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四十一話
しおりを挟む俺と一緒に草原へと向かうのはメリヌは当然として、他に道案内役として遠目の効く斥候とお目付け役みたいな魔法師、護衛兼ねて冒険者が二人付いてくるそうだ。
準備もそこそこに六人でギルドを出ると、草原で宿屋をしていたダッジや顔見知りが待っていた。
「タクミくん! 手段は問わないから思いっきりやってくれよ!」
と、ダッジが叫ぶと周りの人等も応援してくれた。
声援を背中に受けながら街の門を出ると直ぐに桃魔森猪の大群が目に止まる。
まるで草原にいた時の様に麦畑は桃色に染まり、冒険者や傭兵が狩りをしていた。
草原へと続くはずの道も桃色に染まっていたので、モグラ叩きをするかの様にメリヌが叩いて道を作って行く。
その後ろを俺が桃魔森猪を端から回収しながら歩いてる。
そんな姿を目の前で見ていた護衛の方々や魔法師達は半分呆れながら見ていた。
まるで散歩に出掛けている風に進んで行き峠に差し掛かったくらいで魔狼が桃魔森猪を襲っていた。
昼夜で住み分けられて居た狩場は、今や変わってしまった様だ。
魔狼は俺達を見ても気にしていないのか逃げすらしない様だ。
まるで相手にされなかったのでそのまま通り過ぎる。
護衛の二人は剣から手を離せないようで、警戒しながらも俺の跡を歩いてくる。
「なんで普通に歩いてるんです⁉ 魔狼ですよ⁉ 魔狼! 怖くないんですか⁉」
と、後ろから叫ばれるが
「特に敵意を向けられて無いので、ほっておきましょう」
そう言うと唖然とされた。
まぁ実際、敵意むき出しで来られてもメリヌが倒すので気にする必要がなかった。
お互いを知る事が出来る様になったからこそ、怯える必要が無くなっていたのだが、その時は余り考えていなかった。
そんな事よりもどうやって森へ押し込むか、それだけを考えて歩いてた。
桃魔森猪の畑を通り過ぎると川を超えていた一部の黒魔森猪や魔狼の一部が空き家になってる宿屋を襲っていた。
時折壁を壊す音が聞こえてくる。
それもあまり気にせずに通り過ぎる。
「あの!宿屋が襲われてますけど?」
倒さないのかとチラチラ見ながら魔法師は言ってくるが、壊されても後で直せばいーじゃん?って、思ってたので
「大丈夫ですよ、人は居ないので」
そう言ってまた通り過ぎる。
宿屋の建っていた場所を通り過ぎると川があり、橋は落とされていた。
川の向こう側を見ると居るわ居るわ黒い岩肌の様に蠢く黒魔森猪や点々と生える白かびの様に魔狼もいる。
それが延々と続く草原のあった場所を埋めていた。
「うわー……凄いよタクミ」
と、メリヌも呟けば
「こ、これ程とは……思っていませんでした」と、剣に手を添えながらカチカチと震えている護衛の二人。
魔法師はへたり込んでいるし、斥候は遠目を使ったのか顔が青褪めていた。
「タ、タクミ様……森の手前以外にも全て魔狼や黒魔森猪で埋まっております!」
草原部分だけではなく、押し寄せ過ぎて林部分も埋まっていると言う。
どこまで見えて居るのか分からないが、斥候もまた、気を失い掛けながら魔法師の横でへたり込んだ。
「タクミ? どーするのコレ……凄いよ?」
流石にこの量は戦えないと尻込みするメリヌの肩に手をやって
「一応思い付いた戦法あるから、飛び出してきたやつだけ倒してくれ」
「うん、分かった。頑張る」
俺がそう言うと棍棒を握り直して俺の前に立つメリヌ。
本当に頼りになります。
護衛の二人は立ってるだけがやっとの様で使い物にはならなさそうだった。
水の玉を10個創り出し浮かべると、そこに砂を混ぜて風の魔法で回すと遠心力で平らになっていく。
元々編み出した気○斬に砂を混ぜただけだが、威力は多分違うはずだ。
それを前方へと等間隔で浮かせたまま水平だった気○斬を縦にする。
ローラーを横に転がす様にすれば一層できると単純に思い付いただけだったが、なかなか上手い考えだと思ったので実行する。
魔法名は【ローラー作戦】だ。
