Shine Apple

あるちゃいる

文字の大きさ
8 / 88

八話

しおりを挟む


 「じゃあ、そろそろ木を切りに行ってきてください」

 そう言ってダッズさんは俺の背中を押した。

 「木? ですか?」

 薪でも集めるのかと思ったが生木を使うのか? と、訝しんでいると違うらしい

 「はい、宿を建てるのに必要なので」

 そう言って一枚の羊皮紙を渡してきた。

 それを受け取りくるくると丸まった羊皮紙を開くと、そこには二階建て宿屋の設計図が書かれていた。

 丁寧に魔法を使って作る方法が細かく記されている。筆跡は魔女のだった……

 設計図を見ながら絶句していると、ダッズの旦那は申し訳無さそうに話し始めた。

 「……じつはタクミ君がこれからやる宿屋の経営者が魔女様何ですよ……」

 この一言ですべてを察した気がした。
 その後も続きがあって詳しく聞くと……

 耕す筈の畑の横にあった建物がダッズさんの宿屋で、ダッズさんもそこでやるつもりだったのだそうだ。
 だが、この時期の宿屋は一泊の値段が1.5から2倍になるのに目を付けた魔女が一口噛ませろと言ってきた。だが既に街中には空き地すらない状態で、外に作るしかなかったが、既にダッズさんの宿屋も予約でいっぱいになっていた。
 そこで魔女は俺の魔法の成長を見て確信したらしい。

 使える!(ニヤーっと笑ったのがこの時)

 そしてダッズさんと話を付けて三年間延長したばかりか、繁殖期に入る三ヶ月前に俺を此処に連れていき、宿屋毎作らせようと考えたらしい。

 頭を抱えながら座り込んだ俺を心配そうに見詰めながら、ダッズの旦那は俺を慰めてくれていた。
 しかし俺は、木を切るにはどんな魔法を使えばよいか考えていた。

 生活魔法とはいえ、最近魔法を使うのが面白くなってきてたのと、組み合わせに寄って使い方も変わるのではないかと思い始めていたからだ。
 例えば土魔法、生活魔法では生ゴミを捨てる為の穴を掘るくらいしか出来なかったが、掘る範囲を直径10センチとかに狭めて掘り進め、掘り出した土を石のように固くなれとイメージしながら掘った穴の側面を固めていく、そのまま掘り下げていくと地下水に当たり井戸が掘れた。
 その井戸は実験の為に掘っただけなので、すぐに埋めた。
 つまりイメージで生活魔法でも使える事が分かった。

 そこで今回の木を切るミッションを考察する。

 水と風を使って切ろうとは思ったが、水圧を如何するかがネックだった。
 ぼーっと草原の草を見ながら思い浮かんだのは草刈り機だった。
 丸鋸まるのこの様に回転させて遠心力で切ろうと考えたが、多分切れても一瞬だろう。
 胡座をかいて腕を組みウンウン唸る俺を見たダッズさんは泣いてると思ったのか、甘い飴玉を数個くれた。

 「(守銭奴魔女に)気を落とすなよタクミ? 今日は俺の宿で休んでいっていいからな?」

 そう言って一部屋貸してくれた。

 飴玉をコロコロ転がしながら如何するか考えていると、窓の外をスキンヘッドの冒険者が横切った。
 それを見た時ふと頭に浮かんで来たのがクリ○ンだった。

 「あ! 気○斬!」

 そこからは早かった!
 水を薄くしながら風と混ぜ手首を軸に回して行く、半径1mくらいが一番強度と耐久力と回転数が良かった。
 切り方が決まると今度は試してみたくなり、そのまま部屋を飛び出して森の手前にある林へと向かう。

 手頃な太さの幹を見付けてイメージを膨らませる。

 五分ほど掛かったが唸りを上げて回る気○斬もどきを目星を付けた幹に向かって投げた。

 「バシャ‼」

 水煙みずけむりを上げただけだった。何が不味かったのかを考えて、多分投げたのが間違っていたと思った俺は、今度は直径30センチくらいをイメージしながら指の先を軸に回して、電動ノコギリの様にしてみた。

