Shine Apple

あるちゃいる

文字の大きさ
18 / 88

十八話

しおりを挟む


 『魔女が俺を探している』

 そんな噂を聞いたのは冒険者登録をして二日後の事だった。



 安く買えた土地は二十坪くらいの広さでギルドの裏手側の城壁にある裏門と言われる場所にあった。
 住民が薬草などを取りに行ける林みたいな場所があり、そこで必要な物を売る店がその場所にあったらしい。
 立地としては冒険者などはやって来ないが、近隣の住民が通るので店を開けばそれなりに稼げるような場所だった。

 下見をした後設計に入っていたら声をかけられた。
 振り向くと双子の片割れの妹のトリーユが旦那になった人と立っていた。

 込み入った話があると言うので取り敢えずギルドの二階までメリヌも連れて向かう。

 椅子に座った直後にトリーユ夫婦が頭を下げてきた。
 何事かと固まっていると

 「「あの土地を譲ってください‼」」

 そうお願いされた。

 詳しく聞くとトリーユは兵士の家でパンを焼いて食べさせていたらしい。
 俺は教えていなかったが、見様見真似で仕事が終わってからパンの作り方を勉強していたらしく、食パン等は作れなかったが、丸いパンは作れるようになっていたらしい。
 そのパンはパスタでは足りない客用に出していた食べ放題のパンだった。
 そのパンを食べた兵士の家の者が店を開いたらどうかと言ってきたらしい。
 食事処で出していたパンもそらなりに人気もあって金を何故取らないのかと言われたこともあったので、それなりに美味しいパンだった事は俺がよく知っている。

 旦那の家の後押しもあって、晴れて兵士も辞めてパン屋へと舵を切ろうとしたが、土地がなかった。

 最後の空き地も売りに出されて買ったのが俺だと聞いて、お願いをしに来たと言う事だった。
 その時に聞いた噂が

 「宿から出るときに何もかも持って出た俺を逆恨みした魔女が取り戻そうと俺を探しているらしいと聴きました」

 宿の所有権は確かに魔女だが、そこに使っていた食材は俺が金を出し、召喚も駆使して集めた物なので、俺の持ち物だ。
 魔女に奪われる言われもない。
 だが、業突張りの魔女の事だから必ず奪いに来るだろう。
 そう考えた俺はその土地をトリーユ夫妻に譲ることにした。

 嘘か本当か判断出来ない噂ではあったが、火のないところに煙は立たぬってことで信じることにした。

 その日のうちに済ませた方が良いだろうって事で、そのままカリーヌさんを呼んでもらい契約書にサインして土地を譲った。

 そのまま買った値段で良いと言ったのだが、喜んだ兵士の家族から買値の二倍の金をもらった。

 魔女のいる街では生きて行くのは面倒くさい事になるかも知れないと踏んだ俺は、馬車でも買って違う街に行こうかと思っていると

 「隣の国にも草原が続いてるから肉祭りはやってるよ? そこに行く?」

 というメリヌの言葉もあって、馬車を買いに行くことにした。



 馬車が売っている場所まで来ると、金貨二枚で売ってる自転車みたいな物が売ってる一角が目に止まった。

 文明の力がこんな所にも……っと懐かしく思って見ていたら、後ろから声をかけられた。

 「それを気に入ったのかね? 今なら大銀貨一枚で売るよ!」

 振り向くと研究者みたいな成りの男が立っていた。

 値札は金貨二枚なのに大銀貨一枚とは安すぎるので、なぜそんなに安いか問いただすと、男は困り顔で言った

 「大魔女ヨネ様の持ち物をベースに新しく作ったのだがね? 動かすのに膨大な魔力が必要なのと、二人しか乗れない上に荷物は運べないしで、作ったは良いが邪魔になってしまってな? もし良ければ鉄に戻して売っぱらってくれても良いから買ってくれ!」

 そうお願いされた。

 前輪が2つの後輪が一つの自転車みたいな形をしているが、足で漕ぐ訳ではなさそうだ。
 馬車を買いに来ただけなんだがと一度は断ったのだが、馬車は高いから止めとけと言われた。

 俺が自転車に魅入って売り手と話していて暇だったのか、馬車を見に行ってたらしいメリヌが戻ってきていう。

 「タクミ様! 馬車高い! 隣の国へは歩いていこう!……」

 最後に呟くように「ご飯食べれなくなる……」と言ったのも聞き逃さなかった。

 飯が食えないと羊に戻ってしまい戦力に成らないし、道中危険かもしれないと思い直し、その魔力自転車を買う事にした。

 動かし方は手と足から魔力を流し動力にするらしい。
 大雑把な説明だったが、試しに乗ってみて分かった。
 確かに膨大な魔力が必要だった。
 使う魔力は大したことはないんだが、常に魔力を流しながら進まないと止まってしまうのだ。

 普通の人が乗ると歩くよりは早いが馬車よりも遅いようで、需要が無いことがわかる。

 だが俺には魔女にも劣らない魔力がある。

 使い用によっては馬車より早く走れるかもしれない。
 実際泊まってる宿屋までメリヌを後ろに乗せて走ったが違和感なく走れた。
 荷物はアイテムバッグに入ってるし、メリヌも小さいが持っている。

 魔女の話も気になった俺は、冒険者ギルドへと戻るとカリーヌさんに言った。

 「この街を出て旅に行きます」

 そう言ってメリヌを乗せて隣の国へと向かった事にした。

 カリーヌさんからは寂しくなりますねと言われ、必ず付いた街でギルドへ報告してくださいと念を押された。

 街を出る前にトリーユに会いに行き街を出ると伝えると、沢山のパンを貰った。

 「お元気で」

 そう言って別れたが、また会いましょうとは言われなかった。

 少し寂しく思って落ち込みながら道中を走っているとメリヌにどーしたのかと聞かれた。

 なので素直に言うと

 「この国では一度別れた相手に再び会える確率はとても低いのよ。危険がたくさんあるし、野盗に襲われるかもしれない世界なの。 だからね? また会いましょうなんて言葉は出て来ないのよ」

 言ってしまうと会えなかった時辛いから

 そう言って涙ぐみ、それ以上話さなくなってしまった。

 もしかしたら父親との別れがそうだったのかもしれないと思った俺は、またやってしまったと後悔した。

 (考えなしなのはどうやったら治るんだろうねぇ……)

 しばらく無言で走り、夕方近くになって夕御飯が出来るまで始終無言だったメリヌは厚切りベーコンサンドを食べてようやく元気になったようでホッとするタクミだった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?

来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。 そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった! 亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。 「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」 「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」 おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。 現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。 お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、 美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

今更……助けてくれと……言われても……

#Daki-Makura
ファンタジー
出奔した息子から手紙が届いた…… 今更……助けてくれと……言われても……

飯屋の娘は魔法を使いたくない?

秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。 魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。 それを見ていた貴族の青年が…。 異世界転生の話です。 のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。 ※ 表紙は星影さんの作品です。 ※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。

覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―

Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

処理中です...