編み出した魔法に名前を付けると威力が増すのだ。
維持する方に力を注ぎながら、ゆっくりと動かす。手前の方からゆっくり削られていく魔獣の群れを見た魔法師はあまりの酷さに吐いたあと気絶。
「タクミ……流石にグロい……」
と、メリヌもドン引きだった。
もう少し速く動かせば酷さも和らぐかな?っと、思ったのでスピードを上げて奥から手前とゴロゴロローラーを動かした。
血飛沫が霧のように舞い、肉片が砂煙の様に飛び散った。
一言も鳴けずに一瞬でミンチになっていく魔獣に冒険者も同情したのか、手を合わせて震えながら祈っていた。
三十分も過ぎれば草原部分に居た生き物は全て肉塊となり、動いてるモノは何も無かった。が、更に森の奥から血の匂いに引き寄せられた魔熊がやってきていると遠目使いの斥候が叫ぶ。
ローラーは既に消して、次の魔法に変更するため俺は想像する。
マッチ一本分の火力しかない火の魔法をいかにして使うか。
炎を極端に嫌う魔熊を追い払うには、手前を燃やせば良いのだが、炎と呼べる火力は出せない。
「あ、細胞をマッチにすればよいのか!」
と、俺が叫ぶと
「サイボウ?」
と、聞き返された。が、説明してる暇は無いので、細胞の一つ一つをマッチに見立てて、そこに火を付けるイメージをして
『パチン!』
と、指を鳴らした。
すると見渡す限りの肉塊が一気に燃えはじめ、ものすごい熱量で川の水が干上がった。地面はマグマでも流したかの様にグツグツと溶け始め。
周辺にあった林も燃えた。
一瞬山火事になるかとびびったが、魔素を吸い込んだ森は燃えずに手前で消えているようだったので、ホッとして胸をなでおろした。
ただ草原だった場所は今は炎の柱が数本発生してる様に燃えていた。
その熱さで目が覚めた魔法師が俺達を水の膜で覆ってくれていたので、火傷もしなかった。
一時間も過ぎたあたりになると、炎は全て収まり各場所が少し燻ってる様で白い煙が上がる程度に変わった。
干上がった川も上流から水が流れているのか、少しずつ水量が戻ってきていた。
「あ、宿が……」
そんな声が後ろからしたので振り向くと
消し炭になった宿屋群とそこを襲っていた魔獣達が丸焼けになって絶命していたのが目に入った。
遠目使いの斥候が、魔熊も熱でやられて数十頭が絶命していると伝えてきた。
残りは森の奥へと逃げたらしい。消し炭になった場所が多いため当分魔獣はこちらにはやってこないだろうと言っていた。
「一応押し込めたかな?」
と、俺が言うと、全員頷いていたので役目は果たしたなと感じて帰ろうと伝える。
メリヌは俺の隣で今夜は丸焼き宜しくね!っと、はしゃいでるのに対し、付いてきた4人は遠巻きにして付いてくる。
振り向けば目を逸してコチラを見ようともしなかった。
なぜ怖がられて居るのか分からずクビを傾げるタクミだった。
その日の内に準備をして魔力車に乗り込むと魔女の弟子は連れの羊人族の娘と街をあとにした。
燃えた草原の炎は街からも見えていた様で歓声が上がったと聞いた。
勿論これで解決した訳では無いが、取り敢えずは魔獣も大人しくなるだろうと嬉しそうに話す宿屋の方々に私はなんて答えれば良いのか分からなかった。
街を出る前に
「魔法師様! 儂らの宿屋を頼みます!」
と、涙を貯めながら言われた。
だから私は任せてくだい!と、そう言って固く手を結んだのに……。
まさか、消し炭になってるとも言えないし、草原もガラス質に変わってるとも言えない……私は頭を抱えてしまった。
そうこうしているとダッジさんが一度宿屋へ帰りたいと言い出してゾロゾロと向かっていく。私も商業ギルド員として付いてきて欲しいと、言われた。
先程の冒険者二人に声を掛けて護衛として来てもらって居るが……何処か余所余所しい。
出来れば私も余所余所しくしたいものだが、多分きっと無駄だろうと覚悟を決めて宿屋の主人達と桃魔森猪の畑を歩いていく。
峠をくだりながら、さっさと旅立った魔女の弟子を恨んだ。
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