 「シュルルルルっ……」

 っと軽やかな音と共に木が抉れていった。

 「よっし!」

 左手でガッツポーズを決めた。

 切れる算段がついたので、宿屋へと引き返し、部屋に置いておいたアイテムボックス付きのショルダーバックを背中に背負って再び林へと戻って来た。

 スパスパとは切れなかったがある程度の時間を掛けて10本程形の良い木々を刈り取って、宿屋を建てる場所に並べて行った。



 タクミの姿を遠目に見ていたダッズは驚いていた。
 生活魔法しか使えないと聞いていたからだ。
 だがどうだ、目の前に置かれていく丸太の山が、ゴロゴロとショルダーバックから出てくるではないか。

 それだけでも異常な光景だった。
 樵ですらこんな事はできない。
 数十人でやれば出来るかも知れないが、それをタクミは一人でやっているのだ。

 「彼が脆弱な魔法使いだって? 魔女様も耄碌もうろくしたもんだ。 若返っても頭の中身は老婆のままか」

 そう言って呆れた。



 ある程度の丸太が集まるとタクミは大黒柱を2本削り取って行った。残りは平たく切って重ねていく。

 日が暮れる頃にはすっかり建材が集まった。

 それを見ながら設計図を見つめていたのだが、一番肝心な事を忘れていた。それは……

 「トイレだ! 水洗便所がほしい!」

 この街に来て最初に不便だと感じたのはトイレだった。
 こちらのトイレはドッスンなのだ。
 そこの方に何かが蠢いていたのを見て怖くなった俺はトイレが嫌いになっていた。

 それでも毎日必ず使わなくてはならないので、水洗トイレの妄想だけはしていた。

 井戸を掘る実験をしていたのも水洗トイレのためだった。
 あの時は断念したのだが、宿を最初から作るなら話は別だ。

 俺の宿は街道を挟んで向こう側の川の横だった。
 川の真上に宿を作ろうかと考えたが、川幅があった為に諦めた。

 そこで川から水を汲める水車を考えたが、形が分からないのでこれも諦めた。
 時間があれば良かったが生憎時間は三ヶ月しかない。
 なので、井戸を掘ることにして、川へと流れる小川を作る計画を立てた。

 イメージは出来ているし、あとは実行するのみ!

 段々楽しくなって浮かれていた俺は、このあとに出来上がる宿屋が革新的なモノだったばかりに、益々魔女に利用されて行くのだが、このときの俺ははしゃいでしまっていて全く何も考えていなかった。



 宿を作り始めて一ヶ月後になると、ようやく汲み上げられた水がYの字に別れて流れ、トイレ予定の場所を通り、下水へと流れ浄化槽に辿り着く装置を作り上げた。
 バクテリアを利用した排泄物は浄化槽で分解されて綺麗にした下水は川に流れる。

 これで臭いも抑えられ、蠢く何かも見ないで済むと喜んだ俺は、次に煉瓦を作り始めた。その煉瓦を使って土台を作り、その上に支柱使って骨組みと屋根だけ作った。
 各部屋にトイレを作って、簡易的だがシャワーも作る。
 この街の人は風呂に入る習慣は無かったらしくシャワーや水浴びで済ませていたので、その手間を省かせるためにシャワーとトイレ付きの部屋にした。

 一応食堂予定の場所にもトイレは置いたが、思った以上に食堂が狭くなったので泊り客だけが食べられればいっかと考え、カウンター席だけにした。

 竈の奥が俺の部屋になるのだが、そこには湯船付きの部屋を作った。
 やはり日本人だし、風呂には浸かりたいしな!


 こうして色々こだわり過ぎた宿屋は、三ヶ月前に完成した。

 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?

来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。 そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった! 亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。 「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」 「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」 おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。 現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。 お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、 美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

今更……助けてくれと……言われても……

#Daki-Makura
ファンタジー
出奔した息子から手紙が届いた…… 今更……助けてくれと……言われても……

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

飯屋の娘は魔法を使いたくない?

秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。 魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。 それを見ていた貴族の青年が…。 異世界転生の話です。 のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。 ※ 表紙は星影さんの作品です。 ※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

処理中です...