Shine Apple

あるちゃいる

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五十八話

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 五人とも用意した服を着て下へと降りてきて固まったまま動かなくなった。

 最初は部屋を見て固まっていたのかと思い、気さくに話し掛けたのだが、どうも違うらしい。

 じゃあ厨房やカウンターに座ってるウサギ達に驚いているのかと思ったので一人づつ自己紹介させた。

 が、どうも違うらしい。

 うーんと考えていたらドランがどもりながら叫んだ。

 最初は怒鳴っているのかと思っていたが、よーく聞いてみると謝っていた。

 その後続いてドルンも頭を膝にぶつけるかの様に下げると
 「た、たく……タクミ様! こ、この度は申し訳ありませんでした!」

 助けた羊に謝られて困惑していると、サジンさんが、補足する。

 「申し訳ないタクミ殿 彼らは貴方を裏切った事を謝っています」

 すると、ナタリーさんがそれに続くように話し始めた
 「……私共は貴方を裏切り他の宿屋へと移りました……きつい仕事でしたけど、宛もなく彷徨っていた私達家族を救ってくれたのには感謝しかありません、それなのに私達は……」
 ナタリーさんが泣きながら崩れ落ちてしまった。

 その跡を引き継ぐ様にメリーユが話す
 「一度裏切った私達を今回もまた救っていただき……私達は貴方様に何を返せばよいのか……財産は黒魔森猪に襲われたことで全てを失いましたし、もういっそこの命捧げることしか出来ませんっ」
 そう言い終わるとメリーユも泣き崩れてしまった。

 「お義母さん?」

 どーしようかと思っているとメリヌが起き出したらしく、ナタリーさんに話し掛ける。

 「……メリヌ⁉」

 涙で赤く腫れた目から更に涙を流しながらメリヌに駆け寄ると抱き締めて
 「ごめんなさい!ごめんなさいー!」
 と、謝りながら抱き締めていた

 そんな母を宥めるように背中を擦りながらメリヌもまた抱きしめ返し
 「大丈夫だよ!気にしてないから泣かないでよー!」
 と言って泣き出した。

 『取り敢えず全員落ち着くまで放っておきなさい』と、ラメルの声が頭の中から聴こえた。

 カウンターに座ると、"コトリ"とグラスが置かれた。
 『お茶でも呑んでなよタクミ』
 ブラウンの声が頭で響く。
 とても優しい声色で少しウルッとした。

 何故か妖精達は俺にも優しかった。
 "スーッ"とハンカチを出したレッドは、何も言わずに俺の目元を拭いてくれた。

 どうやら俺は泣いていたようだ。
 あまり意識していなかったが、確かに泣いていた。

 あの頃は魔女のお陰で色々な所に目が行かなくて、ナタリー家を苦しめてしまったのは俺だったから、謝られる事は無いと思っていた。

 だが今こうして謝られると、あの頃の辛さを思い出してしまった。
 出ていく事を決断したのは間違っていなかったし、多分俺でも同じ事をしただろう。

 それでも最初の頃の仲が良かった時を思い出し、居なくなった日を思い出すと、胸が締め付けられる思いだった。

 暫く泣いていた皆は少しづつ落ち着いて来たようで、お腹が空いていた事を腹の虫が思い出して鳴き出した。

 何となくお互いスッキリした顔で笑い合い、やがて大笑いに変わった。

 何故かとても照れくさかったし、今でもナタリーさん達と目が合うとお互い照れ笑いになってしまうが、何故か笑い声は止まらなかった。

 暫く笑い続けたが唐突にメリヌが
 「お腹空いた!お肉食べたい!」
 と、叫んだ。
 そのお陰で更に笑いだしたが、そろそろ限界だったので俺達は少し遅くなったが、昼飯を食べ始めた。

 「そう言えばメリヌの口癖は昔から変わらないのね」
 そう言ってクスクスと笑うナタリーさん

 「本当ね『お肉食べたい!』ってお腹が空くと言っていたよね」
 メリーユも思い出したのかクスクスと笑う。

 「そのお陰か‼ 俺達のパーティ名が【お肉食べたい】になったのわ! あれお前の口癖か!」
 っと、メリヌを見る
 俺が見てる事に気がついたメリヌはそっぽを向いた。
 少し顔が赤いので恥ずかしいのだろう。

 始めて二人パーティになった時を思い出していると、ドランとドルンが笑いだし、サジンさんも笑いだした。

 「あれ君達のパーティだったのか!」
 と、引き笑いしながらサジンさんは転げ落ちそうに成りながら笑う。

 笑い疲れたのか、酒を一杯煽るとサジンさんが教えてくれた。

 桃魔森猪が街に蔓延る様になった時期に兵士は辞めてドランとドルンの三人で組んで冒険者に登録した時に、冒険者ギルドに【過去最多桃魔森猪狩り記録】が掲げられていた。
 それは、全国にある冒険者ギルドで記録を共有し、他の冒険者を鼓舞する意味も含めて記録を晒すんだそうだ。

 そこには

 【日暮れから日没までの時間に100匹超え!】

 と書かれ、続けてパーティ名が続くのだが、その名前が

 【お肉食べたい】

 というパーティ名だった為に誰もが笑ったそうだ。

 「まさしくだったよね!」
 「名は体を表すとはよく言ったもんだ!」とドランが笑う。
 再び込み上げてきたのかサジンさんが笑い始めた。

 「でもね? 森が溢れた時……皆が苦しかった時その記録を見ると、何故か元気を貰えたんだよ」
 そう言ってニコリと笑うドルン。


 「そっか、なら良かったな? メリヌ」
 お前の口癖も役に立つんだなと続けると不貞腐れた。

 その日の昼飯は、太陽が落ちても中々終わらずに夜飯が夜食になってウサギ達もウトウトし始めた頃ようやく終わった。

 魔力車を街道の端に寄せて止めて、結界を双子の白ウサ達が張ってくれたので、安心して眠れる。

 王都を出る時に大木の家も持ってきていたので、屋上の草原に出してそこで五人は寝てもらう事にして、俺達もベッドへと潜った。

 「タクミ……」
 「ん……なした?」
 「パーティ名……一年経つと変えられるんだよね?」
 「ん……ああ、そんな事をカリーヌが言ってたな……」
 「……………変え……たい?」
 「……決めるのはお前だろ?リーダー」
 「そか……えと……えとね?」
 「……うん」
 「変えたくないって言ったら怒る?」
 「……怒るわけ無いだろ?」
 「本当に?」
 「…………ああ」
 「………良かった」
 「……おやす……メリ……ヌ」
 「うん!おやすみタクミ……」

 夢現の中、頬に当たる唇の柔らかさを感じていたが、色々あった一日だった為、疲れていたのでそのまま寝てしまった。

 目覚めた時思い出して悶々としたのは言うまでもない。
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