Shine Apple

あるちゃいる

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十六話

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 魔女が連れてきた男はまぁまぁ優秀で、覚えも早かったことから直ぐにナタリーさんに追い付いた。
 とは言っても、ナポリタンしか教えてないので早いもクソも無いかもしれない。

 魔女が知っているのはナポリタンとペペロンチーノとカルボナーラだけだ、カルボナーラの材料に必要な乳製品を伝えると少し難しい顔をしていたので、魔女にも手に入れることは難しいのだろう。

 だからなのか魔女が連れきた男はナポリタンとペペロンチーノの作り方しか聞いては来なかった。

 あとは宿屋等で出してる肉料理や魚料理、それとパンの酵母については貪欲に聞きたがった。

 食パンの作り方を執拗に聞いてきては、作業場で何度も何度も焼いては食べてを繰り返していた。

 勉強熱心でとても高感度も高かったのだが、魔女がバックにいると思うと複雑で好きにはなれなかった。

 その男が宿屋に来て半年が過ぎた頃、再び魔女がやって来た。
 料理見習いの三人と畑仕事をやるために新しく雇った大人達とぞろぞろと引き連れて。

 「おい、タクミ! 成人おめでとう!」

 唐突にそう言うとニヤーっと笑う魔女。

 「は? 何言ってんだ? まだ俺は十二歳になったばかりな筈だぞ? ボケたのか? 幼児体型なのに痴呆とは難儀だな」

 確かに魔女の家でステータスを確認させられた時には10歳だったはずだ。
 あの時から数えても2年くらいしか経ってない。

 俺の最後の言葉が気に触ったのか少し顔を歪ませたが、すぐに貼り付けたような笑顔に変わると、魔女は俺に向かって何かを呟いた、そして再び半透明のステータスを出すと確認してみろと言いたげな顔で俺を見る。

 口元はさっきからずーっとニタニタと気持ちの悪い笑みを浮かべている。


 半透明のステータスを確認するとそこには


 名前 タクミ
 種族 人間
 年齢 15


 「このクソ魔女また年齢の部分だけ弄くりやがったな‼」

 改変させられたプレートを指差しながら俺が怒鳴ると魔女は高らかに笑いながら答えた。

 「確かに年齢は弄ったがそれは昔の話さ。 今のはもとに戻しただけよ? 良かったじゃない? 念願の成人になれたんだから」

 そう言いながら手を前に差し出し空間から割符にした羊皮紙を取り出して言う。

 「契約通りなら あんたと交した期限は15の成人を迎えるまでだったねぇ~?」

 猫撫で声みたいな気持ちの悪い言い方でペラペラとこの前かわした契約書を見せびらかしてきた。

 「直ぐに出てけとは言わないよ? 不出来とはいえ弟子なのには変わらないし、師匠としての情けもある。 一日あげよう。その間に出て行きな」

 「猶予が一日のどこに優しさがあるんだ! 仮にも師匠だろうが!」

 「何言ってるんだい? 悪魔じゃないんだ直ぐに出て行けと言われないだけマシだろう? アンタは卒業すらせずに修行を辞めるとはいえ、一応弟子だからねぇ」

 そういうとニヤーと口角を上げて嘲笑う。

 「最後まで厳しい師匠って顔をしないとねぇ? 弟子にしてくれと言ってくる奴が増えるのは困るだろう? ただでさえ若返って言い寄る男共が増えているのに」

 そう言いながら街へと帰って行った。
 帰り際に明日の昼までには居なくなっておけよと告げて。

 置いて行った人達は食堂の二階に住むらしく、ナタリーさん達にも明日の昼までには出て行くように告げていた。





 「こんな結果になってしまって申し訳ない」

 俺はナタリーファミリーに頭を下げた。
 あまりにの急展開で抵抗すら出来なかった事を詫た。

 「大丈夫ですよ、タクミさんどーぞ頭を上げてください」

 そう言うと、実は他の宿からヘッドハンティングされていたらしく、行く宛もあるから心配するなと言われた。

 全く知らなかった俺は寝耳に水である。

 そして近々移動する予定だったとまで言われてしまった。

 「だってねぇ……調理師として入ったのに毎日毎日まーーいにち! 麺を茹でる作業しかしてないのよ⁉ 夢にまで見たわよ! 毎晩うなされていたわ! そんなの誰だって嫌がるわよ! しかも休み無しよ⁉」

 雇われてからの鬱憤うっぷんが今初めて爆発したようだ。

 小一時間ほどナタリーさんに怒鳴られた俺はすっかり項垂れていた。

 でも雇ってくれた事には感謝はしてるんですよ? 最後にそう言われたが生返事しか出来なかった。

 因みに双子の姉妹は客で来ていた兵士達と仲良くなり、来月結婚する予定なのだそうだ。

 全く聞いていない。 まぁあまり話もしていないから仕方ないのかもしれないが……。

 雇った従業員と意思疎通がまるで出来ていなかった事を反省した。
 どうやら俺は駄目な雇い主だった様だ
 そして自分も大嫌いな社畜として彼女達を扱っていた事に気が付いた。

 これでは魔女を悪く言う事も出来ない気がした。

 とりあえず手持ちの金をナタリーさん達と7等分して退職金として支払った。

 最後の夜と言うこともあり、その日はお別れ会と言うことで細やかだが宴を開いた。突然だったので有り合わせの食材だったが、普段話さない双子や畑組の二人とも話をした。
 ヘッドハンティングの話になり、ナタリーさんをスカウトしたのがダッジさんだと分かった。

 麺を茹でてる熱にやられてフラフラしていた所を助けられ、うちに来ないかと誘われたそうだ。

 「こんな劣悪な環境であなたの様な優秀な人材を壊したくない!」と熱く語られたらしい。

 一度は断ったそうだが、毎日口説かれて畑要員に子供達も引き取ると約束してくれたので気持ちが傾いたらしいことがわかった。

 「ご、ごめんなざいぃぃ……」

 俺は深く頭を下げて泣きながら謝ることしかできなかった。

 次の日の朝になると言いたいことが全て言えてストレスもなくなったのか、物凄くいい笑顔をしながらナタリーさん達は俺の前から去った。

 また何処かで会いましょうとは言われなかった。

 よほど苦痛だったのだろう。
 俺は二度と経営者にはならないと誓った。

 昼前の魔女が来る前に食事処の素材と宿屋の方の倉庫に作り置きしていたハムやベーコン等の保存肉に厨房にある食料品、調味料など全てアイテムバッグに仕舞い、俺の部屋だけにあった湯船付きのシャワールームも撤去した。
 お湯が勝手に注がれる魔法陣は痕跡も残らず消し去った。
 魔女には会いたくないし、今後も関わりたくなかったからだ。

 すべての荷物を持って宿を後にして街へと戻る。

 宿にはこれから魔女も住むらしい。
 これは厨房にいた男から聞いた話だ。
 因みにパスタの材料や調味料はこの国には存在していない。
 すべて日本から取り寄せた物なので、二度とナポリタンもペペロンチーノも作れないんだが、如何やって食事処を営んで行くんだろうなアイツラ……。


 (まぁ知ったこっちゃないか)

 俺は口角を上げてニヤリと笑って街へと続く街道を軽やかにかけて行った。

 

 
 
 


 
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