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八十二話
しおりを挟む次の日の明け方、ガタゴトと響く音で目覚めると上村爺さんが床板の一部を剝がしていた。
「爺さんおはよー」
「おう!タクミ君早いね」
そう言ってニカッと笑うと、再び床材を剥がす作業に戻る。
爺さんの側では黒山羊が草をモクモクと食べていた。
「ラメルもおはよ」
「んーおうおう」
「飲み込んでからでいーぞ?」
何でこいつは朝から草食ってるんだろっという疑問は置いといて爺さんを見る。
長方形になる様にノコギリを当ててギコギコと切っていた。
「何してるの?」
いつの間にか俺の後ろにいたメリヌは目を擦りながら聞く。
「さぁ何だろうな」
俺にも分からんと言うと、爺さんが顔を上げていう
「囲炉裏がいるだろう?」
ああ、なるほどと爺さんが持ってきたであろう枕木やらが積み重なって置いてあった。到底普通の爺さんじゃ持ってこれなさそうな枕木と、砂の山……まぁ、魔法で浮かせて運び込んだのは分かる。なのに何故床をノコギリで切っているのか謎だった。
俺が困惑しているのに気付いたのか
「矛盾してると思うだろ?」
「まぁ……そうですね。魔法で切ったらだめな理由でも?」
「ねーな。けど残念な事に切る魔法なんて知らねーんだよワシは」
結構万能と思っていたが違ったようだ。
「俺は空間魔法が得意でな、あと固定も空間魔法の応用だし、契約はラメルの魔法だから」
そう言ってモクモクと草を食む黒山羊を見る。
「だから外の庭をうちと繋げておいた」
「は?」
そう言ったと思ったらヨネ婆ちゃんが味噌汁とオニギリを浮かせて縁側から現れた。
俺は面食らって苦笑いになった。
(いや何やってんのよこの人達は……魔法使うなとか言ってなかったか?)
そう思ったが婆ちゃんの味噌汁は美味いので文句を言うのはやめた。
暫し仕事を止めて朝食を四人で取ると、爺さんがお茶を啜りながら見て言う。
「向こう側には朝飯食ったら行きなよ?タクミ君。ラメルはこっちで見ておくからさ」
そう言ってモクモクと草を食む黒山羊の頭を撫でる。
「え?」
と、驚いていると婆ちゃんも続けてオニギリを山のように指輪から出し、メリヌに渡すと昼飯に持っていきなという。
「こっちは任せろと言ったろ?」
そういうと、ニカっと笑った。
説明がないのかと思っていると婆ちゃんが話し始めた。
「ラメルは此方に置いといて本体を過去に行って魔森に埋めて、んでまたコッチに戻って来れば百年は過ぎるだろ? それをコッチの分身に戻せば力も取り戻せる筈だろ?」
ややこしい事を言い始めた老人達に、困惑した顔をする。
「だからよぅ、今から洞窟潜るだろ? そっから帝国に行って井戸に入るんだよ。 江戸かそこらに行ってもらってよぅ? そこからこの付近に戻ってきて洞窟入れば多分過去の魔森に行けると思ったわけだ」
「帰りは来た道を戻れば多分戻れるんじゃないか?」
(やべぇこれ、適当な上に憶測で決定しちゃったぞ……)
行ける行ける何とかなる。 という意見で固まった老人達の有無を言わせぬパワーに逆らえず、その方針でなんの対策も無いまま洞窟に追いやられた。
洞窟に入る間際にラメルから本体である黒く丸い真珠みたいな物を入れたウサギを渡される。 アイテム指輪に入れて魔森に埋める直前まで外に出すなと念を入れられた。
「「頑張れよー」」と息のあった声援を背に受けながら俺とメリヌにマロンとチェリーは洞窟へと入って行った。
洞窟を抜けると滝が流れる場所に出た。 まぁ、滝の裏側だな……前来た時は止まって見えていた滝の流れは今は手を伸ばせば跳ね返る水でビショにビショに濡れた。
一度来たからだろうか、触れられるようだ。
その滝を潜って泉に出ると、真ん中にアポルの実が成った木が見える。
その根元ら辺には萎びた芯が数個転がっていた。
これを食った奴が居なくなってそんなに時間も過ぎていないようだった。
やべぇな……ここから数年は動けないんじゃ無かろうか……取り敢えず俺達は実を数十個もぎ取ると、全てをアイテム指輪に押し込んだ。
そして二個を追加でもぎ取ると一口食った。
それを見たメリヌも食べたいと言うので一口上げたらスルリと全部取られて丸々一個食べられた。
「メリヌ……お前若返ってるぞ?6年くらい……まぁ俺もだけど」
食った直後から六年ほど若返ったメリヌは十二歳くらいに見える。
「え……」
そう短く悲鳴をあげて泉に写る自分を見ていう。
「タクミと出会った頃の私になってる?」
「んー、少し歳上かもな」
「そっか……怖いねこれ……私一つ全部食べちゃったけど大丈夫?」
「若返るのは一口目だから、残りは魔力に成ってると思うぞ?」
「そうなんだ? タクミはもう少し食べた方が良くない?」
(言われても二十歳過ぎくらいに何だけどな……)
「んーもう少し時間が経たないと二口目にならないから、魔力しか上がらないんだよ」
「ふーん。なら私もう少し食べても大丈夫かな?」
そう言うとアポルの木に登ってshine Appleをもぎ採り出したので全部食われる前にその場を跡にした。
モグモグと森の中を歩きながらメリヌが獲った分を二人で食べきった頃に森から出られたのだが、前通った道とは違ったらしく浜辺の方に出てしまった。
ここから戻るにはどっち行くんだっけ? と、考えていると魔力車の走る音が聞こえて来た。
少し上の丘が道だったらしく赤子が振り落とされて転がって川へと落ちた。
「おいおいマジかよ!」
急いで駆け付け赤子を拾うと
「タクミ!」
と、焦ったメリヌの声で振り向くと
此処らでは見掛けない黒い布を纏った服装の男に、メリヌが後ろ手に捕まってナイフを首に当てられている所だった。
「この女の首を切られたくなければその赤子を……ん?お前も随分魔力が高そうだな……この女もそうだが……お前も連れて行くか。おい、赤子を抱いたままで良いから俺と来い!」
そう言うとメリヌを抱えて男は浜辺の方に走っていく。
メリヌを人質に取られ、仕方ないと諦めて男の跡を付いていくと、沖に大きな船が停まっていた。
浜辺にはボートがあり、其処にも男の仲間なのか数人武器を持って立っていた。チェリーとマロンが姿を消して俺の肩に座ってる感触がするのですぐ側にいる事は確認出来た。
『合図をくれればタイミング合わせて攻撃するよ!』と耳元で囁かれたが、俺は敢えて脳内通信で語り掛ける。
『手は出さないでくれ、作戦がある』と伝える。
赤子とメリヌとを大型の船に乗り込んだ後交換されて、俺達二人は船倉へと入れられた。
外から鍵を閉められるとメリヌが謝ってきた。
「ごめんなさいタクミ油断してた!」
そう言って泣くメリヌを抱き締めて問題無いと耳元で囁く。
俺を見るメリヌは怒られるのを覚悟していたのか、思っていたのと違った返事にキョトンとしてる。
「昔の噂を思い出したんだけどさ? あの赤子……多分ヨネ婆ちゃんだよ。で、この船は帝国の船だ。って事はある意味予定通りに事は進んでいる筈だ……だから大丈夫だよ。 防具や武器を外させて、装備させなかったのは俺も悪かったしな」
そう言って優しく頭をなでた。
グラリと床が揺れたかと思うと波の音がし始めた。
どうやら出航したらしい。
何日掛かるか分からないが、暫くはこの部屋で待機する事になるだろうと思い、寝床用に黒魔森猪の毛皮を数枚敷いてメリヌと座る。
「さて、取り敢えず飯にしよっか」
そう言って婆ちゃんから貰った握り飯を食べ始めた。
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