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七十話
しおりを挟むマロンが落ち込んでいる。
自分の仕事がなくなったと嘆いている……。
その落ち込み様は酷く何を言っても笑わない。
食事もいらないと言って自室に引き篭もって、出て来なくなった。
「マロンは大丈夫かな……」
昼飯の後から姿を見せないマロンを心配するメリヌ。
夜になってベッドに横になりながら俺を見上げる。
俺は何を言えば良いのか分からず押し黙る。
六大精霊から全力で魔力を注がれて育った聖獣は、俺から名前を得たことで更に魔力が上がり、神格化してしまった。
神格化とは言っても獣である事には変わりなく、ただ意識を持ち、考えたり話せたり大きさを変えたり姿を変えたり出来るので、棲み分けとしては精霊に近い生き物らしい。
そしてありとあらゆる獣の神なのだそうだ。
なので、アシュに敵対する獣も魔獣も居ないとラメルが教えてくれた。
不思議だったのは足りない魔力を確かに受け取っていたのに、何故創るときに混ざってなかったのかと言うことだが、魔法陣に魔力を満たす時に俺の魔力も混ざってはいたが、創造する時に使った魔力は俺と精霊とで分けていたので聖獣として産まれた時には俺の魔力は混ざっていないのだそうだ。
中身を造ってる最中に精霊の魔力が混ざって彼等の願望などは混ざったが、俺の魔力は全部俺だけが使っていたんだそうな。
もし、聖獣が生まれる時に俺の魔力も混ざっていたら……神獣どころか神聖獣となり、神として天空へ消えていたと、ラメルは言いながら震える。
何故震えているのかと聞くと
「この子聖属性なのよ……」
どうやら自室は闇属性の結界を張って固定してるから平気だが、それ以外の場所は聖属性で満たされ自身に張ってる結界でもキツイのだそうだ。
「結界取るとどうなるんだ?」
「浄化されて消えるわよ!」
あらあらそれは大変だな……
俺の影に入れば大丈夫だと言うので、移動する時はラメルの部屋まで迎えに行くか、寝る時も俺の影で寝起きするかしかないらしい。
なので、取り敢えず今夜は自室に篭もらせているが、近い内に何とかしないと少し可愛そうだ。
自宅にいるのに結界の中でしか生活できないのは辛いもんな。
神獣にしてしまった事で問題が出来たのはラメルの移動制限だけでは無い。
意思を持ち、会話が出来るということは何処そこに行けと言えば自動で移動出来ると言うことだ。
狩りの時でも、黒魔森猪を口から呑み込んでもくれるだろう。
魔獣にも襲われないから防衛隊も必要ない。が、まぁ狩りをしたり誰かを助けたりと緊急性がある時に必要なのでラメルの仕事は無くなっていないが、自由度が少ない今では機能しないだろう。
そんな事よりマロンである。
アシュが意識を持って動ける事になった為に操縦出来なくなったのだ。
人参の先っぽにあった筈の操舵室が丸々無くなっていたのだ。
操舵室へと続く廊下も無くなったらしく、トボトボと戻って来たのが昼間の事。
それから自室に引き籠もってしまった。
「はぁぁ……どうすっかな」
「アシュに頼んでみるとか……出来ないかな?」
「んー……、それは昼間相談したんだけどな?」
トボトボと落ち込んだマロンを見付けて直ぐに理由を聞き、どうにか運転させる事は出来ないかアシュと話してみたが……
『申し訳ないが出来かねる……無意識ではなくなった今、自分の意志とは関係なく体が動くのは気持ち悪いのだ……』
と、言われ納得してしまったからな。
先に居たからと言って優先させる訳にもいかないし、もし自分の体が自分の意志と関係なく動いたら誰でも気持ち悪いだろ……
まぁ、このまま放って置く訳にもいかないし……再び溜息を吐く。
「マロンて何の属性なんだっけ?」
「え……属性は土だな……あっ!」
メリヌのお陰で閃いた俺は頬にキスをしてマロンの部屋へと向かった。
突然キスされたメリヌは顔を赤くしたまま固まった。
「マロン! 居るかい?」
トントントンとノックしながら声を掛けると、元気なく扉が開いてマロンが顔を少し出す。
『何でしょうか……タクミ様……』
全く元気がない……心なしか影も薄い気がする……
『今はあまり話したくないので後に……』と言いながら扉を閉めようとするので足を入れて止める。
「やって欲しい事が出来たんだ! 君じゃないと駄目なんだ! 頼むよマロン!」
そう言うと少し影が戻った。
『運転以外で私に出来る事などありますでしょうか……』
まだ少し元気が無いようなので
「君は土属性の精霊だろう? 畑の管理を頼みたいんだ! それと……アポルの果樹園も作りたいんだよ!」
咄嗟に出た言葉だったが、邪神の養分さえ吸い込まなきゃ普通の実なのだから、それをたくさん作って売れば冒険者を引退したあとも安泰だと思った。
『アポルの果樹園ですか? それは……それは魅力的ですね!』
目に力が宿る。
『アポルの実は育ち辛くそこらの畑では育てられないけど、ここなら! 聖属性に満ちてる土なら育て易いかも知れません!』
体に生力が戻って来た。
「耕してもいないから全て任すけど大丈夫? 手が開いたときに手伝おうか?」
『大丈夫ですよ! でも手伝いたくなったら何時でも来てください!』
少しだけ開いてた扉は今は全開に開き、心にも元気を取り戻したマロンは力強く力瘤を腕に作ると、腕をくるくる回しながら畑のある階層へと飛んでいった。
まだ夜だから畑も暗いかもと言いかけたが、既にいなかった。
部屋に戻り、何とかなったよとメリヌに報告していると、アシュから皆に通信が入った。
メリヌ以外しか聞こえない脳内通信は仲間はずれみたいで嫌だとメリヌから聴いたアシュは、館内放送の様にして伝える事にした様だ。
『公爵家中庭に到着致しました!』
「もうっ⁉」
そんな馬鹿なと布団から飛び出してホールへ向かい、窓から外を見る。
既に王都の壁を超えて何処かの豪邸が眼下に見えた。
まだ誰も起きていないようで豪邸の中は暗かった
「すまんアシュ……もう少し待機だ……ていうかまだ夜だから。
朝になったらもう一度(放送)頼む」
『あ、これは失礼致した……人は眠るモノでしたな。
分かりました、日が昇ったらまた声を掛けよう』
「うん、ありがとう」
そう伝えると俺はまた部屋に戻って眠るのだった。
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