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八話
しおりを挟む「じゃあ、そろそろ木を切りに行ってきてください」
そう言ってダッズさんは俺の背中を押した。
「木? ですか?」
薪でも集めるのかと思ったが生木を使うのか? と、訝しんでいると違うらしい
「はい、宿を建てるのに必要なので」
そう言って一枚の羊皮紙を渡してきた。
それを受け取りくるくると丸まった羊皮紙を開くと、そこには二階建て宿屋の設計図が書かれていた。
丁寧に魔法を使って作る方法が細かく記されている。筆跡は魔女のだった……
設計図を見ながら絶句していると、ダッズの旦那は申し訳無さそうに話し始めた。
「……じつはタクミ君がこれからやる宿屋の経営者が魔女様何ですよ……」
この一言ですべてを察した気がした。
その後も続きがあって詳しく聞くと……
耕す筈の畑の横にあった建物がダッズさんの宿屋で、ダッズさんもそこでやるつもりだったのだそうだ。
だが、この時期の宿屋は一泊の値段が1.5から2倍になるのに目を付けた魔女が一口噛ませろと言ってきた。だが既に街中には空き地すらない状態で、外に作るしかなかったが、既にダッズさんの宿屋も予約でいっぱいになっていた。
そこで魔女は俺の魔法の成長を見て確信したらしい。
使える!(ニヤーっと笑ったのがこの時)
そしてダッズさんと話を付けて三年間延長したばかりか、繁殖期に入る三ヶ月前に俺を此処に連れていき、宿屋毎作らせようと考えたらしい。
頭を抱えながら座り込んだ俺を心配そうに見詰めながら、ダッズの旦那は俺を慰めてくれていた。
しかし俺は、木を切るにはどんな魔法を使えばよいか考えていた。
生活魔法とはいえ、最近魔法を使うのが面白くなってきてたのと、組み合わせに寄って使い方も変わるのではないかと思い始めていたからだ。
例えば土魔法、生活魔法では生ゴミを捨てる為の穴を掘るくらいしか出来なかったが、掘る範囲を直径10センチとかに狭めて掘り進め、掘り出した土を石のように固くなれとイメージしながら掘った穴の側面を固めていく、そのまま掘り下げていくと地下水に当たり井戸が掘れた。
その井戸は実験の為に掘っただけなので、すぐに埋めた。
つまりイメージで生活魔法でも使える事が分かった。
そこで今回の木を切るミッションを考察する。
水と風を使って切ろうとは思ったが、水圧を如何するかがネックだった。
ぼーっと草原の草を見ながら思い浮かんだのは草刈り機だった。
丸鋸の様に回転させて遠心力で切ろうと考えたが、多分切れても一瞬だろう。
胡座をかいて腕を組みウンウン唸る俺を見たダッズさんは泣いてると思ったのか、甘い飴玉を数個くれた。
「(守銭奴魔女に)気を落とすなよタクミ? 今日は俺の宿で休んでいっていいからな?」
そう言って一部屋貸してくれた。
飴玉をコロコロ転がしながら如何するか考えていると、窓の外をスキンヘッドの冒険者が横切った。
それを見た時ふと頭に浮かんで来たのがクリ○ンだった。
「あ! 気○斬!」
そこからは早かった!
水を薄くしながら風と混ぜ手首を軸に回して行く、半径1mくらいが一番強度と耐久力と回転数が良かった。
切り方が決まると今度は試してみたくなり、そのまま部屋を飛び出して森の手前にある林へと向かう。
手頃な太さの幹を見付けてイメージを膨らませる。
五分ほど掛かったが唸りを上げて回る気○斬もどきを目星を付けた幹に向かって投げた。
「バシャ‼」
水煙を上げただけだった。何が不味かったのかを考えて、多分投げたのが間違っていたと思った俺は、今度は直径30センチくらいをイメージしながら指の先を軸に回して、電動ノコギリの様にしてみた。
「シュルルルルっ……」
っと軽やかな音と共に木が抉れていった。
「よっし!」
左手でガッツポーズを決めた。
切れる算段がついたので、宿屋へと引き返し、部屋に置いておいたアイテムボックス付きのショルダーバックを背中に背負って再び林へと戻って来た。
スパスパとは切れなかったがある程度の時間を掛けて10本程形の良い木々を刈り取って、宿屋を建てる場所に並べて行った。
◇
タクミの姿を遠目に見ていたダッズは驚いていた。
生活魔法しか使えないと聞いていたからだ。
だがどうだ、目の前に置かれていく丸太の山が、ゴロゴロとショルダーバックから出てくるではないか。
それだけでも異常な光景だった。
樵ですらこんな事はできない。
数十人でやれば出来るかも知れないが、それをタクミは一人でやっているのだ。
「彼が脆弱な魔法使いだって? 魔女様も耄碌したもんだ。 若返っても頭の中身は老婆のままか」
そう言って呆れた。
◇
ある程度の丸太が集まるとタクミは大黒柱を2本削り取って行った。残りは平たく切って重ねていく。
日が暮れる頃にはすっかり建材が集まった。
それを見ながら設計図を見つめていたのだが、一番肝心な事を忘れていた。それは……
「トイレだ! 水洗便所がほしい!」
この街に来て最初に不便だと感じたのはトイレだった。
こちらのトイレはドッスンなのだ。
そこの方に何かが蠢いていたのを見て怖くなった俺はトイレが嫌いになっていた。
それでも毎日必ず使わなくてはならないので、水洗トイレの妄想だけはしていた。
井戸を掘る実験をしていたのも水洗トイレのためだった。
あの時は断念したのだが、宿を最初から作るなら話は別だ。
俺の宿は街道を挟んで向こう側の川の横だった。
川の真上に宿を作ろうかと考えたが、川幅があった為に諦めた。
そこで川から水を汲める水車を考えたが、形が分からないのでこれも諦めた。
時間があれば良かったが生憎時間は三ヶ月しかない。
なので、井戸を掘ることにして、川へと流れる小川を作る計画を立てた。
イメージは出来ているし、あとは実行するのみ!
段々楽しくなって浮かれていた俺は、このあとに出来上がる宿屋が革新的なモノだったばかりに、益々魔女に利用されて行くのだが、このときの俺ははしゃいでしまっていて全く何も考えていなかった。
◇
宿を作り始めて一ヶ月後になると、ようやく汲み上げられた水がYの字に別れて流れ、トイレ予定の場所を通り、下水へと流れ浄化槽に辿り着く装置を作り上げた。
バクテリアを利用した排泄物は浄化槽で分解されて綺麗にした下水は川に流れる。
これで臭いも抑えられ、蠢く何かも見ないで済むと喜んだ俺は、次に煉瓦を作り始めた。その煉瓦を使って土台を作り、その上に支柱使って骨組みと屋根だけ作った。
各部屋にトイレを作って、簡易的だがシャワーも作る。
この街の人は風呂に入る習慣は無かったらしくシャワーや水浴びで済ませていたので、その手間を省かせるためにシャワーとトイレ付きの部屋にした。
一応食堂予定の場所にもトイレは置いたが、思った以上に食堂が狭くなったので泊り客だけが食べられればいっかと考え、カウンター席だけにした。
竈の奥が俺の部屋になるのだが、そこには湯船付きの部屋を作った。
やはり日本人だし、風呂には浸かりたいしな!
こうして色々こだわり過ぎた宿屋は、三ヶ月前に完成した。
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