五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~
放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」
大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。
生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。
しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。
「すまない。私は父としての責任を果たす」
かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。
だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。
これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。
飯屋の娘は魔法を使いたくない?
秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。
魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。
それを見ていた貴族の青年が…。
異世界転生の話です。
のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。
※ 表紙は星影さんの作品です。
※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。
幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~
二階堂吉乃
恋愛
同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。
1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。
一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる