Shine Apple

あるちゃいる

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二十七話

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 「今日は狩り行かない……」

 メリヌが拗ねた。
 昨晩散々弄ったお陰で夜は不貞寝から始まり、腹いっぱい朝食を食べたのに機嫌は治らなかった。

 俺は飛ばせる様に成った魔法を試し撃ちしたくてウズウズしてたので、狩りは一人で行くことにした。

 昼飯の弁当を作ってメリヌに渡す。
 早弁してしまうと困るので間食用に明け方焼いて置いたコッペパンに桃肉の燻製を縦長に切って挟んだなんちゃってホットドックを5個作ってそれも渡す。

 小腹が空いたらこっちのパンから食べる様にと、二度寝しようと寝袋でモゾモゾし始めたメリヌの背中に伝えてから、小屋を出る。

 洗濯をしに井戸へと集まっていた奥様方に挨拶したついでにメリヌの事を頼む。
 お礼に、コッペパンを焼いた時に余った生地で焼いた砂糖がけのクッキーを渡した。

 「「任せときな!」」

 という頼もしい言葉を聞いてギルドへと向かった。
 帰ってくる頃には元気になってると良いが……。

 ギルドに向かう途中に鍛冶屋の工房から煙が上がっていたので少し寄ってみる。

 今日は獣を狩る予定なので焼肉がしたいと思っていたから鉄板か網を注文しようと思っていた。

 「すいませーん!おはよーございまーす!」

 鉄を打つ音で消されてしまうので大きな声で叫ぶ。

 「はいよ! おや、空地の兄ちゃんじゃないか! 昨晩ぶりだねぇ」と笑いながらバンバンと背中を叩かれた。

 この人は鍛冶屋の親父の奥さんで旦那さんと一緒に鉄を打つ事もある程逞しい腕をしている。
 なので普通に背中が痛い。
 少し涙目になりながら実はーと話し出す。

 鉄板は作れるけど網は無理だという。
 と、いうより理解されなかった。
 この世界には網を作れるほど鉄を細くする技術はまだ無いらしく、地面に図を書いて見せたら腕を組んで考え込まれてしまった。

 「出来たら作ってみるけど期待はしないでおくれよ?」

 そう言っていたので、鉄板だけは確実に作ってくれるように頼んで別れた。

 ギルドに着くと珍しく先客が居た。
 五人パーティらしく剣士二人魔法使い一人に盾持ちが一人と背中に大きなリュックを背負った荷物持ちが掲示板の前であーでもないこーでもないと言い合っていた。

 「だからさーこっちの桃魔森猪を狩ろうぜ? 報酬も高いしよー」

 と、青髪の剣士が言うと

 「実入りはいいけど50匹だよ⁉ どうやって持って帰ってくるのよ! 僕のリュックじゃ入り切らないって!」

 「だから貯めてた金でマジックバッグ買えと言っておいただろ⁉ なんで武器買ってんだよ! お前は荷物持ちに転職したんだぜ⁉ 斥候は向いてないって言って辞めたの誰だよ!」

 青髪の剣士と荷物持ちらしい女の子と言い合いが始まり、それを無視して他の三人は獣の張り紙を見ている。

 (仲間なら止めるなりしろよなー……)

 半ば呆れながらその様子を入り口の横に寄り掛かりながら掲示板が空くのを待つ。

 小さいギルドなので掲示板も小さく、五人が並ぶともう何も見えないのだ。

 「ちょっと! あんた達! 喧嘩なら外でやりな! 他の人が見れないだろうが!」

 受付の窓口から顔を出してプリムローザさんが叫んでくれた。

 軽く会釈すると俺の方に向き直り

 「あんたも傍観してないで文句くらい言いな! って、メリヌはどーしたんだい? あの子が居たら蹴散らしてるだろうに」

 「メリヌは少し体調が優れないので休んでますよ」

 そう言いながら掲示板に近付くと

 「もう決まりましたかね? ならどいてもらえると助かります」

 っとなるべく角が立たないように言ったのだが、苛立っていたのか青髪の剣士が突っかかってきた。

 「なんだよお前! 先にこっちが選んでるんだから大人しく待ってればいーだろ⁉ 大体一人で何が出来んだよ! 薬草採りたいだけなら依頼は商業ギルドで受けろよ!」

 面倒事が嫌なので喧嘩はしない様にしているが、武器を持ってないだけで薬草採りに見られるのは癪だなぁと思っていると、荷物持ちらしい女の子が俺の背中のバッグを見て叫ぶ。

 「あれ⁉ あなたもしかして荷物持ち⁉ それマジックバッグでしょ⁉ ちょっとブラフ! この人連れて行こうよ! そしたら桃魔森猪の50匹くらい持って帰れるよ⁉」

 (何勝手なこと言ってんだこの子……)

 呆れて言葉が出ないでいると運び屋ゲットでも思ったのかもう一人の剣士がビリっと掲示板の依頼書を剥がすと受付へと持ってった。

 その仲間達もその剣士の跡に続いて受付に行ったので、掲示板が空いた。

 なので五人と関係ないので依頼書を物色して狼と鹿5頭づつ狩る依頼の紙を剝して受付に向かうと、プリムローザさんが先程の五人パーティが持っていった依頼書にハンコを押した所だった。

 ゾロゾロと五人がギルドの外へと行ったので、受付に依頼書を出す。

 「あれ? あんたあの子等と行かないのかい?」
 「行くわけ無いでしょ何いってんのよ」

 っと、笑っていると。

 「え、いやでもあなた荷物持ちでしょ? 狩り出来んの?」
 「出来ますよ? 魔法使えるし」

 そう言ってほらっとばかりにプリムローザさんの目の前にクルクル廻る風と水の気○斬もどきを宙に浮かせて三個程出して見せる。

 「は? 何それ……え? 魔法使いなの? てか、それオリジナル⁉」

 「まぁね~」っと得意げにしてると外から声がする。
 どうやら俺を呼んでる気もするが、特に紹介もされてないし、誘われてもいないのでシカトした。

 「ねぇ……呼んでるけど……いいの?」
 「知らない人について行ったら駄目と親に言われませんでしたか?」
 っと、逆に聞き返す。
 「そんな事より依頼受けたいんだけど?」

 「そんな事って……まぁいいけどさぁ。五対一でまぁ随分強気なのねぇ……今日はソロなのに……」そう言って一応判子は押してくれた。

 俺ってそんなに弱そうに見えるのかなぁとクビを傾げてしまった。

 そんなやり取りをしてから外に出ると案の定俺を待ちわびてイライラが募ってたのか青髪と黒髪の剣士とリュックの元斥候の女の子に杖を持った魔法使いが喚き始めた。

 「何やってんだよお前! 50匹狩るにも時間が掛かるんだぞ!」(黒髪)とか
 「荷物持つだけで楽ちんな仕事を回してやってんだから直ぐに出て来いよ! このノロマ!」(杖男)だの
 「荷物持ちなんて楽な仕事してんだから俺達より早く外に出てるもんだろ⁉」(青髪)や
 「失敗したらそのアイテムバッグ寄越せよ! アタシがもっと上手く使ってやんよ!」(リュック女)等々……。
 言葉を一つ一つ聞き取るのも億劫なくらい同時に叫ばれた。

 盾持ちのフルアーマーは手を合わせて無言で頭をペコペコしている。

 どうやら常識があるのはこの人だけらしい。

 俺はそのままシカトする事にしてサッサと歩き出した。

 「「「「無視かよ!」」」」

 更に苛立ったのか俺の後ろで報酬は無いと思えだの喚き散らかしてドタドタと着いてきた。

 (お前ら河原に行くんじゃねーのか? 俺は山に行くんだけど……)とは言わずにテクテク前を歩く。

 地味に河原と俺が向かってる山は別方向だ。
 河原が西側なら山は東側で狩場に辿り着くと河原に戻るには一時間くらい歩く。
 走ればもう少し早いだろうけど装備が重いだろうから盾は追いつけないだろう。

 盾がヘイト貰って魔法が先制し、剣士の二人がメインアタッカーなのだろうなぁと推測を立てる。

 桃魔森猪は黒魔森猪が親とはいえ、攻撃能力は低い。
 低いと言ってもそれなりに力は強いので一撃アタックして倒さないと反撃されるのだ。
 魔森の街ではそれなりに冒険者が多いので普段から訓練してる事もあり、駆け出しでもそれなりに強い。

 この五人を見てると魔森の街の駆け出しよりは遥かに弱そうだった。
 盾持ちが多分一番強いだろうと思うが盾の仕事をメインにやるだろうからなぁ……とか考えていたら狩場に着いていた。
 

  

 
 
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